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第七章
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「この子は、私の娘のイルティアだ。よろしく頼むよ、公子殿」
そう紹介されて、父の手に背を押された少女が、おずおずと前に出てくる。
銀色がかった紫の髪に、正面のザフラを窺う瞳は濃い緑色。黄色のワンピースに身を包む彼女はとても愛らしかった。
幼いながらにも、彼は強く思ったのだ。
大切にしたい、と。
* * *
二人は、カンケル王国の貴族街で名だたる名家の生まれだった。
芸術性の優れたウェンディーズ家と、経営力の優れたシュヴァーユ家。
ウェンディーズ家は、遠く王族の血筋があったが、シュヴァーユ家は、様々な功績を挙げて公の爵位を得ていた。
互いの分野や成り立ちは違えど、交流は深かった。
特にイルティアの父──ジェラルドは良く、シュヴァーユ家に訪れていたほど。当主のアインツと交わす話題は様々で、夜が更けるまでいることも、しばしばあった。けれど、そうして訪問する中、彼が息子のザフラに対する態度が気になった。
過剰なまでの圧力。厳しい叱責。ジェラルドの前でもかまわず、手を上げていた。
シュヴァーユ家は、各方面への経営を主としている。そうしなければ、その爵位を保てない。その家の嫡子だから厳しくなるのも仕方がないとは思っていた。だが、それにしても目に余るものがある。
何度か、それとなく話してみたものの効果はない。
思惟した結果、それでは、とジェラルドは娘のイルティアを紹介したのだ。幼い娘と共にいれば、アインツも強くは当たれないだろう。そうして得られた時間くらいは、穏やかに過ごせればと願って。
その思いは──確かに、ザフラの救いとなった。
イルティアと時間を共有し始めたザフラは、ジェラルドが会うたび、その表情を明るくさせていた。
自分から意欲的に動く様は、以前とまるで違って見えた。
「ずいぶん頑張ってるね」
そんな風に、声をかけたことがあった。ザフラは瞳を瞬かせ、やがて、はにかんだ笑みを浮かべる。そして、内緒話をするように耳元で教えてくれたのだ。
イルティアが一緒にいてくれるからだよ、と。
そう言った彼が娘に呼ばれ、背を向ける。その背を、ジェラルドが優しく見送った。
渡り廊下を駆けていくザフラ。陽の光が溢れ、柔らかい風が通り抜ける。手を挙げて、自分を呼んだ少女に応える。
彼は……ずっと逃れられない鎖に、囚われていた。
物心が付き始めた頃から、一日の予定が決められ、その通りにしか動けない。一つ遅れれば、叱責され殴られる。学ぶ内容もいろいろと詰め込まれ、一つ間違えても叱責され、また手を上げられた。
ただ、ジェラルドがいる間は、それが幾分か和らいだ。やはり人前だからだろうか、回数も激しさも、いない時と比べれば圧倒的に軽くなっていた。
それが、さらに和らいだのは、イルティアを紹介された後だった。
彼女が訪れる時間は、来訪時間と区切られ、完全に二人でいられた。叱責する父も母も教師もいない。
次第にザフラは、心の安定を取り戻し始める。
ある時イルティアが、ザフラと共に経営学を学びたいと進言してきた。父のアインツは渋い顔をして断ったが、芯の強い彼女に押しきられ、結局彼はその申し出を受け入れた。
そのおかげでザフラは、彼女と一緒に、改めて学ぶ時間を取ることになった。だがそれは、彼にとってとても衝撃的なことだった。
恐怖の権化でもある父に、物申すイルティア。その、何者も恐れない姿には憧れすら抱いた。
その後、ザフラに厳しく当たっていた教師陣は刷新され、彼女に合わせた教師たちが用意された。
さしものアインツも、他所の娘に暴力を振るわれる息子を見せるわけにいかなかったのだろう。ザフラの学ぶ環境は一変した。
それが彼に勇気をもたらした。
