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第3章 新しい研磨

4話 名誉貴族

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 ヒロトシ達は、一週間お城の部屋を貸してもらい、そこで生活をしていた。本当は中庭にでもハウスを建てて、そこで生活をしたかったが、許可が下りなかったのだ。やはり要人として招かれていた為、王族のプライドが許さなかったらしい。

「ここでお待ちください。陛下が入ってきたら片足を着けたらよろしいので緊張せずにお待ちください」

 そこは謁見の間であり、豪華絢爛にありとあらゆるところに装飾品が飾られていた。天井には宮廷画家が描いた絵画だろうか……天から天使が舞い降りる絵が描いてあった。

「す、すげぇ……」

 ヒロトシが部屋の中の様子に驚いていると、国王陛下が謁見の間に入ってきた。

「ローベルグ=フォン=ロドン様のおなり!」

 この言葉で国王が謁見の間に入ってきた。それを合図にヒロトシは片膝をつき礼をしたのだった。

「このたびは、よくぞ臣下であるシルフォード伯爵を助け、さらにミトンの町をスタンピードから救ってくれた。民衆になり代わり礼を言う」

「勿体ないお言葉ありがとうございます」

「これは報奨である。ありがたく受け取るがよい」

 ヒロトシの前には、報奨金と一枚の紙が置かれていた。

「こ、これは……」

「それは名誉貴族である」

 名誉貴族とは、多大な功績を残した者に与えられる1代限りの貴族位だった。冒険者なら騎士伯に、生産者なら匠伯、商人なら大豪商伯となる。
 しかし、貴族位になったとしても王国に縛られる事は無く自由に行動してもらっても構わないらしい。土地も与えられるが、町を作れと言う訳でもなく資産となるのである。しかし、町を作るとなればしっかり税金を納めなければならない。

「俺にはこの貴族位はいりません。俺は自由に生活さえできればいいので」

「こ、これ!なんて事言うのだ。無礼であろう」

 国王陛下の隣にいたおじさんが注意をしてきた。多分、宰相の位にある人間だろうとヒロトシは思った。

「よい!ヒロトシと言ったかな?」

「はい!」

「その貴族位は、名誉貴族と言ってお主を王国に縛るものではない。今まで通りの生活をしてくれて構わん。ただ、余の国の民衆達のためにこの国、ロドン王国にいてほしい」

「それは、この国に束縛すると言う事では?」

「いてほしいと言うのは、余の願望であり束縛ではないよ。お主が外の世界をみたいと言うならば、それも君の自由だよ」

「そ、そうですか……」

 ヒロトシはホッとした。どうやら、この国の王様は本当に善政をして、国民の事を想っているようだ。

「そのお主に与える土地も、ミトンの町から近い場所である。ただ、この大陸の中心は魔の森と言われる森が拡がっておる。ミトンの町から北東に向かえば魔の森に出る。そのあたりの土地しか、あのあたりには与える土地がない」

「……」

「それでもいいならそこを与えよう」

 国王のローベルグは、ヒロトシが今まで通りの生活が出来る様に配慮して、その周辺の土地を選んでいた。本来なら王都の近くにある海側の土地を与えたかったが、それをやるとヒロトシがミトンの町に帰れなくなるので、土地候補から外したのだった。

 ヒロトシは、ミトンの町で生活さえできればよかったので、土地や貴族位も要らなかった。しかし、国王がそこまで配慮してくれたのに、受け取らないと無礼になると思い受け取ることにした。

「分かりました。そこまで俺の事を配慮してくれたことに、感謝し謹んでお受けします」

 ヒロトシが、報奨を受け取ると言った事で、国王を始め上級貴族達は笑顔となった。そして、ここに大豪商伯ヒロトシが誕生したのだった。

「これにて、報奨授賞式を終える。皆の者下がって良いぞ」

 国王がそう言うと、貴族達は整列をして部屋から出て行ってしまった。そして、ヒロトシも謁見の間から退室したのだった。

「ヒロトシ様おめでとうございます」

 声をかけてきたのは執事だった。ヒロトシはお礼を言うと執事はある部屋に案内したのだった。するとそこには、国王のローベルグがいた。

「えっ?なんで、又陛下が?」

「さっきのは公式だ。これからはプライベートで君には礼を言いたい。今回の事は本当にありがとう。心から礼を言わせてくれ」

 国王は、ヒロトシに頭を下げたのだ。

「ちょっとやめてください!国王が俺のような人間に頭なんて下げないで」

「いや、シルフォードがいなくなっていたら、ロドン国にとって大きな損失になっていた。あ奴は、俺と同じく民衆の事を思いやれる貴族の一人なのだ」

 ヒロトシは、国王の言う言葉がすんなり入ってきたような気がした。

「ヒロトシ君に聞きたいことがいくつかあるがいいかい?」

「ヒロトシ君?先ほどまではお主と言っていたからそれでいいですよ」

「あれは公式での言葉遣いだ。俺は本来ああいう事が嫌いだ。もっと気を楽にしていたいんだよ。俺は君の事も気に入っているので、本来なら王都に住んでほしいとも考えているんだよ」

