上 下
514 / 619
第10章 Freedom国、経済の中心へ!

61話 鳳凰騎士団の強さ

しおりを挟む
 ヴァンデインは、鳳凰騎士団隊長見習いとして、入団することが出来た。支給される装備は、鉄鉱石で作られたプレートメイルであり、ただのノーマル品である。隊長クラスの人間はレザーアーマーといった感じで、聖教国にいた時に比べたら雲泥の差だった。

「おい!新入り!もっと早く走らないか!早朝訓練だけで1日が終わってしまうぞ!」

「ぜえぜえぜえ!すいませ……ん……」

 ヴァンデインや、少し腕に覚えのある者は何とかその訓練について行っていたが、隊長クラスの人間は訓練の辛さに気絶してしまう程だった。
 しかし、新人のヴァンデイン達は、訓練場でのマラソンは重りのない恰好でやっていたが、上司である2軍は20kgの重りを背負ってでのマラソンを軽々とこなしていて、基本体力そのものが違っていた。

「な、何でそんな重りをつけて、そんな速さで走れるのですか?」

「何を言っている!こんなのは重さの内には入らんぞ!1軍の方々は、40kgの重りをつけて俺達より早く走るんだからな……」

 ヴァンデイン達は、その言葉に開いた口が塞がらなかった。そして、衝撃の事実を聞かされることになる。

「何驚いてんだ?ここでは普通の事だし、1軍に上がるまではダンジョン遠征には行けないし、3軍の間は基礎トレーニングしか出来ないんだぞ?」

「「「「なっ⁉」」」」
「それじゃ、我々が活躍できる場は?」

「まあ、そんなことを心配する以前の問題だな……だが、これはケンジ様の温情でもあるらしいぞ」

「活躍をさせてくれないのに何が温情だ!」

「まあ、待てよ!あんたって聖教国で団長をやってたんだろ?」

「ああ!実力はあるつもりだ‼」

「だがな?この国から守る相手は、超級ダンジョンや極級ダンジョンのボスらしいんだよ!それに今では、すっかり様変わりした地上の魔の森……それらが対象だ!」

「だからなんだ!我らは極級ダンジョンの警備を!」

「それは分かっているんだが、ここでの警備は1パーティでやるものなんだよ?」

「はぁあ?なんで1パーティーなんだ?連合を組めばいいじゃないか!」

「1パーティー10人が、ダンジョンでは最も動きやすい人数だからな!しょうがないと思うだろ。だから、10人でも魔物に殺されない程の実力をつけるまで、討伐はさせてもらえないんだよ!」

「何でそんな……」

「ただ、町がスタンピードに襲われた場合や他国が攻めてきた場合は、俺達も連合軍として出陣しないといけないんだけどな」

 ヴァンデイン達は、上司である2軍の兵士にそのように話をされた。ここでの訓練は、単純だが厳しくずっと基礎トレーニングばかりだった。
 魔物を倒すわけではないので、トレーニングでレベルが上がっていく事になり、効率が悪いと思うのだが、ステータスの基本値があまりに低い事もあり、魔物に殺されてしまう恐れがあるのである。そして、組手や段取りをすることで、実戦に近いトレーニングもしたりする。

「お前達!今日は本当に気合を入れないと、死んでしまうから気をつけろよ!」

 その言葉に、3軍のメンバー達は騒めいた。訓練場にはSランクの魔物の、ブラッドシープライアーが立っていたのである。

 この魔物は、羊の顔を持った赤い羊毛を纏った悪魔族でありその羊毛で物理攻撃を80%軽減する。弱点は光と火属性魔法でありそれでも光は30%、火属性は50%軽減する。 
 普段ダンジョンで遭遇した場合、テンプルナイトでは太刀打ちできない魔物である。ここにいるのは一匹だが、ダンジョンで遭遇した場合、群れているのが普通でその数はゆうに100匹を超え襲ってくるのだ。

「ブラッドシープライアーだと!何故こんな所に!」

「めえええええ!めえええええ!」

 ブラッドシープライアーは、戦闘態勢でこちらを威嚇してきたのである。

「この国は、魔物が出入りしているのか?」

「お前!五月蠅いぞ!めええええ!お主からかかってくるめええええ!」

「しゃ、喋っただと!」

「ヴァンデイン、お主から訓練開始だ!絶対油断するんじゃないぞ!始め!」

 ヴァンデインは、何が起こっているのか理解できなかった。魔物が喋り、自分に対してかかって来いと言っているのである。
 
「ヴァンデイン何をやっている!ボ~っとするな!」

 その瞬間、ヴァンデインはブラッドシープライアーの、繰り出した刃のない棍棒の一撃を食らって、その場に倒れてしまった。

「ぐはっ!」

「そ、それまで!」

「き、貴様!卑怯だぞ……」

 ヴァンデインは、その喋るブラッドシープライアーに文句を言った。すると、2軍の上司がヴァンデインに忠告を入れた。

「ヴァンデイン止めろ!」

「なんでですか!こいつはいきなり襲い掛かってきて!」

「じゃあ、お前に聞くが、ダンジョンで魔物に襲われた時、いちいち卑怯だと文句を言うのか?」

「ぐっ!それは……だけど、その魔物はいったい!」

「そんなの決まっているめええええええ!俺はケンジ様の従魔に決まっているだろめえええええ!」

「めえめえ!うるせえぇ!」
 
 ブラッドシープライアーは、ケンジの従魔だった。鳳凰騎士団の強さはここにもあったのである。魔物の瞬発力とパワーと耐久力を実戦形式で手加減をしながら訓練が出来るからだ。ヴァンデインは、Sクラスの魔物の一撃で動けなくなってしまった。