前にも増して学ぶ意欲を出し、教師もそれに応えようとする。挫けそうな時には、イルティアに支えられ、そして同時に切磋琢磨する仲にもなっていた。
そうした日々の中で、培った知識と自信。気づけば彼の周りには人が集まり、両親からの揺るぎない信頼をも得られた。
全ての準備が整うと、彼は彼女に婚姻を申し込む。その申し出を、彼女も受け入れた。
それはきっと、自然なことだったのだろう。
ずっと傍にいるのが当たり前になっていた彼には、その結婚すらも通過儀礼の一つだったのだ。
離れることなど、微塵も考えていなかったのだから。
唯一、彼の母のみが、王家から遠く廃れかけているウェンディーズ家を良しとしなかったが、彼女を除いて二人は皆から祝福された。
ザフラ自身も、幸せというものを強く感じていた。
邸に帰れば、イルティアが出迎えてくれる。どんなに疲れていても、彼女が笑ってくれるなら頑張れた。
交わす会話すら大切で、触れ合う肌は心地よく、溺れていくようだった。
それは更に力となって、彼は精力的に動けるようになる。手広く交遊関係を持ち、事業の拡大には意欲的だった。経営手腕は、父を凌いでいたのかもしれない。
前へ前へと、進んでいくザフラ。
いつしか……イルティアの存在すらも置きざりにして。
* * *
「ねえ、ザフラ。私は、貴方の何?」
初めてそう訊かれたのが、いつだったのか、もう覚えていない。ただ、ずいぶん忙しくなった頃だと、記憶の片隅に残っていた。
それは、訊かれた瞬間、彼がわずかな煩わしさを感じたから。
そのせいだったのか、返答もややぞんざいに思われた。
「妻だろう? 何故そんなことを聞くんだい?」
ただ、ザフラにしてみれば、その言葉に深い意味はなかった。彼女は妻で、家族。それが全てだったのだ。
けれどこの時から、彼女の心に陰が落ち始める。
何度も問うその言葉は、迷い子のような心境で吐き出された。
自分の居場所、存在意義、それらに囚れながらも探す目的地。
そうして、二人の生き方がズレ始めていたのを当人たちすらも知らなかった。
だが、その兆しに気付いてなかったかと言われれば嘘になる。
彼は、日増しに彼女の表情がなくなっていくのを間近で見ていたのだ。
そして、その胸に何かを抱えていたことも、それを募らせていたことも、分かっていた。
ザフラはそれらを知っていながら──更に距離を作ってしまった。
話し合うより前に、遠くの領地へ。
顔を合わせるより先に、仕事の指示を。
傍にいる時間は……社交の場に頼った。
ザフラ自身も戸惑っていたのだろう。ずっと敬慕の念さえ持っていた彼女が、初めて弱った姿を見せているのだ。
始めは、向き合うことも考えた。しかし、多忙を理由にして先延ばしにしているうちに、いつしか、見ない振りをするようになっていた。
それは、変わらない日々を不都合なく過ごせていたから。
邸に戻れば彼女はいたし、生活も安定している。当の彼女に対しても、何不自由なく過ごさせている自信があった。
それらが、交わすべき想いを闇へと隠していった。
心の距離が遠く離れていくことにも、気づかせないほどに。
……──だが、いつからか、そんな二人の世界に大きな変化が起きた。
固く強張った表情ばかりしていたイルティアが、花のように綻ぶ笑みを見せ始めたのだ。
外に出始め、忙しくなった彼女は、抱えていたものから解き放たれたかに思えた。
そうして流れる時の中で、もたらされた変化にザフラも喜び、多少の問題には目を瞑っていた。いずれまた、昔の二人に戻れると期待して。
けれど、本当は分かっていたのかもしれない。
その笑顔を取り戻したのが──やりがいでも、忙しい日々でも、況してや傍にいただけの自分でも……なかったことを。
「…………」
不意に、揺らいだ気配。
長い沈黙の後、ザフラが顔を上げると、目の前のイルティアは一瞬悲しげに瞼を伏せる。けれどすぐ、開けた瞳で真っ直ぐ彼を見つめた。
