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第10章 Freedom国、経済の中心へ!

58話 聖教国、滅亡の序曲……

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 聖女達は、テンプルナイト達がマルシェイム聖教国からいなくなった事で、平民達から突き上げられていた。

「聖女様!平民達からこれから聖教国はどうなるのか?など苦情が殺到しております!」

 平民達は、聖女達の政策に苦情を言う者や、教会にお祈りを上げる者で教会本部は人で埋め尽くされていた。

 そして、平民達の中でも余裕のある者は出国手続きで窓口は賑わっていて、受付は夜を徹して行なわれ、まさに聖教国は沸騰する釜さながらだった。

「これではもう……」

「何を言っておいでか?聖教国はまだこれから……」

「この状況を見てまだそんなことを!」

「だったらどうするおつもりですか?聖教国を潰してしまうおつもりですか?」

「潰すも何も、平民達が国を出る手続きをしているのです!平民がいなければ……」

「まだ全員がいなくなる訳では……」

「では、残った平民達で国はまわるのですか?大なり小なり町は点在しています。ここ聖都に、人間を集める事は可能ですか?」

「そ、それは……」

 聖女アリサは、国を縮小しここ聖都だけにして一からやり直す事を提案したのだ。しかし、平民からしたらそんな横暴な事をされて、聖都に連れてこられるなら、Freedom領のホネストの町に移住した方が安心できるのだ。

「本当にそれしか道はないのでしょうか……」

「今、聖教国はテンプルナイトはいなくなり、町を守る騎士団は2軍……いや、3軍しかいません。そして、町の人間達は聖都に集めたとて、前の人口には及ばないでしょう……」

「なぜ、こうなってしまったのでしょうか……我々は……」

「ヴァンデイン団長が言っていたではありませんか……私達は道を誤ってしまったのです。Freedom国に依存し過ぎてしまったから……」

「依存ではありません!イズモ大陸にとってFreedom国はもうなくてはならない存在として、世の中に広まっています!それを利用して何が悪いというのですか?」

「だから、その結果が今の状況なのがわからないのですか?利用するのは良いと思います!ですが、聖教国も又同じ土俵で振る舞わなければいけなかったのです」

「同じ土俵?」

「そう!国としての責任をもって、平民達から信頼を持ってもらわないといけなかったのです」

「平民達からの信頼?」

「そうです!今の聖教国の状況は、平民達から心配ばかりの声が聞こえてきます。心配じゃなく信頼され、この聖教国で生活していたら安心と思って貰わないといけなかったのです……」

「そんなバカな事を!なんで国が、平民の為に動かなければいけないのですか?平民達は、教会本部の土地に住まわしてもらっている立場なのですよ?」

「だったら、なぜ平民達はこの聖教国領から出て行ってしまうのです?」

「そ、それは……」

「そうです!Freedom国が出現した時に、今までのような考え方は捨てるべきでした……国があって、平民達は生活できるという考え方は……」

「……」

「そのような考え方が普通であれば、何の問題はなかったのですが、Freedom国は平民達がいて、初めて国は成り立つといい、平民達が豊かに暮らせるように平民ファーストの国を作った」

「そんな事をするから!普通が普通じゃなくなるのです!」

「ですが、平民達はそれを選んた事で今や、大陸一の超大国になりつつあります。聖教国はもちろん、王国や帝国の平民達も続々集結しています。それに、他国が縮小した事で見捨てた土地に、支店を城壁内に建てる事で、Freedom国は領土を増やしているのですよ?」

「そ、それは……」

「聖教国も聖都のみにした場合、領土内の大きな町にはFreedom支店が入ることになるでしょう!」

「そ、そんな馬鹿な!」

「当然、聖都に来たくとも来れない人間はいます。Freedom国が、その平民達を見捨てるとは思いません」

「ですが、領土をそんな急に増やせるものなのですか?」

「どういう事になっているのか私も分かりません……ですが、事実領土を増やしているのです」

 Freedom国では、騎士団本隊はフリーの町に在中しており、他の町には見張り程度の人数しか常駐していない。この常駐は交代制であり、町の結界が守っている。
 そして、Freedom国内では転移マットで繋がっている為すぐに援軍が呼べるのである。
 それでも、援軍が来るまでは結界と空気砲で町は守られる為、鳳凰騎士団が出るまでもなく、地上のスタンピードなら討伐可能である。
 鳳凰騎士団が出張るようなスタンピードになると、超級ダンジョンからドラゴン(成龍)が襲ってくるようなスタンピードになり、そんなことは滅多な事で起こるようなものではないのである。

