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第10章 Freedom国、経済の中心へ!

25話 虐め

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 Freedom国に帰ったケンジ達は、災害級の魔物であるゴブリンエンペラーとマザーを討伐した、記念のパレードをした。

 これは、鳳凰騎士団の力を示す為のもので、鳳凰騎士団を先頭にでかい大八車にエンペラーとマザーの遺体を乗せて、町の正面城門から中央にあるケンジの屋敷までの距離をゆっくりパレードをする事だ。

「この国の騎士団すげえ!」
「この国にいたら安心して生活できるんじゃねえか?」
「ホントよね!貴方この国に移住して良かったわね」
「ああ!この子も安心して育てれるな」
「パパ、ママ僕大きくなったら騎士団に入れるかな?」
「本当にすげえな!この国の騎士団って奴隷なんだよな?」
「ああ!だが、あんな強い奴隷なら問題はねえよ!」

 ケンジの目的はここにあった。奴隷でも頑張れば、こんな偉業を達成できると平民達に分からせる事にあった。この国の安全は、奴隷がいて成り立っていると分かってもらい、町で奴隷を見ても下げずむ視線を止めてほしいというメッセージだった。

 現に、今鳳凰騎士団はパレードで注目を集め羨望の的になっていた。若い女性からは黄色い悲鳴があがり、子供達からはあんな凶暴な魔物を退治する騎士団に憧れの声が上がっていたのだ。

 その噂は王国や聖教国にも伝わり、お礼の連絡がすぐにFreedom国に来たのだ。



「ケンジ様!このたびは本当にありがとうございました。王国でも目と鼻の先に集落が出来ていたと聞き、これでもう安心です」

「これで安心して、聖教国でも通常の警護に戻ることが出来ます!」

「キース国王と聖女アリサさん、今回我々Freedomだけで討伐させてもらった」

「「はい!その通りです。本当にたすかりました!」」

「これで、我々鳳凰騎士団に対して、今までのような態度は取ってほしくないのが俺の望みだ!」

「はい!それはもう……ですが、あくまでも奴隷という立場でありますが、頼もしい戦力だと思っています」

「おいおい!何を言っているんだ?」

「えっ?」

「この戦力はFreedom国だよ!それにあくまでも奴隷という立場ってなんだよ?」

「ですが、実際奴隷という立場ではないですか?」

「という事は、奴隷騎士団はテンプルナイトより強大な騎士団だと認めるのですね?」

「そういう事を言っているのでは……」

「いやいやいや……テンプルナイトだけで今回エンペラーとマザーを討伐出来たのですか?飛龍騎士団だけで出来ましたか?」

「「そ、それは……」」

「だったら、その奴隷に拘るのはやめてほしいと言っているのですよ!同じ誇りを持っている騎士という立場は同等と認める事!そして、鳳凰騎士団はあくまでもFreedomの騎士団としての戦力であって、都合の良い考え方はやめてほしい!」

「ですが、事実奴隷騎士団ではないか?」

「じゃあ、その奴隷騎士団が飛龍騎士団でも、出来ないような偉業を達成したといわれても構わないのですか?ここは、飛龍騎士団やテンプルナイトと同じ立場と認めた方が、お互いいいのではありませんか?」

「「うっ……」」

 王国も聖教国も、大陸がピンチの時に使う事が出来る戦力を手放したくなかった。王国と聖教国の考え方がおかしいと思うかもしれないが、何かあった場合奴隷は色んなことに使って、国が出し合うのが暗黙の了解のような所があるのだ。
 溝を掘って落とし穴を掘ったり、戦略として使う事がよくある。ただ、鳳凰騎士団は奴隷であるのに物凄い戦力になっているだけなのだ。
 ここで、飛龍騎士団やテンプルナイトと同等の騎士団と認めてしまえば、その国の戦力となってしまい奴隷として今回のように軽々しく扱えないのだ。

