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第1 章 自分だけの職業
24話 生産ギルドに所属するメリット
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次の日、朝の10時ぐらいに生産ギルドの人間が、ヒロトシの家にやってきた。訪問したのは、ギルドマスターと幹部達だった。
「どうも初めまして。㋪を運営しているヒロトシと言います」
「初めまして。生産ギルドミトン支部、ギルドマスターをしているロドンと言います。以後お見知りおきを」
「それで今日はどういった用件で?」
「ヒロトシ殿は、ミトンの町で活躍していると聞く。だから、生産ギルドにも加入して欲しくてこうして訪問させていただいた次第で……」
ヒロトシは、少し考えこむふりをした。そして、自分の意見を説明した。
「えーっと……俺が、生産ギルドに加入する意味はないと思うんですよね」
「何でそんな事言うのですか?」
「本当に申し訳ありません。こういう事を言うのは失礼というのは分かっています。第一に、自分の店には売る商品が無いのです」
「そ、それは……」
「俺の技術は何かを製作して、その商品を売るというものではありません。これが第1の理由」
「うっ……」
「俺は、もうこうして自分の店を持ち、店は軌道に乗っている。これが第2の理由」
「ですが……それなら生産ギルドで弟子を取られるのは……」
「そして、最後の第3の理由が、今言った弟子の理由だ。弟子を取ったところで俺と同じように、研磨してもマジカルアイテムには絶対にならないからだ」
「どういう事でしょうか?」
「俺には研磨というスキルがあるが、これは唯一無二のスキルだ。それに研磨する為のアイテムが、この世界にありますか?ロドンさん、今まで貴方は生産ギルドにいて、研磨というスキルを聞いたことがありますか?」
「ない……」
「生産する商品が無いのでは、生産ギルドに加入する意味はないと思います」
「しかし、生産ギルドに入れば宣伝や口コミで……」
「申し訳ないのですが、それももう意味がありません」
「ギルドの宣伝が意味が無い⁉」
「実は、㋪は先日こういう物を頂きました」
ヒロトシは、領主から届いた優良店営業許可書をロドンにみせたのだった。
「こ、これは領主様からの優良店許可書ですか?」
「そうです。これで、宣伝は充分なんです」
「そ、そうですか……」
「本当に申し訳ありません……」
ヒロトシは本当に申し訳なく思っていた。生産ギルドに席を置いても本当に役立つことが無いのである。依頼を受けようにも研磨の依頼はないからだ。
仕事依頼は、今の地点では冒険者が自分の装備品を預けて、それを研磨する事だけである。
ヒロトシの誠実な態度に、生産ギルドも引き下がるしかなかった。確かに、ヒロトシに加入してもらっても、研磨の依頼が無いのだ。
弟子を紹介するとしても、唯一無二でマジカルアイテムにならないのはどうしようもなく、研磨する道具もないとなれば独立することもできない。そんなところに弟子になりたいという人間は皆無である。
「あの……籍を置くだけでも駄目でしょうか?」
幹部の人間がそう言ってきた。しかし、ギルドも遊びではない。依頼を一つも受けないと注意勧告され、罰金の対象となり、5回の注意勧告で除名処分となり、3年は加入できなくなるのだ。
「それでは、他の生産者に示しがつかなくなるのでは?」
「うぐっ……」
生産ギルドは、ヒロトシの加入をどうしても諦められなかった。
これはロドンの勘みたいなものだった。ヒロトシは12歳にして、領主や商人ギルドのギルドマスターのベネッサにも気に入られていた。
このような人間は、後にとんでもない事を起こすはずだと思っていた。だからこそ、ロドンはヒロトシの縁を繋げておきたかったのだ。
「それでも、貴方はその年で成功していると言って間違いない。どうか?生産ギルドに加入してもらえませんか?」
「そう言われてもなあ……俺が入ったところで、俺にはメリットが全くないのは事実でしょ?」
「しかし……」
「もし、生産ギルドに加入して、俺にどういったお得なことがありますか?」
