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お約束がありました②

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 抱きついてくるメディをなんとか抱き止め、踏みとどまる。背中にセルトンの片手を感じたけど、そのおかげもあったかもしれない。

 メディは元気に顔を上げる。

「ルー! ごきげんよう!」
「え、ええ。ごきげんよう……」

 キラキラした瞳が眩しい。気持ちの温度差についていけなくて、笑顔が引きつる。とにかく一旦離れて、と引き剥がそうとしても彼女はなかなか離れない。見かねたガルシアさんの咳ばらいに、ようやく彼女が離れていく。

「お時間がなくなりますよ」
「あら、それは困るわ。早く行きましょ、ルー」
「そうね」

 と、返事をして二人で移動することになったけど、何故かメディが腕を組んできて仲良く歩くことに。少し歩きづらさを感じながらもたどり着いた玄関口でガルシアさんが見送ってくれた。

「ではルミ様、くれぐれもお気をつけて」
「はい。では行ってきます」

 玄関口から外に出て短い階段を下りると目の前に豪華な馬車が待っていた。

 車両部分は青を基調としていて扉や窓にある細かな装飾は金が使われている。どこかフェルの正装に色合いが似ている気がする。さらに開け放たれた扉から見える内部は白の革張りだった。

 そしてその後ろにもう一台停まっている。

 前の馬車より一回り小さく、素朴な感じ。見ていたら隣から小さな溜め息が聞こえた。

「素敵な馬車ね。さすがはフェルクス様。アタシのとは雲泥の差だわ」

 そう言って後ろの馬車へ視線を流す。口ぶりからすると、そちらがメディの馬車らしい。なるほど、と思っていたら反対に立つセルトンに「参りましょう」と手を差し出された。すると、メディが躊躇いがちに見上げてくる。

「アタシもそっちに乗っちゃダメかしら……?」

 上目遣いで可愛らしいお願い。すかさず返事をしてしまう。

「構わないわ。一緒に乗りましょう」
「ありがとう! 優しいのね、ルー。従者を呼ぶから少しまってね」

 彼女はすぐさま「ヴァロ!」と呼び始める。馬車の後ろから顔を出したのは若い男の人だった。髪は白銀で、肩ほどまであるのを一つに結んでいる。服装はセルトンと同じような詰襟で全身紺色。ちなみにセルトンは白。従者の皆が外に出るときの制服みたいなものらしい。

 彼は私を見るなり頭を下げた。

「ロギアスタ家ご婚約者様、アルワーフ家メディウム様付きのヴァロと申します」

 丁寧な所作と早口言葉。感心してしまう。私も持っていた扇を口元に添えてふふっと応えた。できるだけ淑女っぽく見えるようにしたけど、これでいいのかしら。ひとまずそれっぽいセリフも添える。

「ルミと呼んでくださって……構わないわ。よろしくね」

 昨日、形ばかりの夫人教育をガルシアさんから受けた。婚約者と言えど屋敷に住んでいる以上、外から見れば夫人と同様に扱われる。だから外出するなら最低限押さえておくべきポイントを覚えた方がいい。そう指摘されて私も同意した。

 そして今回のもその時に教わったこと。他家の従者に、余り控えめにしすぎない方が良い。それは婚約者であるフェルの評判にも直結するから。

 そんなことを思い出す中、メディは目の前で従者に馬車を変えると伝えていた。頷いた彼はにこやかに応える。

「承知しました。ではルミ様、メディウム様を宜しくお願いします」
「ええ。では」

 振り返るとセルトンが控えていた。彼の差し出す手に、自身の手を重ね馬車へ乗り込む。メディも彼の手を借り後に続いた。
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