「いいですか?鳳凰騎士団は俺の奴隷であって、国が所有している奴隷でもないから、これからは安易に考えてほしくないんだ!それに、俺はランスロット達を奴隷とは思っておらず仲間だと思っている。だから貴方達、他国に都合の良いように扱ってほしくないんだ!」

「「わ、分かりました……」」

「じゃあ、これからはそういう事でよろしく頼むぞ?」

「「は、はい!」」

「今回の討伐は以上だ!貴方達には討伐依頼料をそれぞれ出すから、よろしく頼むぞ?」

「「えっ⁉」」

「えってなんだよ?」

「ですが、今回はケンジ様がこちらでやるからと言ったのではないですか?」

「おいおい!それはいくらなんでもおかしくないか?エンペラーとマザーのような災害級の魔物は、本来連合を組んだうえで討伐するんだと言っていただろ?」

「それはそうですが……Freedom国が、自分達だけでやると言ったではないですか?」

「……」

「だから、私達はそれに従ったのです!」

 ケンジは、グッと言葉を飲み込んだ。そして、ため息をフッと吐いて言葉をだした。

「そうか!君達の言う事はよく分かったよ。確かに、俺がFreedomだけで討伐をやると言ったんだったよな?
すまなかった!」

 ケンジの言葉に、キース王と聖女はホッとした様な顔をした。

「ケンジ様!」
「ご主人様!」

「まあまあ!今回は、俺が確かにそう言ったよ。みんなも落ち着いてくれ。キース王と聖女様の言っている事が正しいよ」

「ですが!」

「キース王と聖女様ももういいだろ?」

「「は、はい!」」

 王国と聖教国は、間違った選択をしたのである。ここでケンジの言う通り鳳凰騎士団の実力を認めて、依頼料だけでも支払っておけば良かったのだが我を通してしまったのだ。

 そして、キースとアリサ達が帰った後、ケンジは握り拳を作り震えていたのを、マイとセバスは見逃さなかった。そして、ケンジはムシュダルクと国の事を話し合う為に、会議室へと入っていった。

「セバス……ケンちゃんを見た?」

「えぇ……聖教国と王国は、馬鹿な選択をしたものですな……」

「まあ、これからどうなるのか楽しみね」

「楽しみ⁉私は又、無理難題を王国と聖教国から、吹っ掛けられる事の方がイライラしますよ」

「まあ、ケンちゃんと様子を見る限り、もう聖教国と王国の為に動く事は無いんじゃないかな?」

「王国と聖教国の平民達は不幸ですな……」

 マイとセバスは、苦笑いをしながら王国と聖教国の行く末を祈ったのだ。



 会議室に入ったケンジ達は、エンペラー戦で命を救った女性達の事をムシュダルクに説明した。

「ケンジ様!本当にそのような者を、ギルドの窓口業務をやらせるおつもりですか?」

「ああ!あの女性達はもうどこにも雇ってくれるところが無いらしいからな」

「当然です!そのような者を雇うと、イメージが悪くなりますからね」

「ムシュダルクさん!この国ではそういった差別はなくしていこうと言ったよね?」

「それは分かっておりますが、冒険者達の素材を買い取る窓口に置かなくてもよろしいのではありませんか?Freedom店の裏方でも……」

「いや、あの女性達は俺の奴隷じゃないんだ!Freedom店では働かす事はできないよ」

「あっ……」

「だが、救った中の半分ぐらいの奴隷だった人間は、俺が主人となったからFreedom店で働いたり、工房で働いてもらうけどな。しかし、彼女達は平民だ」

「だったら、ケンジ様がそこまで係わる必要はないのでは?」

「いいや……それでは、Freedom国が他の国と同じになるじゃないか!Freedom国は、平民達が貴族達より平和で自由に暮らせる国を目指さないと、俺達の目標は達成できないと思わないか?」

