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身を引くという決意④
しおりを挟む空が白み始めた頃、身支度を整える。ノア様が用意してくれたものじゃなく自分のスーツに。
その姿で窓の外を眺めていたら、後ろから声をかけられた。
「もういいんだ?」
その声に振り返ると、団服に身を包むノア様が腰に手を当て頭を傾ける。
詰襟と細身の体躯に合わせた、黒の上下。肩から斜めに、剣を提げる金の革帯が下げられていた。
ノア様の家にお世話になって三日、私の心がようやく決まった。そのために今日は、改めてアミーラ様に会いに行く。
その付き添いとしてノア様が来てくれるらしい。
彼には大まかにだけど事情を説明した。信じるのは難しいと思えるようなことも、何故か受け入れてくれた。
「……」
私は一度外を見てから、小さく頷いた。すると彼がフッと表情を和らげる。
「まあ、君の世話にも飽きてきたしね」
「そうですか? 楽しそうでしたよ?」
「僕が? 冗談だろ?」
間を置いて、ほとんど同時に吹き出す。クスクスとひとしきり笑ったらノア様が急に真面目な顔をした。
「何度も言うけど、ここにいるなら僕は構わないよ。部屋も余ってるし」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
なかなかこの地を去る、その覚悟が決められなくて彼に甘えてしまっていた。
でも、もう大丈夫。覚悟は決めた。
私はアリステギア王国を出る。
それが、今までお世話になったこの国の──フェルのためになるのなら。
真っ直ぐ見つめる先でノア様が、瞳をスッと細めた。
「本当に行くんだ」
「ええ」
「この三日、フェルは血眼になって君を探してたよ」
「……」
「最後に別れは?」
問われて首を振る。決意は揺らがない。私は「行きましょう」と告げて部屋を後にした。
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