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第2章 研磨という技術

15話 災害(スタンピード)の終息

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 団長のマリクは、部下達に撤退する様に指示を出した。

『くかかかかか!それでよい。主(ヌシ)たちはこれから我らに服従生活になる。言ってみれば我らが主(あるじ)である』

「……」

 マリクは、エルダーリッチの言葉に顔を歪ませ指示に従うしかなかった。その時、町の方向から炎の矢が撃ちこまれたのだ。

『『『『『ぎゃあああああああああああああああ』』』』』

 その炎に、リッチロード5体が灰になったのだ。



 少し時間が巻き戻り、一方ヒロトシは海の方面の丘から、ミトンの町を見下ろしていた。行きよりも速いスピードで帰ってきたヒロトシが、ミトンの町がスタンピードに襲われていたことが分かり、セバスが魔道砲を使った理由がようやく理解できたのだった。

「なるほど、こういう理由でセバスが魔道砲をつかったのか!」

 Sランク冒険者が、北の森から襲ってきていたアンデット集団を抑えていることが分かり、自分もミトンの北門に自転車で向かった。それを確認した、見張り台に立っていた兵士が歓喜に震えたのだった。

「あ、あれは!」

「どうした?何があったのだ?」

「ヒ、ヒロトシ殿です!ヒロトシ殿が帰ってきました!」

「ヒロトシ君が帰ってきてくれたか……よ、良かった……これでミトンの町は救われる」

 シルフォードは、心の底から安堵したのだった。

「旦那様!」「「「「「ご主人様!」」」」」」

 城壁の上で、セバス達も魔道砲の操作を頑張っていた。ヒロトシの姿を確認できてその目に涙が溢れたのだった。ヒロトシは、北門の正面に立って、振り向きセバスたちの姿を確認した。

「お前達!ご苦労様。よくやったな。後は任せろ」

 ヒロトシは、セバス達に感謝したのだった。

「旦那様!気を付けてください。アンデットは無限に湧いてきます」

 ヒロトシは、セバスの言葉にニコリと笑って、アンデットの方に魔法を撃ったのだった。

「冒険者達は……」

 ヒロトシは神眼で見て、冒険者達がいないアンデットの中心部に【ファイヤーボール】を撃ちこんだのだ。ファイヤーボールは、前方のアンデットを吹き飛ばした。その威力は魔道砲よりあり、爆風が巻き起こり冒険者達も何が起こったのか分からずビックリしていた。
 ヒロトシのファイヤーボールの威力は、着弾した地点を半径に1m×レベルにいる範囲内の敵対対象全てに、レベル×10+INT(知力)のダメージを与えるものである。
 
 分かり辛いと思うが、つまり直径600mの円の範囲にいるアンデット全てに、6000ダメージを与える大爆発を起こしたというわけだ。
 そして、ヒロトシの魔道スキルには魔力強化も2レベルがあるので、単純に威力は1万2千ダメージとなり、火属性が弱点であるアンデットはひとたまりもなかった事になる。

 その大爆発に、北の森から這い出ていたアンデットは一掃されてしまったのだ。そして、ファイヤーボールの範囲外にいたアンデットは、Sランクの冒険者にとって脅威ではなくなり殲滅されて行くのだった。

「ファイヤーボールは威力がありすぎる……ホーリーライトにしておこう……」

 ヒロトシは、そのまま森の中に突き進み、前方から襲い掛かって来るゾンビやスケルトンがいる範囲に【ホーリーライト】をかけた。

 ホーリーライトは2レベルの聖属性の範囲魔法で、直径300mのサークル内のアンデットを浄化させる魔法である。

「こっちの方が森も燃やさないし、低レベルのアンデットにはこっちの方がいいな!」

 森の中は何故か奥に行くにしたがって、森の木々や土壌が腐敗していく。ヒロトシは、この状況にとんでもないものがいると予想していた。
 そして、その予想通り森の奥には、漆黒のローブを纏ったリッチが6体も存在していた。ヒロトシは神眼でリッチを鑑定すると、ただのリッチではなく、エルダーリッチとリッチロードだった。

「何でこんな魔物が……」

 ヒロトシは、レベルが低いリッチロード5体に【ファイヤーアロー】を撃ちこんだ。本来、リッチには弱点を補う為、魔法レジスト能力がある。魔法で攻撃しても、ダメージが通らない事が殆どである。しかし、ヒロトシの魔法でリッチロード達は絶叫して絶命した。

『『『『『ぎゃあああああああああああああ』』』』』

 リッチはその場でのたうち回り、その体は灰となってしまった。その場から撤退しようとしていたマリク達騎士団は何が起こったのか理解できなくて、その状況に目を見開いた。

「マリクさん!後は俺にまかせて!」

「「「「「「おおおおお!」」」」」」
「ヒロトシ殿!」

 リッチロードが灰になり、町の英雄がこの場にいたことで、騎士団の気落ちした士気が盛り上がったのだ。

『何故だぁ!リッチロードが灰になっただと?不老不死の身体なのだぞ?』

 リッチロードは最低でも100レベルの魔物である。つまり単純にHP1000は有していて、マジックレジストも70%を誇る魔物だった。つまり、1000ダメージを与えても300しかダメージは通らず、そう簡単に絶命するはずがないのだ。

