日暮れ古本屋

眠気

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 猫宮と沙耶が、二人で風呂に入りながら話していた。
 店についている風呂は檜作りで、大人三人は入れるような広さだ。

「一ノ瀬帰りが遅いですね」

「そうね、先生と行ったらしいから三日は帰ってこないんじゃないかしら」

「先生って、一人で太陽を三日間隠し続けたって伝説のある屋比久童磨さんですよね?
「あの店長の人脈は謎だし、屋比久さんに鍛えてもらえる一ノ瀬が羨ましいですよ」

「あ、分かる。
「九尾苑さんって、たまに信じられないような人脈を披露するよね」

「え、屋比久さん以外にもすごい人連れてきたことがあるんですか?」

「うん、例えばさ、去年なんかは料理の超人で優勝した氷川三郎がご飯を作りに来たことがあってさ」

「何ですかそれ! その頃にいなかった自分が憎いですよ~」

「後はね、あばたもえくぼ! ってネタでブレークした芸人さんいたでしょ?」

「ジェームズ煕ですか! 私あの人大好きで、一時期携帯の壁紙にしてたぐらいですよ」

「そうなんだ、彼も四年前くらいに遊びにきたのよ?」

「羨ましすぎますね、それ」

「また来年頃には来るんじゃないかしら」

「楽しみです」

 そんな話を続けていると、猫宮が一つ、提案をする。

「今日さ、私の部屋で寝ない?」

「お泊まりですか!」

「同じ建物だから少し違うかもだけど、でも! 今夜は女子会と洒落込もうじゃないか!」

「良いですね、それ。
「それじゃあ、この後お菓子とか買いに行きません?」

「沙耶ちゃん、それ無敵だよ」

「そうとなれば早くお風呂上がりましょう!」

「そうね! ところで部屋着で外に出ても平気かしら? 今ノーメイクだし」

「そう言えばそうじゃないですか! 
「なんでノーメイクなのにそんな綺麗なんですか?
「化粧水とか何処の使ってるか教えてくださいよ!」

 沙耶が詰め寄るように聞くと、猫宮は困ったように言うのだ。

「えっとね、化粧水とかって私使わないのよ」

「嘘、じゃあ顔パックとかは」

「それも使わないのよ」

「じゃあ、ケアなしでその肌なんですか、毛穴一つもないし、肌荒れもないし、日焼けもしてない「

 沙耶は震えた声で言う。

「まあ、そういうことにはなるわね」

 猫宮が少し恥ずかしそうに言い、沙耶は若干の涙目だ。

「なんか悔しいですう!」

 沙耶の魂の叫びが、店中に響き渡ったのだった。
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