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54話 国王の謝罪

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 ダインは、国王に決断を求めた。国王はその言葉に躊躇して時間を求めたのだった。

「ちょっと待ってくれ……貴族達を集め、会議を開きたい」

「こ、国王。本気ですか?国王もうすうす感じているのではないのですか?」

「うっ……」

「その中に、王太子殿下の命を狙う人間がいるかもしれないのに会議するのですか?」

「……」

「分かった……ジークフリードの命は最優先だ。クロスには息子の命の治療を!そして、今回の事件にかかわる人間を必ず捕らえるように命じよ」

「はっ!」

 国王は、ダインの言葉にすぐ決断をして、クロスに依頼したのだった。



 その頃、闇ギルドに依頼をして、ジークフリードに呪いをかけてその命を奪おうとしていたのは公爵だった。

「くっくっく……もうじきわしの息子が次期国王の座に座る。長かった……」

「それにしても、知らなかったよ……国王の息子で次男と思っていたマルク様が、公爵様の息子だったとはな」

 呪いをかけ続けているシャーマンが、その隣で不気味な笑みを浮かべていた。公爵は国王の弟で、幼いころから現国王より優秀だと言われていた。
 しかし、跡目は長男という理由だけで、国王になる事が出来なかった人間で長年国王の座を狙っていた。

 だが、結局国王にはなれない事で、その野望を息子に託すようになっていたのだった。長年、国王は長男に恵まれていなかった為、公爵は国王の側室と不倫関係をして、自分の子を産ませたのだった。

「もうすぐだ!ジークフリードが死ねば、わしの息子が王位継承権を得る。そうなれば国の権力はワシのものに!」

「王族の世界は怖いねえ……」





 ダインは、次の日の朝早速クロスの家に出向いたのだった。本当なら、夜のうちに出向きたかったが先刻の事もあり、夜に訪問するのは国王に止められていた。
 本来、王族が平民にこんなに気を使う事はないが、ジークフリードの命がかかっている為、クロスにはなるべく波風を立てない様に配慮したものだった。

 ダインは、教えてもらった通りクロスの家のプレートに魔力を流した。

「はい、どちら様ですか?」

「な、なんだ?どこから声が?」

 ダインは、いきなり声がして辺りをキョロキョロ見回したのだ。

「その声は、ダインさんか?ちょっと待ってて、すぐに用意して出るから」

「は、ハイ……」

 しばらくすると、クロスとオウカが家から出てきたのだった。

「おはようございます」

「「おはようございます」」

「オウカさんも来ていただけるのですか?」

「まあ、こっちに来ているしね。あたしはクロスの護衛みたいなものね」

「わ、わかりました」

 ダインは、クロスとオウカを引き連れ王城に案内した。周りにはダインの部下達が囲んでいた。王城に着いたクロスは、謁見の間ではなく客室に案内され、国王を待つようにと言われたのだった。
 すると、執事とメイドがやってきてお茶を用意してくれて、世間話をして話し相手になってくれた。

