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第1章 異世界に!

29話 依頼をドンドンやりに行こう!①

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 ケンジは、システィナと別れて、急いで材木屋に走って向かった。材木屋は、木の塀で囲まれ門は開けっ放しになっており、中には大工職人が慌ただしく朝の準備をしていた。
 ケンジは、どこから入ったらいいのか躊躇し、門の前で佇んでいたら、中から職人の一人が声をかけてきた。

「おい!坊主こんな所で何をやっているんだ?仕事の邪魔になるし、危険だから離れていた方が良いぞ」

「あ、すいません……ここの責任者の方ってどこですか?」

「ん?責任者?坊主、ここで働きたいのか?」

「いえ……生産ギルドで依頼を受けてきたのですが、どの人に言ったらいいのかと思って……」

「おお!生産ギルドからか‼それなら、あそこにある事務所に親方がいるから、そっちの方へ伝えてくれるか!」

「わかりました!ありがとうございます。」

 ケンジは、大工職人にお礼を言い、門から離れた小さな建物の方へ向かった。



 ケンジは、事務所の扉をノックし扉をあけた。

「すいません!生産ギルドから、依頼を受けたケンジと言います。職人さんにこちらに行けと言われたのですが、親方さんはいらっしゃいますか?」

「おう!ワシが、ここの親方をやっているドーンだ。依頼を受けてくれてありがとな!ホント助かるよ。」

 ここでも、ケンジは歓迎されて、肩をバンバン叩かれるほど熱烈な歓迎をうけた。仕事は、ここから西にある仕事現場に、資材の材木を届けてほしいというものであり、できたら昼までに運んでほしいというものだった。

「坊主、こちらの倉庫に来てくれ。運搬する資材がこっちにあるんだ」

「わかりました」

「それにしても、リアカー3台分だぞ?一人で大丈夫か?」

「はい、場所も覚えたし大丈夫です」

 親方のドーンが、心配するのは無理もなく倉庫に入ると、昨日ギルスレインに引いてもらったリアカーより一回り大きくて、そこには大量の角材を組んだ物が積まれていたのだ。
 ケンジには、インベントリがあるので問題なく運搬できるのだが、それを知らない親方にとっては、ケンジは見た目ひ弱そうな男の子だったので、無理もない事だった。

「それじゃ……現場に全部運搬し終わったら、向こうにいる親方に運搬完了書を貰って帰ってきてくれよ」

「わかりました」

「じゃ、ワシは忙しいから事務所にいるから、後は頼んだぞ!」

 そう言うと、親方のドーンは忙しなくバタバタしながら、倉庫から出て行ってしまった。倉庫から出た、親方は弟子達にカツを飛ばしていたのだった。

「おい!何をちんたらやってんだ!そんなじゃ日が暮れちまうぞ!」

 ケンジは、その光景を見て、やっぱ職人の世界って厳しそうだなぁと思ってしまった。


 さっそく、ケンジはリアカー3台をインベントリに収納して、西地区に向かうのだった。
 ケンジは、ゆっくり町の様子を見ながら出発したのだった。町の様子は活気があり、ケンジより小さい子供も働いているようで、荷物を担いで運搬作業や、広場で屋台の呼び込みや、色んな事をしているようだった。
 冒険者達も、今から町の外に向かう人や、夜通し魔物と戦い帰ってきた冒険者もいたりして、ケンジは地球とは違う風景を見て、興奮していたのだった。
 いろいろ見ながら歩き、西地区の現場にやってきたのだが、西地区は今までと少し違って時間の流れがゆっくりした場所で、こちらは住宅地区のような感じだった。
 大きな家もあれば、小さな家もあり、色とりどりの外壁の家がたくさんあって目移りしそうだった。

「あ、ここだ」

 それを見ていた大工職人が、ここは工事現場だから関係者以外立ち入ったら駄目だと言ってきたが、ケンジはギルド依頼で資材を持ってきましたと言ったのだが、ケンジは何も持っていない為、なかなか信じてもらえなかったのだ。

「しょうがない……ここに資材を出しますね」

「出すって何をだ?」

 ケンジは、工事現場の前にリアカーを1台出す事にしたのだ。それを見た大工職人は、目を皿のようにして驚き、親方に伝えにいったのだった。少ししたら、さっきの職人が親方らしい人をつれてきてくれたのだった。

「いや~~~!スマンスマン!こんなに早く資材が届くとは、誰も思わなくてな……こんなに早く届けてくれて本当に助かるよ。これなら納期も間に合いそうだ。ガハハハハ!」

 ここの責任者の親方は、豪快に笑い、上機嫌になったみたいだった。

「それで、どこに資材を置いたらいいですか?」

「じゃあ、あっちに敷物を敷いてあるので、そこに降ろしてくれるか?」

 ケンジは、リアカーをしまい、その敷物があるところに、リアカーはインベントリに残したまま、資材だけを敷物の上に出したのだった。
 それを見て、親方と職人達はケンジに感謝した。そして、職人達はさっそく作業に取り掛かったのだった。

