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第6章 研磨という職

15話 薬草問屋逮捕される

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 クーパーは慌てて、エリオット子爵の元に走った。

「エリオット様!」

「なんだ?ここには来るなと言ったではないか?」

「そ、それが緊急事態です」

「緊急事態?なにがあったのだ?」

 エリオットと呼ばれた男性はまだ38歳という若さで子爵という官職についている貴族である。表向きはさわやかな貴族だが、裏にまわれば不正をし金を集め賄賂を送り、その地位にのぼりつめた貴族の一人だ。
 今回も、クーパーと組み、組合をつくらせた本人である。クーパーをそのリーダーに置き、薬草の値段を釣り上げさせ、他の地から入ってくる薬草類を一手に取引させていた。
 うるさく言う人間もいたが、そういう人間は裏からエリオットが動いていたのだ。そして、その薬草の値段を自由に釣り上げることで得た利益の一部をエリオットが受け取っていたのだ。

「そ、それが……ジェニファーの錬金屋が独自の販売ルートを確保して、以前の値段でポーションを大放出しましたしだいで……」

「なんだと!それで今までの薬草の価値は?」

「急激に下がっております」

「何をやっておったのだ!ジェニファーに薬草を持ち込んだ行商人はどこのだれかわかったのか?」

「そ、それが一向に……」

「分かったその行商人は私が何とかしよう!貴様はジェニファーをなんとかするのだ!」

「なんとかと言っても……ジェニファーの店は大きくあの店の販売網を使う事が……」

「ずっと私達に反抗していた店などもうよい!あの店がなくなれば、他の店しかポーションを買う場所は無くなるだろう!十分利益が出せるわ!」

「わ、わかりました」

 クーパーは早速、ジェニファーに圧力をかけたのだ。周りにあらぬ噂を流したりして、ジェニファーの店でポーションを買わない様にしたりした。

「おい!あの店でポーションを買うんじゃねえ」

「い、いや、俺達はあの店の値段じゃないと儲けが出ないんだ……」

 ごろつきを雇ったクーパーは、冒険初心者達に圧力をかけだした。

「知っているか?あの店の薬草はまがい物だ!そのうちお前の身体に副作用が出てもおかしくないんだぞ?」

「嘘でしょ?なんでそんな事が……」

「わかるよ。俺の知り合いがあのポーションを使ったからな。どうなったと思う?」

「どうなったのですか?」

「あの店のポーションを買わないと言うのなら教えてやるよ」

 こうして、素直に言う事を聞く冒険初心者達には笑顔で教えて、ある事ない事吹き込んでいった。そして、いう事を聞かない冒険者には暴力を振るい、ポーションでは治らない程の重傷を負わせたのだった。
 最後に、ジェニファーの店の従業員は夜道を襲われたりしたのだった。

「あんた達は何よ!」

「へっへっへっへ!お前はあのジェニファーの店で働いているんだよな?」

「それがなによ?」

「手紙を読んでいなかったのか?」

 従業員達のポストには脅迫状が届いていた。ジェニファーの店を辞めろと何通も届いていたのだ。

「あんた達が?」

「素直に聞いておけばよかったのに残念だな」

 大男は、従業員の女性にむかって、鉄の棒を大きく振りかぶり殴りかかった。

「きゃああああ!」

「な、なんだと?」

 大男が振りかぶった鉄の棒を、難なく受け止めた人間が、大男と女性の間に割り込み目の前に立っていた。

「あんた、こんなもので女性を襲うなんてどういう要件なんだい!」

「お前は!」

 大男の前に立ちはだかったのは、虎人族のウィノアだった。ウィノアはヒロトシの初期からの護衛メンバーの一人であり武闘家である。今や、魔の森を一人で捜索できるほどの腕を持ち、頼りになるメンバーの1人だ。

