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魔法学校入学試験
あいさつ?
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……そんな懸念事項は完全に杞憂に終わった。
「お!レヴィアナじゃないか」
こそこそと会場に入った瞬間、唐突にイグニスに声を掛けられた。
「あっ……っへっ!?」
「久しぶり……って程でもないか、大体なんだ?その大荷物」
そのまま私の方に近づいてきて、私が抱えていた大きな荷物を指さして眉をひそめ、そのまま――――
「ひゃうっ!?」
イグニスに抱きしめられた。
(なななな、な!?なに!?)
突然の事で頭が真っ白になる。
(ななななんで!?なんでいきなり抱きしめられてんの私!)
イグニスの腕が私の背中に回り、彼の胸に顔を押し付けられる。
(え?え?なにこれ!?なんか香水みたいないい匂いするんだけど!?貴族だから!?貴族だからこんないい匂い!?でもゲームではこんなこと無かったよね!?私……えぇぇえええっ!?)
「ん?なんだその顔。熱でもあんのか?」
そのままイグニスは私の前髪をかき上げ、おでこをくっつけてきた。
(近い!近い!なにこれ!?なにこれ!?なんで!?レヴィアナとイグニスってそういう関係なの!?)
「んー……熱はねぇみたいだな」
「いきなりお前みたいな男を見てびっくりしたんじゃないか?」
マリウスも私の方に歩いてきて、そのままイグニスと同じように私を抱きしめてきた。
(ひっ!ちょっ……っ!なにこれ!?どうなってんの!?)
「入学式まで魔導書を持ち歩くなんて、レヴィアナは本当に勉強熱心だな」
「ひゃ……ひゃい……」
顔は真っ赤だろう、体が熱い、心臓がバクバクと音を立てている。足がふらつき、地面がぐにゃりと揺れているような感覚がする。
「っと、あぶない」
倒れそうになる私をセシルが抱きとめられた。
(ひぇ……)
ふわっとした浮遊感とともに、私の体はセシルの腕の中にすっぽりと納まっている。
「あんなところに居たのに出てこないから何してるのかと思ってた」
「あ……え……えと……」
セシルはにこやかな笑顔で、抱きかかえられたままの私に話しかけてくる。
(あぁぁぁぁぁああ!近い!近い!近い!)
私が見上げると、それにこたえるようにセシルが微笑みながら私の顔を覗き込んでくる。
(っ―――――――!!)
もうダメだった。私は声にならない悲鳴をあげることしかできなかった。
「あ……あの……」
おずおずと声をかけてきたのはアリシアだった。
「その方は……?」
「あぁ、こいつはレヴィアナだ。さっき言ってた腐れ縁仲間の一人」
「は……はぁ……」
アリシアはこちらを見たまま戸惑っているようだ。きょとんとしながら、でも少しだけ警戒の色を浮かべている。
(そ……そうよ!)
なんでいきなり3人に抱きしめられたのかとか、3人との関係性とか聞きたいことは山ほどあるけど!
「は!はじめまして!わたくしはレヴィアナ・ヴォルトハイムですわ!」
このアリシアと知り合うチャンスを逃してはならない。私は大きな声でしっかりとアリシアに向かって挨拶した。
目を見て、そしてお辞儀もしっかりと、右手を伸ばすのも忘れない。
私が差し出した手をアリシアは少しだけ躊躇ってから、ゆっくりと握り返してきた。
「わ……私はアリシア・イグニットエフォートです。こちらこそよろしくお願いします!」
「はい!どうぞよろしくお願いいたしますわ!」
小さくて、白くて、明るくて、かわいい笑顔――――
(ああ……私、初めて二次元と三次元がつながる瞬間を実感したわ……)
そんな感想を抱きながら、私はアリシアの手を両手でしっかり握っていた。
(全くこんなかわいい子をいじめるなんて、『レヴィアナ』って性格悪いんじゃないかしら?)
少なくとも私はアリシアをいじめるなんて考えすら浮かばない。
「そういえば腐れ縁ってどういう意味なんですか?」
アリシアは今私が一番知りたいことを口にした。
(ナイス!アリシア!)
