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婚約者…?③
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誰もが沈黙する室内。私は縮こまりながら極限まで気配を消している。そして戸惑いつつお嬢さんとフェルクスさんを視線だけで交互に見ていた。
対してお嬢さんは切なげな表情で真っ直ぐフェルクスさんだけを見ている。
そして見つめられている当の本人は何かを葛藤するかのように苦悶の表情を浮かべていた。
「………っ…」
私から言うのはなんだけど、これ収拾つくのかしら。とりあえず婚約者疑惑は解消しておくべきじゃないだろうか。
口を挟むのは勇気がいるけど、なんとか奮い立たせて「あの」とお嬢さんに声をかける。
でもその直後、フェルクスさんに手を引かれた。
「わっ」
拍子にバランスを崩して転びそうになってしまう。反射的に彼の服を掴んだら、今度はしっかりと腰を抱かれて逃げられなくなった。
「え」
フェルクスさんは決意を込めた藍色の瞳を向けて、お嬢さんに言う。
「正式な場で伝えるつもりでしたが仕方ありません」
「いや……やめて……」
「先に紹介しましょう。彼女はフジサワ・ルミ。遠い異国の地より参りました、私の婚約者です」
「ちがっ……!!」
「聞きたくない!! いやあぁぁ!!」
お嬢さんの叫びに私の声などかき消される。私も思わず耳を塞いだ。
再び目を開けたらすでにロックオン。涙でグシャグシャの瞳を鋭く細めて射殺さんとばかりに睨まれている。つい怯んでしまった。
「っ…」
おびえながら咄嗟にフェルクスさんへ見上げると、気づいた彼が後頭部に手を添え見えないように胸元に押し付ける。
「……」
いや、違う。見えなくなったら無くなるわけじゃない。
けど背中に突き刺さる鋭い気配に恐怖して、そのままにせざるを得なかった。
ワンテンポ遅れて部屋の扉が叩かれる。入ってきたのは階下で見た執事さんと他男性が二人だった。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「ソール嬢がお帰りだ。迎えを呼んであげなさい」
「かしこまりました」
一礼して執事さんが他二人に指示を出す。茫然自失となったお嬢さんを、使用人の男性たちが部屋から連れ出した。それほどショックだったのかな。
皆が出ていって、最後に執事さんが部屋の清掃を後程行うと言って頭を下げた。
けどその間際、フェルクスさんが再び呼び止める。
「ガルシア」
「なんでしょう?」
「今後、ソール嬢が我が邸に訪れることはない。そのつもりで」
「……承知致しました」
執事さんは再度お辞儀をすると部屋を後にした。
人が居なくなるとどっと疲れが出てくる。静寂が戻ってきたとはいえ、さっきまで騒がしかった。いまさら落ち着いて話なんて出来ない。甘い匂いも結構残ってるし。
それを察したのか、フェルクスさんはテーブルの上にあった紙の束を取ると部屋を変えようと提案してくれた。
「いろいろとすまなかったね、ルミ。他の部屋に行こう」
先に歩き出すフェルクスさんについていく。そういえばすっかり忘れてたけど一応仕事終わりなんだよね、私。体内時間的には日付も越えてるかも。
こんな状態でまた同じことが起きるのは勘弁してほしいね。小さく祈りながら部屋を出た。
対してお嬢さんは切なげな表情で真っ直ぐフェルクスさんだけを見ている。
そして見つめられている当の本人は何かを葛藤するかのように苦悶の表情を浮かべていた。
「………っ…」
私から言うのはなんだけど、これ収拾つくのかしら。とりあえず婚約者疑惑は解消しておくべきじゃないだろうか。
口を挟むのは勇気がいるけど、なんとか奮い立たせて「あの」とお嬢さんに声をかける。
でもその直後、フェルクスさんに手を引かれた。
「わっ」
拍子にバランスを崩して転びそうになってしまう。反射的に彼の服を掴んだら、今度はしっかりと腰を抱かれて逃げられなくなった。
「え」
フェルクスさんは決意を込めた藍色の瞳を向けて、お嬢さんに言う。
「正式な場で伝えるつもりでしたが仕方ありません」
「いや……やめて……」
「先に紹介しましょう。彼女はフジサワ・ルミ。遠い異国の地より参りました、私の婚約者です」
「ちがっ……!!」
「聞きたくない!! いやあぁぁ!!」
お嬢さんの叫びに私の声などかき消される。私も思わず耳を塞いだ。
再び目を開けたらすでにロックオン。涙でグシャグシャの瞳を鋭く細めて射殺さんとばかりに睨まれている。つい怯んでしまった。
「っ…」
おびえながら咄嗟にフェルクスさんへ見上げると、気づいた彼が後頭部に手を添え見えないように胸元に押し付ける。
「……」
いや、違う。見えなくなったら無くなるわけじゃない。
けど背中に突き刺さる鋭い気配に恐怖して、そのままにせざるを得なかった。
ワンテンポ遅れて部屋の扉が叩かれる。入ってきたのは階下で見た執事さんと他男性が二人だった。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「ソール嬢がお帰りだ。迎えを呼んであげなさい」
「かしこまりました」
一礼して執事さんが他二人に指示を出す。茫然自失となったお嬢さんを、使用人の男性たちが部屋から連れ出した。それほどショックだったのかな。
皆が出ていって、最後に執事さんが部屋の清掃を後程行うと言って頭を下げた。
けどその間際、フェルクスさんが再び呼び止める。
「ガルシア」
「なんでしょう?」
「今後、ソール嬢が我が邸に訪れることはない。そのつもりで」
「……承知致しました」
執事さんは再度お辞儀をすると部屋を後にした。
人が居なくなるとどっと疲れが出てくる。静寂が戻ってきたとはいえ、さっきまで騒がしかった。いまさら落ち着いて話なんて出来ない。甘い匂いも結構残ってるし。
それを察したのか、フェルクスさんはテーブルの上にあった紙の束を取ると部屋を変えようと提案してくれた。
「いろいろとすまなかったね、ルミ。他の部屋に行こう」
先に歩き出すフェルクスさんについていく。そういえばすっかり忘れてたけど一応仕事終わりなんだよね、私。体内時間的には日付も越えてるかも。
こんな状態でまた同じことが起きるのは勘弁してほしいね。小さく祈りながら部屋を出た。
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