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前書き

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 夜の街はもはや闇ではない。車は通り、街灯、ビル、シアターの光。そして溢れる人々。
 今の夜は若者からサラリーマンが歩き回り、各々は自らの欲求を満たすためさまざまな店に入り、食うやら、買うやら、歌うやらを行っている。夜は明るく、人が溢れる時間帯。よもやそんな考えが人々には根付いていた。


 そのためとある町のこの局所的に発展し、娯楽や飲食店に侵食されているこのエリア内は、夜になると急激に人々が集まり、まるで祭りのような賑わいを見せる。エリアから一歩出れば夜本来の静寂というのに。しかし、静寂に虫の音があるように、エリア外、しかも一歩外れた場所に一軒、ぽつんとたつ店。夜の色と同化してわかりにくいが、モダンな小洒落た雰囲気が漂う構えを見せている。
 中に入るとそこは、黒と白のタイル床、赤と黒の不規則なレンガに、大人な空気を作るジャズ音楽。そう、ここはバーだった。長いカウンターに丸い高椅子が等間隔で置かれている。カウンターの中側にはさまざまな酒が綺麗に並べられている。そこでワイングラスを一人で黙々と磨く男と燕尾服でブラブラとうろつき客を待つ男。どうやら従業員はこの二人だけのようだ。
 
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