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20話 暁の灯火

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 クロスは、ドラゴンの翼に勝った。その結果にオウカは嬉しくてクロスに抱きついてきた。

「クロス、やったね!」

「当たり前だろ?そんなに喜ばなくともいいと思うが……」

「だって、負けたらあいつ等の奴隷になるところだったんだよ」

「まあ、そうだったんだけどな。でも、デストロールを討伐出来たんだぞ?」

「でも、嬉しいからいいじゃない!」

 クロスは、Aランクのパーティーに一人で勝てたことに何か違和感を覚えていた。そして、ドラゴンの翼は医療隊に運ばれて治療されたのだった。ドラゴンの翼は、800万ゴルドという借金を背負う事になり、奴隷に落とされたのだった。

 クロス達は、決闘の手続きを取った後依頼をこなそうと思ったが、時間がけっこうかかった事で、明日にすることにした。

 そして、クロス達二人は家に帰宅したのだった。

「ねえ、クロスさっきからどうしたの?なんか変だよ……」

「うん……」

「ねえ、どうしたのよ?1人で抱え込まないでよ。今はあたしがいるでしょ?」

 オウカは、クロスの事が心配で近づき話を聞こうとした。クロスは、今までこんなに自分の事をしてくれる女性がいなかったので嬉しくなった。

「オウカありがとな。俺自身が戸惑っているだけだから……」

「戸惑っているって?」

「ああ……このプラチナ貨4枚もそうなんだが、1枚で100万ゴルドだ」

「そうね」

「俺は、あのダンジョンで職業が覚醒してからガラッと変わって、今までならこんな額のお金なんか見たことなかった。日々の生活でやっとだったんだ」

「そ、そうなんだ……」

「だから、オウカのような子が俺の彼女になってくれた事や、ギルドに顔を出したら他の冒険者達が声をかけてくれることも信じられなくてな」

「何かクロスらしいね」

「どういう事だ?」

「だって、普通はそんな状況が180度変わったら、少しは調子に乗ったりするものよ。だけど、クロスは戸惑っているって言っているじゃない」

「こんなに変わったら普通は戸惑うものだろ?」

「今まで、あたしの周りにいた冒険者は違うよ。冒険者は、確かに稼げる職業だけど、初心者の時はその日を食べるのも苦労するのは分かっているよね?」

「そりゃ、今までの俺がそうだったからな」

「だけど、一定のランクにあがれば依頼報酬が跳ね上がるでしょ?」

「まあ、そうだな」

「すると今まで我慢してたものが外れる冒険者がいっぱいいるのよ。それこそ、毎晩のように酒場で飲んだり、女を囲ったり色々ね」

「……」

「そんな冒険者はそんな生活を忘れられなくなり、報酬の良い依頼を受けるようになるわ」

「でも、強盗をしないからいいじゃないか。自分の金で豪遊するんだろ?」

「それが調子に乗るというのよ」

「どういう事だ?」

「つまり遊びたいがため、自分の実力以上の依頼を受ける事で依頼に失敗し、違約金を払えず奴隷に堕ちる冒険者をあたしはいっぱい見てきたわ。でも、奴隷に堕ちるのはまだ運がいいと言えるわ」

