上 下
63 / 134

この先の予感①

しおりを挟む
 石材建築の鍛練場はとても広く、全体の作りがシンプルだった。円形の中心は芝生でいろいろな訓練が出来るようになっているし、付随する施設は側面に並んでいる、といった感じ。

 隣を歩くフェルがひとつひとつ部隊の説明をしてくれる。

「この国には…端的に言ってしまえば、実働部隊とその下準備を行う師団がある。我が隊は魔導術を扱う実働部隊に配されているが、その名の由来は古代語で黒豹を意味してるんだ」

 つまりは黒豹アズール・べルテ隊ってことね。フェルの説明を聞きながら、チラリと後ろに視線を向ける。

 メディとアンバル様が並んで歩き、ノア…様は、その後ろからおまけのように付いてきていた。

 先程、施設内を案内してくれると言ったフェルに「程々にしろよ」とアンバル様が離れて行きそうになった。

 それじゃあ今回の目的が果たせない。だから慌ててメディの腕を掴み、彼女を咄嗟に押し付けた。

 『フェルは私の相手で忙しいので、彼女の相手をお願いします』と。

 あなたの都合なんて完全に無視です。って行動に、一瞬ポカンとしたアンバル様。フェルも驚いた表情をしていた。

 でも意外にもアンバル様とやらは無下にせず、無表情に戻っちゃったけど、とにかく一緒に来てくれることになった。後ろのおまけと共に。

「…………」
「…………」

 でもずっと会話もなく無言のまま。さっきから様子を窺ってるけどお互い話す兆しすら見えない。

 このままじゃ、せっかく憧れの人にお会いしたのに先がなくなってしまう。今日で関係が切れてしまうかもしれない。

 丁寧に話をしてくれてるフェルには悪いけど、正直見てられない。

 私はつい口を挟む。

「そういえば、アンバル様も実働部隊と伺いました。名前の由来などはあるのでしょうか?」

 話の糸口を探る。なにかメディとの繋がりそうな話題はないかと。その返答は……。

「知らねえな」

 はい。一刀両断。取りつく島もない。
 まあ、返事してくれただけマシなのかも。

 そうですか、と返したら、まさかのノア様が入ってきた。

「僕の部隊はあるよ。レイリーはふくろうの姿をした神の名。気高き化身。ああ、君にはわからないかな」
「今度見てみます」

 この人、一言余計とか言われないのかな。返事をしてくれるのはいいんだけど。

 でもチャンスとばかりに流れに乗って、メディに話を振る。

「メディは、何かお訊きしたいことあるかしら?」
「……」

 間を置いて、今まで一言も話さなかったメディがようやく顔を上げる。そして、真っ直ぐアンバル様を見つめた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~

Rohdea
恋愛
見た目も平凡、真面目である事くらいしか取り柄のない伯爵令嬢リーファは、 幼なじみでこっそり交際していたティモンにプロポーズをされて幸せの絶頂にいた。 いつだって、彼の為にと必死に尽くしてきたリーファだったけど、 ある日、ティモンがずっと影で浮気していた事を知ってしまう。 しかもその相手は、明るく華やかな美人で誰からも愛されるリーファの親友で…… ティモンを問い詰めてみれば、ずっとリーファの事は“つまらない女”と思っていたと罵られ最後は棄てられてしまう。 彼の目的はお金とリーファと結婚して得られる爵位だった事を知る。 恋人と親友を一度に失くして、失意のどん底にいたリーファは、 最近若くして侯爵位を継いだばかりのカインと偶然出会う。 カインに色々と助けられ、ようやく落ち着いた日々を手に入れていくリーファ。 だけど、そんなリーファの前に自分を棄てたはずのティモンが現れる。 何かを勘違いしているティモンは何故か復縁を迫って来て───

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

家に住み着いている妖精に愚痴ったら、国が滅びました

猿喰 森繁
ファンタジー
精霊の加護なくして魔法は使えない。 私は、生まれながらにして、加護を受けることが出来なかった。 加護なしは、周りに不幸をもたらすと言われ、家族だけでなく、使用人たちからも虐げられていた。 王子からも婚約を破棄されてしまい、これからどうしたらいいのか、友人の屋敷妖精に愚痴ったら、隣の国に知り合いがいるということで、私は夜逃げをすることにした。 まさか、屋敷妖精の一声で、精霊の信頼がなくなり、国が滅ぶことになるとは、思いもしなかった。 この話は、カクヨム様にも投稿しております。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

仲室日月奈
恋愛
転生したのは、大正時代を舞台にした乙女ゲームの世界でした。ただし、ヒロインではなく、その友人役として。サブキャラだから、攻略はヒロインに任せて、私はゲーム案内役の彼を落としてもいいよね? だけど、隠しキャラの謎解きルートを解放しなければ、自分は失踪。父親はショックで倒れて、華族の我が家は没落。それはさすがに困る。 こうなったら、ゲーム案内役の彼と協力して未来を回避し、ゲームクリアを目指します! ※この乙女ゲームでは、話し言葉は標準語、カタカナの表記は現代風という仕様です。 ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。

処理中です...