「それは……」
「申し訳ありません……そこですぐに答えられないようでは加入する意味がありません。もし仮に、俺が何を作る生産者となれば、生産ギルドに加入しても意味が出てくると思います。しかし、それでもほとんど意味がないです」
「何でですか?」
「当たり前ですよ。俺には販売網が出来つつあるからですよ。宣伝は優良店がある。売る場所は店も持っているからです」
「だから、より売れる様にギルドの販売網を!」
「こう言ってはなんなんですが、これ以上売れる必要はないんですよ。反対に売れたら俺が困る事になる」
「はぁあ?売れたら困るってどういう事ですか?そんな商人聞いたことがないですよ」
「現状、俺はこのままでも生活は充分できますし、商売を拡大するつもりはないというより出来ないんです」
「できない……とは?」
「言ったでしょ?俺のスキルは唯一無二だと。商売を広げても、研磨する人間がいないんですよ」
これが、ヒロトシの唯一のウィークポイントと言っても良かった。それに、ヒロトシ自身もこれでいいとも思っていた。年収2000万ゴールドも儲ける事が出来れば十分だったからだ。
「な、なるほど……分かりました……今日はこれで帰らせていただきます」
「まあ、次来ても、答えは同じだと思いますよ」
「うぐっ……わしは諦めないですよ」
そう言って、生産ギルドは帰っていったのだった。
「ふー……やっと帰ったか……」
「旦那様、本当に良かったのですか?」
「今はメリットがないし、所属したい時に除名処分を受けていたら、どうしようもないだろ?」
「では、これからも商売の幅を広げる計画はあると?」
「そりゃ当然だよ。ただ……今は、人手不足なのは確かだろ?」
「確かに研磨は、旦那様一人ですものね……しかし、本当に研磨のスキルは旦那様だけなのですか?」
「確かに、弟子を取り研磨を教えれば、研磨スキルは生えると思うよ。だが、マジカルアイテムにすることは無理だよ。これは、こちらに来る時、ミレーヌさんから貰った特別製のスキルだからな」
「なるほど……」
「それにバフはこの世界で作れても、ニカワがないだろ?接着剤代わりの物が無いんじゃ、どうしようもないよ……それに、魔道具もそうだ」
「確かにあの回転数は、この世界で作るとなると無理がありますね……」
「だろ?現実的に考えても、俺が生産ギルドに所属する意味がないんだよ」
「だけど、生産ギルドは諦める事はないでしょうね」
「まあ、そのうち生産ギルドにも所属するよ。あまり断っていても心証が悪くなるばかりだしね。いずれ、所属するメリットを考えるよ」
「あまり無理をしない様にお願いします」
そして、年度末になり㋪は税金を納めた。結局、納税額は170万ゴールドと初年度納めた納税額は、歴代1位となり、㋪の話題性はギルドの中で騒然となっていた。
「ヒロトシ様すごいですね」
「ランファーさんお久しぶりですね。元気してました?」
「はい!それにしても、初年度納税額歴代1位ですよ。これにより、ヒロトシ様はSランクとなります」
「それはどうも」
「あまり嬉しそうではありませんね……」
「まあ、Sランクに上がったからと言って、何が変わるかといったら変わらないだろ?ランクなんて、飾りのようなものだ」
「何を言っているのですか。そんなわけないじゃないですか」
「えっ⁉何か特典みたいなものがあるのか?」
「まさか、ヒロトシ様の店がこんなに流行るとは思ってもいませんでしたからね。Bランクからは、納税額が減額されるのですよ」
「本当か?」
「嘘は言わないですよ。まあ、来年度になるのですが……」
「どういう事?」
「来年度、納税額が100万ゴールド以上だった場合、またSランクになります。その場合、納税額は15%減額されるんですよ」
「それは凄いな!」
「慌てないでください!もし仮に、100万ゴールド未満だった場合、ヒロトシさんのランクはAランクへと降格になります。そうなれば、減額は無くなり、来年度50万ゴールド以上だったら納税額は10%減額となるのです」
「という事は、来年100万ゴールドだった場合、Sランク継続という事で15%減額されるわけか……」
「そういう事です」