私は心の中で親指を立てながらイグニスたちのほうに視線を向ける。
「別にそんな大したことじゃないんだが、昔からパーティ会場で一緒になることが多くてな。俺様達は同い年という事もあってよく遊ぶようになった、って感じだな」
「そうそう、お互いの家に遊びに行ったりね。腐れ縁はマリウスが言い始めたんだっけ?」
セシルがくすくすと笑いながらイグニスの言葉を補足する。
「別に仲の良い親友と言う訳でもないからな。適切だろう?」
「その割にはお前最近皆勤賞だよな?」
「う、うるさいな!貴族同士の付き合いっていうモノがあるだろう?」
「な、なるほど!それで腐れ縁ですか!ありがとうございます!」
ヒートアップしそうな空気を感じたアリシアが感嘆の声を上げる。
「あともう一人、ガレン・アイアンクレストってやつがいるんだけど、まだきてねぇみたいだな。迷子か?」
「ね、あのガレンが遅刻なんて珍しいよね」
「まぁ、そのうち来るだろう」
マリウス顎に手を当てながらそういうと、イグニスとセシルもうなずいた。
「という事で、これからよろしくお願いしますわ!アリシア!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!レヴィアナさん!」
アリシアの小さな手を握りしめ、私は満面の笑みで返事を返した。全然予定していなかったけれど、これでアリシアとのファーストコンタクトは成功した。後はモンスターシーズンまでに仲良くなっておけばいい。
「あ、あの……すみません!」
アリシアと握手をしていると後ろから声をかけられた。振り向くと2人組の女の子が立っていた。
片方は明るい茶髪にツインテールの少女で、もう片方はストレートの長い黒髪を一つにくくっている少女だ。
彼女たちも新入生だろう。どこかで見覚えがある。
(あぁ……この子達、『レヴィアナ』の取り巻きの……)
レヴィアナと一緒に、時にはレヴィアナがいないときにこそこそと陰湿ないじめをアリシアに繰り返し行っていた2人組だった。
まだなにもされていない、というかレヴィアナである私には無害であるはずなのに、その見覚えのある顔に少し身構えてしまう。
「あの……レヴィアナ・ヴォルトハイム様……ですよね?私たちも……その、握手していただきたくって」
茶髪の子がおずおずと差し出した手を握り返すと、パッと笑顔になり嬉しそうにしている。同じように黒髪の事も握手をすると、頭を下げキャーキャー言いながら去っていった。嵐のような一幕にぽかーんとしてしまう。
「あはは、さすがレヴィアナ。人気者だね」
「からかわないでくださいまし」
ニコニコとセシルが私の肩を叩く。
(でも……あの子たち、なんでわざわざ私のところに?)
女の子だったら、それこそセシルやここにいる攻略対象のイケメン貴族たちに騒ぎそうなものだけど。
少しあたりを見渡してみると、他の子たちもこちらに興味津々といった様子で眺められている。
そりゃここにいる4人の貴族はアルバスター家、ウェーブクレスト家、ブリーズウィスパー家と押しも押されぬ設定上も貴族の名家たちだ。視線を集めるのも当然だろう。しかしどうやら一番視線を集めているのは私の様だった。
確かに私も貴族の令嬢だし、目立つのもわかるけど……少しだけ居心地が悪い。
(まぁ、気にしても仕方ないか……)
これまで人の目にさらされるという経験がほとんどないため気にしすぎているだけだろう。現に目の前の3人の貴族たちはなんのそのといった感じだ。
「おせーぞ!ガレン!」
イグニスが入口の方を振り向いた。私もつられてそちらに視線を移すと、そこには困ったように短髪のこげ茶頭をかきながらガレンが立っていた。
「悪い悪い。ちょっと馬車の調子がさ」
少しだけ気怠そうな空気をまといながらガレンがこちらに向かってくる。
(あ……でもこのパターンって……)
既視感のある展開に、ちょっとだけ身構えてしまう。
「こないだはありがとな」
これまでの3人と同じようにガレンも私を抱きしめ、頭をポンポンと叩いてくる。
4回目ともなると身構えていたこともあり、私も自然とガレンとの抱擁はこなせた……訳もなかった。
「あ……あはは……」
手はどうしていいか分からず宙に浮いたままだし心臓は高鳴りっぱなし、顔は今まで同様火が出るかのように顔が熱い。
抱きしめられるという未知の感触と、4人が4人とも私の頭を撫でたり、背中をポンポンしたり、強く抱きしめたり、頭をたたいたりと、男子に免疫のない私の限界点は簡単に超えてしまった。
(ほんっと意味わかんない!!)
