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ここにいる理由 前半①

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 薄暗い空。滴る雫がガラスに当たり、幾重にも涙のような跡をつけていく。

 外は、激しい雨が降っていた。

 初めて訪れる王城の廊下、その大きな窓に手を触れ空を見上げる。懐かしさを感じる景色に心の中でホッとする。こうして雨が降ると空は繋がっているんだな、なんてありきたりのことを考えられたから。

 先日の水月の典では結局、目ぼしい情報は手に入らなかったらしい。ただフェルはそんな日もあっていい、と笑っていたから無駄ではなかったのかな、と思う。

 ふと思い返していたら、そのフェルに呼ばれた。

「ルミ、おいで」

 その声に視線を動かす。彼の後ろにはまだ薄暗く長い廊下が続いていた。

 今日は少し前にもらった招待状の通り、王城を訪れている。謁見の間で挨拶を交わして、そのあとで地図を借りる予定だった。

 ロギアスタ邸でマナーを学んではいたものの、王族の前でとなると勝手が違ってくる。緊張する私に「無理はしないで」とフェルは邸宅を残るよう言った。

 けど自分の願いで、かつ婚約者もともに、と手紙に文言があれば断ることなんて出来ない。だから不安を圧してフェルに同行した。

 フェルの待つ扉の前まで行くと、取っ手のそばの男性が押し開ける。中へ声を響かせた。

「アズール・ベルテ騎士団フェルクス騎士団長、婚約者殿が参りました」

 フェルがゆっくり歩き出す。私もすぐに後を追った。

 荘厳な扉をくぐった先、部屋の奥まで続く赤い絨毯が豪華だ。まるで映画の中にでも入ったかのよう。

 真っ直ぐ歩いていた彼が跪くタイミングで、私も身を下ろし頭を下げた。

「ご無沙汰しております。まさかノアより言付かった内容が、貴女からのものだとは思いませんでした」

 フェルの柔らかい声に顔を上げる。そこには、玉座から下りてくる深紅のドレスの女性がいた。

 私が初めてこの国に現れたとき、王城の庭にいた方。この国の王女様のアミーラ・モナルカ・ドミニアス様なのだと、先程フェルに聞いた。

 彼女は以前と同じように、薄いベールをかけていて表情は見えなかった。ただ、佇まいが美しく高貴さを醸し出している。

 アミーラ様がフェルの言葉にふふっ、と笑い声を出した。けど瞬間、不思議な違和感を覚えた。
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