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身を引くという決意③

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 どれくらい、時間が経ったのだろう。窓の外はもう暗く、静けさに包まれている。

 ずっとノア様にしがみついて泣いていたせいか、部屋は明かりもつけられず、光源は差し込む月明かりと部屋の隅にあるランプのみだった。

 私もようやく落ち着きを取り戻し、身動ぎしたら不意にノア様が口を開く。

「この家さ、誰もいないでしょ」
「? ……はい」
「皆、死んだんだよね。家族はさ。流行り病ってやつ。今は世話をしてくれる執事や従者が最低限」

 そう語る彼の口調は淡々としていた。だけど気になってしまう。

「……ノア様は、それからずっとおひとりで?」
「そ。まだ十歳くらいの時だったな。正直、迷惑だったよ。なんで独り置いてったかなって」
「……」
「家とか財産とかはあったし、気にかけてくれる人も十分だったから生きるのには苦労しなかったけどさ。だけど……」
「寂しかった?」

 窺うように問いかけたら私を見たあと、天井を仰いだ。

「そうなんだろうな。今まで気づかなかったけどさ。寂しかった……んだと、思う」
「ノア様……」
「て、そんな話がしたかったわけじゃないんだけど」

 言って、またギュッと顔を胸に押し付けられた。

「!?」
「とにかく。部屋が余ってるから当分ここにいればって言いたかっただけ」
「ノア様! く、苦しいんですけど!」
「苦しめばいいさ。とりあえず、しばらくは顔上げたらダメだから」
「?」

 首を傾げることも出来ずに言われた通り、少しの間大人しくしていた。

 そうして決心のつかない私は、彼の言葉に甘えて数日お世話になることになった。
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