そして、大きく息を吸い込むと、吐き出す息に言葉を乗せた。
「私、貴方に……言わなきゃいけないことがあるの」
向けられたその瞳に、ザフラは困惑しながら、それでも問いかける。
「……何かな」
「私……」
躊躇いながら、しかしハッキリとした声で、彼女は告げた。
「罪を……犯したわ」
「……」
瞬間、ザフラが言葉を呑み込む。この場で出されたその言葉に、込められた意味が分からないほど鈍くはない。心当たりも、あった。
彼はわずかに逡巡し、けれど徐々に、掴んでいた手に力を込める。
鋭く瞳を細めて、低く抑えるような声で問いかけた。
「相手は、聞かなくても分かるね」
「……」
「……それは、君の意思なのかな」
「ええ……」
小さく答えた彼女は、絞り出すように続けた。
「私は、彼を……愛してる」
ギリッと奥歯を噛み締める。込み上げる怒りや悔しさは、抑えきれない。だがそれでも彼は、考えを改めるように、と言い聞かすように、出来るだけ静かに言葉を並べた。
「それは、彼の策に嵌まっただけじゃないかな。何度も言うけど、彼に必要だったのは君じゃない。君は騙されただけなんだ。だから、離縁なんてする必要ないよ」
思い直すべきだ、そんな強い思いを込めて、イルティアの瞳を見据える。直後、彼女の瞳が揺れた気がした。わずかな期待が芽生える。
しかし、彼女から戻ってきたその返答は、望む内容ではなかった。
「たとえそうだとしても、私は構わない。彼とのことは、一時のことだもの。私がここから出ることは変わらないわ」
「っ!」
いまだ彼女の意志は揺るがない。ザフラは、しばらく見つめたあと、小さく呟いた。
「……そう」
その一言を、理解し受け入れてくれたのだと解釈したイルティアが、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ごめんなさい、ザフラ。謝って済む問題じゃないのは分かってる。でもね、私……!?」
だが彼は、最後まで聞くことなく、彼女をソファに押し付けるように押し倒した。
そう紹介されて、父の手に背を押された少女が、おずおずと前に出てくる。
銀色がかった紫の髪に、正面のザフラを窺う瞳は濃い緑色。黄色のワンピースに身を包む彼女はとても愛らしかった。
幼いながらにも、彼は強く思ったのだ。
大切にしたい、と。
* * *
二人は、カンケル王国の貴族街で名だたる名家の生まれだった。
芸術性の優れたウェンディーズ家と、経営力の優れたシュヴァーユ家。
ウェンディーズ家は、遠く王族の血筋があったが、シュヴァーユ家は、様々な功績を挙げて公の爵位を得ていた。
互いの分野や成り立ちは違えど、交流は深かった。
特にイルティアの父──ジェラルドは良く、シュヴァーユ家に訪れていたほど。当主のアインツと交わす話題は様々で、夜が更けるまでいることも、しばしばあった。けれど、そうして訪問する中、彼が息子のザフラに対する態度が気になった。
過剰なまでの圧力。厳しい叱責。ジェラルドの前でもかまわず、手を上げていた。
シュヴァーユ家は、各方面への経営を主としている。そうしなければ、その爵位を保てない。その家の嫡子だから厳しくなるのも仕方がないとは思っていた。だが、それにしても目に余るものがある。
何度か、それとなく話してみたものの効果はない。
思惟した結果、それでは、とジェラルドは娘のイルティアを紹介したのだ。幼い娘と共にいれば、アインツも強くは当たれないだろう。そうして得られた時間くらいは、穏やかに過ごせればと願って。
その思いは──確かに、ザフラの救いとなった。
イルティアと時間を共有し始めたザフラは、ジェラルドが会うたび、その表情を明るくさせていた。
自分から意欲的に動く様は、以前とまるで違って見えた。
「ずいぶん頑張ってるね」
そんな風に、声をかけたことがあった。ザフラは瞳を瞬かせ、やがて、はにかんだ笑みを浮かべる。そして、内緒話をするように耳元で教えてくれたのだ。
