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本当の恐怖①
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長い廊下に私とエルスト様の足音だけが響いている。
「……」
会場での騒ぎを終えて、私はエリック家で着替えを済ませた。着ていたドレスは見事に染みが出来てしまったから、その染み抜きないしは弁償させてほしいと言われ使用人の方に預けた。
代わりに用意されたのは、白くて薄いレースのワンピース。ホルターネック部分は結んでリボンにするタイプ。裏地は一応あったけど、それでも透けそうなくらい薄かった。気づけば持ってきていたはずのストールさえどこかにいってしまっている。
使用人の方には急遽のために申し訳ないと謝られたけど、ほとんどネグリジェみたいな服で他所の家を歩くのは落ち着かない。…ただ内心ソール嬢の趣味なのかも、と思ったらあまり言えなくなった。
だから今は自分で、自分の体を抱き締める感じに隠して歩いている。
ちなみに今は応接室を目指しているらしい。フェルが来るまでお待ちを、と言われて案内されてる最中だった。
歩きながらふと、この服を彼に見られたら、それはそれで恥ずかしいかもしれない…と浮かぶ。応接室に着いたらやっぱり何か借りた方がいいかも。
なんて考えて、でもいつまで経っても目的地には辿り着かない。さっきから階段を上り下りして、入り組んだ廊下を進んでいるのに、一向にそれらしきことを言われなかった。
しかも、着替えをした部屋を離れてからはずっと誰ともすれ違わない。一抹の不安を覚える。
やはり、ここに留まるべきではなかったのかもしれない。フェルに…ついて行きたいと言えばよかったと。
そんな後悔をしていたら、ふいに隣を歩いていたエルスト様が口を開いた。
「……それもこれも、全部あの愚妹のせいだ」
掠めた言葉に身体が強張る。彼は苛立ちを隠せないようにブツブツ言っている。チラリと窺うと険しい顔をしていた。
けど、次の瞬間フッと柔らかくなる
「だがまあ…最後に一仕事したな」
「一仕事……?」
恐る恐るエルスト様へ視線を上げたら、気づいた彼が柔和な笑みを浮かべた。
「おや、聞こえてしまいましたか」
「あの……」
「貴女をお通ししたい部屋はこちらですよ」
そう言って示されたのは深紅の立派な扉。エルスト様は金の細い取っ手に手を伸ばし、捻ると押し開けた。
瞬間、甘い香りが鼻を掠める。少し南国チックで甘さの中に微かなピリッとした感覚も受ける。
エルスト様に軽く背を押され、中に入ると淡いほのかなランプの明かりだけが灯されていた。
部屋は全体的に薄暗い。棚やその類いは最小限で広く見える。ただ、透き通った紫の布が至るところに垂れ下がっていて、それが妖艶さを醸し出していた。
その中で一番気になったのが、中央に置かれた大きなベッド。私…泊まると言った覚えはないんだけど。
そう思ってエルスト様を見上げたら、歪んだ笑みを浮かべていた。
──嫌な予感がする。
咄嗟に身を翻す。けど寸前、バタンと扉を閉められた。
「!」
「すみませんがルミ様には、あの娘の代わりをしていただかなければ」
「いったい何を言って……」
途切れたのは、人の気配がしたから。
奥から三人。いずれも、目元に仮面を付けたガウン姿の男性だった。
「おや、そちらが今回の貢女か」
「ふむ。前回よりも体つきがいいな」
「前回は子爵家だったが、今回はどこの子だい?」
彼等の口にした言葉で気づいてしまう。
お役目がなんなのか……私が、何を目的として連れて来られたのか。
「……」
会場での騒ぎを終えて、私はエリック家で着替えを済ませた。着ていたドレスは見事に染みが出来てしまったから、その染み抜きないしは弁償させてほしいと言われ使用人の方に預けた。
代わりに用意されたのは、白くて薄いレースのワンピース。ホルターネック部分は結んでリボンにするタイプ。裏地は一応あったけど、それでも透けそうなくらい薄かった。気づけば持ってきていたはずのストールさえどこかにいってしまっている。
使用人の方には急遽のために申し訳ないと謝られたけど、ほとんどネグリジェみたいな服で他所の家を歩くのは落ち着かない。…ただ内心ソール嬢の趣味なのかも、と思ったらあまり言えなくなった。
だから今は自分で、自分の体を抱き締める感じに隠して歩いている。
ちなみに今は応接室を目指しているらしい。フェルが来るまでお待ちを、と言われて案内されてる最中だった。
歩きながらふと、この服を彼に見られたら、それはそれで恥ずかしいかもしれない…と浮かぶ。応接室に着いたらやっぱり何か借りた方がいいかも。
なんて考えて、でもいつまで経っても目的地には辿り着かない。さっきから階段を上り下りして、入り組んだ廊下を進んでいるのに、一向にそれらしきことを言われなかった。
しかも、着替えをした部屋を離れてからはずっと誰ともすれ違わない。一抹の不安を覚える。
やはり、ここに留まるべきではなかったのかもしれない。フェルに…ついて行きたいと言えばよかったと。
そんな後悔をしていたら、ふいに隣を歩いていたエルスト様が口を開いた。
「……それもこれも、全部あの愚妹のせいだ」
掠めた言葉に身体が強張る。彼は苛立ちを隠せないようにブツブツ言っている。チラリと窺うと険しい顔をしていた。
けど、次の瞬間フッと柔らかくなる
「だがまあ…最後に一仕事したな」
「一仕事……?」
恐る恐るエルスト様へ視線を上げたら、気づいた彼が柔和な笑みを浮かべた。
「おや、聞こえてしまいましたか」
「あの……」
「貴女をお通ししたい部屋はこちらですよ」
そう言って示されたのは深紅の立派な扉。エルスト様は金の細い取っ手に手を伸ばし、捻ると押し開けた。
瞬間、甘い香りが鼻を掠める。少し南国チックで甘さの中に微かなピリッとした感覚も受ける。
エルスト様に軽く背を押され、中に入ると淡いほのかなランプの明かりだけが灯されていた。
部屋は全体的に薄暗い。棚やその類いは最小限で広く見える。ただ、透き通った紫の布が至るところに垂れ下がっていて、それが妖艶さを醸し出していた。
その中で一番気になったのが、中央に置かれた大きなベッド。私…泊まると言った覚えはないんだけど。
そう思ってエルスト様を見上げたら、歪んだ笑みを浮かべていた。
──嫌な予感がする。
咄嗟に身を翻す。けど寸前、バタンと扉を閉められた。
「!」
「すみませんがルミ様には、あの娘の代わりをしていただかなければ」
「いったい何を言って……」
途切れたのは、人の気配がしたから。
奥から三人。いずれも、目元に仮面を付けたガウン姿の男性だった。
「おや、そちらが今回の貢女か」
「ふむ。前回よりも体つきがいいな」
「前回は子爵家だったが、今回はどこの子だい?」
彼等の口にした言葉で気づいてしまう。
お役目がなんなのか……私が、何を目的として連れて来られたのか。
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