上 下
183 / 347
第5章 意外なスキル

20話 ヒロトシの忠告

しおりを挟む
 サンライトでは、お客様からドラゴン焼きのリクエストが多く、日々訴えかのように、ヒロトシに報告として上がってきていた。

「ご主人様どういたしましょう……」

「どういたしましょうと言われてもなあ……原材料が無ければどうにもならんだろ?」

「ですよね……」

「まあ、とりあえず店頭に張り紙をしておくしかないだろうな」

「分かりました」

 ヒロトシは、シュガー村に出張している護衛メンバーに、魔の森に入った時、赤豆が自生していないか注意してくれと言っておいたが、やはり赤豆は自生してはいなかった。赤豆の生産は、ミトンの町より遥か南でもっと暖かい地域の産物だったからだ。

「こんな事なら、全部使わず種豆を取っておいても良かったのかもな。失敗した……」

「赤豆を育てるつもりですか?」

「まあ、やってみても良かったという話だ。まずこの地域じゃ育たないかもしれないけどな」

 それから、2ヶ月が過ぎた頃、又ベックと護衛を務める冒険者達が㋪美研を訪ねた。この冒険者は、パルランを拠点にしている冒険者で往復の護衛を務めているのだろうと思った。

「ヒロトシ様ご無沙汰してます。前来た時は本当にありがとうございました。おかげで家族一同路頭に迷うことがありませんでした」

「いやいや。俺もいい思いをしたし、困った時はお互い様だ」

「いい思い?」

「ああ!この間ベックさんから購入した赤豆本当に人気があってな」

「はっ?赤豆が人気?」

「ああ。ベックさんがいつ来るのか?町の人間は首を長くして待っていたんだぞ?」

「本当に赤豆をミトンの町で流行らせたのですか?」

「そう約束したじゃないか?それで今回はどれほど持ってきたんだ?」

「はい……まさか本当に流行らせると思っていなかったので前回と同じぐらいで……」

「ああ。構わないよ。全部購入しよう」

「ありがとうございます!」

 ベックは、ヒロトシが神のように見えた。

「それで次は、いつミトンの町に行商しに来るんだ?」

「多分、次は休憩を入れると思います。だから、4か月先になるかと思いますね」

「そ、そうか……」

「そんなに赤豆が流行っているのですか?」

「まあ、そうなんだが。無理はしなくていいよ。旅は危険なものだから、ベックさんの予定通りにしてくれて構わないよ」

「わ、わかりました。その……良かったらその赤豆を使った料理を味わさせて頂けませんか?」

「時間がかかるがよろしいですか?」

「ええ!構いません。そんな人気のある料理なら一度味わいたいものです」

「それじゃちょっとお待ちください。セバス!アヤに言って全員分この赤豆で3種類作ってきてくれ」

「はい。承知いたしました」

 ヒロトシは、ドラゴン焼きが出来るまでベックとの雑談を楽しんだのだった。そして、ドラゴン焼きが運ばれてきて、ベック達はドラゴン焼きを口に入れた瞬間目を見開いて驚いた。

「なんで赤豆がこんなに柔らかくなっているんだ?それにこんな食感、今までに感じたことが無い!」

 ベックは、こんなスイーツ見た事も無かった。確かにこれなら町で流行るはずだと納得し、冒険者達も納得しているようだった。

「お気に召したようで嬉しいです」

「これなら、もっとたくさんの赤豆を仕入れてくるべきでした。私も商人としてまだまだと痛感いたしました……」

「そんなこと思わなくて大丈夫ですよ」

「いえいえ……ヒロトシ様に脱帽しました。これなら休憩などしている訳には!」

「駄目です!」

「えっ?」

 ヒロトシは、ベックが無理をして行商をしようとするのを、大きな声を出して忠告した。

「大きな声を出してすいません。しかし、貴方は4か月は休憩すると言ったはずです。今回もすぐに折り返して行商をしたのでしょ?休憩はちゃんと取ってください!」

「しかし、こんな売り上げを出す商品……」

「ベックさん、欲張っては駄目です。今回、赤豆を同じ量を持ってきたと言っても損したわけじゃありません。ちゃんと利益が出るはずです」

「ですが……」

「いいですか?今回貴方の判断でその量を行商したのです。これは、貴方の今までの経験でそうしたはずです。しかし、前回全く売れなかったとしたら、今回その量はもってきていませんよね?」

