上 下
245 / 349
第6章 異世界転移

58話 猛獣王ダイガロスの切り札

しおりを挟む
 リベリア王国騎士団隊長は、迫りくるダイガロスの恐怖に自分の命を諦めた。しかし、ダイガロスの丸太のような腕は振り下ろされる事はなかった。

「何が?」

 リベリア王国騎士団隊長は、恐る恐る目を開けると自分とダイガロスの間には3m程の土壁が出来ていた。

「早く逃げるんだ!」

 隊長は後方から聞こえた声に振り向くと、そこにはヒューマン族が立っていた。

「なんでこんな所にヒューマンが?」

「僕はマルク。ブリーナッシュ王国で冒険者をしている」

 マルクは、早口で自己紹介をした。

「俺は、リベリア王国騎士団第三部隊隊長のロベルトだ!助けてくれてありがとう!」

 ロベルトは、後方に駆け出しすれ違い様に自己紹介をした。

「もっと後方で身を隠して下さい」

「身を隠してと言われても・・・・・・」

 ここは荒廃した荒野で身を隠す場所はない。遠くの方に刺だらけのサボーテの植物が一本生えていたぐらいだ。
 ロベルトはマルクの言葉を聞き、サボーテの所まで走った。

「あれが、他国で英雄と呼ばれているマルク殿なのか?」

 リベリア王国でも、マルクの事は当然伝わっていた。獣人族の中にもマルクに救援要請を出した方がいいという意見があった。しかし、圧倒的多数の否定派に却下されたのだ。
 ロベルトも、ここに派遣されるまでヒューマン族の援助は要らないと思っていた。猛獣王ダイガロスがこんな強いとわかっていたなら、素直に他国を頼る選択をとった方がいいと思ったが後の祭りだ。
 陛下に、この惨状をどのように伝えたらいいかわからなかったのだ。

 猛獣王ダイガロスは、いきなり目の前に出現した土壁を突進して破壊した。そして、目の前にはマルクが立っていて、猛獣王ダイガロスは身を低くして唸り声を発して威嚇した。
 猛獣王ダイガロスの姿は、真っ白な毛並みを持ち額に一本の大きな角が生えている。そして、口には二本の大きな牙を持ち、その大きな爪は鋼鉄も切り裂く程の強力なものだった。
 
『グルルルルル!』

「お前がダイガロスか?」

 ダイガロスは、マルクを見て騎士団のような弱い生物とは違うと本能で察知したようだ。そして、咆哮をあげた瞬間、ダイガロスはマルクとの間合いを詰めたのだ。

「は、速い!」

 ロベルトは、ダイガロスが今まで手を抜いていたと思い知らされた。ダイガロスの姿が消えたと同時に、マルクの前に現れてその丸太のような腕を振り下ろしていた。

「危ない!」

 ロベルトはとっさに叫んでいた。しかし、ダイガロスの丸太のような腕は振り下ろされ、マルクを引き裂いた。

『ガオオオオオ!』

 神速で移動してマルクを引き裂いたダイガロス。確かにその強靭な爪でマルクを引き裂いたが、マルクに命中した瞬間、マルクの姿が消えてしまった。
 ダイガロスは、まさか自分より早く動ける生物がいるとは思わず、周りをキョロキョロ見渡した。
 その瞬間、ダイガロスの背中に衝撃が走った。

『ガッガガガガガガガ!』

 マルクは、フライで宙に浮いており、ダイガロスの頭上から、無数のストーンバレットが豪雨のように降り注いだのだ。
 ダイガロスは、かつてないダメージに襲われた。風属性の魔物である猛獣王ダイガロスにとって、土属性魔法は弱点だった。

『ガオオオオオオオオオ!』

 ダイガロスは、マルクがいつの間にか宙に浮いていた事に驚いていた。

「ナイスだ!まさか、ヒューマン族が魔族のようにフライの魔法が使えるとは信じられん!」

 ロベルトはマルクの戦法は最高だと思った。ダイガロスに空は飛べないと思い、このまま一方的に勝利できると思ったからだ。
 しかし、その考えは甘かった。ダイガロスは咆哮を上げるとジャンプした。それを見てロベルトは言葉を失った。
 ダイガロスは、宙を蹴り見えない地面を次々蹴り上がり、空中にいるマルクに突進していき、ダイガロスはマルクに跳びかかった。
 ダイガロスは、逃げても無駄とばかりに爪でマルクを引き裂く。しかし、命中した瞬間マルクの姿は消えた。

『グオオオオオオオオオオ!』

 ダイガロスは、マルクにダメージを与える事が出来ず咆哮を上げる。その瞬間、今度はダイガロスの腹に無数のストーンバレットが撃ち込まれた。
 野生動物と同様、ダイガロスの腹は背中と違って硬い毛皮で守られていない。そのダメージ量は先ほどのものとは比ではなかった。ダイガロスは地上を見ると、マルクが何人もいて自分の目を疑った。そして、そのマルク達全員が右手を自分に向けて、ストーンバレットを撃つ構えをとっていた。

『グルルルルルルルルル!』

 ダイガロスは、初めて恐怖を感じていた。先ほどまでは、リベリア王国騎士団を余裕であしらい命を奪った。今度は自分が狩られる番だと思い身動きができなくなっていた。

「ストーンバレット!」

 地上にいた全てのマルクの右手から、無数のストーンバレットが撃ち出された。ダイガロスは咆哮を上げる。ダイガロスの周りに竜巻のような空気の渦が纏い、マルクのストーンバレットが弾かれた。

「エアカーテンか。敵ながらやるな!」

 しかし、ダイガロスのエアカーテンは、土属性の攻撃魔法を全ては防げなかったようだ。
 ダイガロスは、ストーンバレットのダメージで顔が歪む。しかし、ダイガロスは諦めず咆哮を上げると、マルクにエアカッターを飛ばした。ダイガロスのエアカッターは巨大で地上にいたマルク全てに命中した。命中した瞬間マルクの姿は消滅してしまった。

「まさか、ミラーイメージが全部消されるとは思いもしなかったよ」

 ダイガロスはギョッとした。自分の頭上から声がしたからだ。ダイガロスはまだ諦めてはいない。本能で体か動き、空中を蹴りその場を神速で逃げた。

「おいおい。どこに行くつもりだ?」

 ダイガロスは、神速で空中を駆けて逃げた先に、マルクが目の前で腕組をして宙に浮いて待ち構えていたのだ。
 今度はダイガロスが、リベリア王国騎士団と同じ立場になっていた。マルクからは絶対に逃げる事ができないのだ。
 ダイガロスは自分が助かるには、この目の前にいる人間を倒さないと生き残れないと悟った。そして、最後の取って置きを見せるしかないと。

「ほう!まだ諦めないのか。さすが伝説の魔獣だ」

 マルクは、猛獣王ダイガロスの最後の攻防を受けてる事にした。ダイガロスはマルクの意思がわかったように、不気味な笑みを溢した。

『グルルルルル!グオオオオオオオオオオ!』

 猛獣王ダイガロスが唸った瞬間、ダイガロスの角が光った。それと同時にダイガロスの角から稲妻がほとばしったのだ。
 ダイガロスの最後の切り札は、風属性魔法のライトニングだったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋愛ゲームのヒロインにガチ恋~転生したのは大好きなヒロインが居る世界。でも弟として~

美鈴
ファンタジー
気が付いたら大好きな恋愛ゲームの中に転生していて…。ガチ恋したヒロインと恋愛出来る!?マジか!?喜んでいたのも束の間…。大好きな人は俺の姉で… カクヨム様でも掲載しております!あちらは全年齢対象となっております!

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

堕ちた英雄

風祭おまる
BL
盾の英雄と呼ばれるオルガ・ローレンスタは、好敵手との戦いに敗れ捕虜となる。 武人としての死を望むオルガだが、待っていたのは真逆の性奴隷としての生だった。 若く美しい皇帝に夜毎嬲られ、オルガは快楽に堕されてゆく。 第一部 ※本編は一切愛はなく救いもない、ただおっさんが快楽堕ちするだけの話です ※本編は下衆遅漏美青年×堅物おっさんです ※下品です ※微妙にスカ的表現(ただし、後始末、準備)を含みます ※4話目は豪快おっさん×堅物おっさんで寝取られです。ご注意下さい 第二部 ※カップリングが変わり、第一部で攻めだった人物が受けとなります ※要所要所で、ショタ×爺表現を含みます ※一部死ネタを含みます ※第一部以上に下品です

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

権田剛専用肉便器ファイル

かば
BL
権田剛のノンケ狩りの話 人物紹介 権田剛(30) ゴリラ顔でごっつい身体付き。高校から大学卒業まで柔道をやっていた。得意技、寝技、絞め技……。仕事は闇の仕事をしている、893にも繋がりがあり、男も女も拉致監禁を請け負っている。 趣味は、売り専ボーイをレイプしては楽しんでいたが、ある日ノンケの武田晃に欲望を抑えきれずレイプしたのがきっかけでノンケを調教するのに快感になってから、ノンケ狩りをするようになった。 ある日、モデルの垣田篤史をレイプしたことがきっかけでモデル事務所の社長、山本秀樹を肉便器にし、所属モデル達に手をつけていく……売り専ボーイ育成モデル事務所の話に続く 武田晃 高校2年生、高校競泳界の期待の星だったが……権田に肉便器にされてから成績が落ちていった……、尻タブに権田剛専用肉便器1号と入墨を入れられた。 速水勇人 高校2年生、高校サッカーで活躍しており、プロチームからもスカウトがいくつかきている。 肉便器2号 池田悟(25) プロの入墨師で権田の依頼で肉便器にさせられた少年達の尻タブに権田剛専用肉便器◯号と入墨をいれた、権田剛のプレイ仲間。 権田に依頼して池田悟が手に入れたかった幼馴染、萩原浩一を肉便器にする。権田はその弟、萩原人志を肉便器にした。 萩原人志 高校2年生、フェギアかいのプリンスで有名なイケメン、甘いマスクで女性ファンが多い。 肉便器3号 萩原浩一(25) 池田悟の幼馴染で弟と一緒に池田悟専用肉便器1号とされた。 垣田篤史 高校2年生 速水勇人の幼馴染で、読者モデルで人気のモデル、権田の脅しに怯えて、権田に差し出された…。肉便器4号 黒澤竜也 垣田篤史と同じモデル事務所に所属、篤史と飲みに行ったところに権田に感づかれて調教される……。肉便器ではなく、客をとる商品とされた。商品No.1 山本秀樹(25) 篤史、竜也のモデル事務所の社長兼モデル。 権田と池田の毒牙にかかり、池田悟の肉便器2号となる。 香川恋 高校2年生 香川愛の双子の兄、女好きで弟と女の子を引っ掛けては弟とやりまくっていた、根からの女好きだが、権田はの一方的なアナル責で開花される……。商品No.2 香川愛 高校2年生 双子の兄同様、権田はの一方的なアナル責で開花される……。商品No.3 佐々木勇斗 高校2年生 権田によって商品に調教された直後に客をとる優秀商品No.4 橘悠生 高校2年生 権田によってアナルを開発されて初貫通をオークションで売られた商品No.5 モデル達の調教話は「売り専ボーイ育成モデル事務所」をぜひ読んでみてください。 基本、鬼畜でエロオンリーです。

【DX文庫二次落ち】~武器と魔法と学園バトルラブコメ~世界初の男性Aランク魔術士候補生の少年は自らの運命に翻弄される。

R666
ファンタジー
時は20XX年、魔法と言われる技術が発達し医療や軍事に使われるようになった日本。 そこでは未来ある魔術士を育成する為に設立された高校……通称【WM】学園が存在する。 学園に入学するには適正が必要で、とある少年は男性でありながら女性にしか出せないとされている適正ランクAを叩き出し、半ば強引にWM学園に入学が決定してしまう。 そしてWM学園に通う生徒はほぼ全員が女子生徒であり、そこで白髪アニオタの少年は新たな『出会い』『再会』『別れ』『友情』を経験して更に個性豊かな乙女達に迫られる多忙な毎日が幕開ける。 ※ヤンデレ(多め)、ツンデレ、デレデレ、ちゃんと登場しますので大丈夫だ問題ない※ ダッシュエックス文庫のIP部門、二次落ち作品。

処理中です...