イルティアが一緒にいてくれるからだよ、と。
そう言った彼が娘に呼ばれ、背を向ける。その背を、ジェラルドが優しく見送った。
渡り廊下を駆けていくザフラ。陽の光が溢れ、柔らかい風が通り抜ける。手を挙げて、自分を呼んだ少女に応える。
彼は……ずっと逃れられない鎖に、囚われていた。
物心が付き始めた頃から、一日の予定が決められ、その通りにしか動けない。一つ遅れれば、叱責され殴られる。学ぶ内容もいろいろと詰め込まれ、一つ間違えても叱責され、また手を上げられた。
ただ、ジェラルドがいる間は、それが幾分か和らいだ。やはり人前だからだろうか、回数も激しさも、いない時と比べれば圧倒的に軽くなっていた。
それが、さらに和らいだのは、イルティアを紹介された後だった。
彼女が訪れる時間は、来訪時間と区切られ、完全に二人でいられた。叱責する父も母も教師もいない。
次第にザフラは、心の安定を取り戻し始める。
ある時イルティアが、ザフラと共に経営学を学びたいと進言してきた。父のアインツは渋い顔をして断ったが、芯の強い彼女に押しきられ、結局彼はその申し出を受け入れた。
そのおかげでザフラは、彼女と一緒に、改めて学ぶ時間を取ることになった。だがそれは、彼にとってとても衝撃的なことだった。
恐怖の権化でもある父に、物申すイルティア。その、何者も恐れない姿には憧れすら抱いた。
その後、ザフラに厳しく当たっていた教師陣は刷新され、彼女に合わせた教師たちが用意された。
さしものアインツも、他所の娘に暴力を振るわれる息子を見せるわけにいかなかったのだろう。ザフラの学ぶ環境は一変した。
それが彼に勇気をもたらした。
前にも増して学ぶ意欲を出し、教師もそれに応えようとする。挫けそうな時には、イルティアに支えられ、そして同時に切磋琢磨する仲にもなっていた。
そうした日々の中で、培った知識と自信。気づけば彼の周りには人が集まり、両親からの揺るぎない信頼をも得られた。
全ての準備が整うと、彼は彼女に婚姻を申し込む。その申し出を、彼女も受け入れた。
それはきっと、自然なことだったのだろう。
ずっと傍にいるのが当たり前になっていた彼には、その結婚すらも通過儀礼の一つだったのだ。
離れることなど、微塵も考えていなかったのだから。
唯一、彼の母のみが、王家から遠く廃れかけているウェンディーズ家を良しとしなかったが、彼女を除いて二人は皆から祝福された。
ザフラ自身も、幸せというものを強く感じていた。
邸に帰れば、イルティアが出迎えてくれる。どんなに疲れていても、彼女が笑ってくれるなら頑張れた。
交わす会話すら大切で、触れ合う肌は心地よく、溺れていくようだった。
それは更に力となって、彼は精力的に動けるようになる。手広く交遊関係を持ち、事業の拡大には意欲的だった。経営手腕は、父を凌いでいたのかもしれない。
前へ前へと、進んでいくザフラ。
いつしか……イルティアの存在すらも置きざりにして。
* * *
「ねえ、ザフラ。私は、貴方の何?」
初めてそう訊かれたのが、いつだったのか、もう覚えていない。ただ、ずいぶん忙しくなった頃だと、記憶の片隅に残っていた。
それは、訊かれた瞬間、彼がわずかな煩わしさを感じたから。
そのせいだったのか、返答もややぞんざいに思われた。
「妻だろう? 何故そんなことを聞くんだい?」
ただ、ザフラにしてみれば、その言葉に深い意味はなかった。彼女は妻で、家族。それが全てだったのだ。
けれどこの時から、彼女の心に陰が落ち始める。
何度も問うその言葉は、迷い子のような心境で吐き出された。
自分の居場所、存在意義、それらに囚れながらも探す目的地。
そうして、二人の生き方がズレ始めていたのを当人たちすらも知らなかった。
だが、その兆しに気付いてなかったかと言われれば嘘になる。
彼は、日増しに彼女の表情がなくなっていくのを間近で見ていたのだ。
