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第10章 Freedom国、経済の中心へ!

157話 新しいゲーム

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 ある日、ケンジは大工工房に顔を出した。

「ゲンさんいるかぁ?」

「主殿悪いな!今ちょっと手が離せねえ。もう少し待っていてくれ」

「ああ!わかった、怪我しない様にゆっくやってくれ。俺は休憩室で待っているからな」

「ああ、悪ぃなあ」

 ケンジは、休憩室でゆっくりしていた。すると、仕事終わらせたゲンゴが休憩室に入って来た。

「主殿悪い。それでなんか用か?」

「棟梁!ケンジ様を待たせるとは何ですか?仕事を止めて先に来なさい!」

 シャイアが、いきなり怒鳴ったのだ。それにケンジとゲンゴはびっくりしたのだった。

「おいおい、シャイアいきなり何を言ってんだよ」

「何だいきなり!わしだって頑張って仕事をやってんだ。区切りのいいとこまでやってただけじゃねえか。これでも急いで仕事をやったんだ!」

「こういう場合、最優先はケンジ様の事です。区切りのいいとことか関係ありません」

「なんだと!職人には職人の段取りというものがあるんだ。先にやらないと商品自体がパアになる事だってあるんだぞ。何もわからねえのに口を出すんじゃねえ!」

 棟梁のゲンゴは、特に職人気質の高いドワーフである。現場の事が分からない人間に口を出されて頭に血が上ったのだった。ゲンゴの大きな声に、シャイアは一瞬怯んだが、それでも言い返したのだ。

「何を言っているのですか!手が止められないのなら部下に任せて、あなたはケンジ様の所に来たらいいだけの事でしょ」

「はっ!素人が何を言ってやがる!職人には段取りと言うもんがあんだよ!」

「職人だが何だか知りませんが、あなたは奴隷じゃありませんか?主人であるケンジ様を最優先にしなさい‼」

「何だと!俺がいつ主殿を無視した?ちゃんと断ったじゃねえか!今やってたとこは、弟子にはまだ難しいところだったんだよ。おれが、弟子に任せて商品がダメになったらどうするってんだ?それこそ損害が出て、主殿に迷惑が掛かるだろうが!」

「「むぐぐぐぐ!」」

「はい、2人共ストップ!それまでだ」

「主殿」
「ケンジ様」

 ケンジは、いがみ合っていたゲンゴとシャイアを引き離したのだった。

「ゲンさん、言いたいことは分かるがすぐ口調がきつくなるのは直すんだ。ポリシーがあるのは分かるが、けんか腰になったらまとまるもんも、余計にこじれるだろ?」

「主殿……しかし、このエルフはなにもわかっちゃいねえ」

「なんですって!」

「やめろって、言ってんだろ?そして、シャイアお前はいつになったら、奴隷や平民のこだわりが抜けないんだ?」

「しかし、実際の所このドワーフはケンジ様の奴隷ではないですか?だったら、仕事は一旦置きケンジ様の事を最優先に……」

「ホント、シャイヤは頭が固いというか、クソ真面目と言うか厄介だな……」

「そ、そんな!」

「いいか?ゲンさんは、ちゃんと俺に待っていてくれと断っただろ?」

「それがおかしいのです」

「まあ、聞けって!俺がそれを断ったのか?」

「そ、それは……」

「ちゃんと、ゲンさんに怪我をしないようにゆっくりやってくれと言ったじゃないか?俺が、駄目だすぐに来てくれと言ったのに、言う事を聞かず作業に没頭していたら問題になるかもしれないが、そうじゃなかっただろ?」

「はい……」 

「シャイア?今、この国はどうしようとしている?平民や貴族を廃止し、全員が同じ立場の国民にしようとしているんじゃないのか?いずれは、奴隷も人権を主張できる国にしようとしているのは分かっているだろ?」

「はい……」

「ゲンさんは、俺に逆らったんじゃない。ちょっと待ってほしいとお願いしたんだよ。それに俺は怪我をしない様にと指示をしたんだ。そして、ゲンさんは仕事を急いで、一段落をさせてここに来たんだ」

