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第4章 魔道スキルと研磨スキル

4話 ハボリムとティアナ

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 魔法使いはその姿を消し、闇夜の森をひたすら北に走っていた。ローブを脱ぎ捨てその姿は、魔法使いではなく密偵者のようだった。

 そして、森の中には崖があり、その洞窟の前には見張りが立っていた。

「誰だ!」

「あたしよ!モミジだよ」

「モミジの姉さんかビックリしましたぜ。それでうまくいったんですかい?」

「当たり前だよ!上手く行かなかったら、あたしが総帥に消されちまうだろ?それで総帥は?」

「シアン様とセレン様の二人と洞窟の中にいらっしゃるはずです」

「わかったわ!」

 ダイヤの宝石を手に入れたのは、闇ギルド総帥の手の者だった。しかし、そのモミジと呼ばれた女の顔は、カエデそっくりだった。



 その頃、ミトンの町ではオークションも終わり、ヒロトシには後日とんでもない金額が振り込まれる事になった。
 そして、ヒロトシの屋敷には今までになかった緊張感で、ヒロトシを含め全員が緊張し固まっていた。

「こいつは凄い!こんな菓子がミトンにはあるのか?」
「本当にすごいわ!口の中がクリームでフワフワです」

「お口にあい安心しました。しかし、何故うちに来たのですか?ハボリム殿下」

「そりゃ、父上の友人に会いに来るのは当然ではないか」

「いえいえ、意味が分かりませんよ」

 その会話の中、セバスはもちろんアヤ達メイドは心の中で、ここに泊まると言わないでくれと、神に祈っていた。

「それよりもハボリム様、このわたくしを紹介してください」

「あっ、そうか。ヒロトシ殿、こちらは俺の婚約者でティアナだ。俺共々よろしくな」

「紹介にあがりましたティアナ=アルシェドと申します。以後お見知りおきを」

「俺は、ミトンの町で研磨屋をしているヒロトシといいます。今日は訪問していただきありがとうございます」

「あははははは!そんなに緊張するでない!」

 ハボリムは豪快に笑ったが、緊張するのも無理もなかった。王族であるハボリムとこの御令嬢の名はアルシェドといい辺境伯の御令嬢なのだ。
 辺境伯といえば、国を守る要の家柄である。つまり国王が信頼を置く貴族の一人である。そのような人間が、ミトンの町の平民の家にやってきているのだ。

「それで殿下は今日は何でこのような所に?」

「父上を模擬戦とはいえ、負かせた相手の顔を見ておきたくてな」

「まさか?そんな事で殿下がわざわざ一般平民の家に?冗談でもありえないでしょ?」

「いやいや、本当にお主の顔を見たかったのだ。父上が平民であるお主を名前で呼ばせているのだぞ?そんなのはあり得ない事だ」
「そうですよ。わたしのお父上でさえそんな事はありません」

「そ、そうなんだ……」

「父上はあのような強さだ。昔、冒険者で母上とパーティーを組んでいて、その時の仲間しか名前で呼ばせていないんだぞ?」

「そのパーティーの仲間は余程信頼されているのですね」

「ああ……地獄のようなお方たちだがな……」

「地獄?」

 そう言ったハボリムの横で、ティアナがクスクスと笑っていた。笑い方一つでもその場が和むほど優雅であった。

「ハボリム様。そんな事を言っても知りませんよ。あの方たちは耳は優秀でございます」

「あっ、そういう事ではなくてな。地獄の鬼より強いと言いたかっただけで他意はないんだ」

 ヒロトシはどうやら、そのローベルグの仲間はとんでもない人間だと思った。

「そのローベルグ様の仲間の人達は、今はどのように?」

「師匠達は風来坊だから、大陸中を旅しているんじゃないかな」

「師匠達?」

 ハボリムの説明では、その人間達は教育係で剣や勉学色んな事を、幼いころに教育係として王都にいたそうだ。それ故に、ハボリムも剣や魔法は一流で、幼いころからしごかれたそうだ。