「ケンジ様の言う事は分かります……ですが、こればかりはそう簡単に変わるとは思いません……」

「だが、彼女達は好きで、ああなった訳ではあるまい!言ってみたら事故だよ。それなのに、せっかく救われた命が今度は人間の手によって、摘み取られるのはおかしいと思わないか?」

「それは確かにそうですが……」

「彼女達が何歳まで生きるか分からないが、彼女達が幸せになる権利は当然あるんだよ。奴隷ならば、主人がいて衣食住を保証してやれるが、彼女達は自分達で寿命が何年あるかわからないが生きて行かないといけないんだ!その援助をして何が悪いと言うんだ?」

 ムシュダルクは、ケンジの言葉に反論はできなかった。言っている事は全て正しく、世の中の常識がおかしいからだ。

「わかりました。ケンジ様の言う事が正しいのはよく分かります!ただし、それを押し切ると言う事は、彼女達が世の中の常識に叩かれると言う事です。そのフォローは考えているのですか?」

「冒険者達は、素材を売って生活をしているんだぞ?そんな細かい事言っていて成り立つと思うか?」

「それはそうですが……ケンジ様が思っているより、この闇はもっと根深いかと私は思いますよ」

 ケンジはこの事を、軽く考えすぎていた。これはムシュダルクの言う事が正しかったのだ。ケンジは、窓口業務に彼女達を採用したのだが、いつの間にか彼女達の噂が拡がっていて、窓口の彼女達の列には一切列が出来てなくて、今までの人達の列に行列が出来ていた。

「なっ……ここまであからさまなのか?」

 ケンジがその後景を見ると、冒険者達は一旦その女性達の列に並ぼうとするが、彼女達の顔を見るや否や無言で列を移ったり、暴言を吐いたりしていたのだ。ケンジの奴隷達は、冒険者達に向かって列を誘導したりしていたが、誰も言う事を聞いていなかった。

「だから言ったではないですか……この闇は根深いと!ですが、これはまだマシな方ですよ」

「どういう事だよ?」

「もし、ほかの国でこのように窓口に立たせたら、その店には人がいなくなりますよ。ここがFreedom店との窓口業務だと、みんな分かっているから成り立っているのです」

 ケンジは、ムシュダルクの説明に愕然とするしかなかった。この間にも、窓口に立っている女性達にはあらゆる暴言が吐かれていて、荷物の運び入れや換金のお金でさえ、その女性達にやらせるなと苦情が出ていた。

 窓口の奴隷達も、同じ職場の仲間であり同じ対応をしてくれと、冒険者達に頭を下げていたが、冒険者達は嫌な顔をしてその要求を断っていた。


 これには、ケンジはたまらず窓口のロビーに向かって大声を出していた。

「これはどういう事だよ!」

 列の並んでいた人間は、ケンジの大声に身体をビクッとさせた。

「「「「「「ケ、ケンジ様?なんでこんなことろに?」」」」」」

「なあ、みんな!こんな虐めをして楽しいのか?」

「「「「「……」」」」」」

「彼女達が好きで、あの事件に巻き込まれたわけではないんだぞ?」

「ケンジ様、それは分かるが……」

「分かるんだったら、なぜこんな差別をするんだ?彼女達だって、この先生きて行かないといけないんだぞ?その為には金を稼いで食っていかないといけないんだ!」

 冒険者達は黙って、下を向いてしまった。

「なあ、みんな……もし、俺がこの窓口を閉めたらどうなる?」

 冒険者達は、ケンジの言葉に慌てたのだ。それは当然でせっかく取ってきた素材がこの町では売れなくなり、いちいち他の国にまで行って素材を売らないといけなくなるからだ。
 それに他の町のギルドでは、確かに前に比べて高く買い取ってくれるようにはなっていたが、Freedom国で売った方が割が良いのである。
 それに他の町に売りに行くとなると、輸送代や長時間経つ事で素材が痛み酷くなり、高値では売れなくなるのが容易に想像が出来るからだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな事をされたら俺達は生活ができなくなる!」