『貴様ぁ何者だ……』

「よくしゃべる骸骨だな!お前のいる場所はここじゃない!とっとと死んでしまえ!」
 
 ヒロトシは、容赦せずファイヤーアローを撃ちこんだ。さすがはエルダーリッチである。ヒロトシのあれほどの威力を誇った魔法は、マジックレジスト90%とファイヤーレジストの魔法で余裕で耐えきった。

『ぐはっ!我の身体を燃やしただと……』

「ほう!さすがは究極の魔法生物だな!俺の魔法に耐えるとは大したのもだよ」

『ぬかせ!デス!』

 エルダーリッチは、ヒロトシに【デス】を唱えたのだ。しかし、デスは各上の相手に通用する魔法ではない。
 
「そんな魔法俺には通用しないよ」

『な、何故だ!なぜ、デスが効かない!』

「当たり前じゃないか。デスのような魔法は、術者よりレベルが高いと効くはずないだろ?」

 ヒロトシの言葉を聞き、エルダーリッチは愕然としてしゃれこうべをガチガチ鳴らしたのだった。エルダーリッチが恐怖を覚えた瞬間だった。

『な、何だと……お前は、我より強いというのか……』

「なんだ、お前は自分が世の中で一番強いと思っていたのか?めでたい奴だな……」

『そんなの認めれるわけあるか!』

 エルダーリッチは、フィアオーラを身に纏わせた。その瞬間マリク達は、恐怖を覚えエルダーリッチから逃げ出したのだ。しかし、その状況にヒロトシは笑顔で答えた。

「マリクさん達を避難させてくれてありがとな。これで遠慮なく魔法を撃てるよ」

 ヒロトシの魔法は威力が強すぎる為、マリク達を巻き添えにしない様に気を遣って威力を抑えていた。

『馬鹿な……我を相手に手を抜いていたと申すのか?……』

 当然の事だがヒロトシは、エルダーリッチのフィアオーラには何の影響もなく、【ホーリーボール】を自分の手に出した。

『かかかかかか!何をするかと思えば、そんな低レベルの魔法など我には効かん!』

 エルダーリッチは、ヒロトシのホーリーボールをみて大笑いしたのだった。その証拠に、先ほどのファイヤーアローのダメージはとっくに完治していた。
 エルダーリッチと言えばレベル150以上の元魔導士である。アンデットでヒールのような回復魔法はつかえないが、【ドレインボディー】という周囲からエネルギーを吸い取り自分のHPを回復していた。

「何を勝ち誇っているんだ?確かに、この俺の魔法スキルは低いが、お前達がやったように数が多ければ問題はないよ」

 そういって、ヒロトシは自分の手の他にも自分の周囲に、数百個のホーリーボールを浮かべたのだった。

『そ、そんな……たかが人間がなぜそんな数のボールを出せる……わけが……』 

「それが遺言でいいか?じゃあ、死ね!」

 ヒロトシは、エルダーリッチに全てのボールを命中させた。

『ぎゃああああああああああああああああ!』

 いくらエルダーリッチが、マジックレジストを90%を誇っても、あの数のホーリーボールを当てられたらひとたまりもなく、絶叫しながらその体は消滅してしまった。

「まあ、今は消滅してしまったがお前は護符があるから、いずれ復活しそうだけどな……」

 リッチという魔物は、不老不死になる為、自分の魂を護符に封じ込め、その護符がある限り死ぬことはない。つまり、リッチを討伐するにはその護符を見つけて破壊しないと、何度でも生き返るのである。
 それ故の不老不死であった。ヒロトシは念のためその護符を探したが、その場に残っていたのは、リッチが着ていた漆黒のローブと指輪とアミュレットが6個づつ見つかったのだった。

「へえ、いいもの身に着けていたんだな」

 指輪は、ファイヤーレジストリング+3。アミュレットはマジカルブースト+3。漆黒のローブは回避+3がついていた。

 すると、ヒロトシがリッチを討伐すると、町の方から歓声が聞こえてきた。ここまで相当な距離があるのに、その声が届くというのは凄い歓声だというのがわかる。




 そして、この様子を見ていた闇ギルドだが、ネクロマンサー達はテーブルを叩きミッションの失敗を悔しがっていた。

「むぐぐぐぐ……」
「いったいどういう事なんだ!」
「あのエルダーリッチが、討伐されるなんて……」
「ヒロトシの強さは一体……」
「ガーランドこれは一体どうなっておる?」
「俺には理解できない……闇ギルドを滅ぼされた時は必死に逃げただけだったんだ……あの時、ヒロトシが手を抜いて闇ギルドを壊滅させたとしか……」
「馬鹿な!手を抜いて闇ギルドを壊滅させたというのか?」
「……」

 闇ギルドのネクロマンサーとガーランドは、別の場所でこの状況を水晶で覗いていたのだった。そして、ヒロトシの底知れぬ強さに驚愕したのだった。


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