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婚約者…?②

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 フェルクスさんがベルを鳴らしてからすぐ、項垂れていたお嬢さんの方から微かな声が聞こえ始めた。なにやらポツリポツリと言葉をこぼしているみたい。微かに聞き取れたのはどこか恨みがましい言葉。

「……なら……いますぐ……結婚してくれればいいじゃない……」 

 不穏な空気にフェルクスさんも気づいて振り返る。

「ソール嬢……?」
「……あの時だって……家格だって……ふさわしいって……」

 ぶつぶつ呟いていた彼女は突然ゆらりと立ち上がる。つられて目で追っていくと、いきなり鬼の形相でフェルクスさんを睨み付けた。

「貴方が……思わせ振りな態度ばかり取るから!! わたくしは!」

 言うや否やフェルクスさんに掴みかかった。

「っ!」
「貴方が……!!」
「え、え?!」

 なんで急に乱闘騒ぎに!? さっきまで好きとか愛とか言ってなかった?!!

 驚きすぎてオロオロしてしまう。フェルクスさんは必死にお嬢さんの腕を掴んで押さえ込もうとしていた。

「落ち着きなさい、ソール嬢!」

 どうやって助けるべきか悩んで、そういえば後ろから脇に手を入れて引き離してたな、と思い出す。同じようにすれば、と恐る恐る手を出すけどあまりに勢いがあって触れることすらできなかった。

 その間にもお嬢さんが叫ぶ。

「父上と兄上に言うわ、フェル! 貴方を婚約者だと紹介するの。それでいいじゃない!! 全て解決だわ!」
「なりません」
「どうして? できない理由はなんなの?! 家格はわたくしの家の方が上なのよ? それなのに……」

 彼女が息を飲んだのがわかった。パッと振り返って私を見る。震える唇で心底信じられないといった風に続けた。

「まさか……この女が婚約者だなんて、言わないわよね……?」
「え、ちが」
「ルミ!」

 慌てて否定しようとした言葉が遮られる。その鋭い声が場をシンと静まり返した。
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