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水月の典 後半②

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 黙々と歩き続けていたら、視界の中に見慣れた風景が入り込み始める。もう少ししたら、噴水広場にたどり着けるのだと安心したら余裕が出てきた。

 流し見る出店のなかで、ふと腕輪に目を留めたのだ。

 一対の細い金の腕輪。それぞれに青い石と桃色の石が使われている。今日は、私もいくらか持ってたから日頃のお礼にフェルに贈りたいな、なんて。でもお揃いなんて、ちょっと子どもっぽいかなと不安になったり。

 とにかく後で行ってみようと思った直後、ノア様に手を引かれる。

「ノア様?」
「いいもの見つけた」
「?」

 真っ直ぐ目指したのは、さっき流し見たその腕輪のお店で、まさしく見ていたあの腕輪を彼が流れるように買ってしまった。

 ワンセットしかなかったから悲しかったけど、そこは早い者勝ちだもの。諦めざるを得ない。

 でも、欲しいのなら私が買うべきじゃないかな。それを道案内の対価として欲しい。

 買ってすぐに店の側で、腕輪の金具を外し始める彼に訊いてみる。

「それ、道を教えていただいたお礼になりませんか」
「なるね。そのつもりで買った」
「! それなら私、払いますね」

 よかった、と思ったのと同時に財布を取り出そうと肩掛けの小さなバッグへ手を伸ばす。けど途中で、ノア様に腕を掴まれて遮られた。

 そのまま何故か、桃色の石が填まってる腕輪を左手首につけられてしまう。

「……え」
「ん、似合ってるじゃん」
「え? どういう」
「道を教えた代わりにこれ着けてて」
「なんで?」
「嫌がらせだよ。もう一つは僕がつけるからフェルと険悪になればいいさ」

 改めて桃色の腕輪を見る。目の前では器用に青い石のついた腕輪を着けていた。ジッと見た後、少し呆れて返す。

「こんなことで険悪になんてなりませんよ。これ、外していいですか?」
「外したらまた考えないといけないんだけど」
「……」

 それはそれで面倒なことになりそう。ひとつ溜め息を吐いて、「このままでいいです」と返したら「君も分かってきたね」と言われる。

「でも、説明しちゃいけないとは言われてないので、フェルにはちゃんと話しますよ」
「あっそ。まあいっか。君も結構、考えられるようになったじゃん」
「ノア様ほどじゃありませんけど」

 ふふっ、と笑ったら「へえ…」と彼はわずかに口角を上げて瞳を細めた。

「そう返してくるんだ?」
「気分害しました?」
「まあね。ていうか、そろそろ行きなよ」
「え?」

 と、思ったら遠くから声が聞こえた。
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