頭がくらくらする。なんでアリシアの攻略対象のはずの4人が私とこんなイベント起こしてるの!?頭が追い付かない。
「あのさ……、それであの本の事なんだけど」
抱きしめたまま、ガレンが私の耳元で他の皆に聞こえないように小さく声を発してくる。
「え……?本ですの……?」
唐突に振られた話題に反応することができず固まってしまう。周りの視線もより強くなった気もするし、それにこんなドキドキした状態で冷静に考え事なんてすることはできなかった。
「ガレン。こっちにおいでよ。新しい友達を紹介するよ」
セシルが声をかけてくる。私が回答できずにいるとガレンは私を抱きしめていた手を緩め、笑顔で再度私の頭をポンポンと優しく撫で、私の体から離れていった。
「ん、それで……その子は?」
「はい!私アリシア・イグニットエフォートと言います!」
ガレンの問いかけにアリシアが自己紹介をする。よかったこれで私の心臓も破裂しないで済む。
「ふー……っ」
それにこれで私に集まっていた視線も少しは散るだろう。そりゃあ入学式会場でいきなり男女が抱き着いたらみんな注目するよわよね。
(でもよかった……)
それにこれでアリシアと4人の攻略対象が面識を持ったことになる。外で迷子になっているタイミングでアリシアとガレンが対面できていなかったのでずっと気がかりだった。
(それに……アリシアとも仲良くできそうでよかった)
どうしたものかと悩んでいたアリシアとの対面も叶い、少なくとも現時点でアリシアに悪い感情は持たれていないだろう。一気に全部解決したように思えて心が軽くなる。これで私もこの素敵なキャラクターに囲まれたこの物語を楽しむことができると、舞い上がってそう確信していた。
――――私が唯一後悔するとしたら、多分……この時にガレンに「何の本の事?」と追及しなかったことだろう。
可能性の話でしかないが、もしここでちゃんと確認することができていたら、あんなに大勢の人がこの物語の犠牲になることは無かったかもしれないのに。
「お!レヴィアナじゃないか」
こそこそと会場に入った瞬間、唐突にイグニスに声を掛けられた。
「あっ……っへっ!?」
「久しぶり……って程でもないか、大体なんだ?その大荷物」
そのまま私の方に近づいてきて、私が抱えていた大きな荷物を指さして眉をひそめ、そのまま――――
「ひゃうっ!?」
イグニスに抱きしめられた。
(なななな、な!?なに!?)
突然の事で頭が真っ白になる。
(ななななんで!?なんでいきなり抱きしめられてんの私!)
イグニスの腕が私の背中に回り、彼の胸に顔を押し付けられる。
(え?え?なにこれ!?なんか香水みたいないい匂いするんだけど!?貴族だから!?貴族だからこんないい匂い!?でもゲームではこんなこと無かったよね!?私……えぇぇえええっ!?)
「ん?なんだその顔。熱でもあんのか?」
そのままイグニスは私の前髪をかき上げ、おでこをくっつけてきた。
(近い!近い!なにこれ!?なにこれ!?なんで!?レヴィアナとイグニスってそういう関係なの!?)
「んー……熱はねぇみたいだな」
「いきなりお前みたいな男を見てびっくりしたんじゃないか?」
マリウスも私の方に歩いてきて、そのままイグニスと同じように私を抱きしめてきた。
(ひっ!ちょっ……っ!なにこれ!?どうなってんの!?)
「入学式まで魔導書を持ち歩くなんて、レヴィアナは本当に勉強熱心だな」
「ひゃ……ひゃい……」
顔は真っ赤だろう、体が熱い、心臓がバクバクと音を立てている。足がふらつき、地面がぐにゃりと揺れているような感覚がする。
「っと、あぶない」
倒れそうになる私をセシルが抱きとめられた。
(ひぇ……)
ふわっとした浮遊感とともに、私の体はセシルの腕の中にすっぽりと納まっている。
「あんなところに居たのに出てこないから何してるのかと思ってた」
「あ……え……えと……」
セシルはにこやかな笑顔で、抱きかかえられたままの私に話しかけてくる。
(あぁぁぁぁぁああ!近い!近い!近い!)