「だが、君達も俺が助けた従業員に、同じ事をしているじゃないか?」

「だけど、彼女達はここにいるだけで、ケンジ様から給料がもらえるんだろ?」

「こんな状況で、彼女達が平然と働けると思うのか?彼女達の目を見てみろよ!いずれ、この状況に耐えられなくなってここを辞めると言ったら、他で働く事ができなくなるんだぞ?」

「そ、それは……」

「もし、君達の大切な人が同じ目にあった時、君達は同じような事が出来るのか?そうじゃなくて、その人を支えるんじゃないのか?他人だと平気で見捨てるのか?」

「「「「「……」」」」」

「俺は、この町……いや、俺の国では絶対差別やいじめは許さない!君達がこのままこの行動を続けると言うなら、大陸中にあるFreedom支店を閉店させるからな!」

「そんな事が出来るわけ!」

「本当にそう思うのか?俺は自分の家族と思っている人間だけ、つまりFreedom店で働く者達だけを、食わしていけばいいだけなんだぜ?」

 ケンジの言葉には説得力があった。今回、エンペラーとマザーを倒した実力がケンジにはあるのだ。それ故に、冒険者達の素材なんかを当てにせず、高級素材を自ら手に入れてメイガン商会に持ち込んだりすれば、十分な利益が出て奴隷達を食わしていく事が可能なのだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!俺達が悪かった!だから、窓口を閉店させるだなんて言わないでほしい!」

 冒険者達は、ケンジの言葉に焦り全員が頭を下げたのだ。ケンジが、ギルド構成員だったころを知っている人間はなおさら、ケンジは支店を閉めると決断したら、容赦なく店をたたむだろうと思った。

 そうなると、今度は国民達の怒りの矛先は自分達であり、ここを拠点としていた冒険者だと噂が広まり、大陸中の人間から村八分にされるのが分かった。

「君達、何を勘違いしているんだ?」

「「「「「「へっ?」」」」」」

「俺に謝罪してどうすんだよ!謝罪するなら俺じゃなく彼女達だ!彼女達にすぐに謝罪するんだ!」

 ケンジは、冒険者達に大声で怒鳴った。その大声にビビった冒険者達は、彼女達に向き直り土下座したのである。

「後は君達に任せる!謝罪を受け入れないのならそれでいいよ。店を閉めるだけだ!」

「ケンジ様……」

 そのやり取りを見て、冒険者達はドキドキしていた。彼女達が謝罪を受け取らないと言った時、ケンジは本当に店を躊躇なく閉める事が分かったからだ。そうなると今度は自分達が、彼女達の境遇となるのである。

「「「「「「本当にすいませんでした!お許しください‼」」」」」」」

 彼女達は、あの荒くれ者だと思っていた冒険者達が小さく縮こまり、自分達に土下座までしていた事にスカッとしたのだった。
 そして、彼女達は見つめ合って確認しあった。自分達は、ケンジを信じて店を盛り立てる事で、この恩を返していこうと思った。

「「「「ケンジ様、ありがとうございます」」」」」
「私達は謝罪を受け入れます!そして、この店を盛り立ててこの恩を返していきたいです」

 その言葉に、冒険者達はドッと疲れ果て気が抜けたのだった。

「わかったよ。君達は、彼女達に救われたな!もし又、こういう事があった場合、本当に今度は許さないからここにいない冒険者達にもちゃんと伝えておいてくれ!もし今度、彼女達からこういう虐めがあったと報告を受けた時、本当にどうなるかわからないから肝に銘じる様に!」

「「「「「分かりました!申し訳ありませんでした‼」」」」」」

「じゃあ、あとはいつも通り買い取り業務に戻ってくれ!」

 ケンジはそう言って、買取窓口のロビーから出て行った。その後に残された冒険者達は、その場に腰が抜けて動けなかったのは言うまでもない。


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