109 / 134
水月の典 前半②
しおりを挟む
「…………」
少し前まで、婚約者としてそれなりになれたかな……なんて自惚れていた自分が恨めしい。周りはまだまだ、それを認めてくれていなかったようだ。
人が増えた噴水広場前まで来たら、見たことのある方々とバッタリ出会ってしまったのだ。
いずれも、名前すら知らないご令嬢たち。だけど鍛練場とかの様々なところで、顔だけ知ってる顔見知りってやつだ。彼女たちは集団になると、それはそれは凄まじい力を出してきた。
さりげなく一般人に紛れて囲まれたかと思うと、見えない位置から腕を引かれてフェルと引き離され、彼が振り返る頃には数人に隠された。
当然、私も声を上げたけどすぐに口を塞がれたし、フェルはお嬢さん方に話しかけられてしまったし。
あれよあれよと連れられて、気づいた時には街の外れの方まで来てしまいポイッと捨てられた。
周囲は知らない景色で、慌てて場所を聞こうとしたけど、お嬢さん方は蜘蛛の子を散らすようにサーッといなくなってしまったのだ。
「ちょっと……ここ、どこよ……」
周りをキョロキョロと見渡す。出店がまだあるから中心からは、さほど離れていない気がするんだけど……。先程から通りがかる人の雰囲気が、今までと違う気がするのだ。
なんていうか……服装とかがほつれていたり、少し汚れていたりして、一目で環境が良くないのは分かる。
そして何より、目つきが厳しかった。
「…………」
明らかに場違いだよね。
早々に退散しようと来た道を探す。そしたら動き出す寸前、後ろから話し掛けられてしまった。
「おや、どこかのお姫さんかい? ここに何の用だろうね?」
その濁声に恐る恐る振り返る。そこには三名の男性がいた。
背の高いソバカスが目立つ黒髪の方と、その隣にだいぶポッチャリした紺の髪の若い人。真ん中にはザ・親玉みたいな、薄毛で黒い正装のちょっと小綺麗なおじさんがいた。
うん。これはあまり良くない気がする。
愛想笑いを作りながら、後ずさる。
「あの、すみません。人とはぐれてしまって……でも、もう大丈夫です。先程見つけて」
「それは大変だ。お姫さんは迷子だそうだ。タプロー、コート、迎えが来るまで我が家でお待ちいただく。お連れしろ」
「え?! だ、大丈夫です! すぐ帰りますので!」
両手を振って全力で遠慮したら、おじさんがフッと口角を上げた。
「では、どちらからお戻りになられるんで?」
「……えっ、と……」
流した視線の先に道は三つ。三分の一なら確率としては低くない。思いきって左の道を指差す。
「あちらから帰りますわ。オホホ」
って繕ったけど、おじさんは笑みを深めた。
「そちらは漁猟地区ですよ。貴族の方がいらっしゃるところではありません。タプロー、コート、早くしろ」
「ちょ、ちょっと、待ってください! お気遣いは感謝しますが、本当に一人で帰れますんで」
「いやいや、お一人では危ない。我々がお守り致します」
そっちのがマズイんだって!!
