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第6章 研磨という職

21話 お茶問屋の崩壊

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 お茶を取り仕切る問屋の主人、ジョーイはミルス男爵の元へと走った。

「ミルス様大変でございます!」

「どうしたのですか?」

「サンライトが、この地では収穫できないお茶の販売を始めました!」

「はっ。そのような個人での販売がどうしたと言うのですか?そのような物、最初だけ珍しく人が集まるものです。それにお茶が無ければサンライトも営業は出来ないでしょう」

「そ、それが……サンライトには人が集まり、その珍しいお茶とドラゴン焼きの組み合わせが美味しいと人気に拍車をかけております」

「なんで、お茶がそんなにあるのですか?」

「それが私共にはさっぱりで……お茶の行商人がサンライトには行かないようにしているのですが……」

「それで、サンライトの方はいいです。行商人から買ったお茶の売り上げはどうなっているのですか?」

「それが他の飲食店のオーナーがサンライトから、お茶を購入し始めているのです……」

「そんなバカな事があるのですか?」

「事実です!そのお茶の値段も以前の値段で……お茶問屋のお茶はもういらないと……」

 ジョーイは行商人から安く大量入荷する為、行商人も元から安いお茶しか卸していなくて香りがほとんどしないお茶ばかりだった。
 そんなお茶を3倍の値で売っていたのだ。当然サンライトから売り出すお茶は香りも良く、王都に出回っているお茶より良いものなので、王都の飲食店のオーナーはサンライトに相談をしていた。

 ナミは、この事をヒロトシに相談すると、ヒロトシはミトンのお茶問屋にどれぐらいのお茶を用意できるか聞いたのだった。

「こういう訳で、王都の方に卸したいと思うんだが、どれほどのお茶を用意出来ますか?」

「えっ?ヒロトシ様が行商をするおつもりですか?それに王都ってここから半年はかかるんですよ?」

「いやいや……俺にはトラックがあるからな」

「あっ!確かにそうでしたね。急げば1週間以内に届けれるんでしたね」

「まあ、そういう事だ。お茶も悪くはならないし大丈夫だよ」

「それにしても、今や王都は大変な事になっているのですね……」

「まあな……」

「そう言う事でしたら、何の問題はございませんよ。今やミトンの町はビアンカのおかげで、収穫量はとんでもないものになっていますから、どこに卸そうか迷っていたぐらいなんです……あのままじゃきっと、廃棄処分されていたところでしょう」

 ビアンカのおかげで、今やミトンの町には食材が余るほどだった。ミトンの町も人口が増えてきたとはいえ、消費が追い付かない程色んな物が収穫される様になっていた。王都の様に人口が多ければ消費されるだろうが、このままでは廃棄されることになっていたのだった。

「相談なんだがいいか?」

「なんでございましょう?」

「その商品は廃棄されるんだろ?1割ほど安くできないか?」

「ヒロトシ様も抜け目ないですな……しかし、王都では3倍の値なんですよね?」

「いやいや、そんな値で売るつもりはないよ。ちゃんと正規の値で取引するつもりだ。俺の目的はあくまでも悪徳業者の撲滅だよ」

「な、なるほど……おみそれいたしました。そういう事なら、私共といたしましても協力させていただきます。どうせこのままでは廃棄処分されるので、私の方としても損害となるのですし……」

「ありがとうございます!」

「いやいや、ヒロトシ様、頭をお上げになってください。私共も1割引きとはいえそれほどの量をさばけるのです。感謝したいぐらいですよ」

「そう言ってくれると助かるよ」

 こうして、ヒロトシは王都へ送るお茶を確保したのだった。そして、そのお茶の葉は、ヒロトシのマジックバックに詰められ、次の日には王都へ卸される事になるだ。

 そして、そのお茶の葉はサンライトから販売される事になる。

「ナミさん、こんな良いお茶を本当にこの値段で売ってくれるのかい?」

「ええ!この事はオーナーのヒロトシ様の指示ですので大丈夫ですよ。ただし……」

「何か条件があるのかい?」

「サンライトからお茶が売り出したことを宣伝して欲しいのです」

「なんだ、そういうことか。びっくりさせないでくれよ。任せておいてください。まあ、私が宣伝するより広まるのは早いかと思いますよ」

「そうですか。それならよかったです」

「いやぁ……今のご時世こんないいお茶が、この値段で手に入るとは思わなかったよ」

 個人店のマスターは、お茶の葉を手に取り香りを嗅いで笑顔となった。このお茶のおかげで、飲食店の値段は元には戻らなかったが、少し下げれる事になった。まだまだ、飲食店は苦しい情況には変わりないが、お茶の値が下がっただけでも御の字と言えるのだ。