そして、その胸に何かを抱えていたことも、それを募らせていたことも、分かっていた。
ザフラはそれらを知っていながら──更に距離を作ってしまった。
話し合うより前に、遠くの領地へ。
顔を合わせるより先に、仕事の指示を。
傍にいる時間は……社交の場に頼った。
ザフラ自身も戸惑っていたのだろう。ずっと敬慕の念さえ持っていた彼女が、初めて弱った姿を見せているのだ。
始めは、向き合うことも考えた。しかし、多忙を理由にして先延ばしにしているうちに、いつしか、見ない振りをするようになっていた。
それは、変わらない日々を不都合なく過ごせていたから。
邸に戻れば彼女はいたし、生活も安定している。当の彼女に対しても、何不自由なく過ごさせている自信があった。
それらが、交わすべき想いを闇へと隠していった。
心の距離が遠く離れていくことにも、気づかせないほどに。
……──だが、いつからか、そんな二人の世界に大きな変化が起きた。
固く強張った表情ばかりしていたイルティアが、花のように綻ぶ笑みを見せ始めたのだ。
外に出始め、忙しくなった彼女は、抱えていたものから解き放たれたかに思えた。
そうして流れる時の中で、もたらされた変化にザフラも喜び、多少の問題には目を瞑っていた。いずれまた、昔の二人に戻れると期待して。
けれど、本当は分かっていたのかもしれない。
その笑顔を取り戻したのが──やりがいでも、忙しい日々でも、況してや傍にいただけの自分でも……なかったことを。
「…………」
不意に、揺らいだ気配。
長い沈黙の後、ザフラが顔を上げると、目の前のイルティアは一瞬悲しげに瞼を伏せる。けれどすぐ、開けた瞳で真っ直ぐ彼を見つめた。
そして、大きく息を吸い込むと、吐き出す息に言葉を乗せた。
「私、貴方に……言わなきゃいけないことがあるの」
向けられたその瞳に、ザフラは困惑しながら、それでも問いかける。
「……何かな」
「私……」
躊躇いながら、しかしハッキリとした声で、彼女は告げた。
「罪を……犯したわ」
「……」
瞬間、ザフラが言葉を呑み込む。この場で出されたその言葉に、込められた意味が分からないほど鈍くはない。心当たりも、あった。
彼はわずかに逡巡し、けれど徐々に、掴んでいた手に力を込める。
鋭く瞳を細めて、低く抑えるような声で問いかけた。
「相手は、聞かなくても分かるね」
「……」
「……それは、君の意思なのかな」
「ええ……」
小さく答えた彼女は、絞り出すように続けた。
「私は、彼を……愛してる」
ギリッと奥歯を噛み締める。込み上げる怒りや悔しさは、抑えきれない。だがそれでも彼は、考えを改めるように、と言い聞かすように、出来るだけ静かに言葉を並べた。
「それは、彼の策に嵌まっただけじゃないかな。何度も言うけど、彼に必要だったのは君じゃない。君は騙されただけなんだ。だから、離縁なんてする必要ないよ」
思い直すべきだ、そんな強い思いを込めて、イルティアの瞳を見据える。直後、彼女の瞳が揺れた気がした。わずかな期待が芽生える。
しかし、彼女から戻ってきたその返答は、望む内容ではなかった。
「たとえそうだとしても、私は構わない。彼とのことは、一時のことだもの。私がここから出ることは変わらないわ」
「っ!」
いまだ彼女の意志は揺るがない。ザフラは、しばらく見つめたあと、小さく呟いた。
「……そう」
その一言を、理解し受け入れてくれたのだと解釈したイルティアが、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ごめんなさい、ザフラ。謝って済む問題じゃないのは分かってる。でもね、私……!?」
だが彼は、最後まで聞くことなく、彼女をソファに押し付けるように押し倒した。
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