「ですが……」

「シャイア、これからこの国は奴隷達の立場は変わっていくことになる。なのに、いつまでも考え方を変えないのはどうかと思うぞ?」

「申し訳ございません」

「シャイア、謝る相手が違うだろ?謝るならゲンさんにだ」

「ゲンさん、お前もすぐ頭に血が上り短気になり、言い方がすぐにきつくなった事を謝るんだ」

「なんで俺が!」

「喧嘩両成敗だ!ゲンさんももっと冷静になって、遅くなった事を説明してたらここまでこじれなかったんだぞ?」

「わ、分かったよ……シャイア悪かったな。ついつい仕事の事で口を出されると口が悪くなっちまって許してくれ」

「わたくしこそ、考え方が固くて申し訳ありませんでした」

 ケンジは、二人に謝罪させ後腐れの無いようにした。そして、ゲンゴに今回の内容を説明しだした。

「それで、何の用なんだ?」

「ゲンさんには、大人用の遊び道具を作ってもらいたいんだよ」

 ケンジは、ゲンゴに見取り図を見せたのである。

「これは一体なんだ?」

「これはな、将棋と言うもんで、この板の上で遊ぶもんなんだ」

「このコマには一つ一つ役割があって、最後にこの王将を取ったら勝ちとなるゲームなんだよ」

「ほうう!主殿はまた面白いものを考えたものだな」

「まあ、俺が考えたんじゃなく、俺がいた所にあったもので、これを仕事にしていた人もいたんだぞ?」

「これを仕事に?」

「ああ、駒を打つ人を棋士と呼び、賞金を稼ぐ事で仕事にしていたんだ」

「「へええ!」」

「この世界では、この将棋を遊戯の一つとして流行らせようを思ったんだ」

「ケンジ様は、なんでこれを流行らせようと?」

「実は、この遊びは頭を使わないと、まず勝つ事は出来ないからな」

「頭を使わないと?」

「俺は、この世界に来て驚いたのが、上に立っている人間があまりに単調で、頭を使っていなかった事なんだ」

「主殿、どういう事だ?」

「貴族やギルドマスターにしても、あまりに先が読めない事に驚いたって事だよ。なんで、俺みたいな子供に出し抜かれて、先が読めない事に驚愕したんだよ」

「ケンジ様……それって全ての貴族にですか?」

「まあ、会っていない人間もいるから全てとは言えないが、王族もその一人だったよ」

「そ、そんな事って……」

「実際の所、掛け算割り算ができて読み書きが出来る人間だけが偉くて、国の主要機関を担う事が出来るところで、頭が悪いと思っていたからな」

「「なっ!」」

「だから、このイズモ大陸のトップにいた人間達は自分を過信し、結局は全員落ちぶれてしまっただろ?」

「た、確かに……」

「この将棋は先を読み、戦略をたてる事で勝敗が決まる遊びなんだ」

「ですが、ケンジ様……そんな頭の使うような遊びが、国民達に受けいられるとは思わないのですが」

「なんでだ?」

「遊びとはいえ、頭を使う事になれば、国民には難しすぎると思うのですが……」

「いやいや、ルールは簡単だよ。駒には動き方があるだけで、それさえ覚えれば5歳ぐらいの子供でも出来る遊びだよ」

「えっ?大人用のおもちゃじゃなかったんですか?」

「そうだよ。大人が遊ぶ玩具だが、子供と一緒に遊べるものだ」

 ケンジは、大人用と言ったがここにも策略があった。父親が子供とのコミニュケーションが取れる物を作りたかったのだ。この将棋を通じて、その日のあった事を会話して欲しかったのである。

「とりあえず、ゲンさんはこの設計図通りに、将棋の盤と駒を作ってくれないか?」

「わかったが、この将棋は弟子たちに任せてもいいか?」

「それは、ゲンさんに任せるよ。この将棋ならゲンさんじゃなくとも作れると思うからな」

 ケンジは、ゲンゴに後の事を任せることにした。ゲンゴやシャイアの心配した頭の使う遊びだったが、将棋は王将を取る戦略ゲームであり、今まで戦争が身近だった国民にとって、将棋は大流行する遊びだった。

 ルールは簡単であり、国民達はこの将棋をここまで気に入るとは、この時のケンジは予想もしていなかったのだ。


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