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外伝 

③ 姉弟

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 ダークエルフのオリヴィアとマードックの二人は、奴隷商人の馬車から追い出され廃棄奴隷となった。今、この二人の命は風前の灯火となっていた。

「ちくしょう!俺達を囮にしやがって!」

「マードックこっちよ!」

 オリヴィアは、ゴブリン集団から逃げながら秘薬を拾っていた。オリヴィアはヒーラーである。秘薬さえ拾えば、魔法が使えるのだ。スペルブックは奴隷になってもその人間専用のアイテムであり、魔法を増やす事は無理だが、平民の時に集めた魔法はそのまま使用することができる。
 魔法を増やしたければ、スクロールを購入するか自分で魔法を作り、スペルブックに登録さえすれば増やす事が可能だが、奴隷になってしまうとスクロールを購入できない。それ故に魔法を増やす事が出来ないのだ。

「姉貴は魔法ヒールだけだよな?」

「そうね……あんたは大道芸人だし、戦闘は出来ないんだから逃げるしかないわ!」

 奴隷商人に囮として捨てられた二人は、馬車とは反対方向に逃げていた。その時に拾ったダガーが唯一の武器だった。

「姉貴どっちだ?」

「こっちよ。こっちに行けば街道に出られるはず……」

「そうか!」

 マードックはオリヴィアの手を取り、命からがら二人で逃げていた。

「マードック、危ない!きゃああああああああ!」

「うわっ!」

 マードックは、オリヴィアに突き飛ばされた。急いで体勢を整えると、オリヴィアはゴブリンに腕をゴリゴリ噛まれていた。

「姉貴ぃ~~~~~~!ちくしょう!姉貴から離れろ!」

 マードックは、渾身の力を込めてゴブリンを斬りつけた。ゴブリンは、オリヴィアが女性だったために欲望が勝ってしまい、逃げるのがワンテンポ遅れたのだ。

 その為、マードックのダガーはゴブリンの脳天に突き刺さって絶命したのだった。しかし、その時ゴブリンの執念は凄まじくオリヴィアの腕を引きちぎってしまった。

「きゃあああああああああ!」

「姉貴ぃ~~~~~~!」

 オリヴィアは、何とか正気を保ち自分にヒールを唱えたのだ。オリヴィアの腕は肘から無くなってしまい、ヒールのおかげで傷口は塞がったが、これ以上よくなる事は無かった。

「だ、大丈夫……傷口は塞がったわ。早く逃げましょう」

「ち、ちくしょう……俺にもっと力があれば、姉貴は腕を失う事はなかったのに!」

「マードックがあのゴブリンを倒してくれたから、私は腕だけですんだのよ。ありがとう」

 オリヴィアは、マードックが自分のせいだと思わない様に気丈に振る舞った。しかし、その額から大量の汗が噴き出ていた。

「姉貴、どうした傷口が痛むのか?」

「だ、大丈夫よ。ヒールで傷は塞がっているもの」

「そ、そうか。無理はするなよ」

「マードック!あっちに逃げましょう。このまま街道に出たら、平民に見つけてもらえるかもしれないわ」

「ああ……そうだな。見つけてもらえれば、町に入れてもらえるかもしれないしな」

 マードックとオリヴィアは、自分達を見つけてもらい仮契約を結んで貰おうと思っていた。奴隷だけでは町には入れないし、見つかった場合奴隷商に引き渡されてしまうからだ。
 そうなれば、もう二度と会えなくなるかもしれないので、とりあえず平民に仮契約を結んでもらえる様に考えていたのだ。
 そして、オリヴィアとマードックは運も良かったようで、ゴブリンから逃げる事が出来たみたいだった。しかし、オリヴィアが次の日から高熱にうなされ始めたのは、マードックにとって予想外の事だった。

「くっそぉ……ゴブリンの牙に病原菌があったのか?」

「はあはあはあはあ……」

 オリヴィアは苦しそうに肩で息をしていた。マードックはちょうどいい雨風が防げる洞窟を見つけ、そこにオリヴィアを寝かせていた。

「クソ……どうすればいいんだ?このままじゃ姉貴は……」

 マードックは、オリヴィアを移動させる事が出来なかった。ゴブリンに噛まれた時に、体内に菌が入ったと思われた。本当ならキュアがあれば解毒してからヒールすればよかったが、出血をどうにかしないといけなかったので、オリヴィアはヒールで傷口をふさいでしまったのだ。