「それで殿下は地獄のようなという比喩を使われたのですね……」

「比喩とは何だ?」

(ああ……この言葉はこっちには無いのか……)
「物事を説明するとき,相手のよく知っている物事を借りてきて,それになぞらえて表現することですよ」

「ほう!便利な言い方だな。それよりヒロトシ殿、いつまで俺の事を殿下と言うつもりだ?」

「えっ?」

「えっではない。父上を名前呼びにしているのだろう?とうぜん俺の事もハボリムと呼んでほしい」

「いやいやいや!なんでそうなるのですか?」

「わたくしの事もティアとお呼びください。親しい人からはそう呼ばれています」

「何で俺のような人間が……」

「おいおい。聞いているぞ?お主は自分の奴隷に卑屈になるなと言っているそうじゃないか。俺はお主に名前で呼んでほしいと言っているのだぞ?」

「ぐはっ!な、何でそれを?」

「今日の俺達の目的は、お主とお近づきになりに来たのが目的だからな。父上が名前呼びさせるのにも興味があったし、今日の会話で増々興味が出てきた」
「わたくしもですわ。今日のオークションの宝石も興味がありましたが、ここで出されたショートケーキ?という物も本当においしかったです」

「あ、ありがとうございます」

「俺らは年も近いし、父上より仲良くできると思うのだがどうだろうか?」

「しかし……仲良くと言っても殿下は王族じゃありませんか?」

「そういうのは関係なく父上とも友人になったんだろ?だったら、なんで俺達は駄目なんだ?おかしいじゃないか」

「……」

 ハボリムの言うことはもっともだった。年の離れ王族である国王はよくて、年の近い自分達は駄目と言う理由が分からないからだ。

「分かりました……俺の負けです。ハボリム様ティアナ様」

「ヒロトシ、お主は友人に様付けするのか?」
「わたくしの事もティアと呼んでくれたらいいですのよ」

「わかったよ。ハボリムにティア。これから友人としてよろしく」

 ハボリムとティアナはヒロトシが敬語ではない言葉に機嫌を良くして笑顔をみせた。これを見ていた護衛で一緒に同席していた王国騎士団団長は驚き固まっていた。セバス達も同様で、自分達の主はどこまで大きな人物だったのか恐怖すら覚えるのだった。

「今日の事は有意義だったよ。指輪が手に入れれなかった時は落ち込んだが、それ以上にヒロトシと友人になれたことは嬉しい事であった」

「わたくしも嬉しく思います」

「次、王都に寄ることがあれば必ず俺の所に来いよ」

「わかりました。いえ、分かったよ。次、会える日を楽しみにしている」

「ああ!約束だぞ?」
「わたくしの事も忘れないでね」

「ああ!」

 ハボリムとティアナは、笑顔となりシルフォードの屋敷に行き、今日はシルフォードの屋敷で泊まり、次の日朝一番で王都に帰還する事になった。

「殿下?何かいいことがあったのですか?」

「ああ!今日という日は、本当に有意義であった。ヒロトシと友人になる事が出来たのだ。これほどうれしい事はない」

「わたくしもですわ。本当にワクワクした一日でした」

「なんと!お二人ともヒロトシ君のご友人に?これはめでたい事です。王国も安泰ですなあ」

「ん?それはどういうことだ?王国の事とは関係なかろう?」
「そうですわ。わたくし達は国の事は関係なくご友人となっただけですよ」

「ですが、殿下とヒロトシ君がご友人になられたとなれば、ヒロトシ君は王国から出ていくことはまずなくなりますし王国の安全は盤石になるかと……」

「シルフォード、お前の言いたいことは分かるが、そんなつもりで俺はヒロトシと友人になった訳じゃない。俺個人がヒロトシを気に入ったのだ。この気持ちに打算など無いぞ」
「わたくしもそうですわ」

 ハボリムとティアナは純粋に、ヒロトシと友人になっていたのだった。なので、シルフォードの言う事を完全否定したのだ。

「気分を害してしまい申し訳ございません!」

 シルフォードは即座に謝罪して頭を下げたのだった。ハボリムも謝罪してくれた事ですぐに受け入れた。王族をやっているとシルフォードの言う事は理解できるので、自分達の事を分かってくれたのでそれで良しとしたのだ。




