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シャーロットになりきります。

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 きらびやかな世界に、派手やかな服装の人々。スパンコール的なキラキラが、意外に目に痛い。

 アタシが一つ息を吐き出すと、気づいたエドがそっと顔を覗いてくる。

 アタシがシャーロットに成り代わった日から、今日までせっせと、信頼を築けるように行動してきた。

 時に手伝いを、時に贈り物を。エドだけでなく、使用人みんなに。

 初めは思っていた通り、怪しまれてたけど、次第に心を許してくれたのか、今では並んで歩けるまでになった。

 全てはこうして、エドの側にいる為に。

 その彼が心配そうに眉根を寄せる。

「お疲れですか? 御嬢様」

 その気遣いが嬉しくて、胸がトクンと高鳴った。

 あー、もう。優しいんだから。今すぐ抱き締めたい!!

 なんて、相手の合意もなくやっちゃうわけにいかないから、代わりに心配かけないようにと、微笑んだ。

「大丈夫よ、エド。有難う」

 すると、応えるように彼も笑う。

「それなら良かった。ですが、無理はしないでください」
「ええ、分かってるわ。じゃあ、行きましょう」

 そう言って、彼を伴いホールの中心へと足を進めた。

 今日は、シルバーのドレスに赤い髪飾り。サンシャインゴールドの髪に良く映えている。

 そして高いヒールで、ホールを歩く。これはまさしく、ゲームの第二幕【悪役令嬢あらわる!?】に出ていたシャーロットの衣装。つまりこれから、ヒロインと顔合わせになる、ということだ。

 自分がやってたゲームに、キャラクターとして出ていると思うと不思議な感じだけど、まあ、そこは勝手知ったるといった感じで過ごそうと思ってる。

 アタシの紹介も、どうせ『彼女はシャーロット・ハーレイ。数々の悪事を働く悪役令嬢。あなたを困難へと向かわせる存在』とか書かれているのだろう。

 でも、残念でした。もうとっくに巻き上げた品々は、それぞれのご令嬢にお返し済み。当然、ポケットマネーでお詫びの品も添えてね。
 
 あと、散々流したであろう様々な悪い噂も、当に払拭した。

 まあ、だからと言って、その悪役の名は変わらないと思うけど。だけど、困難へ向かわせる存在ではなくなりました。

 どちらかと言ったら、殿下への愛へ導く存在?

 ヒロインからしたら、攻略キャラクターが何人もいると思うけど、アタシは断然、殿下をオススメする。

 だって一番人気だよ。一番。断トツトップってやつ。

 万が一……彼を選ばないなんてことがあったら……。

 アタシがエドと結ばれないじゃない!!

 急に落ち着かない気持ちになって、ドスドスと人の合間を縫って歩く。その中で、不意に近くから声をかけられた。

「あら、御機嫌麗しゅう、シャーロット様」
「これはこれは、レイツ様」

 おほほ、と扇を添えて微笑む。ここからは、少し冷酷さを出したシャーロットになりきらなきゃいけない。出来るかどうかは別として。

 側にいたエドに控えるよう命じて、夜の蝶的な方々の中へと向かう。誰も彼も、アタシを見た途端、寄ってきては作り笑いを浮かべた。

 さすがは悪役令嬢。敵に回したくないって気持ちがヒシヒシと伝わってくる。

 適当な話を交わしていたら、一人のご令嬢が口を開いた。

「そういえば御聞きになりました?」
「何をです?」
「今夜、殿下がいらっしゃるそうね」

 言った瞬間、隣の令嬢が、彼女の脇腹を肘でつつく。

「何言ってるの。シャーロット様は殿下の婚約者よ、知らないはずないじゃない」

 その言葉にハッとした表情をする。

「あ、その……申し訳ございません。つい」

 徐々に青白くなっていく顔。どれ程怯えられてるのかしら、シャーロットは。

 すかさず笑みを作る。

「知らなかったわ。教えてくれて有難う」
「え?」
「うん?」
「あ、いえ……」

 お礼を言ったのがおかしかったのか、彼女は瞳を瞬かせた。

 それにしても、殿下、いつ頃来るのかしら。

 今この瞬間も、アタシの中のエドが足りなくなっていくのに。少しでも渇きを潤すように、ホールの端へと視線を向ける。控えていた彼が気づいて、ふわりと微笑んだ。

 ものすごい回復力。一気に気分が浮上する。応えるように笑みを作ったら、周りでわっと声が上がった。

 皆と同じように入り口へと、顔を動かす。

 そこにいたのは、濃い緑色の正装に身を包んだ殿下、その人だった。

 一つに結んだ長いシルバーの髪を揺らし、隣に少女を連れている。黒髪のボブスタイル。可愛らしい桃色のドレスで、可憐な雰囲気。

 でも、その二人に不穏さを感じたのか、周囲の人がアタシを見つめた。

 それはまるで、アタシの顔色を窺うかのように。

「……」

 いや、こんなことで何も思わないけど……。

 でもさすがに、 まだ婚約者。挨拶ぐらいは済ませるべきだろう。そう考えて、殿下の元へと向かった。

 挨拶したら帰っていいかな。とりあえずの役割は終えたってことだものね。

 殿下の側に行くと、彼も気づいた様子で口角を上げる。

「シャーロットか」
「ご無沙汰しております、殿下」

 最後にいつ会ったか知らないけど。

 優雅に一礼し、隣の彼女へ視線を向けた。

「そちらの方は?」

 紹介を待つのも面倒だから、ガンガンに攻めていく。殿下は、彼女の腰を抱き寄せ、愛おしげに瞳を細めた後、名を告げた。
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