上 下
32 / 347
第1 章 自分だけの職業

31話 救出活動

しおりを挟む
 ヒロトシのブースに、矢が撃ち込まれ咄嗟にカノンが羽根を広げてヒロトシの壁となった。それと同時にアイリ・オリビア・ウィノアがヒロトシに覆いかぶさったのだ。

「「「「ご主人様!伏せて!」」」」

 ヒロトシがいた部屋は、大爆発を起こし壁が吹き飛び下へと落下するほど、被害は大きかった。一種のお祭りだった会場は、悲鳴と呻き声の阿鼻叫喚の世界になって、貴族の護衛についていた私設兵団の兵士が貴族達を庇って、血まみれになっていた。

「旦那様!奥方!大丈夫ですか?」

「ああ!わたし達は大丈夫だ!お前達はあのがれきの下にいる人間を救いだすのだ!」

「「「「「はっ!」」」」」」

 貴族達は自分の部下達に指示を出し、瓦礫をどかし救難作業を優先させたのだった。その中で、この町の領主シルフォードは、大爆発のあった部屋を見つめていた。

「お前達爆発のあった部屋を確認するのだ!あの部屋にはヒロトシ君がいたはずだ!何があっても救出するのだ!」

「「「「「はっ!」」」」」

「お前達は下の階の救出活動だ!」

「「「「「わかりました!」」」」」

 貴族達の行動は素早くて、皆が皆自分のできる事をしたのだった。

「「「旦那様……大丈夫ですか?」」」

「ああ!お前達が庇ってくれたおかげで、身体に痛みはないぞ」

「そ、それは……ようございました……」

「お、おい!しっかりするのだ!今みんなが助けてくれる。目を開けるのだ!つぶっては駄目だ!」

「旦那様が無事……で……よか……」

「お、おい!しっかりするのだ!おい!」

 自分を守ってくれた兵士は、そこで意識を失ってしてしまった。貴族は涙を流し、兵士を抱きしめていたのだった。しばらくすると、瓦礫は取り除かれ、貴族と兵士は救いだされた。兵士は救出が早くて、町の教会から派遣されたプリーストの回復魔法で一命を取り留めたのだった。

 そして、ヒロトシの部屋に来た町の衛兵は、中の様子を見て生存者はいないと諦めたのだった。それほどまでに部屋の中は凄い惨状だったのだ。

「ヒロトシ殿!」
「意識があれば返事をして下され!」

 兵士達は、無駄だと分かりながらも声を掛けながら、瓦礫を退かそうとしていた。しかし、部屋の天井が丸ごと落下していて、数人がかりでやっと動かせる感じだった。



「「「ご主人様……大丈夫ですか?」」」
「ご主人様……無事でよかった……」

「ああ……お前達が咄嗟に壁になってくれたおかげで助かったよ。お前達は痛いところはないか?」

「「「わたし達はカノンのおかげで大丈夫ですが、カノンが……」」」

 あの時自分の翼を広げ、爆発ダメージをまともに受けてしまったカノンは、なんとかギリギリ意識を保っていた感じだった。背中に生えた翼は焼け焦げ、見ていなくとも背中一面に、火傷を負っていたことが分かるのだった。

「ちょっと待ってろ?」

 ヒロトシは、ヒールを次々に唱えたのだった。すると、ヒロトシと5人の怪我が回復したのだった。そして、上に積み重なった瓦礫の山を、インベントリに収納してしまったのだ。

 それを見ていた、瓦礫を退かしていた兵士は驚愕したのだった。

「あれは回復魔法か?みんな急げ!あの場所の瓦礫を退かすのだ!あの場所にヒロトシ殿がいるはずだ!」

「「「「「おおおおお!」」」」」」

 気合をいれて退かそうとしたのだが、そのあたりの瓦礫は消えて、クレーターのように穴が開いたのだった。
 そこには、ヒロトシ達が護衛の奴隷達に庇われたかのように、積み重なりあって生きていた。しかし、カノンの翼はボロボロになっており、一人無残な姿となっていた。自分の魔道スキルが、もっと高かったらとやきもきしていたのだ。

「ヒロトシ殿!よくご無事で!本当に良かった」

「心配かけてすいませんでした。それで他の人達は?」

「はい!下の階では、貴族様達が怪我をした程度でご無事であられます。しかし、護衛の者達は重症の者が多数出ていますが、死亡者は今の所出ていません」

「わかりました。俺達も下に救護に向かいます。カノンたちもよろしく頼む」

「「「「分かりました」」」」

 ヒロトシは、下の階に行き瓦礫をインベントリ収納していき、瓦礫に埋まっていた貴族達を全て助けてしまったのだった。
 衛兵達はすぐに怪我人を担架で運び、プリースト達の回復魔法で治療していき全員が助かったのだった。ヒロトシのインベントリが無かったら、こんなに早く瓦礫を取り除く事が出来なくて、死亡した人間も出ていただろうと言われたのだった。
 そして、ヒロトシは貴族達からは感謝されたのである。そして、シルフォードは安心したようにヒロトシに話しかけた。

