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第7章 新たな進化

13話 ヒロトシの店

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 騎士団隊長は、目の前の事が信じられなかった。まさか、ヒロトシが聖都に店をすでに構えていたからだ。
 この事実を早く知らせないと、とんでもない事が聖都で起こる予感がした。

「し、失礼します」

「どうしたのですか?ダンガ隊長騒々しいですよ」

「申し訳ありません!ウララ司教お伝えしたい事があります」

「何かあったのですか?」

「はい!聖都リュートにヒロトシ様がお店を構えています」

「はっ?」

 ウララ司教は、目が点になって羽ペンを落としてしまった。

「ヒロトシ様というのは、大聖堂の改装工事を見送らせたミトンの町のヒロトシですか?」

「はい!」

「何を馬鹿なことを!聖教国に訪れる人間は全て把握しています。船の乗船名簿には名前はなかったはずですよ」

「しかし、わたしはこの目でしっかり確認をしました」

「他人の空似でしょ?それに、店を構えていると言いましたね?ヒロトシに工事の断りを入れて、まだそんなに日にちも経っていないのですよ」

「本当なのです。ウララ司教も噂を聞いているはずです。通常価格のポーション屋、あの店がヒロトシ様の店です」

 それを聞き、ウララは椅子から立ち上がった。

「教会本部でも、問題視されているあの店の店主がヒロトシですって!」

「はい!確かにこの目で!」

 教会本部では、スティーブとつながり高額な薬草の売り上げの一部を、お布施としていただいていたのだ。
 教会は、あの店が出来たことで薬草が売れなくなり焦っていた。ギルドに聞いても店主の名前を伏せられていたからだ。

「そんな馬鹿な!なんでヒロトシが聖教国に来る必要が・・・・・・改装工事もなくなったのですよ」

「わたしにも訳がわかりません」

「ですが、どうやって聖教国にきた?乗船名簿には名前はなかった。なのに・・・・・・まさか陸路できたのですか?」

「まさか陸路となると、あの海岸沿いの街道を使うことになります。魔の森が競りだす街道は聖騎士団でも無理です」

「それしか考えられません。しかし、このままでは聖教国が根底から覆されるおそれがあります。まず教皇様にこの事をお知らせせねば!」

 聖教国は、根底から腐っていた。薬草問屋と裏でつながりお布施と称し賄賂を求めていた。
 これはポーションだけでなく、病気をした場合薬師が治療する。薬師もまた、丸薬や熱冷ましの薬も高額な治療費を請求される。

 この治療費が払えず借金する人間もいるほど、とんでもない事になっていた。
 
「教皇様。いきなりの面通し、恐悦至極にございます」

「苦しゅうない!申してみよ」

 教皇の顔はやはりカーテンに遮られ、声しか聞けない状態だった。

「はい!本日、聖都にヒロトシの姿を確認。今、ちまたで人気のポーション屋がヒロトシの店だったもようです」

「あの店が?」

「スティーブが上手くやると言っておったがあれからなにか連絡は?」

「そ、それが、スティーブお抱えの用心棒は、ダンガ隊長に保護されたみたいです」

「保護されたとは?」

 ウララは、ダンガから聞いたことを説明し、スティーブは暴力でヒロトシのポーション屋に圧力をかけることにしたが返り討ちにあったと説明。
 用心棒は聖騎士に逮捕という名の保護されて治療中と報告された。

「スティーブめ!油断したようじゃな。もうよい。下がれ!」

「は、はい・・・・・・」

 ウララ司教は、教皇の言葉に逆らわず謁見の間を後にした。すると、外にはダンガ隊長がウララの帰りを待っていた。

「ウララ司教、教皇様はなんと?」

 教皇に謁見できるのは司教や司祭以上の神官の位にある人間だけである。ダンガ隊長は、教皇と会えたことはない。

「それが何もおっしゃられませんでした」

「何もですか?」

「たぶんですが、大司教様や大司祭様と協議されるのかもしれないですね」 

「そうですか」

 ウララもダンガも、これ以上は何もできなかったのだ。教皇をはじめ大幹部は、聖教国で今のシステムを作り上げた。ウララもダンガも、上司には絶対に逆らわないようにして、今の地位にのぼった人間である。
 逆らったら、一瞬にして今の地位を剥奪され、表舞台には立てないのはわかっていた。



 その頃、ヒロトシの店ではアイリーンがヒロトシに叱られていた。

「アイリーン、もうちょっと慎重にやれよ」

「申し訳ありません」

「ここは聖教国なんだ。奴隷の立場で、平民の腕を折ったらああなるのは当たり前だろ?」

「はい・・・・・・あたしも油断していました。いつものような感じになってしまって・・・・・・」

 アイリーンは、本当に反省しているようだ。

「やっぱり、結界を張った方がいいか?」

「待って下さい!そんなことをしなくともあたし達で警護させて下さい」

 聖教国では店舗には結界が張られていなかった。アイリーン達が腕をあげていたから大丈夫だと思ったからだ。
 手加減しても十分警備できると自信があったが、頭に血がのぼり相手の腕を折ってしまったのだ。

「だがな。もし、あれが神官だった場合どうなってたかわかるよな?」

「はい・・・・・・」

「俺は基本ミトンの町にいるからな。今回のようなことがあって、すぐに駆けつけられる事ができない場合もあるかもしれないんだぞ?」

「お願いいたします!もう一度チャンスを」

 アイリーンは、ヒロトシに必死に頼んでいた。

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