悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

文字の大きさ
上 下
22 / 143
対人模擬戦闘

【12歳のころの私】

しおりを挟む
夢。夢を見ている。12歳の時の私の夢。

12歳になってようやく私もお母さんと同じように、装置を付けることができるようになった。
大人たちが頭に付けていたものは「ソニックオプティカ」と呼ばれる仕組みを使うためのデバイスだった。
昔の人は初期のソニックオプティカの事をAIと呼んでいたと後から教えてもらった。

大人に倣って私も耳のデバイスを装着する。
この12歳の時に耳だけ、14歳になると目の方のデバイスも利用できるようになるらしい。

起動すると「名前を付けてください」と言われたので「ソフィア」と名付けた。
もっと昔友達がゲームで登場してきた、ヒロインのお母さんの名前だった。

ソフィアは質問すると何でも教えてくれた。

「ねえ、ソフィア。ゼファリアってどんなところなの?」
『ゼファリアは、エコフレンドリーな場所です。この都市は、緑豊かな公園や自然がたくさんあって、植物や動物と調和して暮らしています』
「へえ。ねぇ、えこふれんどりー、ってどんな感じなの?」
『ゼファリアでは、建物の屋根には緑がいっぱいで、また、太陽光発電がよく使われています。』
「太陽光発電……。発電するのにわざわざ太陽の光を使うって言う事?」
『ええ、大変珍しい地域です。またそれ以外にも都市の中心には大きな湖があって、そこを渡るための空中のゴンドラがあります。ゴンドラに乗ると、空中から美しい景色を楽しむことができます』
「え?どんな景色なの!?みたいみたい」
『14歳になって視覚デバイスが解禁されるまでお待ち下さい』
「ちぇー。ねぇ、その視覚デバイスってお母さんたちが目に付けてるやつよね?もしかしてあれを付けたらゼフェリアの景色が見れたりするの?」
『もちろんゼフェリアに限らずありとあらゆる景色を、そしてありとあらゆる経験をすることができます』
「じゃあさ、今はゼフェリアの景色を実況してよ」
『もちろんです』

ソフィアはそう言うとゼファリアの景色を実に愉快に実況してくれた。
目を瞑りソフィアの声に合わせて頭の中で色々と想像する。色とりどりの花が咲き、木々の葉っぱが揺れ、小鳥のさえずりが聞こえる。

こうして私の世界はどんどんと頭の中で広がっていった。
今まで図書館で調べていたよりも、何倍も刺激的で、知識欲が掻き立てられる。
私はソフィアにどんどん質問をする。
そしてソフィアは答えてくれる。
そうするとますますこの世界を知りたくなる。

今まで私が知っていると思っていた世界は、ほんの一部だったと思い知らされる。
世界には様々な国があり、文化があり、人々の暮らしがある。
絵本や小説といった図書館に置いてあった本では描かれていなかった世界がこんなに広がっているなんて本当に驚きだ。
そして自分がいかに狭い世界で生きていたのかも思い知らされた。

あんなに楽しかった図書館に大人たちが誰もいなかったのはこのソニックオプティカが全部教えてくれるからだったのかと一人で納得した。

「ねぇソフィア……うちペット買っちゃダメなんだってー。育て方もソフィアにいろいろ聞いたのにー」
『そうなんですか。それは残念ですね』
「ねー。ペットショップの管理人さんも環境にやさしいペットだって言ってたのにねー。一緒にお散歩もできたのに」
『そうですね。その代わり私がいるじゃないですか』
「まぁ……そうなんだけどさー。ソフィア頭よすぎるんだもん!ねぇねぇ、そうだ!ゼファリアはわかったからまたアストラポリスについても教えてよ!」

こうやってソフィアとの雑談を毎日、毎日繰り返した。

「早く14歳になれたらいいのに」

最近はずっとこれが口癖だ。
頭の中でソフィアの説明に合わせてアストラポリスの街並みを想像する。
ソフィアも毎回新しい切り口で驚きと興奮を喋ってくれるから楽しいけど、でもあくまで私の想像の中でアストラポリスの街でしかない。
視覚デバイスが使えたらこの渇望からは解放されるんだろう。

それでもっと大人になって実際にその場所に行ったりしたらきっと最高だ。

『そろそろもう夜も遅いので今日はこれくらいにしましょう』
「えー。もうそんな時間ー?もう少しー」
『ダメです。健康によくありません』
「はーい」

もっと知りたいのに。眠らないといけない自分の体がもどかしかった。
ああ、この目で見てみたい。この耳で聴いてみたい。この身体で感じてみたい。そんな風に想いを募らせていつも眠りについていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜

心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】 (大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話) 雷に打たれた俺は異世界に転移した。 目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。 ──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ? ──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。 細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。 俺は今日も伝説の武器、石を投げる!

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 ~社交の輪を広げてたらやっぱりあの子息が乱入してきましたが、それでも私はマイペースを貫きます~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『和解』が成ったからといってこのあと何も起こらない、という保証も無いですけれどね」    まぁ、相手もそこまで馬鹿じゃない事を祈りたいところだけど。  *** 社交界デビューで、とある侯爵子息が伯爵令嬢・セシリアのドレスを汚す粗相を侵した。 そんな事実を中心にして、現在社交界はセシリアと伯爵家の手の平の上で今も尚踊り続けている。 両者の和解は、とりあえず正式に成立した。 しかしどうやらそれは新たな一悶着の始まりに過ぎない気配がしていた。 もう面倒なので、ここで引き下がるなら放っておく。 しかし再びちょっかいを出してきた時には、容赦しない。 たとえ相手が、自分より上位貴族家の子息であっても。 だって正当性は、明らかにこちらにあるのだから。 これはそんな令嬢が、あくまでも「自分にとってのマイペース」を貫きながら社交に友情にと勤しむ物語。     ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第4部作品です。 ※本作品までのあらすじを第1話に掲載していますので、本編からでもお読みいただけます。  もし「きちんと本作を最初から読みたい」と思ってくださった方が居れば、第2部から読み進める事をオススメします。  (第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)  以下のリンクを、それぞれ画面下部(この画面では目次の下、各話画面では「お気に入りへの登録」ボタンの下部)に貼ってあります。  ●物語第1部・第2部へのリンク  ●本シリーズをより楽しんで頂ける『各話執筆裏話』へのリンク  

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜面倒な侯爵子息に絡まれたので、どうにかしようと思います〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「反省の色が全く無いどころか睨みつけてくるなどと……。そういう態度ならば仕方がありません、それなりの対処をしましょう」  やっと持たれた和解の場で、セシリアはそう独り言ちた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇した。 その内の一つである、とある侯爵家子息からのちょっかい。 それを引き金にして、噂が噂を呼び社交界には今一つの嵐が吹き荒れようとしている。 王族から今にも処分対象にされかねない侯爵家。 悪評が立った侯爵子息。 そしてそれらを全て裏で動かしていたのは――今年10歳になったばかりの伯爵令嬢・セシリアだった。 これはそんな令嬢の、面倒を嫌うが故に巡らせた策謀の数々と、それにまんまと踊らされる周囲の貴族たちの物語。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第3部作品です。 ※本作からお読みの方は、先に第2部からお読みください。  (第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)  第1部・第2部へのリンクは画面下部に貼ってあります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...