「奴隷に堕ちるのがいい方?」

「そうよ。実力以上の魔物に挑んで戦死って事もあるし、結局遊ぶ金欲しさに盗賊に堕ちて冒険者に退治され、犯罪奴隷に堕ち鉱山に送られる事もあるんだよ」

「な、なるほど」

「そういう風にならず、堅実に依頼をこなす事が出来る冒険者が上にあがっていくの。つまり、クロスは調子に乗る事なく今は、この状況に戸惑っているといったのよ」

「ただの臆病なのかもよ」

「いいえ、戸惑っているのは今だけだよ。時期に、この状況を冷静に把握していく事になるわ。そして、今までの生活を忘れず、着実に上を目指せるようになるのよ!」

「そういうものなのか?」

「大丈夫だって、クロスはもう1人じゃないんだよ?あたしだって、恋人が落ちぶれるのは嫌だもん」

「そっか、そうだよな。オウカがいると思うと安心できるよ」

「安心してよ。あたしも、クロスと一緒に生活できるのは嬉しい事だしね」

 クロスは、オウカの言葉に安心し戸惑っていたことが和らぐのだった。




 その頃、地下牢でガナッシュ達はふて腐れていた。

「ねえ、ガナッシュ……どうすんのよ」

「そうだぜ……このままだと、俺達は引き回しの後拷問と言う処刑になっちまうぜ」

「分かってるよ。だけど、どうしようもねえじゃないか」

「あたしは死ぬのは嫌よ」

「俺だって嫌に決まっているじゃねえか!」

「もうすぐラナベルも収容されるんだろ?」

「ああ、そうだな。あいつには色々言いたいこともある。最後に、あいつにお礼をして華々しい人生を終えることにするかな」

「ハーベルト何言ってんのよ!あたしは死にたくないって言ってんのよ。それに華々しいって何よ。何で死ぬこと前提に言ってんの?」

「だったら、アルーシェはここから助かる案があるっていうのか?」

「だから、それを考えるんでしょ?」

「アルーシェ、お前の希望は分かるが現実問題どうすればこの状況が変わると言うんだ?」

「ったく、ガナッシュも何を言ってんのよ!あんた達男でしょ?もっとしっかりしてよ!情けないわね」

「マリア!あんたも黙ってないで何か言ったらどうなの?」

「わ、わたしは……」

「わたしは、何よ!」

「わたしはもう疲れたわ……せっかく、レア職の聖女が神から与えられたのに、こうして地下牢に閉じ込められて情けない……もうこのまま死んでしまいたいわ」

「だからこそ死んだら勿体ないと思わないの?」

「あたしだって、レア職の賢者よ。こんなとこで終わりたくないわ!」

 そこに牢番の兵士が下りてきた。

「お前らうるさいぞ!いくら考えても、お前達の助かる道はないんだから大人しくしてろ!」

「ねえ、牢番の兵士さん。あたしを好きにしてもいいから助けてよ」

「馬鹿な事を言うな!」

 アルーシェは、助かりたいばかりに牢番にシナをつきお色気作戦に打って出たが、あっさり却下されたのだった。

「そんな事よりお前達の仲間を連れてきたぞ!処刑は明後日に変更だ!良かったじゃないか。死ぬのが一日でも伸びたんだからな」

 そんな兵士の後ろには、ラナベルが小さくなって隠れていた。

「あんた!よくもあたし達の前に顔を見せれたわね!」
「ラナベル貴様ぁ!」
「ここで会えてよかったぜ!」

「へ、兵士様、あたしはここに入りたくない!別の牢屋で!」

 ラナベルは命乞いをした。同じ牢屋に入れられたら、どんな目にあわせられるか容易に想像できたからだ。

「五月蠅い‼お前だけで牢屋を用意できるか!大人しくここに入っていろ!」

「いやああああ!お願いします……ここに入れられたら、こいつ等はあたしになにをするか!」

「どうせ、お前は処刑される身だ。今更、何を言っている」

「そ、そんな!」

 ラナベルの訴えは空しくも却下され、ガナッシュ達と同じ牢屋に入れられてしまったのだった」

 そして、ラナベルはガナッシュ・ハーベルト・アルーシェにリンチされて、牢屋の隅に放置されてしまったのだ。

「ゥぅっ……何でここまでの仕打ちを……」

「うるせえ!俺達はもう処刑されるんだ!お前にはバックを盗まれイラついているんだ。それに、お前はもう仲間でもないしな。どうなってもかまわん!」

 すると、マリアがラナベルに近づきヒールをかけた。

「マリア!勝手な事をするんじゃねえ。こいつは裏切り者だ!ヒールが勿体ない」

「で、でも……こんなの酷いじゃない」

「マ、マリアどうして……」

「勘違いしないでよね。あたしは聖女としてのプライドだけは捨てられなかっただけよ。貴方を許したわけじゃないわ」

 マリアは、聖女としてのプライドで治療を行ったのだった。クロスの時もそうだが、クロスがどんなに足を引っ張っていても、目の前で怪我をした人間を放っておくことが出来なかったのだ。




  
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