「いや……それはちょっと……」

「ああ。わかっている。報告によれば君は自由にしたいんだろ?」

「申し訳ありませんが……」

「俺は君を束縛しようとは思わないよ。その方がこの国には利益をもたらしてくれるはずだからな」

「ご理解のほどありがたく思います」

「オイオイ……そんな言葉遣いはいらない。ここはプライベートだ。俺の事もローベルグと呼んでくれたらいい」

「陛下を名前呼びなんて、そんなの無理ですよ」

「いやなのか?公式の場でそれをしろと言っているのではない。あくまでもプライベートの話だ」

 ローベルグは折れそうになかったので、ヒロトシは渋々了承したのだった。

「ところで、ローベルク様の聞きたい事とはなんですか?」

 ヒロトシが、名前で呼んでくれたことに気分を良くして、ローベルグは笑顔になった。

「君の移動手段だよ。何でミトンの町から1週間で移動が出来たんだい?普通ならありえない事なんだ」

「まあ、そうでしょうね……街道が砂利道で、魔物や盗賊がいる旅では一日の距離がたかがしてています」

「そうなのだ……早馬でも3ヶ月はかかるのにどうやって……」

「俺には、特別な乗り物があるんですよ」

「それを見せてもらうのは可能か?」

「構いませんよ。だけど、どこで見せたらよろしいですか?」

「では、着いてまいれ!」

 ヒロトシは国王に兵士訓練場に案内された。そこは陸上競技場の様に広い場所だった。国王がその場所に来ると、訓練をしていた兵士達はすぐに訓練をやめ敬礼をしたのだった
 
「お前達はそのまま訓練を続行してくれ」

「「「「「はっ!」」」」」」

「ヒロトシ君ここなら大丈夫だろ?」

 ヒロトシは、インベントリから4tトラックを出して見せた。

「こいつは凄い!鉄でできておるのか?」

 ローベルグは、トラックを見て驚きはしゃいでいた。訓練をしていた兵士もそのトラックに興味津々で、こちらを見ていたのだった。

「それで、この鉄の馬車は何でひくのだ?相当馬力のある生物で引くのかい?」

「いえ、これは自分で走るんですよ」

「どういうことだ?自分で走る?」

「乗って見ますか?」

「ああ!乗ってみたいな」

 ヒロトシは、ローベルグを助手席に乗せて運転したのだった。

「こいつは凄い!なんて早く走るんだ」

 トラックは競技場を30kmぐらいで走った。

「どうでしょうか?」

「こんな乗り物が開発されているなんて驚きだが、これ以上は早く走れないのか?」

「今のが30kmほどです」

「30kmだと?」

 ローベルクが驚くのは無理もなかった。馬車でそんなスピードをだせば、すぐに転倒してしまう。木造のタイヤでは衝撃に耐えられないからだ。
 それに鉄製にすれば、あまりの重さに馬がすぐにへばってしまい休憩をしないといけないくなるのだ。

「いえ、今のは30kmです。本気を出せば条件に寄りますが120kmは普通に走れますよ」

「……」

 ローベルグは、ヒロトシの説明に口をポカンと開いたままになった。

「今のスピードの4倍だと……」

「まあ、そんなスピードを出せば乗り心地は最悪ですけどね。道がちゃんと舗装されている場合ですよ。だから、この王都に来たときは、もっとスピードを抑えてやってきました」

「君は、確か奴隷を30人ほど連れてきたはずだ。なのに、この乗り物はそんなスピードが出せるのか?」

「そうですね」

 普通に答えるヒロトシに、ローベルグは呆れ返ってしまっていた。

「ちょっと相談があるのだがいいかい?」

「いいですが、その相談には乗れませんよ?」

「まだ何も言っておらんではないか!」

「ローベルグ様は、このトラックを生産できないかと言いたいのですよね?」

「そうだ。この乗り物があれば物流が楽になる。それに、行商人達の危険が無くなると言ってもいいだろう」

「ローベルグ様、いい考えですが無理です」

「なぜだ?」

「まず、俺一人では対応できないからです。これは研磨スキルで召還した乗り物であって、俺が作ったものではないんです」

「魔道具ではないのか?」

「そうです。俺専用の乗り物というわけです」

「そ、そうか……だが、俺も乗れたじゃないか?」

「ええ、乗るのは出来ますよ。だけど運転は無理でしょう」

「その言い方だと運転が出来ると言う事か?」

「やってみますか?」

「やらせてくれ!」

 ローベルグは、運転できるかどうか確かめたが、ミッション車を運転するには経験がなかった為、ハンクラが出来なくてギアチェンジがうまく出来ずエンストを繰り返したのだった。

「上手く行かんではないか!」

「これでよくわかったでしょ?運転には技術が必要です。もし運転が出来る様になっても、40kmで走るスピードにもなれないと反対に危険です」

「確かに……そんなスピードで人にぶつかれば死亡してしまう……」

「そういうことです。これを販売したら反対に危険が増えるのは間違いなしでしょうね」

 ヒロトシの説明に、ローベルグは納得するしかなかった。


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