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第3章 新しい研磨

25話 ネクロマンサーの最後

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 ミルデンス達は、自分達の攻撃が全く効かない事に驚愕していた。

「な、何故ダメージが通らない!」

「わたしも一緒よ。ダメージが通らない!」

 ミルデンス達は、エルダーリッチを剣で攻撃していたが岩を斬りつけているようで、魔法使いの防御力ではなかった。

「一体、どうなっているんだ?」

『かかかかかかか!所詮お前達では我には勝てぬ。魔法の恐怖を味わうが良い。そして死ぬが良い!』

 ミルデンス達は、恐怖のあまりエルダーリッチを何回も斬りつけていた。しかし、その体は岩の様に硬く斬りつけれなかった。

「な、何で斬れないんだ……その武器はオリハルコンの+5武器なんだぞ」

『かかかかかかか!そろそろ死ぬ準備はよいか?』

「ク、クソ……」

 ミルデンスの眼前に、エルダーリッチの手が伸びて魔力が集中されていた。

「こ、これまでか……」

「ミルデンス!伏せろ!」

 そこにヒロトシの声が、北の森に響いたのだ。

「!」

 その声にミルデンスは、声のした方を振り向いた。そこにはヒロトシはいて、無数のマジックアローが浮いていたのだ。
 ミルデンスは、その後景を見てホッと安堵し、横に跳んだのだった。マジックアローとは魔法で、マジック効果のある矢を無数に対象に当てるダメージ魔法である。
 1発のダメージは低いのだが、用途としてはキャストブレイクによく使われる魔法で、詠唱の途中で当てられると集中が切れ、魔法が発動できなくなる。

 ヒロトシの周りには、300発以上のマジックアローが浮いていて、それが一斉に発射されたのだ。

 これには、エルダーリッチとリッチロードはたまらず呻き声を上げた。

『くっ、くっそぉ……』
『こんなもの……』

 100発以上のマジックアローが当たった瞬間、エルダーリッチとリッチロードは、今までとは一転ダメージが通り出したのだ。

『ぎゃああああああああああああ!』
『エルダーリッチ様……わたしはもう……』

 ヒロトシのマジックアローで、リッチロードは消滅してしまった。その様子を見て、ミルデンス達はさすが主君だと思った。

『くっ……あれほどまでの防御魔法を一気に削られるとは……」

「ふっ!お前の魔法はとっくにお見通しだ!しかし、それほどの数のストーンスキンとは、敵ながら天晴れだよ」

『ぐぬぬぬぬ!』

 ストースキンとは、土属性4レベル魔法で魔法使いにとって必須ともいえる防御魔法だ。レベル×1.5回数分の攻撃をキャンセルさせる魔法だ。つまり、術者が100レベルだった場合150回もの攻撃をキャンセルする事が出来るのだ。
 しかし、ヒロトシにとって、150回ほどではマジックアロー一回唱えれば十分に剥がせる程度の物だった。そればかりか、リッチロードはストーンスキンが剥がされ、マジックアローのダメージで消滅してしまった。

