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第2章 研磨という技術

7話 ダンジョンで学んだ事

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 ヒロトシ達は、無傷でマンティコアを討伐した。当初、屑石を捨てに来ただけだったが、まさかAランクの魔物を討伐するとは思いもしなかった。

「さてと、素材は手に入ったし帰るか」

「はい。ご主人様もうあんなことはやめてくださいね」

「分かったってば……」

「約束ですよ」

「無事に討伐出来たんだからいいじゃないか」

「「良くありません!」」

 ヒロトシは、二人に文句を言われながら、ダンジョンから出たのだった。



「ふうう!やっぱ地上は気持ちいいな」

「「そうですね」」

 すると、兵士達が隊列を組んで、ダンジョンの中に入ろうとしていたところに、ばったりヒロトシとはちあったのだった。

「「「「「ヒロトシ殿!」」」」」

「おわっ!なんだよ?いきなりでかい声を出して、びっくりするだろ?」

「無事だったのですか?」
「本当に良かった……」

「あっ……冒険者達に聞いたんだな?」

「そうです!今からマンティコアを討伐しようとしていたのです」

「それならもう大丈夫だぞ?」

「いえいえ、何を言っているのですか?1階層にマンティコアが出たと聞いたのですよ」

「そのマンティコアなら、討伐したからもう大丈夫だ」

「「「「「「はっ⁉」」」」」」

 ヒロトシから討伐したと聞いて、兵士達は理解できなくて聞き返してきた。

「どういう事ですか?マンティコアと言えばSランクに近い魔物ですよ?」

「どういう事も何も、俺が討伐したからもう大丈夫だよ」

「はぁあ?冗談でしょ?」

「いや本当だよ」

「ご主人様、証拠の素材を見せてみたらいかがでしょう?」

 ミランダが、ヒロトシにマンティコアの素材を見せてみたらどうかと言ってきた。そして、ヒロトシはインベントリから、マンティコアの素材を兵士達にみせた。

「こ、これはマンティコアの毒針……本当にヒロトシ殿が、一人で討伐してしまったのですか?」

「ああ、心配かけてすいません。でも、もう大丈夫だよ」

「ほ……本当に、ヒロトシ殿が一人で……」

 それを周りで見ていた兵士達はもちろん、この事を兵士に報告した冒険者達も呆気に取られていた。こんな短時間でマンティコアを一人で討伐してしまったヒロトシにびっくりしていたのだった。
 当然だが、この一件はミトンの町では噂になったのは言うまでもなく、またしても、ヒロトシの株が上がることになった。

「それじゃ、俺は鉱石を持って帰るけどいいかな?」

 ヒロトシがダンジョンにはいる時、鉱石をもらう約束をした兵士に、そのことを伝えて町に帰還したのだった。

 ダンジョン前では、鉱石を全部収納したヒロトシを見た冒険者は、あの量を全部収納して崖に落としたとしたら、マンティコアは怒り狂うだろうと納得したのだった。

 そして、屋敷に帰ったヒロトシは、新たな魔道具の製作に取り掛かるのだった。ダンジョンでの、ミランダの話しを聞き、一応念のために予防処置をしておこうと思ったのだ。



 次の日、ヒロトシはいつも通り、冒険者達の装備を磨いていると、冒険者ギルドのカチュアが、ダンジョンの噂を聞き、㋪美研に血相を変えてやってきた。

「ヒロトシ様!ダンジョンの事は本当ですか?」

「唐突になんだ?」

 ヒロトシが客室に入ったとたん、カチュアと部下の数名が身を乗り出して、問いただす様に訊ねてきた。

「冒険者に聞いたんだろ?本当の事だがそれがどうしたんだ?」

「なんで、マンティコアの素材を、ギルドに売りに来ないのですか?」

「えっ⁉セバス、魔物の素材って冒険者が絶対に買い取る決まりでもあるのか?」

 ヒロトシはそんな決まりがあるのかと思い、お茶を出して側に立っていたセバスに尋ねたのだった。

「いいえ。そんな事はありませんが?」

「だよな?」

「ちょっと待ってください!売りに来なかったのはワザとだったのですか?」

「そうだよ。Sランクに近い魔物の素材なんて、そう滅多にお目にかかれないからな。自分で何かに利用できるかと思ったんだよ」

 それを聞いたカチュアと、ギルド職員はガックリと肩を落としたのである。

「なんだよ?ギルドも、マンティコアの素材を欲しかったのか?」

「そりゃ、Sランクの素材と言ってもいいのですよ。欲しいに決まっているじゃないですか」

「そうか、だけど諦めてくれ。これらの素材は俺が使うつもりだからな」

「そ、そんな少しだけでも売ってもらえないでしょうか?」

「まあ、無理だな……牙と爪はうちの護衛の武器にしようと思うし、角と翼は魔道具に利用できるし、毒針は俺が使える武器にしようと思っているからな。つまり捨てる所は全くないという事だ」

