上 下
203 / 347
第6章 研磨という職

2話 商品は誰が使うもの?

しおりを挟む
 日々忙しくしている中、やはり生産ギルドのアリベスから、㋪美研の新商品状況はどうなっているか聞いてきた。

「オイオイ……そんな事言えるわけないだろ?」

「ですが、㋪美研の新作はシルフォード様も待ち望んでいるんですよ?」

「それは分かるが……しかし、企画段階で外に漏らすわけないじゃないか」

「だけど、シルフォード様に約束してましたよね?」

「それとこれは意味が違うだろ?それに、生産ギルドでも新商品を販売して見たらどうだ?」

「そ、それは……それが出来たのなら㋪美研へ来ていませんよ」

「新商品の開発は難しいって、ちゃんと理解しているじゃないか?」

「うっ……でも、ヒロトシ様はいつも新商品で世間を驚かしているではありませんか?」

「だから、今回もすぐに新商品が開発されると言いたいのか?」

「それは……」

「アリベスさんの気持ちも分からない訳ではないが、0から1を生み出す事は、やはりそれなりの時間がかかるんだよ」

「はい……」

「まだ納得がいかない感じか?」

「それでもヒロトシ様なら……」

「なら、生産ギルドも俺の得になる何かを生み出してくれ」

「何でいきなりそのような事を!」

「いやいや、生産ギルドが俺にやっていることを、俺も要求しただけだよ?俺達の関係は持ちつ持たれつだろ?俺が新商品を考えたら、生産ギルドは利益が生むだろ?だったら俺にも、生産ギルドから新しいもので得になる何かを求めても罰は当たらんだろ?」

「そ、それは……だったら、新商品の売り上げの取り分を……」

「いやいや、そういうんじゃなく!生産ギルドが何かを開発し、町の人達の生活がよくなり、その影響下で俺に得になる事だよ」

「どういうことですか?」

「つまり、俺が商品開発するのはシルフォード様や生産ギルドの為じゃないと言う事だよ。あくまでも、ミトンの町に住む人間が幸せになることで、俺はその結果で皆様からお金を頂いていると言う事だよ」

「えーっと……」

「分からないかい?研磨技術は冒険者が強くなることで生活が楽になったり、サンライトのスイーツは、町の人間が日々の疲れを癒すためにある事が前提だ。鏡にしたって女性が綺麗になる為の物だろ?それに納得してお金を払っているんだよ」

「はい……」

「だから、生産ギルドはミトンの町の人間が、その商品を購入しても損はないという物を開発してくれ」

「そんなの無理ですよ!」

「なんでだよ?その商品がいいものなら俺も購入するからさ。これは俺が購入して得したな!という物を開発してくれ」

「そ、それは……」

「そうなれば生産ギルドも俺を頼らなくても独自の商品ができるし、町の復興にも役に立てるというものだろ?」

「うっ……」

「いいか?よく考えてくれよ。今、町の復興で大変な時期だ。生産ギルドは、生産者を管理するだけが仕事だと考えていたらダメなんだよ」

「なんでですか?今まで通りでいいじゃないですか?」

「前の地震で、町の人間の財布のひもが固くなっているだろ?」

「当然です。町の人間達も生活に不安がありますからね」

「だが、あんた達町の役員は、町の復興のためにみんなに金を使って貰わなきゃいけないんだろ?」

「はい……」

「それで、今まで通りでいいじゃないですかというのは間違っているだろ?」

「うっ……」

「生産ギルドが、こんなに㋪美研に急かしてくるという事は、他の店の売り上げが出てないと言う事なんだろ?」

「はい……」

「その理由は?俺が言うまでもないだろ?」

「……」

「つまりだ。それだけ町の人間達はそれら商品に魅力を感じていないからだよ。震災前なら少しは生活に余裕があったから、余分に購入していたが今は生活に不安があるから、本当に必要な分にしか町の人間は金を出さないということだよ」

「うぐっ」

「俺もそうだよ?金に余裕はあるがそんな殿様営業しているところから、物を購入することはしないさ。だけど、これを購入したら生活が楽になると思わせる商品が、生産ギルドから出たなら間違いなく購入するよ」

「だけど、ヒット商品がそんな簡単に……」

 興奮して言いかけた言葉を、アリベスは慌てて飲み込んだが、ヒロトシがそれを見逃す事は無かった。

「だよな?そんな簡単にヒット商品が出来るわけなない!アリベスさんもわかっているじゃないか?」

「うううう……」

 ヒロトシはしてやったりとニヤリと微笑んだ。

「じゃあ、申し訳ないがこういうやり取りは不毛という事でお引き取り願います」

「又、きます……」

 アリベスは、肩を落として生産ギルドへと帰っていった。そのアリベスの姿を見てヒロトシは苦笑いをした。そして、研磨工房に戻り作業を再開したのだった。

「主どうでした?」

「ああ、アリベスさんがまた急かして来ただけだよ」

「やっぱりですかい?」

「まあ、そんな言ってやるな。ギルドも今回の震災で何をしていいのかよくわからないだけだよ。だったら㋪美研を頼るのが手っ取り早いだろ?」

「ホント、主は人がいいなあ。どうせ、ギルドにアドバイスもしたんだろ?」

「まあな……だけど期待は出来そうにないよ」

「だろうな」

「まあ、でもシャーロットからヒントも貰えたし新しい商品を作ろうと思うよ」

「なんだかんだ言っても、凄い商品を作ってしまうのが主の凄いとこだよな……」

 ガインは、呆れながらヒロトシに言った。ヒロトシは人ごとのように、ガインの言葉を笑っていた。





 数日後、ヒロトシはガラスを作れる人間に、分厚い円形のガラスを作ってもらった。

「主、マードンに何を作らせたんだ?」

「これだよ?」

「こんな分厚い円形のガラス何をするんだ?」

「こいつを綺麗に磨き上げて眼鏡を作るんだよ」

「眼鏡って何だ?」

「要はよく見えるようにする道具かな」

「ルーペみたいな物か?」

「まあ、そうだな。常時つけていれるようにできるかな」

「へええ……こりゃまた凄いものだな」

「これで老人も本が楽に読めると思うよ」

「もしこれが売り出されたら老人は喜ぶだろうな」

「まあな。目がよく見れれば行動範囲も広がるだろうし、裁縫もやりやすくなるだろうしな」

 町の老婦人なら、昔は裁縫師としてその腕を振るっていた。しかし、目が悪くなりその職を引退する人が多い。目さえ良くなれば、老人も趣味の範囲でも収入が得る事ができるのだ。

 ヒロトシは、見本となるレンズをいくつも磨き上げた。そして、一ヶ月後眼鏡の見本を置き、老人用として販売を開始したのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

本条蒼依
ファンタジー
主人公 山道賢治(やまみちけんじ)の通う学校で虐めが横行 そのいじめを止めようと口を出した瞬間反対に殴られ、後頭部を打ち 死亡。そして地球の女神に呼ばれもう一つの地球(ガイアース)剣と魔法の世界 異世界転移し異世界で自由に楽しく生きる物語。 ゆっくり楽しんで書いていけるといいなあとおもっています。 更新はとりあえず毎日PM8時で月曜日に時々休暇とさせてもおうと思っています。 星マークがついている話はエッチな話になっているので苦手な方は注意してくださいね。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...