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第2章 研磨という技術

31話 闇ギルド、再び恐怖に陥る

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 ヒロトシは、ミトンの町から出ようとしていた。

「ヒロトシ殿、こんな時間にどこへ行くつもりですか?」

「ああ、ちょっとな……」

「どこにいくつもりですか?もうすぐ日が暮れますよ」

「ノーコメントだ!」

「ヒロトシ殿出て行かないでください。本当に日が暮れたら、町の外は危険になります」

「オイオイ……あのスタンピードを止めた俺に、何の心配があるというんだよ?それより、貴方達の根底の方を心配した方がいいぞ?」

「ヒロトシ殿は何を言っているのですか……」

 町の城門を守っている兵士は、心当たりがあるようで口ごもっていた。

「その様子じゃ、心当たりがあるようだね」

「今はそのような話を……」

「まあ、そんな事はどうでもいいよ。俺がどこに行こうが勝手だし、制限できるわけないよね?」

「それはそうですが……」

「じゃあ、町の安全を守るために頑張ってくれ。俺は明日中には帰って来る予定だから心配はいらないよ」

「わ、分かりました。お気をつけて行ってらっしゃい」

 ヒロトシは、【ホーチュン】という魔法を唱えた。これは聖属性の魔法で、魔法スキルが1レベルで使える便利魔法である。術者の幸運が少し良くなり、行動したことが好転する魔法で、ヒロトシは北の森に向かった。
 ヒロトシはエルダーリッチのいた場所で、闇ギルドの痕跡がないか調べたのだが見つからなかった。

「やはりここには、もう闇ギルドの痕跡はないか……」

 陽が落ちた森の中は暗く、どこからか狼の鳴く遠吠えも聞こえてきた。しかし、こういう時は魔道スキルがいかんなく発揮するのだった。

 ヒロトシは真っ暗闇の中【ナイトサイト】の魔法を唱えていた為、周囲は昼間のように明るく見えていた。ナイトサイトは闇属性のように感じるが光属性の魔法で、術者の網膜を活性化し光を取り入れようとする。
 効果範囲は、自分の周囲半径レベルメートル分の範囲を12時間明るく見えるようになる。実際には明るくなっている訳ではなく、術者が見えるようになっているので、他の人間には真っ暗闇である。

 その中、動く人影のようなものがあった。それは山賊だった。

「うう~~~~~!」

「うるせえ!静かにしろ。殺されてえのか?」

 素巻きにした女性を、肩に担ぎ運んでいる山賊が5人ほどいたのだった。周囲にある村を襲ったのだろうか、山賊は返り血を浴びていて、あれでは助かったのはあの担がれている女性だけだろうと容易に想像できたのだ。

(この辺りに山賊のねぐらがあるのか?ついでに、潰しておいた方がいいかもしれないな……)

 ヒロトシはそう思い、山賊の後をつけたのだった。すると山賊は、ヒロトシには気づかず北の森の奥にどんどん進んでいった。
 そこには、洞穴があり見張りが数十人立っているほどの大きなアジトが出来ていたのだ。

(こいつはひょっとして……)

 ヒロトシは神眼で、見張りに立っていた人間を鑑定すると、アサシン10レベルと出たのだ。

(ここは闇ギルドのアジトか!)

 そして、サーチをすると洞穴は、その奥は広がっており、知っている名前が表示されたのだ。

「領主様……ここに誘拐されていたのか」

 ヒロトシはこの洞穴をみて、闇ギルドも愚かな奴とニヤリと笑ったのだった。サーチで調べた限り、出口はここだけであった。
 つまりここさえ封じてしまえば、逃げる事が完全にできないのだ。山賊達は、見張りの人間に挨拶をして中に入っていき、見張りの人間は又周囲に気を配るのだった。

 ヒロトシは小石拾い、その小石に【サイレンス】の魔法をかける。すると、その小石の周囲2mほど無音となり、ヒロトシの足音も一切しなくなった。
 サイレンスとは、本来の使用方法は魔法使いにかけると音の伝達がなくなり、詠唱が出来なくなる事で魔法を使えなくする魔法である。しかし、この魔法は無詠唱で唱える事が出来る魔法使いには効果のない魔法だった。