 すると、この事に焦ったジョーイがサンライトに乗り込んできたのだ。

「これはどういう事だ!」

「どういう事だと言われましても……このようにサンライトは繁盛しております」

「そうではない!お茶の販売はお茶問屋を通してもらわねば、うちは商売あがったりだ!」

「何を言っているのですか?お客を逃したのはそちらの落ち度ですよ。私共には関係ございません」

「なんだと!」

「お茶の卸売業者が結託をして、お茶の値段を意図的に釣り上げるだなんて酷い事を!」

「ぬぐぐぐ!それにしてもお茶は飲食店に売るには!」

「それは卸売業ですよね?うちは飲食店です。うちで使いきれないお茶を販売しているだけですので、文句を言われる筋合いはございません」

「そんな事が通じると思うのか!」

「現に、飲食店の皆様にはご足労をかけていただき、その日の分だけのお茶の葉を購入して頂いています」

「な、なんだと……」

「飲食店の皆様も、お茶が悪くならないとご好評ですよ」

「ぐぎぎぎぎ!」

 するとここで、サンライトに購入しに来ていた飲食店のオーナー達が声をあげたのだった。

「サンライトが譲ってくれるお茶の香りは素晴らしいものだ!」
「「「「「そうだ!そうだ!」」」」」
「あんたの所のお茶は香りがほとんどしないじゃないか」
「それをここの3倍の値で馬鹿にしているのか?」

「ぐっ……」

「いかがですか?これが世間の声ですよ」

 ジョーイは頭に血が上り、ナミに殴りかかろうとした。すると、ジョーイはサンライトの結界に反応してしまい、外に吹き飛ばされて向かいにある壁にたたきつけられてしまった。

「馬鹿ね……うちにはご主人様の結界があるのは、みんな知っている事なのに……」

 吹き飛ばされたジョーイを見て、お客さんや他の店のオーナーは気持ちがスッと晴れた気がした。そして、誰かが衛兵に通報したのか、衛兵が飛んできたのだった。

「馬鹿な奴だ……ヒロトシ様の店で騒ぎを起こすなんて……」

 衛兵は気絶しているジョーイを抱えて兵舎に連行してしまった。ジョーイは王国騎士達にお灸をすえられて釈放となった。

「ぬぐぐぐぐ!」

「ジョーイ、どうするのだ?このままではお茶組合は……」
「ああ……今ある在庫は我々が金を出し合って仕入れたものだ。その中にはミルス様から出資して頂いたものある」

「分かっている!このままでは我々は破産してしまう」

「破産する前にミルス様からどんなお叱りがあるか……」

「だが……このままでは本当に……」

 ジョーイ達お茶の卸売業者たちは、営業をし始めたのだった。値段は元に戻すからと、在庫のお茶を放出することにした。元の値に戻しても、行商人から購入していたので利益が出ると考えたのだった。

「頼みます!うちのお茶の購入をお考え下さい!」

「何をいまさら!今更営業をしても遅いですよ」

「そんな事言わず、値段は元に戻しますからどうかこの通りです」

 卸業者の人間が飲食店のオーナーに頭を下げ、少しでも多くのお茶の葉を購入してもらおうとした。

 しかし、卸売業者のお茶は振るいにかけて、一番下に落ちた等級のお茶の葉である。元の値に戻したと言ってもそれでも値が高いのである。

「この等級なら、元の値にしても高すぎるよ。精々3g4ゴールドだよ」

「そ、そんな!それではうちは……」

 今や立場が逆転してしまっていた。頭を下げても購入してもらえないのだ。それほどまでに、卸売業者はあこぎな商売をしていたのだった。すると、とうとう組合の中で言い争いが起こり始めた。