「ねえ、クロス。本当に王子様を治す事が出来るの?」

「たぶんな」

 多分と言う言葉に、執事とメイドはギョッとしたのだった。

「クロス様でも、解呪は出来ないかもとおっしゃるのですか?」

「そりゃ、まだ何も見てないから何とも言えないと言ったんだ」

「しかし……」

「執事さんやメイドさんが心配するのは分かるが、王宮魔導士の人でさえ治せなかったんだろ?俺はただの冒険者だよ」

「クロス……まだそんな寝ぼけた事を言っているの?ただのじゃないでしょ?そんな不安にさせるような事ばかり言わないの!」

 オウカが、クロスの言う事をぴしゃりと否定したのだった。

「だけど、まだ王太子殿下の症状さえ見てないんだぞ。そんないい加減な事言えないだろ?」

「何言ってんのよ。クロスが出来ないと思っていたら、最初から国王様のいう事を聞くわけないじゃない!」

「ゥぐっ……」

「だから、執事さんもメイドさんも大船に乗った気でいたらいいわよ」

 オウカの説明で、執事とメイドは笑顔となったのだ。

「ったく……オウカは気軽に言って……」

「クロスは、いちいちもったいつける癖を直した方がいいわ」

 そのやり取りを見ていた執事たちは、仲がいい二人なんだなと微笑ましく見つめていた。



 するとそこに、国王が入室してきたのだった。すると、先ほどまで和やかだった執事とメイドは直立不動となり頭を下げたのだった。

「このたびは、余の願いを聞き届けてくれて礼を言う。そして、先刻の事は悪かった。本当にすまん」

 国王は、クロスに対して頭を下げたのだった。その姿を見た、執事とメイドは声は発さず目を見開き驚いたのだった。

「国王様。頭を上げてください。そんな事をされては恐縮してしまいます」

「しかし……余はお主に……」

「気にしていないといったら嘘になります。だから、俺は俺の自由にさせていただきます。しかし、そのことで王太子殿下の命を見捨てる事はしませんよ」

「あ、ありがとう!」

 国王は再び、クロスに頭を下げたのだった。そして、国王はクロスとオウカを王太子殿下のもとへと案内した。

 そこには、王太子殿下の側室である母親と、正室である王妃、そして王妃の娘2人が、ジークフリードを心配そうに看病しているようだった。

 その様子を見る限り、正室と側室のわだかまりはなく、ジークフリードの姉二人も普段から可愛がっていたことが分かった。

「誰ですか?」

「ジークを治療してくれる冒険者のクロスだ」

 国王は、王妃たちにクロスを紹介した。

「「クロスですって!」」
「父上。クロスと言うのは先刻、謁見の間で暴れた者ではないのですか?」

「マリア!余の話を聞け」

 第一王女のマリアが口にした途端、側室がジークフリードに覆いかぶさり女性陣はクロスの事をにらみつけ、ジークフリードをガードしたのだった。

「あなた。何でそのような者をここに!」

「余の話を聞くのだ!クロスはジークフリードの呪いを治してくれると言っておるのだ」

「「「「「えっ……」」」」」
「どういう事ですか?この間、謁見の間で暴れて王族に歯向かった冒険者とは違うのですか?」

「エリーゼ……あれは余が悪かったのだ。クロスが暴れたのは不敬だが、クロスにはその資格があると余は思っておる」

「はっ?平民が貴族に逆らっても良い資格?どういう事ですか?」

 国王は、話をかいつまんで王妃たちに説明した。王妃たちは、信じられないとばかりに意見をぶつけてきたのだった。

「あなたはどういうつもりで、このような者をここに連れてきたのですか?」

「余は、ジークを救いたいのだ。その為、先刻の事は無しにしてでも、クロスに協力を求めたのだ」

「ちょっとよろしいですか?」

「何ですか?王族の話に割って入るなんて不敬ですよ」

「まあ、話を聞いて下さいよ。俺はそんな事でここに来たわけじゃない。あの時の事は目をつむって、王太子殿下を救いに来たんだ」

「王城で暴れた人間が何を言っているのですか?」

「じゃ、このまま何もできず王太子殿下が亡くなってもいいのか?王宮魔導士でも呪いが解けなかったんだろ?」

「王宮魔導士が解けない物に、一介の冒険者に解けるというのですか?」

「今のところは何とも言えないな……」

「ほら、ごらんなさい!自信が無いではありませんか」

「自信が無いわけではないよ。まだ、どういう症状なのか見てもないのに、治せるとは言えるわけないだろ?」

「むっ」

「まあ、俺の事を信じれないというのならこのまま帰ってもいいのだが、そうなると王太子殿下は、余命1ヶ月あるかどうかだろうな?」

「ちょっと待つのだ!クロスは余が連れてきたのだぞ。それをお前達は何もせず返すというのか?」

「ですが、この者は……」

「余は、この間の事はもう気にはしておらぬと言っておるではないか。それより、余はジークが心配なのだ!それともお主達は、国王である余の意見を否定するというのか?」

「そんな事は……」

「だったら、そこから離れてクロスに病状を確認させよ」

 国王は、強引に王妃たちをベットから離れさせ、クロスに改めてジークフリード検診させたのだった。


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