「あんたが、ジェニファーさんの店を邪魔をしている一味だね?」

「だったらどうした?お前共々潰してやらぁ!」

 大男は、鉄の棒を振り上げようとした。

「な、なんだと?」

「ほら、どうしたんだい?振りかぶらないとあたしを殴れないだろ?」

「ふっ!ぐっ!ぬがあああああああ!」

 ウィノアは大男に比べると全然華奢な女性である。しかし、大男は鉄の棒を掴まれて、うんともすんとも動かす事が出来なかった。

「しょうがないねぇ……じゃあ、3本指でならどうだい?」

 ウィノアは、親指と人差し指と中指だけで鉄の棒を掴んで見せた。

「舐めやがって!」

 しかし、それでも鉄の棒はピクリとも動かせなかった。

「なんだい?大の男があたしみたいな女に力負けするのかい?しょうがないねえ……」

 ウィノアは親指と人差し指で鉄の棒をつまんで見せた。それでも、大男はウィノアから鉄の棒を奪い返す事が出来なかった。

「く、くそおおおおおおお!どうなってやがる!」

 それを見ていた従業員の女性は、何がどうなっているのか信じられずポカンと呆けていた。

「サービスタイムは終わりだね」

「何がサービスタイムだ!」 

 ウィノアはそう言って、大男の鉄の棒を掴み直し鉄の棒を振り上げた。すると、大男は空高く舞い上がったのだ。

「う、うわあああああああああ!」

 体重100kgオーバーのその体が放り投げられたのだ。大男は絶叫にも似た声で叫んだ。そして、地面に叩きつけられその場で呻き声をあげて苦しんだ。
 地面にたたきつけられた時、肺にある空気が全て出た感じで、その場でのたうち回っていたのだ。

「空の旅はどうだった?」

 ウィノアは大男を見下しニヤリと笑った。

「き、貴様……げほっげほっ!俺のこんな事をして……」

「どうなるかって?安心しな!お前は逮捕され、クーパーも逮捕されるさ!」

「ぐはっ!」

 ウィノアは、大男の腹をけり気絶させてしまった。

「あんた大丈夫かい?」

「えっ?えぇ……助かりました。本当にありがとうございます」

 従業員の女性はウィノアにお礼を言った。

「今から帰るとこだったんだろ?こいつを兵舎に持っていくから、殺されかけた事を説明してくれるかい?」

「は、はい!」

 そう話していたところに、衛兵が飛んできた。誰かが通報したのだろう。

「大丈夫か?」

「あっ、はい!あたしはこの方に助けられて大丈夫です」

「そうか。それは何よりだ!君は冒険者なのか?」

「あたしはご主人様の命で、この男を見張っていたんだ」

「ご主人様の命って、君は奴隷なのか?君の主人は?」

「ヒロトシ様だ!」

「ヒロトシ様って、ヒロトシ男爵様なのか?」

「そうだよ。そして、この男はクーパーの雇われ用心棒さ」

「クーパーとは、薬草組合の長の事かい?」

「そうそう!ご主人様は確かそんなことをいっていたかな?あたしは詳しい事は分からないから、そいつを尋問してくれたらわかるよ」

「そ、そうか……」

「それと……」

「まだ何かあるのか?」

「多分こういう奴が、何人か兵舎に届けられるかと……」

「どういう事だ?」

「このお姉さんはジェニファー錬金屋の従業員で、他の従業員も狙われているからだよ。多分今頃はあたしの仲間が捕らえていると思うよ」

「それは本当か?」

「まあ、とにかくこの大男の事をよろしくお願いします」

「わ、分かった……」

 衛兵達はウィノアに言われて、この大男を拘束して兵舎まで運んだのだった。すると、ウィノアの言った通り、カノンやミランダが兵舎に同じようなごろつきを運び入れたのだった。そして、次々運び込まれてくるごろつき達。尋問すると、全員がクーパーの手先だと言う事が分かり、衛兵達はクーパーの薬草屋に踏み込んだのだった。

「クーパー!お主にジェニファー錬金屋に恐喝および殺人容疑が判明した。逮捕する!」

「何故、私が逮捕をされなくては!」

「黙れ証拠は挙がっておる!グカンやファオースの名に聞き覚えがあるだろう!お主が雇った男達だ!」

「あいつらめ、しくったと言うのか?」

 クーパーはその場で取り押さえられ、兵舎に連行されてしまったのだった。


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