「Sランクの素材を捨てる人なんていませんよ」

「だったら、売らないのも分かるよな?」

「うぐっ……」

「じゃあ、話は終わりだな?」

「ちょっと待ってください!じゃあ、先ほど話しになかった魔石はどうしたのですか?魔石は使いませんよね?」

「魔石は一番重要だろ?俺がわざわざ言わなかったのは、一番必要とする物だからだよ」

「ううううう……どうしてもだめですか?」

「ああ。申し訳ないが駄目だ。ギルドに売っても、これをオークションにかけるだけだろ?」

「それはそうですが……必要と思う人が購入してくれるのです。いくらになるのかわかりませんよ?」

「だから、俺も必要なんだってば……」

「そ、そんな……」

 ヒロトシは、カチュアの目を真剣に見て、説得し出したのだった。

「まあ、今は納得できないだろうが、これらの素材を使って役に立つものを作るから我慢してくれないか?」

「役に立つもの?それはどういう物でしょうか?」

「まだ内緒だ。しかし、不測の事態に陥った時、役に立つ物になるのは約束しよう!」

「不測の事態……」

 カチュアは、ヒロトシが心配するような不測の事態という事に背筋が凍ったのだった。つまり、あれほどの強さを誇っているヒロトシがどうにもならないという事である。
 そんな人間が言う、不測の事態とはどういう物なのか全然予想ができなかった。それ故に恐怖感だけが膨れていたのだった。

「なっ?とりあえずは、俺の言う事を信じてくれないか?」

「ですが、その不測の事態というのは?」

「俺達が想像のできない事だよ。起こってみないと分からないが、起こった後にバタバタしてももう遅いからな。それに対して準備をしておきたいんだよ」

「それには、その素材がどうしてもいるというのですか?」

「そういうことだ」

 この時、ヒロトシはガイン達に、オリハルコンを使ったあるものを製作を頼んでいて、工場では必死に製作していたのだった。

「分かりました……冒険者ギルドは、ヒロトシ様のいう事を信じて、身を引かせていただきます」

「そんな言い方をするな。素材を売らない俺が悪いみたいだろ?」

「いえ……そういうわけではなく、冒険者ギルドは貴方を信じるという意味で……」

「意地悪な言い方して悪い。まあ、その不測の事態が起きなければ、一番いいんだけどな」

 カチュア達は、ヒロトシの言った意味を考えながら、ギルドへと帰還したのだった。



 カチュア達が帰ったあと、セバスがヒロトシに話しかけてきた。

「旦那様……不測の事態というのは、どういった事でしょうか?」

「ああ。そりゃ決まっているだろ?スタンピードだよ」

「昨日ダンジョンに行った時、スタンピードの予兆があったのですか?」

「いいや。ないよ?」

「そ、そうですか……なら良かったです」

「だが、俺は、ダンジョンの恐ろしさをミランダから聞いて、今のままでいいのか疑問を持ったんだ」

「どういう事でしょうか?」

「ミランダは、数百年前にスタンピードに襲われた話しをしてくれたんだ。そんな災害は、忘れたころに起こるというだろ?」

「ですが、領主様は町を守るために、ダンジョンの入り口に守りの兵士を常駐してくれているではありませんか?」

「それは分かっているよ。だけど、仮にスタンピードが本当に起こったと仮定をしようか?その時、あの兵士達で抑える事は可能なのか?」

「そ、それは……」

「それにだ。そういった不幸は重なるというだろ?」

「不幸が重なる?」

「仮に今この地点で、スタンピードが起こったとしよう。そうなるとどうなると思う?」

「どうなるって……あっ!」

「気づいたか?そうだ。今このミトンの町には、頼りになる冒険者が少ないって事だよ」

「そうか、みんな領主様の依頼で、塩の輸送をしている……」

「当然、そうなった場合町は一瞬で滅亡だ。まあ、俺達㋪は助かるだろうけどな」

「それはどういうことですか?」

「この家の敷地内は、俺自身の結界が張ってあるからだよ。しかし、町の人間は魔物の犠牲になるだけだよ」

「な、なるほど……」

「俺は、今回ダンジョンに行って、まさかマンティコアに遭遇するとは思わなかった。まあ、俺の不注意だったわけだが……しかし、それでもマンティコアが、1階層にいたのは間違いないのは確かなんだ」

「確かに……」

「つまり、予想しない事がいつ起こってもいい様に、準備だけはしておきたいだけなんだ」

「わかりました」

 この時は、不測の事態の準備と言っていたことが、近いうちに使う事になるとは、ヒロトシは夢にも思っていなかったのだった。


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