私が見上げると、それにこたえるようにセシルが微笑みながら私の顔を覗き込んでくる。
(っ―――――――!!)
もうダメだった。私は声にならない悲鳴をあげることしかできなかった。
「あ……あの……」
おずおずと声をかけてきたのはアリシアだった。
「その方は……?」
「あぁ、こいつはレヴィアナだ。さっき言ってた腐れ縁仲間の一人」
「は……はぁ……」
アリシアはこちらを見たまま戸惑っているようだ。きょとんとしながら、でも少しだけ警戒の色を浮かべている。
(そ……そうよ!)
なんでいきなり3人に抱きしめられたのかとか、3人との関係性とか聞きたいことは山ほどあるけど!
「は!はじめまして!わたくしはレヴィアナ・ヴォルトハイムですわ!」
このアリシアと知り合うチャンスを逃してはならない。私は大きな声でしっかりとアリシアに向かって挨拶した。
目を見て、そしてお辞儀もしっかりと、右手を伸ばすのも忘れない。
私が差し出した手をアリシアは少しだけ躊躇ってから、ゆっくりと握り返してきた。
「わ……私はアリシア・イグニットエフォートです。こちらこそよろしくお願いします!」
「はい!どうぞよろしくお願いいたしますわ!」
小さくて、白くて、明るくて、かわいい笑顔――――
(ああ……私、初めて二次元と三次元がつながる瞬間を実感したわ……)
そんな感想を抱きながら、私はアリシアの手を両手でしっかり握っていた。
(全くこんなかわいい子をいじめるなんて、『レヴィアナ』って性格悪いんじゃないかしら?)
少なくとも私はアリシアをいじめるなんて考えすら浮かばない。
「そういえば腐れ縁ってどういう意味なんですか?」
アリシアは今私が一番知りたいことを口にした。
(ナイス!アリシア!)
私は心の中で親指を立てながらイグニスたちのほうに視線を向ける。
「別にそんな大したことじゃないんだが、昔からパーティ会場で一緒になることが多くてな。俺様達は同い年という事もあってよく遊ぶようになった、って感じだな」
「そうそう、お互いの家に遊びに行ったりね。腐れ縁はマリウスが言い始めたんだっけ?」
セシルがくすくすと笑いながらイグニスの言葉を補足する。
「別に仲の良い親友と言う訳でもないからな。適切だろう?」
「その割にはお前最近皆勤賞だよな?」
「う、うるさいな!貴族同士の付き合いっていうモノがあるだろう?」
「な、なるほど!それで腐れ縁ですか!ありがとうございます!」
ヒートアップしそうな空気を感じたアリシアが感嘆の声を上げる。
「あともう一人、ガレン・アイアンクレストってやつがいるんだけど、まだきてねぇみたいだな。迷子か?」
「ね、あのガレンが遅刻なんて珍しいよね」
「まぁ、そのうち来るだろう」
マリウス顎に手を当てながらそういうと、イグニスとセシルもうなずいた。
「という事で、これからよろしくお願いしますわ!アリシア!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!レヴィアナさん!」
アリシアの小さな手を握りしめ、私は満面の笑みで返事を返した。全然予定していなかったけれど、これでアリシアとのファーストコンタクトは成功した。後はモンスターシーズンまでに仲良くなっておけばいい。
「あ、あの……すみません!」
アリシアと握手をしていると後ろから声をかけられた。振り向くと2人組の女の子が立っていた。
片方は明るい茶髪にツインテールの少女で、もう片方はストレートの長い黒髪を一つにくくっている少女だ。
彼女たちも新入生だろう。どこかで見覚えがある。
(あぁ……この子達、『レヴィアナ』の取り巻きの……)
レヴィアナと一緒に、時にはレヴィアナがいないときにこそこそと陰湿ないじめをアリシアに繰り返し行っていた2人組だった。
まだなにもされていない、というかレヴィアナである私には無害であるはずなのに、その見覚えのある顔に少し身構えてしまう。
「あの……レヴィアナ・ヴォルトハイム様……ですよね?私たちも……その、握手していただきたくって」
茶髪の子がおずおずと差し出した手を握り返すと、パッと笑顔になり嬉しそうにしている。同じように黒髪の事も握手をすると、頭を下げキャーキャー言いながら去っていった。嵐のような一幕にぽかーんとしてしまう。
「あはは、さすがレヴィアナ。人気者だね」
「からかわないでくださいまし」
ニコニコとセシルが私の肩を叩く。
(でも……あの子たち、なんでわざわざ私のところに?)
