上 下
30 / 143
対人模擬戦闘

それぞれの夜_セシルとミーナ

しおりを挟む
セシルは一人屋上で空を見上げていた。

――――俺はセシルがまさか戦闘で防御に入るとは思わなかったけどな

昼間ガレンに言われたセリフがずっと頭の中を渦巻いていた。
僕は魔法の戦いの場で一番自由でいたかった。
魔法が飛び交う中を紙一重で躱して、誰にも捕まらず、一番自由なのが僕だったはずだ。

(そう……それが僕の魔法で、強くなる理由だったはずだ)

戦場で一番自由であるためには一番強くないといけない。
そして、生まれつき才能があったのか、特段の苦労もなく僕は誰よりも強くなっていた。
難しい魔法であっても少し練習するだけで大体の物は使えるようになった。
魔法の腕を上げると周りからは称賛されたが、特に達成感の類を感じることもなかった。
それでも新しい魔法を身に着けるとまた少しだけ自由になれた。
誰よりも早く戦場を駆け、それが世界で一番心地よかった。

(――――でも……)

ガレンに言われるまでもなく、僕が戦いの場で誰かを守るなんてことは初めてだった。

誰かを守るなんて枷以外の何物でもないはずだ。自由からはかけ離れている行為なのに、なぜか地に足を下ろし、アリシアを守っている瞬間は、戦場で駆けているときと同じくらい心地よかった。

フェンスを乗り越えて屋上の縁に腰を掛ける。夜風が髪を揺らす音さえ響くような静かな夜だった。

(……アリシアに言われたから?)

別にアリシアとはこの学校に来てから知り合った仲だ。
生徒会メンバーではあるけど、これまで特別親しいという訳でもない。

(……アリシアの考えに興味があったから?)

実際に見たアリシアのオリジナル魔法は凄かった。もし僕も僕自身のオリジナル魔法なんて言うモノが使えたらもっと自由になれるかもしれない。
それは確かに心が震えるけど、あの守っていた時はオリジナル魔法の存在も知らなかったから関係ないはずだ。

(……じゃあどうして……?)

自分の心が分からなかった。こんな風になったことは今まで一度もない。
アリシアに言われたから?アリシアの作った武器を見て心がざわついたから? 考えれば考えるほど答えは見つからない。考えれば考えるほど胸の中がもやもやしてくる。

この学園に来てから面倒な事もどんどん見えてくるようになった。
【貴族主義】だって当然知ってはいたけど、正直そんなもの真に受けている人はいないと思っていた。

(みんなもっと楽しく生きればいいのに)

やっぱり慣れないことはするものじゃないと立ち上がり大きく伸びをする。
セレスティアル・アカデミーが高台にあることもあり、どこまでも見渡せるような夜空が広がっていた。

(……ん?あれは?)

旧魔法訓練場の屋根の上に見慣れた緑髪が星を反射して光っていた。一歩屋上から踏み出し、夜の闇に身を投げる。

「華麗なる風の舞踏、我らを包み込み、奏でよう!優雅なる旋律、シルフィードダンス!」

魔力を込め、風を纏い、夜を切り裂くように駆けていく。

「やあ、なにしてるんだい?」
「わわ!セシルさんじゃないですか!こんばんわです!」

夜も更けた時間だと言うのに、ミーナはいつもと変わらない笑顔を向けてくれていた。

「こんな夜更けに一人で出歩いていたら危ないよ?」
「それはセシルさんもですよ!」

それもそうかと僕は笑った。この子も実に不思議な子だ。イグニスの猛攻を躱し、その上最後の一撃を見事に決めて見せていた。

「そうだ、ちょっと時間もらってもいいかい?」
「もちろんです!」

ややこしいことを考えるのは一旦やめて、今夜はこの素敵な風魔法使いと夜風を全身に浴びながら、駆けることにした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。

櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。 才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。 敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。 新たな婚約者候補も…。 ざまぁは少しだけです。 短編 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

ラスボス姫に転生したけど、ドS兄貴はシスコン設定になっていたようです

ぷりりん
ファンタジー
転生ラスボス姫がドS兄貴の溺愛に大困惑する、ラブコメファンタジー

悪役令嬢がグレるきっかけになった人物(ゲーム内ではほぼモブ)に転生したので張り切って原作改変していきます

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢になるはずだった子を全力で可愛がるだけのお話。 ご都合主義のハッピーエンド。 ただし周りは軒並み理不尽の嵐。 小説家になろう様でも投稿しています。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【完結】妹の特殊能力が凄すぎる!~お姉さまの婚約者は私が探してみせます~

櫻野くるみ
恋愛
シンディは、2ヶ月以内に婚約者を探すように言われて困っていた。 「安心して、お姉さま。私がお姉さまのお相手を探してみせるわ。」 突然現れた妹のローラが自信ありげに言い放つ。 どうやって? 困惑するシンディに、「私、視えるの。」とローラは更に意味のわからないことを言い出して・・・ 果たして2ヶ月以内にシンディにお相手は見つかるのか? 短いお話です。 6話+妹のローラ目線の番外編1話の、合計7話です。

「貴女を愛することは出来ない」?それならこちらはこちらで幸せになって後悔させてやる。

下菊みこと
恋愛
初夜で最低な態度を取られて失望した妻のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 イフルート!追加しました。こちらは本編ですっきりしなかった方向けのイフルートです。ラスト以外変わりません。 自立出来る女性ならイフルートも有りですよね!

処理中です...