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第4章 魔道スキルと研磨スキル
33話 証拠隠滅
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話は、この地震が起こる数か月前にさかのぼる。
「おい……本当にいいのか?こんな材料を孤児院に使って……」
「しかし、親方がこれを使えと言う指示なんだろ?」
「だけど、こんな腐材をいいのかよ……」
「俺達は所詮下請けだぞ。逆らった場合、依頼主である材木屋から外され、大工として生活が出来なくなるんじゃないか?」
「俺達じゃ判断はできないな……もう一度親方に報告した方がいいんじゃないか?」
「「「「そうだな」」」」」
大工の弟子達は、現場の責任者である棟梁に相談した。
「親方。こいつを見てくだせぇ。この材木は腐材ですぜ。この材料で孤児院を建てたら問題になります」
「そうです。これはいくらなんでもひどすぎる」
「なにをいってやがる!どう見ても一級品の材木じゃないか。お前達一からやり直すか?馬鹿も休み休み言え!」
「「「「「えっ⁉棟梁何を馬鹿なことを……」」」」」
「いいか?この仕事は領主様からの依頼を、材木屋が請け負っていられるんだぞ?そんな仕事が腐材なんか使うわけねえだろうが!そんな事になれば大変な事になるんだぞ?」
大工の棟梁であるダニエルは、弟子の言う事を真っ向から否定したのだ。弟子達からその材木を見ても、スカスカで一目見たらわかる物だ。
「ちょっと待ってくだせぇ。親方これを見てくだせぇ」
「まだ言ってやがるのか?わしから見ても一級品じゃねえか」
ダニエルは本気で言っているようだった。素人からすれば表面は一級品の材木であり騙されるかもしれない。しかし、大工職人からすれば一目でわかるような酷いものだった。
「う、嘘だろ……親方が分からないなんて、俺達がおかしくなっちまったのか」
「馬鹿な事を言ってないで早く作業を続けろ!」
その様子を陰から見ていた怪しい存在に、大工職人達は気づいていなかった。そして、その怪しい男はそそくさとその場を離れると、この孤児院の仕事を請け負った材木屋に入ってくのだった。
「御屋形様、只今戻りました」
「ダニエルの奴はどうでしたか?」
「何も問題はありません。あの腐材を一級品と思い込んでおります」
「そうですか!」
その説明を聞くと、材木屋の当主であるデリーとこの店の従業員は嫌らしい笑みを浮かべるのである。
「私はちょっと出かけてきます。後の事は頼みましたよ」
「分かっております。いってらっしゃいませ」
デリーは何やら重そうな箱をマジックバックに入れて、ある屋敷に入っていった。
「リヒター様。ご機嫌麗しゅうございます」
「どうだ?ワシがお前の所を推薦してやって随分と儲けたのであろう?」
「もう、リヒター様には足を向けて寝れません事です。はっはっは」
「そうかそうか!で、今回の土産はどれほどのものだ?」
「はい!これにてお納めを」
デリーはマジックバックから、2000万ゴールドをリヒター手渡したのだ。今回、孤児院の建設を請け負ったのはデリーの材木屋である。これにはリヒターの強い推薦で決まり、こうして裏で賄賂を受け取っていたのだ。
この孤児院は町の仕事であり、依頼料がとても高額である。ようは公共施設として、シルフォードが町の税金を使って建設するものだ。
「この建設料金は6000万。お主の所には4000万も入った事になったのか?儲けたのう……」
「いえいえ、何をおっしゃいますか?わたしの所はこの料金で大工職人に給料を払わねばならぬのですよ。リヒター様こそ、まるまる2000万も儲けて良かったですな」
「儂が知らぬとでも思っておるのか?」
「何の事でしょうか?」
「お前の所は、あんな材料で建設しておるではないか?」
「はっはっは!この地域には地震は起きませんからね。あの材料で十分なんですよ。それで20年もすれば老朽化として申請すればばれる事はありません」
「お主も悪よのう!がははははは」
「いえいえ、お褒めに預かりまして」
「しかし、現場で働く職人にはどう説明しておるのだ?素人にはそれでもいいが、どう考えても玄人が騙されるとは思えぬのだが」
「あいつ等は馬鹿ばかりですからね。棟梁が白と言ったら、黒い物も白となるんですよ」
「増々分からん……棟梁となればあいつ等の中で一番の腕利きではないのか?」