「なかなかうまいシステムだな」
「来年度も、ランクが落ちない様に頑張ってください」
ランファーは、ニッコリ笑って、ヒロトシにはっぱをかけたのだった。
「どうも初めまして。㋪を運営しているヒロトシと言います」
「初めまして。生産ギルドミトン支部、ギルドマスターをしているロドンと言います。以後お見知りおきを」
「それで今日はどういった用件で?」
「ヒロトシ殿は、ミトンの町で活躍していると聞く。だから、生産ギルドにも加入して欲しくてこうして訪問させていただいた次第で……」
ヒロトシは、少し考えこむふりをした。そして、自分の意見を説明した。
「えーっと……俺が、生産ギルドに加入する意味はないと思うんですよね」
「何でそんな事言うのですか?」
「本当に申し訳ありません。こういう事を言うのは失礼というのは分かっています。第一に、自分の店には売る商品が無いのです」
「そ、それは……」
「俺の技術は何かを製作して、その商品を売るというものではありません。これが第1の理由」
「うっ……」
「俺は、もうこうして自分の店を持ち、店は軌道に乗っている。これが第2の理由」
「ですが……それなら生産ギルドで弟子を取られるのは……」
「そして、最後の第3の理由が、今言った弟子の理由だ。弟子を取ったところで俺と同じように、研磨してもマジカルアイテムには絶対にならないからだ」
「どういう事でしょうか?」
「俺には研磨というスキルがあるが、これは唯一無二のスキルだ。それに研磨する為のアイテムが、この世界にありますか?ロドンさん、今まで貴方は生産ギルドにいて、研磨というスキルを聞いたことがありますか?」
「ない……」
「生産する商品が無いのでは、生産ギルドに加入する意味はないと思います」
「しかし、生産ギルドに入れば宣伝や口コミで……」
「申し訳ないのですが、それももう意味がありません」
「ギルドの宣伝が意味が無い⁉」
「実は、㋪は先日こういう物を頂きました」
ヒロトシは、領主から届いた優良店営業許可書をロドンにみせたのだった。
「こ、これは領主様からの優良店許可書ですか?」
「そうです。これで、宣伝は充分なんです」
「そ、そうですか……」
「本当に申し訳ありません……」
ヒロトシは本当に申し訳なく思っていた。生産ギルドに席を置いても本当に役立つことが無いのである。依頼を受けようにも研磨の依頼はないからだ。
仕事依頼は、今の地点では冒険者が自分の装備品を預けて、それを研磨する事だけである。
ヒロトシの誠実な態度に、生産ギルドも引き下がるしかなかった。確かに、ヒロトシに加入してもらっても、研磨の依頼が無いのだ。
弟子を紹介するとしても、唯一無二でマジカルアイテムにならないのはどうしようもなく、研磨する道具もないとなれば独立することもできない。そんなところに弟子になりたいという人間は皆無である。
「あの……籍を置くだけでも駄目でしょうか?」
幹部の人間がそう言ってきた。しかし、ギルドも遊びではない。依頼を一つも受けないと注意勧告され、罰金の対象となり、5回の注意勧告で除名処分となり、3年は加入できなくなるのだ。
「それでは、他の生産者に示しがつかなくなるのでは?」
「うぐっ……」
生産ギルドは、ヒロトシの加入をどうしても諦められなかった。
これはロドンの勘みたいなものだった。ヒロトシは12歳にして、領主や商人ギルドのギルドマスターのベネッサにも気に入られていた。
このような人間は、後にとんでもない事を起こすはずだと思っていた。だからこそ、ロドンはヒロトシの縁を繋げておきたかったのだ。
「それでも、貴方はその年で成功していると言って間違いない。どうか?生産ギルドに加入してもらえませんか?」
「そう言われてもなあ……俺が入ったところで、俺にはメリットが全くないのは事実でしょ?」
「しかし……」
「もし、生産ギルドに加入して、俺にどういったお得なことがありますか?」
「それは……」
「申し訳ありません……そこですぐに答えられないようでは加入する意味がありません。もし仮に、俺が何を作る生産者となれば、生産ギルドに加入しても意味が出てくると思います。しかし、それでもほとんど意味がないです」
「何でですか?」
「当たり前ですよ。俺には販売網が出来つつあるからですよ。宣伝は優良店がある。売る場所は店も持っているからです」
「だから、より売れる様にギルドの販売網を!」
「こう言ってはなんなんですが、これ以上売れる必要はないんですよ。反対に売れたら俺が困る事になる」
「はぁあ?売れたら困るってどういう事ですか?そんな商人聞いたことがないですよ」
「現状、俺はこのままでも生活は充分できますし、商売を拡大するつもりはないというより出来ないんです」
「できない……とは?」
「言ったでしょ?俺のスキルは唯一無二だと。商売を広げても、研磨する人間がいないんですよ」
これが、ヒロトシの唯一のウィークポイントと言っても良かった。それに、ヒロトシ自身もこれでいいとも思っていた。年収2000万ゴールドも儲ける事が出来れば十分だったからだ。
「な、なるほど……分かりました……今日はこれで帰らせていただきます」
「まあ、次来ても、答えは同じだと思いますよ」
「うぐっ……わしは諦めないですよ」
そう言って、生産ギルドは帰っていったのだった。
「ふー……やっと帰ったか……」
「旦那様、本当に良かったのですか?」
「今はメリットがないし、所属したい時に除名処分を受けていたら、どうしようもないだろ?」
「では、これからも商売の幅を広げる計画はあると?」
「そりゃ当然だよ。ただ……今は、人手不足なのは確かだろ?」
「確かに研磨は、旦那様一人ですものね……しかし、本当に研磨のスキルは旦那様だけなのですか?」
「確かに、弟子を取り研磨を教えれば、研磨スキルは生えると思うよ。だが、マジカルアイテムにすることは無理だよ。これは、こちらに来る時、ミレーヌさんから貰った特別製のスキルだからな」
「なるほど……」
「それにバフはこの世界で作れても、ニカワがないだろ?接着剤代わりの物が無いんじゃ、どうしようもないよ……それに、魔道具もそうだ」
「確かにあの回転数は、この世界で作るとなると無理がありますね……」
「だろ?現実的に考えても、俺が生産ギルドに所属する意味がないんだよ」
「だけど、生産ギルドは諦める事はないでしょうね」
「まあ、そのうち生産ギルドにも所属するよ。あまり断っていても心証が悪くなるばかりだしね。いずれ、所属するメリットを考えるよ」
「あまり無理をしない様にお願いします」
そして、年度末になり㋪は税金を納めた。結局、納税額は170万ゴールドと初年度納めた納税額は、歴代1位となり、㋪の話題性はギルドの中で騒然となっていた。
「ヒロトシ様すごいですね」
「ランファーさんお久しぶりですね。元気してました?」
「はい!それにしても、初年度納税額歴代1位ですよ。これにより、ヒロトシ様はSランクとなります」
「それはどうも」
「あまり嬉しそうではありませんね……」
「まあ、Sランクに上がったからと言って、何が変わるかといったら変わらないだろ?ランクなんて、飾りのようなものだ」
「何を言っているのですか。そんなわけないじゃないですか」
「えっ⁉何か特典みたいなものがあるのか?」
「まさか、ヒロトシ様の店がこんなに流行るとは思ってもいませんでしたからね。Bランクからは、納税額が減額されるのですよ」
「本当か?」
「嘘は言わないですよ。まあ、来年度になるのですが……」
「どういう事?」
「来年度、納税額が100万ゴールド以上だった場合、またSランクになります。その場合、納税額は15%減額されるんですよ」
「それは凄いな!」
「慌てないでください!もし仮に、100万ゴールド未満だった場合、ヒロトシさんのランクはAランクへと降格になります。そうなれば、減額は無くなり、来年度50万ゴールド以上だったら納税額は10%減額となるのです」
「という事は、来年100万ゴールドだった場合、Sランク継続という事で15%減額されるわけか……」
「そういう事です」
「なかなかうまいシステムだな」
「来年度も、ランクが落ちない様に頑張ってください」
ランファーは、ニッコリ笑って、ヒロトシにはっぱをかけたのだった。
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