上 下
45 / 347
第2章 研磨という技術

6話 ダンジョンでの戦闘

しおりを挟む
 ヒロトシはミランダに怒られて、ダンジョンの中での行動をもっと経験しないといけないと反省した。すると前方から、呻き声を上げながら人らしきものが数十体現れた。

「2人とも気をつけろ!ゾンビだ」

「「はい……」」

「大丈夫だ!俺が磨いた装備を信じろ!」

 ミランダとアイリーンの武器は、800#研磨で短剣+3になっていたが、2人はゾンビに対して恐怖を抱いていた。
 ミストラルの世界では、アンデットは斬りつけても襲い掛かって来るようなしつこい魔物だ。つまり、弱点である聖属性か火属性の魔法で焼き払った方が確実に仕留める事が出来る。

 ミランダとアイリーンは、震えながらもゾンビに立ち向かい、ヒロトシの役に立とうと、短剣でゾンビを斬りつけた。ズバッとゾンビに斬りつけた短剣は、本当に+3になっていて、ノーマルソードなら反撃を食らわない様に、フットワークを軽くし、ゾンビからの攻撃をかわさないといけない。
 しかし、ゾンビは短剣の一撃で糸の切れたマリオネットのように、その場に崩れ落ちた。

「これは凄いわ!」
「ええ!これならわたし達でも!」

「お前達でも、ゾンビ20体ぐらい十分に渡り合えるから自信を持て!」

「「はい!」」

 そこには、もう震えていた二人はどこにもいなかった。斬りつけても襲い掛かってこないゾンビなら何も怖くはない。ただの動きの遅いアンデットである。
 ヒロトシは、後方から二人に指示を出しゾンビを返り討ちにした。そして、時間もかからず24体のゾンビはその場に崩れ落ちたのであった。

「「ご主人様!あたし達だけで、ゾンビの大群を討伐できました」」

「ああ。ちゃんと見てた。ご苦労様」

 ヒロトシの言葉で、二人は笑顔となった。

「なあ、なんでゾンビはダンジョンに吸収されないんだ?」

「よく分かりません……ダンジョンを研究している魔法使いによれば、死んでいるからじゃないかという事です。しかし、このまま放置していてもいずれ吸収されますよ」

「そうなんだ……すぐに吸収されるのは生きているからなのか?」

「実際はよく分かりません……とにかくアンデットのような死んでいる魔物はすぐには吸収されませんね」

「なるほどなあ……不思議なもんだ」
 
 ヒロトシはゾンビに【カッティング】の魔法をかけた。ゾンビの素材は魔石だけである。ヒロトシは魔石を24個入手し収納した。

「じゃあ、先に進むぞ」

「「はい」」

 ヒロトシは、ドンドン奥へと突き進んだ。左に曲がる分かれ道はいくつかあったが、兵士の言う通りに真っ直ぐに進み、順調にゾンビ以降は魔物に遭遇せずにゴミ捨て場についた。さすがにまだ一階層なのでダンジョンの罠は無かった。

 すると、先ほどまで通路は終わり、大きな空間が現れ、その先にはそこが見えない崖が現れた。

「この崖に捨てるのか?」

「そうみたいですね」
「冒険者もいるみたいで、鉱石を捨てているようですよ?」

 その大きな空間には、他の冒険者もいた。そして、マジックバックから鉱石を捨てていたのだった。

「なるほど……」

 ヒロトシは、遠くの方にいた冒険者と同じように崖に鉱石を捨て始めたのだった。ヒロトシはインベントリから大量の屑石を投下したのだった。
 ガラガラガラと大きな音を立てて、大量の屑石はそこが見えない崖の下に落ちていった。すると、ここで想定外の事が起こったのだ。