「ふっ。つまり仕事一筋で馬鹿の大将と言う事ですよ。私のお抱えの魔法使いで幻覚魔法一発で終わりですよ。はっはっは」
「なるほどのう!腐材を幻覚魔法で高級材料にみせていると」
「そういうことです。棟梁にかけておけば、こちらのいいなりですよ」
「がははははは!これは御見それした。たいしたものだ!」
こうして、リヒターは贈賄を受け私腹を肥やし、デリー材木店は手抜き工事をし、タダでさえ高額な建築費を安い材料で建設し浮かしていた。
そして、あの想定外の地震が起きてしまったのだった。そして、現在の様子は町の人間が、あの孤児院を作った棟梁の元へ殺到していた。
「どういう事だ!新築の孤児院が何で潰れたんだ!」
「説明をしろ!」
「そうだ!何人の子供が犠牲になったと思っている」
新築の孤児院が潰れたのに、旧孤児院はそのままの状態で残っていた。これには町の人間も納得が出来なかったようだ。
「すいません!ワシにもどういう事かわからんのだ」
ダニエルは、押しかける町の人間に頭を下げるしかなかった。ダニエルは本当に高級木材を使っていたはずだと思っていた。
しかし、ある一部の弟子からは腐材を使っていたと証言されていたからだ。これが問題になったのは、ヒロトシがシルフォードに報告したことにあった。子供達を救出した時に、倒壊した瓦礫を、インベントリに入れた時に
インベントリの中の表示が倒壊した孤児院の腐材と表記されたからだ。
もしこれが本当の事ならば、天災ではなく人災として問題視されないと子供達が浮かばれない事になる。
ヒロトシは、通信機を作りながら時間を見つけて、早急にシルフォードにそのことを報告しにしたかったが、ヒロトシも色々忙しく、屋敷にやってきたのは4日後だった。
「今回の地震では本当にご苦労様。ヒロトシ君のおかげで、死者数もだいぶん抑える事が出来たよ。本当にありがとう」
「そのことでお話があります」
「どうかしたのかね?」
「今回の現場は視察しましたか?」
「いや、まだこれからだ。何か問題でも?」
「新築の孤児院ですよ。おかしいと思いませんか?旧孤児院はちゃんと現存しているのです」
「だが、もう歪んでいて住めるような事は無く解体しないと危険だと聞いている」
「そこですそこ!確かに倒壊一歩手前ですが、形が残っているんですよ?しかし、建てたばかりの孤児院は跡形もなく瓦礫となったのです」
「確かにそうだな」
「何を呑気な……これは間違いなく手抜き工事ですよ。業者を徹底的に調べる事をお勧めします。じゃないと、これからも同じような事が起きるかもしれませんよ」
「また地震が起きたら同じような事が?」
「地震だけじゃありませんよ。手抜き工事となれば、絶対私腹を肥やしている者がいると思います」
「馬鹿な!」
「まあ、今のところは何も証拠がないので現場に残る廃材だけですので、早く調べたほうがよろしいかと」
その頃、デリー材木店では当主のデリーが焦っていた。
「どうすればいいのだ?このままではうちが腐材を提供したのがばれてしまうぞ」
「わたくしに任せておいてください!」
地震が起こった4日目の夜にその事件は起こった。孤児院の跡地、つまり倒壊した孤児院から火の手が上がったのだ。
これにはシルフォードも愕然とした。その日の昼に、ヒロトシが手抜き工事を調べよと言われたばかりだったからだ。犯人も遠慮することはせず、街中でファイヤーボールを撃ったのだ。瓦礫は木っ端みじんとなり燃え尽きて、炭になったようだ。
町の人間は、すぐに消火活動をしたがファイヤーボールが撃ちこまれた為、消火活動は難航した。
これには、よからぬうわさが流れた。棟梁のダニエルが証拠隠滅したのではないかと言う事だった。
「おまえが、孤児院を燃やしたんだろ?」
「卑怯者め!」
「調べられるとお前が損をするからな」
「ワシはそんなことしねえ!孤児院の犠牲者には申し訳ねえとは思うがワシは工事に手を抜いてねえんだ」
「そんなの信じられるかよ!」
「「「「そうだそうだ!」」」」」
町の人間は、孤児院を建てた棟梁に怒りの矛先を向けた。
「御屋形様、これでいかがですか?」
「でかした!これでうちには責任の矛先が向かぬな」
「できれば、もうひと押しお願いしたいのですがよろしいですか?」
「何をだ?」
「あの孤児院から、助け出された子供達に救援物資を送ってもらえないですか?」
「なるほどのう……わかった」