「まあ、あのリッチロードの事だ。またすぐに復活するだろうけど、お前もすぐに後を追わせてやるよ」

『ま、待て!今また同じような事をされては、復活に時間がかかってしまう!』

「そんなのしらないよ。お前は、ミトンの町の人間を人体実験にしようとしていたんだろ?」

『……』

 エルダーリッチは、ネクロマンサーとの交渉条件として数が増えていたミトンの町の住人の命を使って、人体実験をしようと画策していた。

「お前のような魔物はずっと復活しなければ、世界の平和になるんだよ!」

 ヒロトシはそう怒鳴って、無数のマジックアローをぶち当てたのだった。

『ぎゃああああああああああ!』

 ヒロトシの魔法は、もうエルダーリッチに弾かれる事は無く、全ダメージを受けてその体は消滅してしまった。

「主君!」
「「「「「「ご主人様!」」」」」」

 エルダーリッチが消滅し、闇ギルドの計画は失敗に終わり、ミルデンス達がヒロトシの側に駆け寄ってきた。

「ったく……お前達はまだまだだな」

「も、申し訳ございません……」

「まあ、最後だけだ。後は満点だよ。よくやった!」

「「「「「は、はい……」」」」」

「しょげるなしょげるな!今回はちょっと不運だっただけだ。お前達に後方支援職がいればあんな奴めじゃないさ」

 ミルデンス達護衛メンバーは、全員が接近戦を得意とする人間ばかりだった。ここは、ヒロトシも考えないといけない所だった。

 この様子をみていたネクロマンサー達は言葉が出なかった。

「どうすればよいのだ……」
「ぐっ……このままでは、我らの命は……」
「もうこのまま逃亡の道を……」
「それしかもう!」
「「……」」

 ネクロマンサー自体には戦闘能力は殆どない。それ故に死人を操ったり強力なアンデットを召還し、それらに戦わせるしかない。
 しかし、エルダーリッチにドラゴンゾンビをも退けてしまったヒロトシに対抗するような戦力はもうない。それ故にもう逃亡の道しかなかったのだ。

「今すぐ逃げるぞ。我ら6人が手を合わせればまだ、何とか!」
「「「「「おう!」」」」」

 ネクロマンサー達が水晶の周りにいて、その席を立った瞬間、周りに声が響いたのだった。

「お主達に期待をした我らが愚かだった」

「「「「「「なっ!」」」」」」

 その言葉と共にネクロマンサー、一人一人の後ろに漆黒の影が現れたのだ。

「闇ギルドは失敗を絶対にゆるさん!」

 その瞬間、ゴトッと言う音が部屋に6回響いた。そして、ネクロマンサー6人の首が無くなっており、床にネクロマンサー達の首が転がったのだ。そして、その首から血柱が6本吹き出し、ネクロマンサー6人はその場に倒れたのだった。
 
 闇ギルドの血の掟だった。ミッションに失敗すれば暗殺者(アサシン)が送られその命が奪われたのだ。そして、6人のアサシンはスッとその姿を消し、その報告はすぐに闇ギルド王国本部に報らさせられたのだった。

 そして、町に帰ったヒロトシはシルフォードを始め、ミトンの町の人間から祝福をされた。その中には涙を流し感謝をする近所に住む高齢の婦人の姿もあった。冒険者は、この町にヒロトシありとうたいさっそく酒場で祝杯を上げていた。



 町に帰って来た、ヒロトシにシルフォードは固い握手をして感謝をした。

「あ、ありがとう……君がこの町にいてくれて本当に感謝している」

「今回は俺じゃなく、町を守った兵士や冒険者、そして俺の家族に感謝をよろしくお願いします。俺は城壁の上で戦況を見ていただけですよ」

「そんな事はあるまい!全部、ヒロトシ君が主体で動いた結果じゃないか」

「いやいや……今回一番動いたのは、ここにいる俺の仲間達ですよ」

「しゅ、主君……」
「「「「「ご主人様」」」」」

 ヒロトシは今回の要は、ミルデンス達の働きがあってスタンピードをとめられたと説明したのだった。シルフォードもその説明に納得したようで、貴族が奴隷に感謝の意を表しこの事は町中で話題になった。

「ヒロトシ様の奴隷の事を聞いたか?」
「ああ、聞いた聞いた。あいつ等ってすげぇよな?」
「ああ。ドラゴンゾンビやアンデットの集団をなんなく後退させてよ」
「ああ……無粋な話だがあんな奴隷をいくらで買ったのかな?」
「そりゃ、俺らには想像もできないような大金だろうよ」
「やっぱ、英雄には奴隷まで優秀な奴隷が手にできるんだな」
「ほんと、あやかりたいぜ」

 そんな感じで、ヒロトシの奴隷は町でも見直される事になっていた。

 この時から、ヒロトシの奴隷達は何かと人気者になっていた。今までは㋪美研の受付嬢であるマイン達が好意を寄せられていたが、ミルデンスは町の奥さんや若い女性達に黄色い声を浴びせられたり、ミランダやアイリーン達もまた町の男達に声を掛けられるようになっていた。

「ねえ、マイン……」

「何かあった?」

「マイン達が、冒険者達に声を掛けられていた時、対応に困るって言っていたけどやっとその苦労がわかった感じがするわ」

「でしょ?分かってくれてよかったよ」

「えぇ……あれは本当に困るわね。わたし達はご主人様の物なのに、あんなに好意を向けられてやっとわかったよ。この感覚はなって見て分かるようになったわ……」

 マイン達受付嬢は、護衛メンバー達の言葉を聞き苦笑いをするしかなかった。




 そして、後日又ヒロトシ達は、シルフォード宅に呼び出されていた。



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