「介護班よろしく頼む」

 ヒーラーが、すぐにやってきてヴァンデインにヒールを掛けた。すぐに対処が出来るのも、Freedomだからできる事である。

 そして、一対一でのタイマン勝負で勝てる兵士は誰一人いなかった。

「お前達の実力はそんなものだ!身にしみてわかったと思う。この状態で、ダンジョンに潜ったら死に行くようなもので、足手まといになるのは分かったと思う!」

「なんで、高ランクの魔物とタイマン勝負をしなきゃいけないんだ!効率よく倒せるように、パーティーで戦えばいいじゃないか!」

 3軍のメンバー達は納得出来なかった。ヒューマンなら、もっと頭を使い倒せる手段もあるのに、あえてタイマン勝負する意味が分からなかったのだ。

「お前達!まだわからないのか?」

「ですが!」

「いいか?俺達が警備する対象は、Sランクの魔物一体じゃないんだぞ?このブラッドシープライアーだって、ここにいる魔物の中では最弱なんだ!」

「最弱って言うなめえええええ!」

「最弱なんだからしょうがないだろ?」

「それはそうだが、わざわざ言うなめええええ!」

「悪かったよ!そう怒るな」

「「「「「こ、この魔物が最弱……」」」」」

「いいか?こういった魔物が、たくさんいるダンジョンに俺達は討伐に行くんだ。これぐらいは個人で、対処できなければとてもじゃないが、ボス部屋の魔物なんか倒せるわけはない!」

「「「「「……」」」」」

 鳳凰騎士団の、目的は国民達の安全である。その為、他の国のようにダンジョンの見回りではなく、ボス部屋の魔物の間引きであり、スタンピードを起こさせない様にすることが役目だという事が分かった。
 だからこそ、入隊条件は100レベル以上であり、安心して超級ダンジョンの魔物を間引けるという事になる。

「いいか?他国のような温い警備方法じゃ、ここではやっていけない事を胸に刻め!」

「なっ‼我々が今までやっていたことが温いだと……」

「ヴァンデイン!ケンジ様からも言われたはずだぞ?過去の栄光は捨てろとな。わかったなら、全員今日は一日走り込め!」

「「「「「……」」」」」」

「返事はどうした!」

「「「「「はい……」」」」」

「声が小さい!もう一度!」

「「「「「はい!」」」」」」

 返事と共に、3軍の兵士達はその日一日走り込んだのである。そして、入隊試験から3ヶ月の見習い期間が終わった。
 3ヶ月後、見習い兵士達は受かった時の半分の人数になっていた。それほどまでに、鳳凰騎士団の訓練は厳しかったのだった。しかし、これは序の口であり、あくまでも見習い期間での訓練だったことを、3軍の見習い兵士達は知らない。



 そして、ケンジはランスロットを呼んで兵士達の様子をきいた。

「ランスロット!忙しい所をすまんな……」

「いえ、構いません!定期連絡は必要ですから!」

「今回はどれくらい残った?」

「今回は優秀の方だと思います。半分も残ったのですから!しかし、本当の試練はこれからですからね。どうなる事やら……」

「それで、元テンプルナイト達はどうなった?」

「さすがと言っていいモノか、よくわかりませんが50人ほどですね……」

「ほう!50人も残ったのなら、さすがと言ってもいいよ!俺の予想では40弱かと思っていたからな」

 ケンジは、その報告に笑顔となった。それを見たランスロットは、ケンジは一体どのように先を見据えているのか訳が分からなかった。
 実際の所、ヴァンデインは2軍にも上がれないと思っていたからだ。しかし、ケンジの笑顔を見る限り、そうは思っていなさそうだからだ。

「ケンジ様!なんかうれしそうな感じですね?ヴァンデイン達が、鳳凰騎士団に入隊するのは反対だったのでは?」

「ああ!今のままだったらな。だけど、この3ヶ月を乗り切り考え方が変わる者も出てくるだろう?俺は、ヴァンデインだけを見ている訳じゃないよ」

 ケンジは、ランスロットの問いに答えたのだった。

「えっ?ケンジ様は、ヴァンデインの事で笑顔を見せた訳じゃないのですか?」

「まあ、そうかな?ヴァンデイン個人じゃなく、要は見習いが50人も残った事と、元テンプルナイトじゃない者達に期待をしただけだよ」

 ケンジは、どの人間が残ったのではなく、頼りになる鳳凰騎士団を担う人間が育つことに、期待をしていたのだった。
 元テンプルナイトが思う理想など、ケンジはいらないと思っていた。そんな事より、この時も勢力を上げている魔物達から、国民を守れる存在が増えてくれたらいいと思っていた。
 ケンジは、見習い期間を終えた兵士達には続けて訓練を実施し、半年に1回ある入隊試験の事を、ランスロットに説明していた。




 そして、とうとうそれから半年後、聖女直々にFreedom国に、正式な場を求められる事になったのである。



しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光
ファンタジー
魔物討伐を生業とする冒険者に憧れる俺は、十五歳の誕生日を迎えた日、一流の冒険者になる事を決意して旅に出た。 旅の最中に「魔物を自在に召喚する力」に目覚めた主人公が、次々と強力な魔物を召喚し、騎士団を作りながら地域を守り続け、最高の冒険者を目指します。 主人公最強、村人の成り上がりファンタジー。 ※小説家になろうにて、990万PV達成しました。 ※以前アルファポリスで投稿していた作品を大幅に加筆修正したものです。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

処理中です...