デリーはデリー材木店として、子供達に炊き出しをしたり、服を差し入れしたりして、美談をでっちあげたのだった。
「おい……本当にいいのか?こんな材料を孤児院に使って……」
「しかし、親方がこれを使えと言う指示なんだろ?」
「だけど、こんな腐材をいいのかよ……」
「俺達は所詮下請けだぞ。逆らった場合、依頼主である材木屋から外され、大工として生活が出来なくなるんじゃないか?」
「俺達じゃ判断はできないな……もう一度親方に報告した方がいいんじゃないか?」
「「「「そうだな」」」」」
大工の弟子達は、現場の責任者である棟梁に相談した。
「親方。こいつを見てくだせぇ。この材木は腐材ですぜ。この材料で孤児院を建てたら問題になります」
「そうです。これはいくらなんでもひどすぎる」
「なにをいってやがる!どう見ても一級品の材木じゃないか。お前達一からやり直すか?馬鹿も休み休み言え!」
「「「「「えっ⁉棟梁何を馬鹿なことを……」」」」」
「いいか?この仕事は領主様からの依頼を、材木屋が請け負っていられるんだぞ?そんな仕事が腐材なんか使うわけねえだろうが!そんな事になれば大変な事になるんだぞ?」
大工の棟梁であるダニエルは、弟子の言う事を真っ向から否定したのだ。弟子達からその材木を見ても、スカスカで一目見たらわかる物だ。
「ちょっと待ってくだせぇ。親方これを見てくだせぇ」
「まだ言ってやがるのか?わしから見ても一級品じゃねえか」
ダニエルは本気で言っているようだった。素人からすれば表面は一級品の材木であり騙されるかもしれない。しかし、大工職人からすれば一目でわかるような酷いものだった。
「う、嘘だろ……親方が分からないなんて、俺達がおかしくなっちまったのか」
「馬鹿な事を言ってないで早く作業を続けろ!」
その様子を陰から見ていた怪しい存在に、大工職人達は気づいていなかった。そして、その怪しい男はそそくさとその場を離れると、この孤児院の仕事を請け負った材木屋に入ってくのだった。
「御屋形様、只今戻りました」
「ダニエルの奴はどうでしたか?」
「何も問題はありません。あの腐材を一級品と思い込んでおります」
「そうですか!」
その説明を聞くと、材木屋の当主であるデリーとこの店の従業員は嫌らしい笑みを浮かべるのである。
「私はちょっと出かけてきます。後の事は頼みましたよ」
「分かっております。いってらっしゃいませ」
デリーは何やら重そうな箱をマジックバックに入れて、ある屋敷に入っていった。
「リヒター様。ご機嫌麗しゅうございます」
「どうだ?ワシがお前の所を推薦してやって随分と儲けたのであろう?」
「もう、リヒター様には足を向けて寝れません事です。はっはっは」
「そうかそうか!で、今回の土産はどれほどのものだ?」
「はい!これにてお納めを」
デリーはマジックバックから、2000万ゴールドをリヒター手渡したのだ。今回、孤児院の建設を請け負ったのはデリーの材木屋である。これにはリヒターの強い推薦で決まり、こうして裏で賄賂を受け取っていたのだ。
この孤児院は町の仕事であり、依頼料がとても高額である。ようは公共施設として、シルフォードが町の税金を使って建設するものだ。
「この建設料金は6000万。お主の所には4000万も入った事になったのか?儲けたのう……」
「いえいえ、何をおっしゃいますか?わたしの所はこの料金で大工職人に給料を払わねばならぬのですよ。リヒター様こそ、まるまる2000万も儲けて良かったですな」
「儂が知らぬとでも思っておるのか?」
「何の事でしょうか?」
「お前の所は、あんな材料で建設しておるではないか?」
「はっはっは!この地域には地震は起きませんからね。あの材料で十分なんですよ。それで20年もすれば老朽化として申請すればばれる事はありません」
「お主も悪よのう!がははははは」
「いえいえ、お褒めに預かりまして」
「しかし、現場で働く職人にはどう説明しておるのだ?素人にはそれでもいいが、どう考えても玄人が騙されるとは思えぬのだが」
「あいつ等は馬鹿ばかりですからね。棟梁が白と言ったら、黒い物も白となるんですよ」
「増々分からん……棟梁となればあいつ等の中で一番の腕利きではないのか?」
「ふっ。つまり仕事一筋で馬鹿の大将と言う事ですよ。私のお抱えの魔法使いで幻覚魔法一発で終わりですよ。はっはっは」
「なるほどのう!腐材を幻覚魔法で高級材料にみせていると」
