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【第十七章、大公の息女】

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 ユスティナの元に戻ると、傷はふさがっていた。手首の脈は弱いが、どうにか一命を取りとめたようだ。
 テントに戻り、ポーションをクラリサに預ける。代わりに霊石を受け取り、兵士たちを見て回ったが、全員、脈を確かめる必要もない状態で息絶えていた。
 仲間の元に戻ったとき、雨はやんでいた。
 持っていた三本をすべて使っても、ユスティナは目を覚まさなかった。
「どこかにエリクサーはないかな――。そうだ、ルセットさんは?」
 周囲を探すと、泥まみれの彼女が、馬車の下で頭を抱えて震えていた。
「もう大丈夫です。手に掴まって下さい」
 レーヴに抱きつくように立ち上がり、怯えた目であたりを見回す。
「獣鬼は……?どこ行ったの?」
「中隊長殿がすべて撃退されました」
 クラリサに介抱されていた彼女を指さすと、公女は「え」と怪訝そうに首を傾げた。
「それで、どこか近くにエリクサーが手に入る場所はないでしょうか」
 ルセットは、その問いが自分に対してのものだと理解しておらず、しばらくしてから、はっとしたように口を開いた。
「あ、ああ……。だったら公都こうとに行くのが早いわ。ここから半日もかからないし、パパも持ってた気がする」
 それから、殉死した兵士たちを教会へと運ぶ。裏庭でシャツを着替えていると、カエサルが姿を見せた。
「お久しぶりです。お兄さんは――ご無事ですか?」
「フリッツから聞いたのか。運良く非番だった。亡くなった人たちには申し訳ないないけど……」
 目を合わせずに、そう言った声調は、これまで知っている彼とは違い、弱々しかった。
「それは良かったです」
「ところで――アンナリーズと婚約したって聞いたけど」
「あー……。色々あって、今は解消されたんです」
「そうか……。したことは間違いないないんだな――。いつまでここにいるんだ」
 彼が今、聞きたかったことは、それではない気がした。
「近衛の中隊長が瀕死の重傷なんです。明日の朝一番で、公国に向けて発つつもりです」
「六体全部を倒したらしいな。信じられないよ。急ぐなら、砦を出たあと、最初のふたまたを左に行くといい。険しい獣道で、危険な動物も多いから、普通は通らないんだ。けど、あの大きさの馬車ならどうにか進めると思う」
 彼はそこで一度背を向けたが、足を止める。再び、何か言いたげにしていたが、そのまま姿を消した。
 カエサルと会うことは、それっきりなかった。
 アンナリーズの逮捕について、問いただすべきだったのかどうか。
 はっきりと結論を出せない小さな疑問を置き去りに、翌朝、空が白み始めるのと同時に、馬車は公国へ向けて移動を再開した。
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