「ヒロトシ君、よく無事だった」

「ええ!俺には頼りになる仲間がいますからね」

「しかし、あの大爆発の中どうやって……」

「咄嗟にカノンが翼を広げ俺達を、あの爆発から守ってくれたんです」

「なるほど……それであの奴隷は翼がボロボロに……」

 ヒロトシは本当の訳を話さなかった。その訳は研磨でカノン達の装備を強化していた事にあった。護衛をする人間の装備が、全員+3装備にしていたのだ。+3装備には条件がある。800#研磨をするだけでは、+3にはならない。
 条件というのは、装備の材質がミスリルである事である。ミスリルで作られた防具や武器なら、800#研磨をすれば+3装備となるのである。そして、最初の1ヶ月は+3、2か月目は+2、最後の1ヶ月は+1となり、だいたい90日ほどで効果が消える事になる。

「まあ、カノンは俺が時間をかけて治します。エリクサーをどんなことをしても手に入れるつもりですよ?」

「ば、馬鹿な!君は奴隷にエリクサーを使おうというのかね?」

「そんなの当り前です!俺のせいでカノン美しい翼がボロボロになったんです!しかし、いまは誰がこんな事をしたかです!」

「確かにそうだな……貴族に、こんな真似をするなんて」

「それで、目星はついたのですか?」

「ああ!今、衛兵達が容疑者の屋敷に向かっておる!」

「容疑者というのは?」

「ブロー銅鏡工場のノーザンという人物だ。あ奴しか、今こんな事をする人間はいないだろう……」

「ブロー銅鏡工場……」

「知っておるのか?」

「ちょっとよく知った名前でしてね……それで証拠はあるのですか?」

「いや……それはないが、君の鏡であ奴の工場は風前の灯火だ。君を狙った事がいい証拠だ」

「証拠がないのに大丈夫ですか?」

「……」

 しかし、ヒロトシの危惧した通り、証拠不十分でノーザンを捕らえる事が出来なかった。他の町ならば、強引にでも捕らえることができたのだろうが、この町では領主自ら冤罪にならない様に日頃から注意していた。
 逮捕される側もそれは分かっていたのである。衛兵がブロー銅鏡工場に捜索に入ろうとした時、ノーザンは証拠の提示を求めたのである。

「衛兵さん!俺が何かやったという証拠を提示してもらいたい!」

「そ、それは……これは領主様の命令で!」

「領主様なら、なおさら証拠を見せるはずです!それが無いのに、あの人はこんな事をするような人では絶対ありません!もし、今回それが無いのに捜索し俺を逮捕しようというのなら、俺はあの人を軽蔑します!」

「貴様!言わしておけば‼いい気になりおってからに!」

「怒ると言う事は、貴方達の独断でこんな事をしたのですか?」

「違う!わたし達は領主様の命で!」

「だったら、なおさら俺が何かをやった証拠を提示してください!」
 
 衛兵達は、ノーザンにそう言われてしまった。その態度は自信に満ち溢れていて、本当に関係のないのではないかと思う程だった。
 そして、衛兵達は撤退するしかなくなってしまったのだった。

「お前達は、あ奴がここから逃げ出さない様に見張って置くのだ!」

「「「「「はっ!」」」」」

「絶対に、蟻一匹見逃すでないぞ?」

「分かっております!」

 衛兵の隊長は、部下達をその場に残し、領主に現状を報告をしに帰還したのだった。部下達もあのように侮辱されて、頭に血が上っていた。絶対にノーザンを逮捕する為に騎士のプライドをかけて見張りをしたのだった。

 ノーザンは、カーテンの隙間から外を見ていた。

「ち、ちくしょう!闇ギルドの奴等、依頼を失敗しやがったな……」

「だ、旦那様……」

「あんなに目立つやり方をしやがって……いったいどういうつもりなんだ!」

 闇ギルドは、本来あんな目立つ方法を取るような事はしない。しかし、相手が悪すぎたのだ。ヒロトシは基本、屋敷か工場にいて、結界に保護されていた。どういう訳か、闇ギルドのアサシン達は屋敷に侵入が出来なかった。

 闇ギルドでも、この結界は特別なものと勘違いしていたのだ。しかし、これは旅の必需品でどこでも買える結界石だと思えないほどの物だった。
 ただ、ヒロトシのレベルが高すぎる為に、高レベルのアサシンでも屋敷の敷地内に、侵入が出来なかっただけなのである。

 そして、今回のように外出するときは、元冒険者の戦闘奴隷が目を光らせて護衛していたので、護衛の奴隷もろ共暗殺するしかなかったのだ。
 そういった判断から、一種のお祭りであるオークション会場を狙ったのだ。オークション会場では、武器の持ち込みが禁止されていた為、都合が良かったのである。

 しかし、この方法は領主でも、すぐに誰が犯人かばれるものだった。あんなに盛大に、ヒロトシの部屋が大爆発を起こしたのである。ヒロトシが死んで、得する人物を考えればすぐに見当がついたのだ。

 ノーザンは、このままでは本当にやばい事になると思い、町から逃げ出したかったが、衛兵達は隠れる事もなく、ノーザンの屋敷である敷地の塀を取り囲む様に、誰も外に出さない覚悟で見張りをしていたのだ。



しおりを挟む

処理中です...