『ぎゃあおおおおおおおおおおおおお!』

 崖の下から、なにやら魔物の咆哮が聞こえてきたのである。

「なんだ!今の声は!」

 その広い空間にいた冒険者達も、聞いた事のない声に辺りを見回していた。

「「ご主人様?」」
「いったい何が起こったのですか?」

「分からない……だけど、崖の下から聞こえてきたような……」

「ああ!まさか……ご主人様が大量に屑石を捨てたから、崖の下に魔物がいたんじゃ……」

「な、なるほど!あの大量の石が魔物にあたったと……」

「や、やばいですよ!その魔物がとべる魔物だったら……」
「どうするんですか?こんな底の見えない深い層の魔物がとんで来たら、本当にどうしようもなくなりますよ?」

 ヒロトシは、周りを確認するとレベル20前後の冒険者が、4パーティーで24人が不安そうにしていた。

「みんな、すまない!すぐにここから退避してくれ」

 ヒロトシは、魔法で冒険者達に退避を促した。冒険者達は、声の主が㋪の店長だと、すぐに分かった様子で、ヒロトシの側にやってきたのだった。

「どういう事だ?」
「あ、お前は㋪のオーナーだな?」
「いったいなんだ?今の雄たけびみたいなのは?」

「今は詳しくは説明できないが、俺がたった今この崖の下に大量に屑石を捨てたせいで、崖の下にいる魔物を刺激したようだ……」

「馬鹿な!ここから落としたと言っても魔物が怒るような量じゃないだろ?」

「いや……俺のマジックボックスは特別製で、表にあった山のような量を捨てたんだよ」
「「本当です!ご主人様は嘘など言いません!」」

「オイオイ……そんな事を信じろと言われても!」

「時間が無い!今は俺の言う通りにして退避してほしい。もし下にいた魔物が飛べる魔物だった場合、君達では対処できるはずがない」

 飛べる魔物と聞き、20レベル前後しかない冒険者達は、顔が真っ青になっていた。そして、冒険者は逃げようとしないヒロトシに声をかけた。

「ヒロトシ!お前はどうするつもりだよ?」

「俺はここに残る!やってしまった事は、自分で始末つけないといけないからな」

「「ご主人様も一緒に逃げましょう!」」

「ミランダとアイリーンは後方にさがってろ。俺は大丈夫だから!やばいぞ!本当に飛んで上がって来る物体があるぞ!みんな早く下がれ!」

 神眼で見ていたヒロトシの目には、マンティコアと表示されていた。ヒロトシの号令で、冒険者達は慌ててダンジョンの出口に向かって走った。そして、この広い空間を出る時に冒険者達は後ろを振り向くと、巨大な生物が崖から
姿を現していた。
 その姿は、ライオンのような顔に、山羊のような角が生えていて、その背には蝙蝠のような羽根が付き、その尻尾はサソリのようだった。

「「「「「マ、マンティ……コアだ……」」」」」

 その姿を見た冒険者達は、急いで地上に出ようとした。そして、その場に残ったヒロトシはマンティコアに殺さるだろうと思い、目をつぶって全速疾走したのだった。



「「ご、ご主人様!」」

「お前達はここから動くなよ。もう間に合わない」

 ヒロトシは二人の場所に、結界石を置いた。これは野営に使うときの物で、㋪の敷地内に張ってあるものと一緒である。
 この中にいれば、悪意のあるものは300レベル以上じゃないと、絶対に侵入は不可能で安全である。

 マンティコアは、上から降ってきた屑石が大量に当たり興奮していた。

「まさか下にこんな魔物がいたなんて知らなかった……恨みはないが、放っておくととんでもない事になるからな」

『ガァアアアアアアアア!」

 マンティコアは、ヒロトシに向かって威圧してきて跳びかかってきたのだ。

「「ご、ご主人様!」」

 ヒロトシは、マンティコアの攻撃を余裕で躱して、後方に飛んだ。

 そして、エアカッターを飛ばし、マンティコアの翼を切断してしまった。マンティコアは、自分の身体に傷をつけられたのは初めての事で、顔が歪み咆哮を上げた。

 そして、大きく息を吸い込んだ。

「お前の攻撃方法は、すでにわかってるよ」

 マンティコアは、大きく吸い込んだ息を吐き出すように、口から炎のブレスを吐いた。ヒロトシはその攻撃を読んでおり、素早いスピードで躱し、ヒロトシは右方向へと移動した。
 そして、又エアカッターを飛ばしたのだった。そのエアカッターは、マンティコアの翼をも簡単に切断できるものだ。
 右側から、放ったエアカッターは、マンティコアの首を簡単に斬り飛ばしてしまったのだ。
 いくら強い魔物でも、首を飛ばされてしまっては生きていられない。アンデットならば、首を斬り飛ばされても向かってこれるのだが、マンティコアはその巨体を支えられなくなり、その場に倒れると同時にダンジョンに吸収されてしまった。
 そして、その場にはマンティコアの素材の、爪・牙・角・羽根・毒針の尻尾・マンティコアの皮、最後にあり得ないほど大きな魔石がその場に転がっていた。

 マンティコアを倒したことが分かり、ミランダとアイリーンは泣きながらヒロトシに抱きついたのだ。

「「ご主人様!」」
「無事でよかった!」
「本当に無茶な事はしないでください!」

「無茶じゃないさ。俺はドラゴンも倒せると言っただろ?だったら、マンティコアぐらい目じゃないさ」

「なにを言っているのですか!」
「そうですよ。マンティコアはAランクの冒険者が30人以上で討伐する魔物なんですよ」

「それは、なんとなくわかるけど……」

「いいえ、全然わかっていません!ご主人様は、肝心なとこは大雑把だから、考えもせず今回のような事を平気で起こすのです」
「そうですよ……鉱石を捨てるのももうちょっと少しづつ……」

「ああ……悪かったよ。もうちょっと慎重に行動するべきだった。本当にごめん!」

 ヒロトシは、ミランダとアイリーンに謝罪したのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

完結【清】ご都合主義で生きてます。-空間を切り取り、思ったものを創り出す。これで異世界は楽勝です-

ジェルミ
ファンタジー
社畜の村野玲奈(むらの れな)は23歳で過労死をした。 第二の人生を女神代行に誘われ異世界に転移する。 スキルは剣豪、大魔導士を提案されるが、転移してみないと役に立つのか分からない。 迷っていると想像したことを実現できる『創生魔法』を提案される。 空間を切り取り収納できる『空間魔法』。 思ったものを創り出すことができ『創生魔法』。 少女は冒険者として覇道を歩むのか、それとも魔道具師としてひっそり生きるのか? 『創生魔法』で便利な物を創り富を得ていく少女の物語。 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※カクヨム様にも掲載中です。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...