背の高い方に腕を掴まれて焦る。大丈夫だって何度も言ってるのに、全然聞いてくれない。半分涙目になりながら、掴まれた手をなんとか引き剥がそうと奮闘した。
少し前まで、婚約者としてそれなりになれたかな……なんて自惚れていた自分が恨めしい。周りはまだまだ、それを認めてくれていなかったようだ。
人が増えた噴水広場前まで来たら、見たことのある方々とバッタリ出会ってしまったのだ。
いずれも、名前すら知らないご令嬢たち。だけど鍛練場とかの様々なところで、顔だけ知ってる顔見知りってやつだ。彼女たちは集団になると、それはそれは凄まじい力を出してきた。
さりげなく一般人に紛れて囲まれたかと思うと、見えない位置から腕を引かれてフェルと引き離され、彼が振り返る頃には数人に隠された。
当然、私も声を上げたけどすぐに口を塞がれたし、フェルはお嬢さん方に話しかけられてしまったし。
あれよあれよと連れられて、気づいた時には街の外れの方まで来てしまいポイッと捨てられた。
周囲は知らない景色で、慌てて場所を聞こうとしたけど、お嬢さん方は蜘蛛の子を散らすようにサーッといなくなってしまったのだ。
「ちょっと……ここ、どこよ……」
周りをキョロキョロと見渡す。出店がまだあるから中心からは、さほど離れていない気がするんだけど……。先程から通りがかる人の雰囲気が、今までと違う気がするのだ。
なんていうか……服装とかがほつれていたり、少し汚れていたりして、一目で環境が良くないのは分かる。
そして何より、目つきが厳しかった。
「…………」
明らかに場違いだよね。
早々に退散しようと来た道を探す。そしたら動き出す寸前、後ろから話し掛けられてしまった。
「おや、どこかのお姫さんかい? ここに何の用だろうね?」
その濁声に恐る恐る振り返る。そこには三名の男性がいた。
背の高いソバカスが目立つ黒髪の方と、その隣にだいぶポッチャリした紺の髪の若い人。真ん中にはザ・親玉みたいな、薄毛で黒い正装のちょっと小綺麗なおじさんがいた。
うん。これはあまり良くない気がする。
愛想笑いを作りながら、後ずさる。
「あの、すみません。人とはぐれてしまって……でも、もう大丈夫です。先程見つけて」
「それは大変だ。お姫さんは迷子だそうだ。タプロー、コート、迎えが来るまで我が家でお待ちいただく。お連れしろ」
「え?! だ、大丈夫です! すぐ帰りますので!」
両手を振って全力で遠慮したら、おじさんがフッと口角を上げた。
「では、どちらからお戻りになられるんで?」
「……えっ、と……」
流した視線の先に道は三つ。三分の一なら確率としては低くない。思いきって左の道を指差す。
「あちらから帰りますわ。オホホ」
って繕ったけど、おじさんは笑みを深めた。
「そちらは漁猟地区ですよ。貴族の方がいらっしゃるところではありません。タプロー、コート、早くしろ」
「ちょ、ちょっと、待ってください! お気遣いは感謝しますが、本当に一人で帰れますんで」
「いやいや、お一人では危ない。我々がお守り致します」
そっちのがマズイんだって!!
背の高い方に腕を掴まれて焦る。大丈夫だって何度も言ってるのに、全然聞いてくれない。半分涙目になりながら、掴まれた手をなんとか引き剥がそうと奮闘した。
65
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
テンプレを無視する異世界生活
ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。
そんな彼が勇者召喚により異世界へ。
だが、翔には何のスキルもなかった。
翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。
これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である..........
hotランキング2位にランクイン
人気ランキング3位にランクイン
ファンタジーで2位にランクイン
※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。
※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
落ちこぼれ元錬金術師の禁忌
かかし
BL
小さな町の町役場のしがない役人をしているシングルファザーのミリには、幾つかの秘密があった。
それはかつて錬金術師と呼ばれる存在だったこと、しかし手先が不器用で落ちこぼれ以下の存在だったこと。
たった一つの錬金術だけを成功させていたが、その成功させた錬金術のこと。
そして、連れている息子の正体。
これらはミリにとって重罪そのものであり、それでいて、ミリの人生の総てであった。
腹黒いエリート美形ゴリマッチョ騎士×不器用不憫そばかすガリ平凡
ほんのり脇CP(付き合ってない)の要素ありますので苦手な方はご注意を。
Xで呟いたものが元ネタなのですが、書けば書く程コレジャナイ感。
男性妊娠は無いです。
2024/9/15 完結しました!♡やエール、ブクマにコメント本当にありがとうございました!
氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる