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第5章 最強への道

16話 後悔先に立たず

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 マルクは、ダナーが突き飛ばした女性を抱き止めた。

「大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。ダナーさんを追わなくても痛っ!」

「どこか怪我を?」

 マルクが女性を見ると手首が真っ赤に腫れ上がっていた。男性の力で無理やり引っ張られたのだから、女性にはどうしようもなかった。

「これは、折れてるかもしれないな」

「そんな!」

 マルクは、グレーターヒールを女性に唱えた。すると女性の手首の腫れは引いて痛みはなくなった。

「凄い!痛みも何もないよ。ありがとう。お店を休まなくてすむよ」

「それは良かった」

「あ、あのダナーさんを・・・・・・」

「大丈夫だよ。ほら!」

 店の入り口に逃げたダナーは、後退りしながら苦虫を噛み潰したように、店の裏口に逃げ出した。

「く、くそぉ!」

「大人しくしなさい!」

「捕まってたまるかぁ~~~~~!」

 ダナーは、店の裏口に逃げ込んだ瞬間、ダナーの体が店の中に吹き飛び、壁に打ちつけられ気絶してしまった。店の女の子達は、ダナーが壁に打ちつけられたのを見て悲鳴をあげたのだった。

「ぐほっ!」

「「「「きゃあ!」」」」

「もう、カノンったら手加減ぐらいしなさいよね」

「システィナはなにを言っているんだ。十分の一の力も出してないぞ」

「ダナーは元冒険者と言っても一般人と変わらないじゃない。あたし達はレベルアップしたんだからさ・・・・・・」

「ふん!私達に詐欺を働いた人間にはあれでも充分温情を与えてあげているよ」

「でも、あれ絶対あばら骨折れてるよ」

「お客様店の中で暴れるなんて困りますよ!」

 店員は、怪我をした女の子に気を遣いながらマルクに文句を言った。

「店長、あたしなら大丈夫だよ」

「えっ?ダナーに投げられたんじゃ?」

「ほら!この通り」

 女の子は、自分の手首をヒラヒラ振って怪我なんかしてないアピールをした。

「僕の仲間が申し訳ないね」

 マルクは、ダナーが壁に激突した修繕費を店長に多目に手渡した。

「ったく、今回は目をつむります」

 その金額に店長は笑顔で許してくれた。そして、マルクは怪我をした女の子にもう一度謝罪して、ダナーを牢獄に収納してしまった。

「い、いまのは?」

 店の店員や女性達は、ダナーが消えてしまったのを見て驚いた。

「僕のスキルでね。犯罪者を護送するための手段です」

「はぁ・・・・・・世の中にはいろんな珍しいスキルがあるのですね」

「まぁ、犯罪者を運ぶだけのスキルなんだけどね」

「いやいや、便利いいスキルじゃないですか?犯罪者が捕らえた時、証拠隠滅の為に暗殺される場合がありますからね」

「確かに!まぁ、とにかく協力ありがとうございました。これでダナーを突き出すことができますよ。先ほどの女の子の治療費や修繕費もダナーにつけとくから安心してください」

「そうですか。ありがとうございます」

 お店の店長や職員達は、マルクに協力して損どころか得したので笑顔で見送ったのだった。



 そして、マルク達はダナーを運び王都に帰ってきた。マルクの屋敷に着くと、ダナーを大広間に出した。

「ここは?」 

「ここは王都にある僕の屋敷だよ」

「はぁ!」

「そんな事はどうでもいいよ。それより、あなたには依頼報酬を支払ってもらわないといけないよね?」

「それは、カレンが治してもらったんだ。カレンに支払ってもらえばいいじゃないか」

「いやいや!あなた達夫婦の家を売ったお金で支払って貰う契約だったはずだよ?契約書にもそう記されているだろ?まぁ、あなたがもう豪遊してしまったみたいだけどね」

「そうさ!もう殆ど使い果たしちまったよ。ない袖は振れねぇな!だから、カレンから回収してくれたらいいんだよ!」

「「「「「なんて事を!」」」」」

 ダナーは、家を売ったお金で豪遊して、もう殆ど残っていなかった。それを聞いたシオン達は唖然としたのは言うまでもなかった。

「あなたは僕に支払うつもりは最初からなかったみたいですね」

「そりゃ当然だ!俺も冒険者の時は何回も泣き寝入りしたからな!個人間の取引は逃げたもん勝ちなんだよ。俺はそれをお前に教えてやったんだ!」

 マルクは、ダナーの説明に下を向き黙りこんだ。すると、ダナーはやらしい笑みを浮かべ大笑いし始めた。

「わはははははははは!俺っていい先輩だろ?いい勉強になったじゃないか?」
 
「「「「「ぐっ・・・・・・」」」」」

 シオン達も、こうした個人間の取引は逃げたもの勝ちだと理解していた。ギルドに相談しても何もしてくれないし、これからはギルドを通して依頼を受けるようにと注意されるだけだ。
 するとマルクが、ダナーの説明に大笑いし始めて、シオン達がマルクを心配した。

「ははははははははは!」

「「「「「マ、マルク?」」」」」

「ダナーさん、あなたは本当に馬鹿なんだな」

「なんだと!俺は何回も泣き寝入りしたんだからな!お前もいい勉強になっただろうが!」

「あんたは逃げられてないじゃないか?僕はギルドに助けを求めず、自分で解決しているんだよ」

「うっ!」

「いいかい?ダナー、あなたは僕に詐欺を働き逃げられなかったんだ。こうした場合、僕はお前を衛兵に突き出す事もできるだよ」

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

「これからは絶対に逃げられないから諦めるようにね」

「だったら、心臓病を治してもらったカレンが支払えば・・・・・・」

「わからない人だな?お前はもう犯罪者なんだよ」

 すると、大広間に衛兵が入ってきたのだった。

「ダナー!マルク殿に詐欺を働いた容疑で逮捕する!」

「なんでここに?」

「ダナー、お前が反省して謝罪していたら衛兵に突き出す事はしていなかったのに本当に馬鹿な奴だよ」

「は、離せ!俺は悪くない!俺も何回も騙されたんだ!だったら俺もいいだろうが!」

 ダナーは、他の奴もやっているから自分も許されると訴えていたが、そんな通りが通るはずはない。そんな姿を見ていた二人の姿がダナーの目に映った。

「あ、あなた・・・・・・」
「お父さん・・・・・・」

「な、なんでここにお前達がいるんだ・・・・・・」

「本当に馬鹿な人ね。マルクさんにちゃんと謝罪していたら、奴隷だけですんでいたのに!」

「・・・・・・」

 ダナーは、瞬時にカレン達がマルクの元で借金を返していると判断した。

「カレン、ハナ、俺が悪かった。だから、あいつにいや、マルクさんに口添えをしてくれ!」

「馬鹿なこと言わないで!あなたとはこれきりよ。さようなら」

 自分を見つめるカレンの目は、まるで生ゴミを見つめるような目だった。

「ハ、ハナは・・・・・・」

「おじさんバイバイ・・・・・・」

 ハナは、カレンのスカートの影に隠れて目も合わせなかった。そして、ダナーは取り返しのつかない事をしてしまったとようやく理解したのだった。
 後悔してももう遅く、ダナーは衛兵に捕らえられ、糸が切れたマリオネットのように引きずられていった。

 
 

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