「そりゃ確かに売れなければ、持ってきてもしょうがないですからね」

「厳しい事を言いますが、それが今のあなたの実力なんです。これ以上欲を出しては手痛いしっぺ返しを食らう事になります」

「だけど儲かると分かっていて、行動を起こさないと言うのは商人としてどうかと思うのでが……」

「そうですか?俺の言う事が理解できないと?」

「こればかりは何と言われても、うちにも生活があるし儲けれるときに儲けないと、その波に乗れなくなってしまいます」

 ベックの言う事はなにもおかしいものではなかった。そのことを聞きヒロトシはベックの行動を制する事などできなかった。

「俺が、貴方の行動にどうこう言える訳がありませんでしたね……」

「そんなに心配しなくても大丈夫です。私はミトンの町に何回も往復している行商人です。すぐに引き返してまいります」

「忠告はしましたよ?絶対に無理はしないでください」

 そう言ってベックは笑顔でパルランの町へと帰っていった。その後ろ姿を最後に、ヒロトシとベックは最後の別れとなる。これほどまでに、この世界の旅は危険なものだった。長い旅路を終え、ベックは早速ゴダの村で赤豆を仕入れていた。

「やあ、ベックさんじゃないか」

「村長。お久しぶりです。又、赤豆を仕入れに来ました」

「そんなに仕入れて大丈夫なのか?ワシ等、ゴダの村としてはありがたいのだが、そんなにこの赤豆を気に入ったところがあるのかのう?」

「ああ!この赤豆を美味しくしてくれる所があってな」

「ほううう!それはどこかのう?」

「それは内緒だ。俺が、この赤豆でこの村を裕福にしてやるから任せな」

「まあ、ベックさんには専属契約しておるからの。しかし、そんなに町との往復大丈夫かの?」

「ああ!こんだけ大量に仕入れたんだ。死ぬわけにはいかねえよ」

 ベックは、ヒロトシの忠告を無視して、400kgの赤豆を仕入れていた。これは借金をしてまで、この取引にかけていたのだ。

「おい旦那……馬車にこんなに積み込んで大丈夫なのか?」

 護衛を務める冒険者達は不安にかられていた。マジックバックに3つにそれぞれ100kg詰め込み、馬車に100kg積んでいたのだ。
 こうなるといざというとき、馬車のスピードが出ないからだ。冒険者達はそこのところが物凄く嫌な予感がしていた。
 冒険者達もプロだが、やはり行商人の方もいざというときの為に、それなりの逃げの手段は残しておいてほしいのである。もし、馬車のスピードが出なければ、最悪依頼主が死亡し依頼が失敗に終わると、冒険者の方も痛い目を見る事になる。

「大丈夫だ!この行商が成功すれば、ボーナスをはずんでもいいと考えているからな」

「「「「「ほんとうか?」」」」」」
「なら、より気合入れて頑張らないとな」

 冒険者達は雇われているので、そんなにきつく否定も出来なかった。しかし、このボーナスという魅惑の言葉が冒険者達の判断も狂わせた。

「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「たしかにあの量は普通じゃねえよ」
「そんな事を言っても決めるのはベックの旦那であって、俺達がどうこう言えるもんじゃねえぜ?」
「だけど、守るのはあたし達でしょ?もし、今まで違う魔物が出てきたらどうすんのよ?」
「だけど、この行商が成功すれば何も問題はないんだろ?」
「お前は、ボーナスという言葉だけで判断しているんじゃないのか?」
「何だよそれが何が悪いんだ?お前達だってボーナスが欲しくねえのか?」
「そりゃそうだが……」
「だったら、ボーナスを貰える様に頑張ったらいいだけの事だろ?」
「でも……」
「お前妹がいただろ?治療費を稼がないといけないんじゃないのか?そのせいで貧乏暮らしじゃねえか?」
「妹の事は言わないでよ」
「だったら、もっと頑張らないといけねえよな?他の奴らも金は必要だろ?だったら、もっと気張るしかねえじゃねえのか?」

 パーティーの中の一人は、みんなを説得し渋々ながらも賛同を得たのだった。冒険者達もこの旅で地獄の門が開いているのも知らずに。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

完結【清】ご都合主義で生きてます。-空間を切り取り、思ったものを創り出す。これで異世界は楽勝です-

ジェルミ
ファンタジー
社畜の村野玲奈(むらの れな)は23歳で過労死をした。 第二の人生を女神代行に誘われ異世界に転移する。 スキルは剣豪、大魔導士を提案されるが、転移してみないと役に立つのか分からない。 迷っていると想像したことを実現できる『創生魔法』を提案される。 空間を切り取り収納できる『空間魔法』。 思ったものを創り出すことができ『創生魔法』。 少女は冒険者として覇道を歩むのか、それとも魔道具師としてひっそり生きるのか? 『創生魔法』で便利な物を創り富を得ていく少女の物語。 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※カクヨム様にも掲載中です。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...