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第5章 意外なスキル

23話 呆気ない盗賊達

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 ベックが死んだと商人ギルドから報告されたヒロトシはやるせない気持ちとなっていたがどうしようも無かった。
商人ギルドパルラン支部では、ベックが欲にかられてとんでもない行商をしたと非難を受けていた。これは、護衛を請け負った冒険者たち6人が犠牲となったからである。

 オサム率いるパーティーの男性4人は惨殺されて、女性2名は盗賊に連れ去られたとみてよかった。サキとジュリは今頃どんな目に遭っているのか、想像したらいたたまれなかったのだ。

「お姉ちゃんを返してよ!」

 ベックの家の前で泣きながら訴えていたのは、サキの妹であるシャーロットだった。ベックの奥さんはただ謝罪して頭を下げるしかなった。

「しゅ、主人が本当にごめんなさい……」

「な、なんで!あんな無茶な事をしたのよ!」

 シャーロットは、ベックの奥さんに怒りをぶつけるしかなかったのだ。こんな事をしても姉であるサキが帰ってこないのは分かっていたが、自分でも感情のコントロールができなかったのだ。

「貴方に慰謝料を請求します!」

「そ、そんな!確かに旦那のやった事は許せない事でしょうが、わたし達に請求だなんて……」

「無茶な行商をして、良い生活をしていたのでしょう?私の姉は私の治療費を稼ぐために、いつも頑張ってくれていた。私はそんな姉にいつも申し訳なく思っていて、ようやく姉は私の治療費が終わる目処がつき、もうすぐ自分の為に生活が出来たというのに!あんた達のせいで!」

 シャーロットはその場に泣き崩れてしまった。




 その頃、サキとジュリは盗賊に囚われて地獄のような生活を送っていた。

「親方!あの女はもうだめだな……」

「お前達又無茶な事をしたんだろ?」

「何を言ってんです!親方が一番無茶をしたんだですよ」

「そ、そうか……そいつは悪かったな。しゃあねえ!」

 盗賊はサキ達を、奴隷商に売ってしまうつもりだった。

 その頃ヒロトシは、ベックを殺した盗賊の事を調べるようにと、冒険者ギルドに依頼を出していた。

「ヒロトシ様。この依頼はどういう事ですか?」

「まあ、今回の事はベックが欲にかられての事だったが、これからミトンの町には赤豆が輸送されてくるだろ?」

「まあ、そうですね……」

「だったら、その盗賊達は邪魔だろ?」

「それはそうですが……ベックが死んでいた場所から考えるに、ミトンの町からだいぶん遠いですよ?」

「わかっているよ。だいたい普通に移動すれば、馬車で15日ほどの距離だろ?」

 ベックはあまりに赤豆を積載し、15日の距離を30日かけて進んでいた。これでは盗賊に襲ってくださいと言っているようなもので、本来ならベックはこんな事をする行商人ではなく、今回の儲け話に冷静な判断が出来ていなかったみたいだ。

「それはそうですが……情報だけでいいのですか?」

「ああ!構わない。出来るだけ早く居所を掴んでほしい」

「分かりました。依頼料をはずめば、それに特化した一流の冒険者が依頼を受けてくれると思いますがどういたしますか?」

「じゃあ、1週間で100万ゴールドを出す」

「はぁあ?100万ゴールド⁉10万ゴールドじゃなく100万?」

「足りないか?」

「いえいえ、十分すぎますよ。これなら超一流の冒険者が受けてくれるはずです」

「じゃあ、頼んだぞ」

「承知しました」

 ヒロトシは、ギルドに依頼を出し屋敷に帰った。今回わざと冒険者ギルドを使ったのだ。

 屋敷に帰ると、詰め寄ってきたのは当然シアンとセレンの二人だ。ギルドに頼まなくとも、元闇ギルド最強の諜報部隊員である二人に調査させれば一発でわかる事だからだ。

「「ご主人様!」」
「一体どういうことですか?」
「何で私達でなくギルドに調査依頼なんか出すのですか?」
「私達がそんなに頼りないですか?」
「そうですよ!闇ギルドは離れましたが腕は落ちていません」

「待て待て。今回はわざとギルドに依頼を出したんだ」

「「わざと?」」

「ああ……商人ギルドから疑われたのは知っているな?」

「ええ。ご主人様が、ベックにわざと無理な行商をさせたということでしたね」
「馬鹿な事を!ご主人様がそんなことするはずないのは、日頃からの行動で分かりそうなものを!」
「しかし、その疑いは晴れたのですよね?」

「表向きはな。やっぱり全体を見たらまだ疑っている人間はいるよ」

「どういう事ですか?」

「㋪美研はサンライトと二つの店をやっていて、次々ヒット商品を出しているよな?」

「「ご主人様の実力です」」

「ありがとな。だがそう言ってくれるのは仲間内だけだよ。外部の人間はそう思う人間は少ないって事だ。僻み妬みはやっぱりあるからな。ここで俺達だけで事件を解決したらどうなるか一目瞭然だろ?」