 次の日の朝、ハボリムとティアナはシルフォードの屋敷から、馬車で帰る事になった。

「それでは殿下。お気をつけてお帰り下さい」

「ああ、世話になったな。シルフォードもこの町をよろしく頼むぞ」

「わかっております」

 ハボリムとシルフォードは別れの挨拶をしていた。そして、大通りを通過して城門を抜けた。それまで大通りは殿下と婚約者の顔を一目見ようと町の人間で埋め尽くされていた。ミトンの町の人間は、王国の旗を振って見送っていたのだった。

「最後にヒロトシと挨拶がしたかったな」
「そうですね……」
「次会えるのはいつになるかわからないからな」

 そう言って城門を抜けて半日以上過ぎた所で、後方から大きな声が聞こえてきたのだった。

「ハボリム~!ティア!ちょっと待ってくれ!」

「貴様!殿下に対して呼び捨てするとは何事か!」

 行列で護衛していた兵士の数人が、ヒロトシに槍を向けたのだった。

「待て!その人は殿下の御友人である。私が保証するから構えを解くのだ」

「「「「「団長!」」」」」
「そ、それに殿下の御友人って本当の事なのですか?」

「ああ!それにその人は陛下のご友人でもあられるんだぞ」

 その説明に兵士達は、体を硬直させてしまった。

「陛下のご友人って事はまさかヒロトシ様ですか?」

「そうだ。その人がヒロトシ様だよ」

「「「「「し、失礼しました!」」」」」
「知らないこととはいえご無礼の団を平にお許しを!」

「い、いや、俺も大声で殿下を呼び捨てにしてからしょうがないよ。気にしてないから安心して」

 それを聞き、兵士達はホッとしてその場に崩れ落ちていた。

「ヒロトシ!」
「ヒロトシさん!」
「わざわざ、見送りに来てくれたのか?」

 ハボリムとティアナは、ヒロトシの声が聞こえて慌てて馬車から降りてきたのだった。

「友人となったんだ。見送りに来るのは当然だろ?」

「そ、そうか。そうだよな?こんなに嬉しい事はないよ」
「わたくしも嬉しいですわ」

「長い旅だけど気をつけて帰ってくれ。それとこれは友人の証だが、二人に受け取ってもらいたい」

「なんだこれは?見てもいいか?」

「いいけど、笑わないでほしい。時間が無かったから急いで作ったんだ」

 ハボリムとティアナは渡された袋を開けるとそこには、アクセサリーが入っていた。

 ハボリムには、ネクタイピンでシックなデザインとなっていて、エメラルドカットにされていてダイヤの宝石がその中心に輝いていた。
 そして、ティアナにはダイヤのネックレスで、ダイヤがプリンセスカットにされたものが入っていた。

「ヒロトシこれは?」

「今回、せっかくオークションに来たのに購入できなかったんだろ?だから、大急ぎで作ったんだ」

「だ、だが……お前のアクセサリーは、そう簡単にできるものではなかったときいたが?」

「あの磨き方は大変なんだ。しかし、今あげたのはカット数が少ないからな。だけど、ギリギリになっちまった」

「じゃあ、昨日は徹夜でこれを?」

「ああ、思い出の品になればいいかと思ってな」

「ありがとう!ヒロトシの気持ち、確かに受け取ったよ」
「わたくしも!本当にありがとうございます」

 ハボリムとティアナは、ヒロトシの気持ちが嬉しくて手を固く握ったのだった。ティアナには指輪とも思ったがそれは違うと思い、ネックレスにしたのだった。

「それと、これは今日中に馬車の中で食べてくれ」

「これは?」

「ケーキだよ。生クリームだから、早めに食べてくれないと悪くなるからな。道中本当に気をつけて帰ってくれよ」

「ああ。こんなところまで来てくれてありがとな」
「本当にありがとうございます」

「それじゃな。また会える日を楽しみにしているよ」

「ああ!本当にありがとな。俺達も次会える日を楽しみにしている」

 そう言って二人は馬車に乗り込み馬車の窓から見えなくなるまで手を振っていた。そして、ヒロトシはそれを見送って、見えなくなるまで見送りハボリムたちが見えなくなるまで見送り、ヒロトシは自転車でミトンの町に帰ったのだった。



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