「ジョーイ!お主が絶対に儲かると言ったから話に乗ったのだぞ」
「そうだこの責任はどうとるつもりなのだ!」

「うるさい!まさかこんなことになろうとは誰も思わなかったではなかったではないか。それにお主達もそれに賛同したであろう!」

「だが、お主は絶対に儲かると言ったではないか!だから、わしらはお主に提案に乗ったのだ」
「そうだ!この責任は必ず取ってもらうからな!」

「はっ!責任などどうやって取らせると言うのだ?商売が失敗しただけではないか!」

「こうなれば、一蓮托生よ。ミルス様共々地獄に落としてやるわ!」
「そうだ!この計画はミルス様の提案だとして、ジョージと企てたと王国に報告してやるわ!」

「なんだと!」

「そいつは聞き捨てならないな!そんな事されたら私が破滅してしまう!」

「「「「「誰だ!」」」」」

 組合場で言い合っていた、卸売業者たちが声のする方を見ると、そこにはミルス男爵と護衛の私設兵団がいた。

「お主達にはここで消えてもらおう!」

「な、なんでですか?わたしは、いつも貴方の言いつけを守って来たではありませんか?裏切ろうとしたのはこやつらです!」

「ジョーイよ。お主の事を言ったのではない。他の奴等だよ!」

「「「「「そ、そんな!」」」」」

「ジョーイよ。お主には王都のお茶を一手に任せるから安心せい」

 ジョーイは、ミルスの言葉を聞き、安心した様子でミルスの方に駆けよった。その瞬間、私設兵団はジョーイを叩き切ったのだ。

「ぎゃああああああああああ!な、なんで……」

「くっくっくっく。お主達はワシの立場を守る為に生贄だ。安心してあの世に行け」

「そ、そんな……ぐふっ!」

 ジョーイは、ミルスの服を掴んで息絶えたのだった。

「お前達!あ奴らも殺ってしまえ!」

「「「「「はっ!」」」」」

 ミルスの私設兵団が、卸売業者たちに襲い掛かったが、私設兵団の剣が弾き飛ばされたのだった。

「「「「「なっ!」」」」」

「ミルス男爵!殺人容疑で逮捕する!」

 そこには王国騎士団団長が、騎士達を従え取り囲んでいた。

「なんでここに王国騎士団が!」

「馬鹿な奴よ!サンライトで騒ぎを起こしたばかりで、我らが放って置くわけがあるまい!ジョーイには気の毒な事をしたが、見張らせてもらっていたのだよ!」

 そう言っていたが、この情報はヒロトシがシアンに言って騎士団に流した情報だった。近いうちに組合で仲間割れが起きるので、そこに黒幕が現れるはずだとリークされていたのだった。そして、その通りになり王国騎士団がこの場所に突入したと言う訳だった。

「一人残らずひっ捕らえよ!」

「「「「「はっ!」」」」」

 私設兵団も強いが、王国騎士には敵わず一人残らず逮捕されてしまった。

「く、くっそおおお!放せ!我を誰だと思っておる!」

「やかましい!お前のような貴族がおるから王都は混乱となっているのだ!言い訳なら主君の前でせよ!」

「ぐっ……」

「お主達にはミストのやったことを証言してもらうぞ」

「「「「「申し訳ありませんでした!」」」」」

 そして、卸売業者たちの口から、ミルス男爵の罪が全部証言される事になりミルス男爵は処刑される事になった。卸売業者達は3年の禁固刑の後、商人の権利つまり、商人ギルドを5年追放となり5年間は店舗を持てなくなった。
 業者の罪が軽いとは思うかもしれないがそんな事はない。店が持てなくなったと言う事はどこかで雇って貰わないといけない。しかし、3年の禁固刑で商人ギルドを追放となった事は皆が知る所となり、王都では職場はまず見つからないからだ。それこそ王都から離れた片田舎の町、もしくは村でひっそり生活を送る事になる。

 こうして、又王都の貴族が一人いなくなったのだった。


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