7 / 134
衝撃③
しおりを挟む
「す、すまない……少し離れてくれるかな。今日は客人を紹介したいんだ。ルミ!」
「っ! はい?」
思わず返事をしてしまったけど、そのせいで一斉に女性達の視線が集まる。直後、彼女たちはひそひそと何かを囁き始めた。
微かに聞こえたのは服装のこと。フェルクスさんも気になった通り、スーツは珍しいみたい。おまけに紺のスカートスーツだったから、明るい色の服を着ている彼女たちからは地味に見えても仕方ない。
せめて私服だったらここまで浮かなかったかなとは思うんだけど。よりによってスーツ姿を注目されるとは。なんだか居心地が悪い。
呼ばれてしまった以上動かないわけにはいかないので、そのままフェルクスさんのそばまで行く。簡単に名前を名乗ったけど、彼女たちのひそひそはいつの間にかクスクスに変化していた。それがなんとなく恥ずかしくなって、苦笑いで誤魔化す。
でもそんな視線から隠すようにサッとフェルクスさんが前に立った。驚きつつもその背を見上げた。
「彼女は遠い国から来た私の大切な客人なんだ。丁重にもてなしたいと思っている。協力してくれるかい?」
その言葉にざわめきが止まった。けど一斉に扇を広げて明らかに歓迎していないセリフが次々飛び出す。私に対して言ってるものから、コソコソと交わすものまで。だいたい全部聞こえてるんだけど。
「あら~、そうとは知らずにごめんなさいね」
「もてなすものはないけど、ゆっくりしていってね」
「ふふっ、特に何もないもの。すぐに帰るわよ」
「そうね。あまり長居する場所じゃないわ」
「でも、わざわざフェルクス様に会いに来るのはどういう間柄なのかしら?」
どこかハッキリした態度に清々しささえ感じる。感情を隠す技能だったら私の祖国の方が高いかも、なんて。
そんなくだらないことを考えていたら、突然フェルクスさんが「失礼するよ」と呟いた。なにごとか、と思う間もなく肩を抱かれてビックリした。けどその触れる彼の手も震えていた。
それに気づいて、疑問に思うタイミングで「行こう」と促された。
「残念ながら協力は得られないみたいだね。悪いが今日はもう帰らせてもらうよ」
わずかに低くなった声。そのあと後ろから引き留める声がいくつも聞こえたけどフェルクスさんの足が止まることはなかった。
しばらくして人通りが少なくなってくると彼はパッと肩から手を離す。反射的に顔を見上げると申し訳なさそうに眉根を寄せていた。
「不快な思いをさせたかな。彼女たちの中で君を知る者がいればと思い顔を見せたんだが、あんな礼儀を欠く言動になるとは思わなかった。申し訳ない」
「大丈夫です。気にしないでください。それよりフェルクスさんの方はどうですか? 途中からまた顔色が悪くなったように見えたので心配で」
訊くと彼は目を瞬かせたあと、一拍置いて困ったように笑った。
「気にかけてくれてありがとう。今は大丈夫だから」
「それなら良かったです」
ホッと安堵して笑いかける。彼によれば家はすぐ近くだと言う。そのまま私たちは取り留めない会話をしながら道を進んでいった。
「っ! はい?」
思わず返事をしてしまったけど、そのせいで一斉に女性達の視線が集まる。直後、彼女たちはひそひそと何かを囁き始めた。
微かに聞こえたのは服装のこと。フェルクスさんも気になった通り、スーツは珍しいみたい。おまけに紺のスカートスーツだったから、明るい色の服を着ている彼女たちからは地味に見えても仕方ない。
せめて私服だったらここまで浮かなかったかなとは思うんだけど。よりによってスーツ姿を注目されるとは。なんだか居心地が悪い。
呼ばれてしまった以上動かないわけにはいかないので、そのままフェルクスさんのそばまで行く。簡単に名前を名乗ったけど、彼女たちのひそひそはいつの間にかクスクスに変化していた。それがなんとなく恥ずかしくなって、苦笑いで誤魔化す。
でもそんな視線から隠すようにサッとフェルクスさんが前に立った。驚きつつもその背を見上げた。
「彼女は遠い国から来た私の大切な客人なんだ。丁重にもてなしたいと思っている。協力してくれるかい?」
その言葉にざわめきが止まった。けど一斉に扇を広げて明らかに歓迎していないセリフが次々飛び出す。私に対して言ってるものから、コソコソと交わすものまで。だいたい全部聞こえてるんだけど。
「あら~、そうとは知らずにごめんなさいね」
「もてなすものはないけど、ゆっくりしていってね」
「ふふっ、特に何もないもの。すぐに帰るわよ」
「そうね。あまり長居する場所じゃないわ」
「でも、わざわざフェルクス様に会いに来るのはどういう間柄なのかしら?」
どこかハッキリした態度に清々しささえ感じる。感情を隠す技能だったら私の祖国の方が高いかも、なんて。
そんなくだらないことを考えていたら、突然フェルクスさんが「失礼するよ」と呟いた。なにごとか、と思う間もなく肩を抱かれてビックリした。けどその触れる彼の手も震えていた。
それに気づいて、疑問に思うタイミングで「行こう」と促された。
「残念ながら協力は得られないみたいだね。悪いが今日はもう帰らせてもらうよ」
わずかに低くなった声。そのあと後ろから引き留める声がいくつも聞こえたけどフェルクスさんの足が止まることはなかった。
しばらくして人通りが少なくなってくると彼はパッと肩から手を離す。反射的に顔を見上げると申し訳なさそうに眉根を寄せていた。
「不快な思いをさせたかな。彼女たちの中で君を知る者がいればと思い顔を見せたんだが、あんな礼儀を欠く言動になるとは思わなかった。申し訳ない」
「大丈夫です。気にしないでください。それよりフェルクスさんの方はどうですか? 途中からまた顔色が悪くなったように見えたので心配で」
訊くと彼は目を瞬かせたあと、一拍置いて困ったように笑った。
「気にかけてくれてありがとう。今は大丈夫だから」
「それなら良かったです」
ホッと安堵して笑いかける。彼によれば家はすぐ近くだと言う。そのまま私たちは取り留めない会話をしながら道を進んでいった。
118
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!
沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。
「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」
Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。
さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。
毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。
騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。
初夜をボイコットされたお飾り妻は離婚後に正統派王子に溺愛される
きのと
恋愛
「お前を抱く気がしないだけだ」――初夜、新妻のアビゲイルにそう言い放ち、愛人のもとに出かけた夫ローマン。
それが虚しい結婚生活の始まりだった。借金返済のための政略結婚とはいえ、仲の良い夫婦になりたいと願っていたアビゲイルの思いは打ち砕かれる。
しかし、日々の孤独を紛らわすために再開したアクセサリー作りでジュエリーデザイナーとしての才能を開花させることに。粗暴な夫との離婚、そして第二王子エリオットと運命の出会いをするが……?
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています
四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる