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第5章 意外なスキル

22話 赤豆料理が流行る

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 ミトンの町では、ベックがもう一度赤豆を入荷させたことで、ドラゴン焼きの販売が又期間限定で販売された。2度目の事になると、この情報を察知した行商人が赤豆の事を調べだすのは当たり前の事だった。
 ミトンの町に赤豆を持ってくれば儲けれると笑顔となったのだ。こうなると行商人達の行動は早かった。赤豆の産地は南の気温の高い地域で栽培されていて、硬くて磨り潰すしか調理法が無い為生産数が少ないと言う事だった。
 しかし、行商人は独自の販売ルートを確保し、ミトンの町に売込みをしはじめた。

「何で勝ってくれねえんだよ?」

「申し訳ないが……ドラゴン焼きの材料とは知っているが、あれはサンライトでしか作れない物なんだよ」

「それってどういう事だ?」

「ドラゴン焼きには砂糖がいる。砂糖の販売ルートはヒロトシ様だけのものだ。それに俺達には、その豆の使い方を知らないし、あんなに柔らかくする方法も知らないんだ。だから、売り込むなら㋪美研に行ってほしい」

「そういう事か?それにしても本当にいいのか?これで新しい料理を考えなくても?」

「ああ、そうしてくれ!この町の赤豆が常時入荷したら、俺達もドラゴン焼きが普通に食えるからな」

「そうか!大将ありがとよ。㋪美研に行ってくるよ」

「ああ!しっかり儲けてきな」

 行商人達は、赤豆はミトンの町で流行っていると思い、色んな調理法があると思い込んでいた。しかし実際使っていたのはサンライトだけで、他の店に売り込めば高く買い取ってくれると思い込んでいた。
 その中でも自分で営業せず、確実に買い取ってくれる生産ギルドに売り込みをしている行商人も数多くいた。

「ちょ、ちょっと待ってください!こんなに赤豆ばかり持ってこられても、いくらなんでもその値段では買い取る事が出来ません……」

 ギルドも商売である。一気に使い道のない赤豆ばかり持ち込まれても困るのだ。

 各行商人からは1人多くても100kgの赤豆が集まってきて、その量1t近くになると、ギルドが売り込むのは㋪美研だけとなる。いくらなんでもサンライトが買い取ってくれるわけがないので、廃棄処分となったらギルドが損することになる。

「なんでだよ?ギルドは直接売り込むより安いが、確実に買い取ってくれるんじゃないのかよ?」

「それは時と場合に寄ります。こんなに買い取っても売る場所が無いのです」

「はぁあ?」

「もし、皆様がこれを買い取れと申されるのなら、タダ同然の値段になりますが、それでもよろしいのですか?」

「それは困る!そんな事をすれば、俺達は大赤字だ」

「しかし、それはわたし達ギルドも同じ事です。こんな大量の赤豆を在庫に持つとギルドが大赤字となるんです」

 生産ギルドと行商人達が、交渉で揉めている中、ギルドにヒロトシがやってきたのだ。

「やっぱりこっちもこんな状況だったか……」

「ヒロトシ様!」

 ヒロトシの姿に、受付嬢のエリスが大声を出して助けを求めた。

「エリスさん。大丈夫か?」

「大丈夫ではないです……赤豆はヒロトシ様の所しか使えないのに、ギルドで全部買い取れと無茶な事を言うのですよ」

「まあ、でもギルドではそれを看板に、今まで安く仕入れて儲けてきたじゃないか?」

 その言葉に行商人達も賛同し、今までの事を覆すなと文句を言った。

「しかしですね……1tもの赤豆を買って、ヒロトシ様は購入してくれるのですか?」

「いや、俺の所にも個別で売りに来た行商人がいたから無理だな」

「だったら、うちだって無理に決まっているじゃないですか?」

「だけど今まで、買い取ってきていたじゃないか?」

「そ、それは……」

 それを後ろで聞いていた副ギルドマスターのアリベスが割って入ってきた。

「いいでしょう!ヒロトシ様の言う通り、行商人の言値では無理ですが、出来るだけ損が出ない値段で買い取らせてもらいます」

「副ギルドマスター!いくら何でも1tもの量を買い取ってどうすると言うのですか?責任が取れるのですか?」

「ええ!私が責任をとります」

「いやいやいや!副ギルドマスター。自分で何を言っているのかわかっているのですか?」

「大丈夫です!」

 副ギルドマスターは、3割ほど安い値段で赤豆を全て買い取ってしまい、行商人達は利益が出たと思い笑顔で帰っていった。

「それで、ヒロトシ様。これで良かったのですよね?」

 アリベスの言葉に、エリスを始め受付嬢達が目を見開き驚いたのだった。

「さすが、アリベスさんだ。俺の意図するところを読めたようだね」

「貴方とはそろそろ長い付き合いになりますからね。ギルドはこれで損することはないでしょうね」

「さすがだね」

「それでどういう意図があったのですか?」

 二人の会話に受付嬢達は呆けていた。

「赤豆を柔らかくする方法を教えるよ」

「なんですって!それは本当ですか?」

「ああ!構わないよ。それをギルドがミトンの町に広めてくれたらいいよ」

「ですが、砂糖のない他のとこでドラゴン焼きは作れないですよね?」

「エリスさん、赤豆はドラゴン焼きだけじゃないよ。料理人がそれを使って新しい料理を作ったらいいだけだよ。要は柔らかくする方法が分からないだけだろ?」

「な、なるほど……」

「これでギルドに売りに来る行商人達には悪いが、当分の間3割引きで買い取れギルドは儲けれるはずだよ」

「さすがヒロトシ様。まさか柔らかくする方法を教えてくれるなんて」

「いつもそう思って貰ったら困るけどな。今は町の復興の事もあるから特別だと思ってくれ!」

「分かりました……その心遣い感謝します」

 アリベスと受付嬢は、ヒロトシに感謝をして頭を深々と下げた。そして、ギルドはヒロトシに赤豆の柔らかくする方法を教えてもらい、赤豆の料理を考えてくれる料理人に声をかけた。
 すると、ミトンの町の料理人たちは新しいレシピを考案したいと言って、赤豆を続々と購入していくのだった。これにより、ミトンの町には色んな料理に赤豆が使われるようになった。

「どうだい?赤豆パンだよ!」

「こっちはミートボールに赤豆をいれた料理だ!」

 赤豆パンは、塩のきいたパンで大人気商品の一つとなった。酒場でも赤豆とカボチャの煮つけなど色んな料理が開発された。赤豆を煮つける方法はこのようにカボチャやジャガイモなど色んな料理にも対応させ、料理の幅が広がったのだ。
 当然、行商人達もこの空前のヒットに飛びつかないわけにはいかなかった。今まで硬くて家畜のえさだと思っていたものが、美味しく食せるのだ。安く仕入れて、ミトンの町で売れば大儲けできると大盛り上がりだった。



 そんな中、ヒロトシは気になる事が一つあった。ベックの存在だ。あれだけ意気揚々と帰っていったのに、いつまでたってもミトンの町に姿を現さなかったのだ。

「旦那様?」

「あ、いやなんでもない?」

「何でもないと言う事はないでしょ?ボーっとして何かあったのですか?」

「いや……ベックがミトンの町に来ないなと思ってな……」

「確かに……あの感じなら、すぐにでも折り返してきそうでしたものですね」

「ああ……何かあったんじゃないかな?」

「そうですね……何かあればギルドに連絡がありそうですが……」

 ヒロトシの嫌な予感は当たっていたのだ。行商人の一人が大量の赤豆を積んだ馬車を見つけ、冒険者4人と一緒に死んでいたベックを発見した。
 当然だが、その行商人はベックのギルドカードを、ミトンの町に届けた。これは、パルランの町に運ばれてもおかしくなかったのだが拾った行商人がミトンの町に行く途中だったので、ミトンの町のギルドに提出されたというわけだ。

「あの、ヒロトシ様に少し緊急の用事があるのでよろしいですか?」

「緊急ですか?少々お待ちください」

 マインは、商人ギルドからの連絡をヒロトシに報せた。その商人ギルドの人間は客室に案内され、ヒロトシにベックの詳細を聞いた。

「なるほど……あれほど無茶をするなと言っておいたのに」

「はい。赤豆をマジックバックに入れて運んでいたのでしょう。盗賊達に襲われ馬車には詰み切れない程の赤豆が放置されていて、豆は全部腐っていたようです」

 盗賊達の襲われたというのは、ギルドカードで分かりマジックバックが盗まれたといのは、盗賊達が赤豆を馬車に全部放置したからだ。
 マジックバックが無いとあの量は馬一頭では運べないと判断したそうだ。そして、商人ギルドがわざわざヒロトシに説明をしに来た理由は、初めて赤豆を行商してサンライトからドラゴン焼きが販売され、今回大量の赤豆をヒロトシが運ばせたのではないと言う疑惑が上がったのだ。

 しかし、ヒロトシは他の行商人とも取引をしていて、ベックに無茶な事を言ったのではないと判明した。つまり、ベックが欲を出して自分で無茶な旅をしたと分かったのだ。

「そうですか?ヒロトシ様がそんな無茶な事を言うお人ではないと思っていましたが、やはりベックが暴走したようですね」

 やっぱり欲張るとろくなことはないと、ヒロトシは思いなおしたのだった。


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