 しかし、ヒロトシは小石にサイレンスを掛ける事で、無音のエリアを自分の周囲に作ったのだ。この小石を握り移動すれば、音の伝達が無くなり足音もしなくなり周囲に気づかれないようにした。



 そして、ヒロトシはその洞窟めがけて全力疾走をした。そのスピードは常軌を逸しており、人の目には見えないくらい速く移動して、一瞬で洞窟の前にいるアサシンを殺した。

「ぐっ!」
「ぐはっ……」
「何者……」

 目にもとまらぬ速さで、ヒロトシはアサシン十数人を殺してしまった。

(俺も、おかしくなってしまったのかな……)

 この世界にきて、悪人と分かっていたが、こんな簡単に人を始末してしまった自分に、おかしな感覚に陥ってしまったのだった。
 ヒロトシは、アサシンの死体をすぐにインベントリに収納し、洞窟の中に入り出入り口に結界を張って、誰も逃げれない様にしてしまった。
 
「だ、誰……」

 中に入ると先ほどの山賊がいた。大声を叫ぼうとした途端声が出なくなり、鯉が餌を食べる様にパクパク口が動いていたが声が出せなくなった。
 その瞬間腹に痛みが走った。山賊は痛みでその場をのたうち回り大声を上げていたようだが、何も聞こえてこなかった。そして、動かなくなってしまった。

 ヒロトシの周囲2mは無音空間が出来ていて、闇ギルドの人間を次々目にもとまらぬ速さで処分していき、ヒロトシは人質が捕らえられているであろう場所に向かっていった。

「だっ……」

 ヒロトシの気配に気づいた、山賊やアサシンは声を上げると同時に殺されていき、物音一つ立てずにインベントリに収納されていく。

 地下牢のような所に、シルフォードと何人かの女性が捕らわれていた。シルフォード達は比較的元気な姿で囚われていた。
 本来、囚われた人間の扱いは酷い事になるが、シーズの命令もあり食事や身体を拭くお湯なども用意されていて、シルフォードは元気そうであった。

「誰……」

 牢屋の見張りに立っていた山賊は、声を上げると同時にヒロトシに殺されたが、崩れ落ちる音が全く聞こえなかった。山賊の死体をインベントリに収納するときに、小石も収納すると足音が聞こえるようになった。

「領主様……無事でよかった」

「その声はヒロトシ君か?」

 牢屋の中には蝋燭の炎が照らされていて、シルフォードの周囲だけが明るかった。ヒロトシが、その炎に近づくとシルフォードにも、ヒロトシの姿が確認できたのだった。

「助けに来てくれたのか!」

「領主様静かに」

 ヒロトシは、自分の口の前に人差し指を持っていき、シルフォードを静かにさせた。

「す、すまない……」

 すると、いきなりヒロトシは牢屋の中にいるシルフォードに投げナイフを投げた。シルフォードは何が起こったのか分からなくて固まってしまったのだった。一緒に囚われていた女性達は、その恐怖に声が出せず震えて抱き合っていた。

「な、何を!」

「ぐはっ……」

 その投げナイフは、シルフォードの後ろにいた女性の脳天を貫き絶命したのだった。

「ヒロトシ君何をする!気でもふれたのか⁉」

「領主様静かに!その女性はアサシンです」

「なんだと……」

「万が一の為に、囚われたかの様にしていたのかもしれませんね……」

 ヒロトシは、牢屋の中いる人間を神眼で見て、もう間者はいないと確認し、牢屋に結界を張った。

「領主様。この結界石の範囲から出ない様にしてください」
 
 ヒロトシは、結界石をシルフォードに渡したのだった。これで、シルフォードと囚われていた女性達の身の安全は確保されたのだった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!助けに来てくれたのではないのか?」

「ここにいる人間すべて闇ギルドの人間です。あいつ等を処分しないと、後々大変になるので待っていてください」

「しかし、君1人……で……」

「十分ですよ!大船に乗った気分で待っていてください」

 ヒロトシの心配はいらないと、シルフォードも気づいたようで、その後の言葉が続かなかった。ただ、囚われていた女性達は心配そうに、ヒロトシを見ていたのだった。

 シルフォードは、ヒロトシの実力を知っているが、他の村から囚われてきた女性達には、成人前の少年にしか見えなかったからだ。
 ヒロトシは、シルフォードの安全が確保された事で、もう遠慮することはなかった。音を消し素早く犯罪者達を処分することはなく、正面から堂々と立ち向かったのだった。