「姉貴……待っていてくれ。なんとか、解毒草を見つけてくるよ」

「マードック……待って……私はもうダメ……私をここに放置しなさい。貴方だけでも……ハアハア……」

「何言ってんだよ!俺達はずっと一緒だろ?俺が必ず解毒草を見つけてくるからここで待ってろ」

「マードック……お姉ちゃんの事は忘れて……貴方だけでも……」

 オリヴィアはうなされながらも、マードックの事を考えて自分を見捨てて街道に出ろと、息を切れ切れにして呟くように訴えていた。そして、気絶してしまったのだった。

「ちくしょう……こんな時まで俺の事ばかり考えて……」

 マードックは、涙をこらえて洞窟を出て森をさまよったのだった。オリヴィアは熱を出し倒れてからもう少しで1週間が経とうとしていた。毎日のように解毒草を少量見つけてはそれをすり潰し、オリヴィアに飲ませていたので、何とかもっていたがそろそろ危なく感じていた。

「今日こそ、いつもの倍の量を採取出来ないと姉貴が危ない……」

 マードックは、解毒草を求めて森をさまよっていたが、とうとうゴブリンと遭遇してしまったのだ。

「やばい!5匹のゴブリンは相手にできない」

 マードックは身を隠していたが、ついつい足を擦ってしまい枯れ草が鳴ってしまった。

「「「「「ぎっ⁉」」」」」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ?」
「ぎゃぎゃぎゃあ」

 ゴブリンたちが、マードックの方に近づいてきた。マードックはこれ以上隠れる事は出来ないと思い、脱兎のごとく逃げ出したのだった。

「「「「「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあ~~~~~!」」」」」

「くそ!あの時に足を擦ってしまったのが気づかれた……」

 マードックは息を切らしながら、懸命にゴブリンから逃げた。ここで殺されたら姉貴は本当に助からないと思ったからだ。洞窟で誰にも知られず死んでいくのはあまり不憫に思ったのだ。




 その時、遠くから馬車が一台猛スピードでやって来た。

「くそぉ~~~!これまでか……姉貴ごめん!」

 マードックは自分の命を諦め両目を閉じた。しかし、いつまでたってもゴブリンの攻撃は無く、ゴブリンの叫び声や衝撃音しか聞こえてこなかった。

「きみ?大丈夫?もう安心していいよ」

 目の前から聞こえてきた声に、マードックはゆっくり目を開けると、そこには自分と同じぐらいの少年が立っていた。

「あ、ありがとうございます……」

 マードックは命が助かったのかと、状況を飲み込めるまで時間が少しかかった。そして、マードックに声をかけてきた声で正気に戻った。

「やっぱりマードックじゃないか。よく無事だったな?」

「えっ?ギル!知り合いだったのか?」

 その少年は、ギルスレインに驚いたように声をかけていた。

「えぇ、私達は奴隷商人に囮にされたと言ってましたよね?私達の前に囮にされたダークエルフで、マードックと言うんですよ」

「って事は、廃棄奴隷なの?」

「そういう事になりますね」

「ギル……どうしてここに?」

「ああ!あれから私も商人が逃げる時、囮にされてゴブリンに襲われたんだが、ここにいるケンジ様というんだが、主に助けられたんだよ。システィナとプリムも無事だぞ」

 するとケンジという少年が自分を見て労わってくれたのだ。

「そっか……マードックさんも大変だったんだな」

 こうしてマードックはケンジにその命を救われ、オリヴィアと共に奴隷の仮契約を結ぶことに成功したのだった。

 最初、ケンジと出会った時は、大道芸人で戦闘などできなかったマードックだったが、ダンサーとなり双剣士のスキルを覚え、アタックダンサーそして、3次職のミストラルダンサーとなり、自分でバフをかけ無敵の双剣士となった。
 最終的には4次職の剣豪となり、死ぬその時までケンジを兄の様に慕い、ケンジの身を守り続けた。そして、その生涯を350歳で閉じる事になる。

 また、オリヴィアはヒーラで回復魔法ヒールしか唱える事が出来なかったが、ケンジにスクロールを購入してもらいスペルブックを充実させていき、後にヒーラ→ソウルリューン→アルデンソウルの順で3次職まで転職。最終的には4次職のエターナルソウルとなり、どんな呪いや病気、怪我を一瞬で治療できるヒーラーとなった。
 オリヴィアも又、ケンジを生涯の伴侶として死ぬその時まで側にいて、マードックより長生きをして420歳まで生きてその生涯を閉じた。


 
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