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第10章 Freedom国、経済の中心へ!

39話 口論

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 ケンジは、その晩眠れなかった……いくら考えても、みんなの言う事が理解できなかったからだ!眠れなかったケンジは、屋敷から抜け出し城壁の上に立ち、町を眺めていた。町には街路地の明かりや、ギルドのような24時間営業をしている明かりで本当に夜景がきれいだった。

「俺って、この世界に来ていったい何をやってきたのかな……」

 ケンジは、貴族や権力者に対して反抗を続けてきたからこそ、今があると思っていたが、ここにきてやり過ぎだと言われたのだ。
 だが、自分のやってきた事は、一部の人間が好き勝手やれない世の中にしたいと思い、暴力ではない力を手に入れたと思っていた。
 そして、その力を使いこれからはもっと国民達が、生活しやすい世の中を作ろうとしていたつもりだったが、ムシュダルク達にやりすぎだと言われたのだった。

 ここにきて、ケンジは本当にどうすればいいのか、分からなくなってしまっていた。

「これからどうしようかな……やっぱり、この世界の常識にのっとり行動しようか……だがそれだと、ギル達奴隷のという立場は、いつまでたっても改善されることはないしな」

 するとそこに、ギルが息を切らしてケンジの側に走ってきた。

「あ、主!こんなところに!」

「あぁ……ギルか!」

「ギルかじゃないです!心配しましたよ。いきなり部屋からいなくなってみんな心配しています!戻りましょう!」

「なあ、ギル……ちょっと待ってくれないか?」

「何でしょうか?」

「ギルは、奴隷からの解放は望まないんだろ?なんでだ?自由になりたくないのか?」

「私は自由より主の側で居たい!私はシスティナと、ゴブリンに殺されようとしていた時、自分達から主に奴隷にしてくださいとお願いした身です」

「そうじゃない!俺が解放してやろうと言ったんだぞ?それなのに奴隷からの解放を望まないのはなんでだ?」

「それは、主をお慕いしていて、この後の人生もケンジ様の役に立ちたいと思っているからです!」

「それは奴隷の立場じゃなくても出来るだろ?」

「この奴隷紋は、主との絆の証でございます!確かに、奴隷じゃなくなっても私の忠誠心は無くなる事はございません。だけど、私がこの身分でいたいのです」

「じゃあ、この俺がこの世界の常識に乗っ取って、他の主人と同じように振る舞ってもか?」

「そうなった場合、主には何か考えがあっての事だと、今はそう思えるので我慢します。これはシスティナ達もそう思うと思いますよ」

「だったら、なぜ今日はみんなはこの世界の常識を覆そうとしない?俺達は、貴族のような人間を無くそうとしていたんじゃないのか?」

「それは、多分個人での関係じゃないからですよ……主のやろうとしている事は、常人では計り知れないからです」

「だが、それを目標に俺達は……」

「主……いいですか?主と私と師従関係になったのは、まだ10年そこそこです。たった10年で、主はFreedom国を建国し、今や4つの町を治める国王であり、支店を含めたら大陸一なくてはならない国の王様です」

「それが?」

「そんなお人が、聖教国や王国を滅亡に追い込まなくとも、別の手段で何とかできると、常人は思ってしまうのですよ。主は今日、みんなから誤解されたように思っているかもしれませんが、日頃の主を見ている私達からすれば、もっと何か別の事を期待してしまうのです」

「お、俺は……英雄でも勇者でもない……俺の気に入っている者達だけで、自由に楽しく過ごしていければいいと思って何が悪いんだ?」

「それならばなぜ主は、世界の常識を覆そうとなさるのですか?奴隷の身分を無くす、必要はないのではありませんか?他の国の、貴族を無くそうとするのはなぜですか?」

「それは、俺自身がそんな制度が気に入らないからだ!貴族平民奴隷?何だよそれ!同じ人間だろ?確かに犯罪奴隷はそいつが悪い!盗賊達が平民達と同じとも言わない!だが、貴族や平民っておかしいじゃないか!」




「そういった制度を改革出来るのは、昔からこの世界では英雄と呼ばれるのですよ!」



 ギルは、ケンジにそう説明した。

「そして、私は主がそれだけの事をやれる人間だと信じています」

「俺は……そんな人間じゃない……」

「主は、もっと他人に自分の考えを出してもいいかと思います!じゃないと、主の最終着地点がみんなには伝わらないから誤解されるのかと!」

「俺はちゃんと伝えている!」

「そうですか?『出し惜しみは知っている者の特権だ!』と、いつもおっしゃっているではないですか?」

「それは……しかし、今回は最悪のシナリオとなった時、王国と聖教国は滅亡し、Freedom国が中心となり統一国家となると説明しておいただろ?」

「それは、最悪のシナリオのはずです!主なら、それを回避できるのではないですか?」

「だから、そこだよ!なぜ俺が、他国を救わなくてはならんのだ?勝手に滅亡していくのはしょうがないだろ?」

「何故、救える力があるのに見捨てるのですか?」

「ギル!お前は滅亡は終わりだと思い込んでいるんだ。だから、そんな事を言うんだよ」

「どういう事ですか?」

「いいか?テンペの町は滅亡したよな?だが、それでテンペの町の住民はどうなった?」

「それは、Freedom国民となり、そうじゃない人間は王都に移住しました」

「どうだ?滅亡は終わりじゃないだろ?滅亡は始まりなんだよ!これはテンペの町だけじゃないぞ?王国だって始まりはあったんだ。その前はどんな国だったか知らんが、その国が滅亡し王国が誕生したんだ!」

「それは……」

「王国も聖教国も滅亡するという事は、何がきっかけなのか関係なく時代の流れなんだよ!ただ、そこに俺という人間が、関係したかしてないかは問題じゃない!」

「ですが、王国も聖教国も滅亡しないという事もありうるんじゃ……」

「それはそうだが、それは話が平行線になるから言わないが、キース国王や聖女アリサが、何とか出来たら滅亡はまのがれるだろ?」

「だったら、それをムシュダルク様やマイ様に説明をしないといけません!その後、主が何をしようとするのかを詳しくです」

「ああ……分かったよ……」

「それでは、屋敷に帰りましょう!」

「いや……もう少し、ここで頭を冷やしていく」

 ケンジは、ギルとこんなに話し合ったのは久しぶりだった。最近では男同士で飲みにも行っていなくて、こんなに熱くなったのは、いつぶりの事だったかわからなかった。

 そして、夜風に吹かれて少し冷静になり、ケンジはなんか恥ずかしくなり町のネオンを見つめていた。


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