「そういうことです。棟梁にかけておけば、こちらのいいなりですよ」
「がははははは!これは御見それした。たいしたものだ!」
こうして、リヒターは贈賄を受け私腹を肥やし、デリー材木店は手抜き工事をし、タダでさえ高額な建築費を安い材料で建設し浮かしていた。
そして、あの想定外の地震が起きてしまったのだった。そして、現在の様子は町の人間が、あの孤児院を作った棟梁の元へ殺到していた。
「どういう事だ!新築の孤児院が何で潰れたんだ!」
「説明をしろ!」
「そうだ!何人の子供が犠牲になったと思っている」
新築の孤児院が潰れたのに、旧孤児院はそのままの状態で残っていた。これには町の人間も納得が出来なかったようだ。
「すいません!ワシにもどういう事かわからんのだ」
ダニエルは、押しかける町の人間に頭を下げるしかなかった。ダニエルは本当に高級木材を使っていたはずだと思っていた。
しかし、ある一部の弟子からは腐材を使っていたと証言されていたからだ。これが問題になったのは、ヒロトシがシルフォードに報告したことにあった。子供達を救出した時に、倒壊した瓦礫を、インベントリに入れた時に
インベントリの中の表示が倒壊した孤児院の腐材と表記されたからだ。
もしこれが本当の事ならば、天災ではなく人災として問題視されないと子供達が浮かばれない事になる。
ヒロトシは、通信機を作りながら時間を見つけて、早急にシルフォードにそのことを報告しにしたかったが、ヒロトシも色々忙しく、屋敷にやってきたのは4日後だった。
「今回の地震では本当にご苦労様。ヒロトシ君のおかげで、死者数もだいぶん抑える事が出来たよ。本当にありがとう」
「そのことでお話があります」
「どうかしたのかね?」
「今回の現場は視察しましたか?」
「いや、まだこれからだ。何か問題でも?」
「新築の孤児院ですよ。おかしいと思いませんか?旧孤児院はちゃんと現存しているのです」
「だが、もう歪んでいて住めるような事は無く解体しないと危険だと聞いている」
「そこですそこ!確かに倒壊一歩手前ですが、形が残っているんですよ?しかし、建てたばかりの孤児院は跡形もなく瓦礫となったのです」
「確かにそうだな」
「何を呑気な……これは間違いなく手抜き工事ですよ。業者を徹底的に調べる事をお勧めします。じゃないと、これからも同じような事が起きるかもしれませんよ」
「また地震が起きたら同じような事が?」
「地震だけじゃありませんよ。手抜き工事となれば、絶対私腹を肥やしている者がいると思います」
「馬鹿な!」
「まあ、今のところは何も証拠がないので現場に残る廃材だけですので、早く調べたほうがよろしいかと」
その頃、デリー材木店では当主のデリーが焦っていた。
「どうすればいいのだ?このままではうちが腐材を提供したのがばれてしまうぞ」
「わたくしに任せておいてください!」
地震が起こった4日目の夜にその事件は起こった。孤児院の跡地、つまり倒壊した孤児院から火の手が上がったのだ。
これにはシルフォードも愕然とした。その日の昼に、ヒロトシが手抜き工事を調べよと言われたばかりだったからだ。犯人も遠慮することはせず、街中でファイヤーボールを撃ったのだ。瓦礫は木っ端みじんとなり燃え尽きて、炭になったようだ。
町の人間は、すぐに消火活動をしたがファイヤーボールが撃ちこまれた為、消火活動は難航した。
これには、よからぬうわさが流れた。棟梁のダニエルが証拠隠滅したのではないかと言う事だった。
「おまえが、孤児院を燃やしたんだろ?」
「卑怯者め!」
「調べられるとお前が損をするからな」
「ワシはそんなことしねえ!孤児院の犠牲者には申し訳ねえとは思うがワシは工事に手を抜いてねえんだ」
「そんなの信じられるかよ!」
「「「「そうだそうだ!」」」」」
町の人間は、孤児院を建てた棟梁に怒りの矛先を向けた。
「御屋形様、これでいかがですか?」
「でかした!これでうちには責任の矛先が向かぬな」
「できれば、もうひと押しお願いしたいのですがよろしいですか?」
「何をだ?」
「あの孤児院から、助け出された子供達に救援物資を送ってもらえないですか?」
「なるほどのう……わかった」
デリーはデリー材木店として、子供達に炊き出しをしたり、服を差し入れしたりして、美談をでっちあげたのだった。
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