「つまり事件が表になる前に、自分達だけで解決して隠ぺいしたと?」

「そういうことだ!情報だけでも依頼したら、俺達に罪はないと言う事が外にわかるだろ?」

「「なるほど……」」

「こういう時は、ギルドを最大限に利用した方がいいんだよ。お前達には悪いとは思ったが今回は我慢してくれ」

「「そういう事でしたか」」
「私達が悪かったです。申し訳ございません」
「ごめんなさい……」

「謝らなくてもいいよ。自分達の仕事に誇りを持っている証拠だ」

「「ありがとうございます」」
「その代わりに……」

「ああ!わかっているよ。ギルドから情報が入ったら、お前たち二人にも一緒に来てもらうからな。準備しとけよ」

「「はい!」」

 それから、三日もせず情報がヒロトシに報告され、セレンとシアンの3人で出発することになった。トラックで向かったヒロトシ達は、盗賊達に逃げる準備もさせず盗賊のアジトに到着した。

「シアン、セレン準備はいいか?」

「「はい!」」
「我々に濡れ衣を着せた恨みを果たしてやりましょう」
「絶対にゆるさない」

 盗賊達のアジトは洞窟にあった。当然、出入り口には大勢の盗賊達が見張りがいたが、ヒロトシは、有無も言わさず出入り口にいた盗賊に向かって【ファイヤーボール】を撃ちこんだ。

 ものすごい衝撃と熱風に盗賊達は何事かと思ったほどだった。外から絶叫が聞こえてきて、出入り口付近から熱風が吹き込んだからだ。

「「「「「「ぎゃああああ!」」」」」」

 外にいた盗賊はファイヤーボールで瞬殺され、それと同時にシアンとセレンが洞窟に潜入した。

「て、敵襲!」

 出入口にいた盗賊は敵襲と叫び、警笛を鳴らしたのだ。すると洞窟の中からワラワラと盗賊が出てきて、シアンとセレンに襲い掛かってきた。

「女二人で乗り込むとは恐れ入ったわ!」
「後悔しろ!」
「ひゃっはぁ~~~~~!」

「馬鹿な奴等ね!わたし達に敵うはずないでしょ?」

 セレンは冷ややかな笑みを浮かべて、大鎌を構え襲ってくる盗賊達を薙ぎ払った。

「「「「「「ぎゃああああ!」」」」」」

 盗賊達は、セレンに近づく事さえできなくて、胴体を真っ二つにされていく。

「ど、どういう事だ……一歩も近づけねぇ……」

「当たり前でしょ?あの子の通り名は首狩りよ」

「なっ!何でそんな奴が俺達を襲うんだよ……痛っぐっががががががが!」

 シアンに少し傷をつけられると、その盗賊は泡を吹いて絶命した。

 セレンが大きな鎌で盗賊達を真っ二つにしていき、遠くにいる奴らは、シアンがあり得ないスピードで移動していき、かすり傷をつけていく。そして、洞窟内はこの世の地獄と化していた。

「これはどういうことでぃ!」

 ようやく騒ぎに気づいた盗賊の親分が騒がしい入口に顔を見せた。逃げようとしたり、奥の部屋に行こうとした盗賊は全てシアンが毒殺し、この場から逃げれない様にしていた。

「やっと!黒幕の登場ね」
「貴方はもう終わり……覚悟しなさい!」

「てめえら!何をしたかわかってんのか!」

 この惨状に盗賊の親方は顔を真っ赤にして怒鳴ったのだ。

「何を怒っているのかよくわからんな?お前達は好き勝手生きてきたそのツケが今戻って来ただけなんだよ」

「ガキが!知った風な事を言ってんじゃねぇ!」

 盗賊の親方は、ヒロトシがいきなり会話に入ってきてむかっ腹がたった。たった3人に、ここまでやられてしまったのだ。

「お前達はここで死んでもらう!」

「ご主人様!ちょっと待って。こんな奴に、ご主人様の手を煩わせなくても私達で十分です」

 ヒロトシが魔法を飛ばす前に、シアンが親分の首を切ってしまった。

「あああ!シアン狡い!とどめを刺すのは私だったのに!」

「ふふっ。こういうのは早い者勝ちだわ」

「女ぁ!何勝手に……しゃ……ガガがガガがガガ……」

 シアンに首を傷つけられて親分は、そのまま死んでしまった。

「「「「「親方がやられちまった……」」」」」

「貴方達、どうしますか?抵抗して殺されるか?」
「それとも生きて鉱山送り、どちらにしますか?」

「俺何もしてないな……」

 生き残った数少ない盗賊達は、両手を上げて降参してしまった。そして、シアンとセレンは意気消沈した盗賊達を素巻きにしてしまった。

「「ご主人様は何もしなくてもいいですよ。こういう汚れ仕事はあたし達でやります」」

 地下牢に行くと、誘拐された人間が囚われていて、生気を失った状態で見つかった。

「クソ……あいつ等盗賊は本当にろくでもない人間ばかりだな……」

 牢屋に囚われていた人間全員奴隷に落とされていた。先ほどの盗賊の中に奴隷商人がいて、後は悪徳商人に売りに行くだけだったようだ。その中には、ベックの護衛を務めていたサキとジュリの姿もあった。

「君達はベックの護衛を務めていた人だよね?」

 前にベックと一緒に、㋪美研に来ていたのを覚えていたヒロトシは、サキとジュリに声をかけたが、あまりに酷い仕打ちをされたのだろう。2人はヒロトシの声に反応はしなかった。この反応は二人だけではなく、牢屋に入れられていた10人も同じだった。

 ヒロトシは、奴隷に落とされた12人全て保護し、ミトンの町へと連れて帰る事にした。




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