「どうやって騎士団を揃えているのでしょうか?」

 普通に考えては、絶対にそのからくりには気づかないのだ。その為、聖女と大司教達は頭を悩ませていた。




 その頃、Freedom国では移住してきた人間で、とんでもない事になっていた。元貴族の人間が貴族位を返上し、フリーの町やホーチュンの町に流れ込んでいた。
 ホープやホネストの町には、王国や帝国の平民達が殺到していたのである。Freedom国の首都であるフリーの町には聖教国の信者達が教会に手続きをしていた。

 これに、ムシュダルク達は嬉しい悲鳴を連日上げていた。早く手続きを済ませないと、平民達はFreedom国民になる事が出来ないからだ。


 ケンジはケンジで連日、他国が縮小しFreedom支店のある町から、救援要請が舞い込んでいたのである。当然だが、国が捨てた町には平民達が少なく、城の兵士は撤退しギルドも撤退を余儀しなければならない状態で、平民達は見捨てられた状態になっていた。
 ケンジはまず、町の結界を作動させる為に動かなければならなかった。ギルドは、町の結界システムはそのままにしていたが、エネルギー源である魔石とヒイロカネのインゴットを抜き取り撤退していたからだ。
 残った町の人間の事など考えていない酷い所業である。町の結界を作動させると残った人間はひとまず安心した。

「ケ、ケンジ様!本当にありがとうございます!」

 ケンジが、町の広場にやって来ると行き場のなかった平民達は、ケンジに土下座してお礼を言っていたのである。

「みんなよく頑張ってくれた!これでひとまずこの町は安全だが、後日この町にはFreedom国のギルドが設置される事になる」

 その言葉に平民達は歓声を上げた。ギルドが出来れば依頼が出され、冒険者達がこの町にもやって来ることになるからだ。
 そして、Freedom支店も町の中に設置される事が発表され、さらに騒然となった。

「そして、Freedom国民となる貴方達は、Freedom国領の町は転移マットで行き来することが出来、フリーの町にできた銭湯を利用する事も可能だし、ホーチュンの町の生魚を食す事も可能になるから、大いに利用してくれ」

「「「「「ほ、本当ですか?」」」」」

「しかし、時間はかかるがそれだけは容赦してくれ!」

 ケンジがそう言うと、平民達は笑顔となりケンジにお礼を言うのだった。ケンジはさっそく、本国に帰りギルドに指示を出し、ギルド職員の募集をだした。そして、大工職人にギルドの建設を依頼し、やることがいっぱいだった。



 そして、ケンジの鍛冶工房に行き、ダンギに指示を出した。


「ダンギ!いるか?」

「主殿!どうかしたのか?」

「ああ!、又王国領が縮小し、一つの町を見捨てたんだ」

「なんだと⁉このあいだ一つの町を見捨てたばかりじゃないか!」

「でな、町からの救援要請がきたんだ!今回の町は、そう大きくないから空気砲を4台製作しておいてくれ」

「了解した!おい!お前達、空気砲を4台作れ!大急ぎでな!」

「「「「「おう!」」」」」」

 屈強な鍛冶職人達が、一斉に返事をして設計図を出し、手分けをして製作に取り掛かるのだった。

「ところで、主殿?いったい世間ではどうなっているんだ?」

「なにがだ?」

「なんでも、移住してくる人間が多すぎると、ムシュダルクの旦那が悲鳴を上げていたぞ?」

「あぁ……他国が縮小してるのは分かるだろ?」

「ああ……確かにこの状況は異常だな……」

「その縮小した町の人間が、全てFreedomに流れてきているみたいなんだよ」

「はぁあ?全員が、Freedom国に移住してきているのか?」

「そうみたいなんだよ」

「すると他国では人口が減り、税金が足りなくなり増税し、国民がFreedomに移住し、そして増税の繰り返しみたいでな……」

「なんだそれ?完全に、負のスパイラルに陥ってんじゃねえのか?」

「そういう訳なんだよ!」

「王国や帝国は何をやってんだ?」

「まあ、俺達には関係ない事だよ。国民達は不幸だと思うけどな?だけど、俺達はこうして受け入れてあげれば問題はないだろ?」

「だが、主殿!気をつけなよ?」

「何を言っているんだ?」

「確かに主殿は、優しいから全ての人間を受け入れるつもりだが、人口が増えれば、よくない人間も集まるという事だ。ここFreedomの屋敷がある内壁には悪人は入れないが、外壁の地域には普通に入れるんだからな」


 ダンギが言った忠告は現実のものになるのを、ケンジはまだ知らなかった。貴族位を返上し元貴族の人間もまたここFreedom国に入国していたからだ。
 ケンジにとって、また新たな問題が起こる前ぶれでもあったのだ。


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