女の子だったら、それこそセシルやここにいる攻略対象のイケメン貴族たちに騒ぎそうなものだけど。
少しあたりを見渡してみると、他の子たちもこちらに興味津々といった様子で眺められている。
そりゃここにいる4人の貴族はアルバスター家、ウェーブクレスト家、ブリーズウィスパー家と押しも押されぬ設定上も貴族の名家たちだ。視線を集めるのも当然だろう。しかしどうやら一番視線を集めているのは私の様だった。
確かに私も貴族の令嬢だし、目立つのもわかるけど……少しだけ居心地が悪い。
(まぁ、気にしても仕方ないか……)
これまで人の目にさらされるという経験がほとんどないため気にしすぎているだけだろう。現に目の前の3人の貴族たちはなんのそのといった感じだ。
「おせーぞ!ガレン!」
イグニスが入口の方を振り向いた。私もつられてそちらに視線を移すと、そこには困ったように短髪のこげ茶頭をかきながらガレンが立っていた。
「悪い悪い。ちょっと馬車の調子がさ」
少しだけ気怠そうな空気をまといながらガレンがこちらに向かってくる。
(あ……でもこのパターンって……)
既視感のある展開に、ちょっとだけ身構えてしまう。
「こないだはありがとな」
これまでの3人と同じようにガレンも私を抱きしめ、頭をポンポンと叩いてくる。
4回目ともなると身構えていたこともあり、私も自然とガレンとの抱擁はこなせた……訳もなかった。
「あ……あはは……」
手はどうしていいか分からず宙に浮いたままだし心臓は高鳴りっぱなし、顔は今まで同様火が出るかのように顔が熱い。
抱きしめられるという未知の感触と、4人が4人とも私の頭を撫でたり、背中をポンポンしたり、強く抱きしめたり、頭をたたいたりと、男子に免疫のない私の限界点は簡単に超えてしまった。
(ほんっと意味わかんない!!)
頭がくらくらする。なんでアリシアの攻略対象のはずの4人が私とこんなイベント起こしてるの!?頭が追い付かない。
「あのさ……、それであの本の事なんだけど」
抱きしめたまま、ガレンが私の耳元で他の皆に聞こえないように小さく声を発してくる。
「え……?本ですの……?」
唐突に振られた話題に反応することができず固まってしまう。周りの視線もより強くなった気もするし、それにこんなドキドキした状態で冷静に考え事なんてすることはできなかった。
「ガレン。こっちにおいでよ。新しい友達を紹介するよ」
セシルが声をかけてくる。私が回答できずにいるとガレンは私を抱きしめていた手を緩め、笑顔で再度私の頭をポンポンと優しく撫で、私の体から離れていった。
「ん、それで……その子は?」
「はい!私アリシア・イグニットエフォートと言います!」
ガレンの問いかけにアリシアが自己紹介をする。よかったこれで私の心臓も破裂しないで済む。
「ふー……っ」
それにこれで私に集まっていた視線も少しは散るだろう。そりゃあ入学式会場でいきなり男女が抱き着いたらみんな注目するよわよね。
(でもよかった……)
それにこれでアリシアと4人の攻略対象が面識を持ったことになる。外で迷子になっているタイミングでアリシアとガレンが対面できていなかったのでずっと気がかりだった。
(それに……アリシアとも仲良くできそうでよかった)
どうしたものかと悩んでいたアリシアとの対面も叶い、少なくとも現時点でアリシアに悪い感情は持たれていないだろう。一気に全部解決したように思えて心が軽くなる。これで私もこの素敵なキャラクターに囲まれたこの物語を楽しむことができると、舞い上がってそう確信していた。
――――私が唯一後悔するとしたら、多分……この時にガレンに「何の本の事?」と追及しなかったことだろう。
可能性の話でしかないが、もしここでちゃんと確認することができていたら、あんなに大勢の人がこの物語の犠牲になることは無かったかもしれないのに。
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