 牢屋から、カツンカツンという足音が聞こえてきて、犯罪者達は見張りの交代かと思い、その音の方を見ると少年が一人立っていた。

「誰でぇ!ここをどこだと思っている!」

「闇ギルドの支部が、こんなところに出来ているとは思いもしなかったよ」

「それを知られたら生きては返せねえ!者共やってしまえ!」

「ガキが粋がりやがって!」
「馬鹿なやつよ!」
「ひゃははははは!」
「坊や、あたしが可愛がってあげるわ!」

 犯罪者はその号令に一斉に、ヒロトシに飛びかかろうとした。しかし、ヒロトシは冷静に魔法を飛ばしたのだ。

「エアカッター!」

 ヒロトシは、犯罪者達に手を向けた瞬間、【エアカッター】を放ったのだった。無数の見えない空気の刃は、盗賊達の首や手足を飛ばしたのだ。

「な、何だと……」

 盗賊達犯罪者は、その場で絶命した者や手足を飛ばされた者は、あまりの痛さに叫んだのだ。その声が洞窟内に絶叫した。

「なんだ?なにがあった?」

 盗賊やアサシン達はその声に、ヒロトシの前にワラワラ現れたのだ。

「あ、あいつは!」

「なんだ?ガーランド知っているのか?」

「知っているも何もあいつが、ミトン支部を潰した張本人だ!」

「「「「なんだと?」」」」」

「何でここが……」

「今日で、闇ギルドは壊滅する。お前達はここから逃げる事は出来ないと思え!」

 ガーランドは全員に指示を出し、突撃命令をだした。しかし、剣を持ったヒロトシには誰も敵わなかった。次々と手足は簡単に飛ばされ行動不能にされ、動けなくなった盗賊やアサシンはとどめを刺されていった。

 ガーランドは悪夢を見ているようだった。次々に殺されていくアサシンや盗賊達、そして影の中に潜んでやり過ごそうとしていたアサシンは、ライトアローで殺されていくのである。
 近づけば剣で殺され、飛び道具を使えばあり得ない速さで全部回避され、魔法がとんでくるのである。闇ギルドの連中が1モーションする間に、ヒロトシは4から5モーションの行動をして反撃してくるのだ。

「こ、こいつはやべえ!」
「こんなの相手にしてられるかぁ!」
「逃げないと!」

 ヒロトシに恐怖した盗賊やアサシンは、背を向けてその場から逃げ出そうとした瞬間、がら空きになったその背中に魔法とんできて絶命していくのだった。

「お前等!逃げんじゃねえ!」

「馬鹿野郎!こんな奴相手にしていたら命がいくつあってもたりねえ!」

 そう言って逃げ出そうとした瞬間、その背中にファイヤーアローが突き刺さった。

「ぎゃあああああああああ!」
 
 その盗賊は絶叫しながら、丸焼けして焼死してしまった。

「な、なんなんだよ!こいつは!」

 剣を振り回していた盗賊は、全然当たらないヒロトシに恐怖した。その人間は、盗賊の中でもレベルは高く剣のスキルは4レベルと高い。4レベルと言えば達人レベルである。それなのに、全部回避されていくのだ。

「そんな、剣の腕があるのに盗賊に落ちるとは勿体ない」

「うるせぇ!お前に関係はないだろうが!俺は好きな時に飯を食い、女を好きな時に抱き自由に生きるのが好きなんだ!どうだ?お前もそんな生活に憧れるだろ?俺達の仲間にならねえか?どんなこともお前の自由だ」

「馬鹿な事を!寝言は寝てから言え!」

 ヒロトシはその盗賊の腹を斬った。

「ぐはっ!ば、馬鹿な……この俺様がやられるなんて……」

 そう言って、その場に崩れ落ちたのだった。

「馬鹿な奴だ!」

「ひぃ~~~~~!バルバスがやられた!」
「う、嘘だろ!」
「や、やめろ!こっちに来るな!」

 盗賊の中でも1位2位の腕を持ち、最強と謳われたバルバスが殺されたことで、盗賊は一気に戦意喪失した。四つん這いで逃げ惑う人間やその場から恐怖で震え動けなくなる人間。気絶してしまう人間で、その場は阿鼻叫喚の世界になっていた。


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