「坊主、今日は本当に助かったよ!納期がせまっていてな」

 そのように言い、ケンジに納品完了書を渡してくれた。

「確かに!ありがとうございました」

 ケンジは、納品完了書を受け取り、材木屋に戻るのだった。親方には帰る時、また依頼を受けてくれと言われるくらい感謝されるのだった。



 材木屋に帰ってきたケンジは、事務所に直接入り、納品完了書を出したのだった。

「ただいま!」

「お!坊主どうした?ひょっとして、現場の場所がわからなくなったのか?」

「いえ、納品終わりました。これ、納品完了書です」

 親方のドーンは、気の抜けた声を出して、呆れ返ったのであった。

「はぁあ……坊主……大変で嫌になったからって、途中で終わりにしようとしたら駄目だ!まだ子供だと言っても、仕事には責任ってもんがあるんだぞ」

「いえいえ……信じられないかもしれないですが、ちゃんとリアカー3台分現場に届けましたよ。これが納品完了書です」

「うそだろ……」

 ドーンは、納品書を奪うように奪い取り、目を見開き穴が開くかと思うほど、納品書を見つめたのだった。

「納品書は、確かに本物だ……だが坊主、現場に行って往復30分ぐらいしかたってないじゃないか!どうやって運んだんだ?」

「まあ、そこは便利な物を使ってですよ。これで、完了って事でいいですね?」

「ああ、凄く助かったよ。これギルド依頼完了書だ」

「それじゃ、失礼します。ありがとうございました」

「あ、坊主ちょっと待ってくれ!時間も早く終わったんだし、もう一個所運搬して欲しいんだがいいか?」

 親方は、ケンジの仕事の速さに感心し、もう一か所運んでほしい物を、追加注文してきたのだった。ケンジは、親方の気持ちはわかるが、断りをいれ謝罪したのだった。

「申し訳ないです……もし依頼があるなら、先ほどの依頼同様、ギルドを通して依頼を出してください。それでは失礼します」

「兄ちゃん!ちょっと待ってくれよ。この依頼料は、直接兄ちゃんに払うから頼むよ」

 普通はギルド構成員は、ギルドを通す事で依頼を受けるのだが、このようにして直接受ける事も、別に問題はないのだ。
 だが、直営業する場合、メリットは本来ギルドの取り分である中間マージンを受け取る事が出来るのだ。反対にデメリットは、支払いをしない悪い人間も多数いるので、自分自身責任を負わないといけないのである。
 こういう直営業の場合、問題が発生しても、ギルドは何もしてくれないのである。

 ケンジは、この親方は自分の工場があるので、そんな事はしないと思ったのだが、すぐに言う事を聞いた場合、これからこの町で仕事がやりにくくなり、なめられない為にも、断りを入れようと思ったのだ。

「いえ……ホント申し訳ないですが、俺もこれから別の依頼がありますので、その依頼は、お断りさせていただきます」

「兄ちゃんの今のスピードなら、この運搬場所なら往復20分もあればすむからよ。助けると思って頼むよ」

 親方のドーンは、更に土下座する勢いで、ケンジに頼み込むのだった。

 ケンジは、やれやれといった感じで、親方にさとすように言葉を選んで注意するのだった。

「ドーンさん、申し訳ないですが、俺にも予定を組んで段取りよく動いてるつもりなんです。確かに、20分程度と思われるかもしれませんが、反対の立場に立って考えてくれませんか?」

「むっ!どういう事だ?」

「確かに、ギルドのFランクの依頼書はあまり受けられていなく、親方の所に来たのは、俺が久しぶりだとは思いますが、この後俺が向かうところも久しぶりの依頼だと思うんです。そう思いませんか?」

「……」

 親方は、何も言えなくなってしまったが、20分程度やってくれてもいいんじゃないかという思いもあったので、なかなか納得してくれようとしなかった。

「確かに、仕事には納期があって大変だと思います。それはわかりますが、もし親方が自分の仕事をやっていて、今回みたいに違う仕事を頼まれたとしたらどうですか?」

 それを聞き、ドーンはシメシメとおもったのだ。ドーンは、自分の工場を大きくする為、寝る間も惜しんで仕事をやってきた人間であり、多少の無理を承知で仕事をねじ込んでやってきたのだ。

「それは、無理にでも入れてこなすと思うぞ。ワシはそうやってこの工場をここまで大きくしたんだからな!これはワシの誇りであり自慢だ!」

「それは、今までの付き合いや、しがらみのようなものでしょ?」

「まあ、そうとも言えるな……」

「俺も、ドーンさんと同じ立場で、自分でお店や工場を持っていたらそうなるとは思いますが、今の俺の立場は違います。申し訳ないですが……俺はこれから生産スキルを伸ばし、何が向いているのかを見つける為に、数をこなさないといけないんですよ」

 それを聞いて、ドーンは自分のやってきた事を、他人に押し付けてはいけないと理解して、ケンジに謝罪をするのだった。

「それじゃ、申し訳ないですが失礼します」

 ケンジは、システィナがいる、ミッシェさん宅に向かうのだった。




 ケンジが帰った後、ドーンはあんな若造に言いくるめられてしまって、自分もまだまだだなぁと反省し、生産ギルドにさっそくケンジを指名依頼するのだった。

 指名依頼とは、普通Bランク以上のギルド構成員に対してなのだが、ケンジの仕事の早さから、ドーンは勘違いして、当然ケンジはBランク以上と思い指名依頼をしたのである。
 だが、ギルドに問い合わせると、ケンジはまだ所属したばかりのFランクだという事が分かり、指名依頼が出来ないと分かり、親方はガックリしたのである。 


 指名依頼は受けるにしても受けないにしても、個人の自由であり依頼者は当然受けてほしいので、仕事の詳細を細かく記入し、報酬額も高めの設定にするのである。
 この事が、ケンジにとって、とても不都合で自由が無くなっていく事になろうとは、今のケンジには知る由もなかったのである。


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