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【序章】
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それから、目的地へと向かいながら、三つの用語の説明を受けた。
「まずはエーテルですね。目には見えないですけど、この世界の至るところに存在しています」
「空気みたいなものか」
「どちらかと言えば液体の――燃料に近いですね。生命のあるところに集まりやすい、すべての自然現象の源という感じでしょうか」
アビリティは、エーテルを光や風のような自然現象として変換、発現させるための能力で、スタイルはその手順書のような物だという。
料理にたとえるなら、エーテルはいわば万能食材で、調理の工程がアビリティ、スタイルはレシピ集といったところか。
「スタイルは生まれついて与えられますが、ほとんどの人は持っていません。だから特別なんです」
彼女が見せたアビリティは、光と風だった。他にも重力制御があり、確かレーヴ自身も、オークを倒すとき、火を使っている。種類はどの程度あるのだろう。
「今まで見てきた中であれば、重力制御がすごく使い勝手がありそうだけど。応用すれば、自由に空を飛べるってことになりそうだし」
だが、彼女はまたしても「はあ」と、深く長いため息をついた。
「石っころくらいに小さく、軽ければ、多少は思い通りに動かせるかもしれませんけど……。対象物が重くなるほど、操作の難易度が、急速に高くなるのです」
「でも、逃げるとき、オレを運んだんだろ。意識がなかったから、はっきりとはわからないけど、結構な距離と時間だった。違うか?」
その問いかけに、ルノアは面倒くさそうに、レーヴの胸元に手を伸ばすと、ペンダントを引きちぎり、手のひらに置いた。
「霊石を使ったんですよ。といっても、重力制御を付与したのは拙者ではなく師匠ですけどね。それだって、大雑把に地面から浮かせただけなんです。空中を自在に移動できるような力を発揮できる人間など、この世に存在しません」
そう言って、太陽に石を透かしたあと、遠くに投げ捨てた。
霊石は、正式名を赤燐光石という、かなり希少な鉱物だそうだ。スタイルを転写することができ、アビリティの発動を、人の介在なしに持続することができる。
「つまり、こういうことか。霊石に転写した重力を制御するスタイルで、オレの体を継続的に浮揚させ、その上で風のアビリティで移動させた、と」
「その通りです。同時に二つのアビリティを使うことは理論的に不可能なのですが、霊石を使うことによって、利用の幅が大きく広がることになります」
「なるほど。だったら、そんな貴重な物を捨てたのはどうして?」
「使っていくうちにどんどん濁って、そのうち効力を失うのです。あれは、元々寿命が尽きる寸前の石で、もはや使い物になりません」
利用可能な時間は、石の大きさや純度、稼働させるアビリティの難易度などによって決まるのだという。
彼女は足を止め、カバンから中からフェルト地の包みを取り出した。開いた中にあったのは、高い透明度の、小さな赤い石が三つだ。
「あなたに使ったのを含めて、これが王宮に保管されていたすべてです」
「こっちの小瓶は?」
「ポーションとエリクサー。ちなみに、あなたが飲んだのは金貨二十枚もするエリクサーのほうです」
「なるほど、あの苦いのか……」
アビリティの中には治癒もあるらしいが、それで回復できるのは、体の傷までらしい。瓶の中身は、血液などを補給するための、ある種の栄養剤とのことだ。
「最後にあと一つだけいいか。オレは王国の王子で、君はそこの従者だったんだよな。その割には、何だか態度が冷たい気がするんだけど――。仲が悪かったんだろうか」
記憶がない以上、この先当面の間、彼女に依存することが避けられそうにない。であれば、可能な限り、わだかまりは解消しておくべきだという判断だった。
機嫌を損ねないよう、控えめにそう言うと、予想に反してルノアは、頬を赤くして、目を伏せた。
「いえ、決してそういうわけでは――」
そのまましばらく悩んでいたように見えたが、やがてあきらめたように目線を上げた。
「ただの――自己嫌悪です。八つ当たりです」
それから、何かを決意したように一度うなずき、静かに話し始めた。
「まずはエーテルですね。目には見えないですけど、この世界の至るところに存在しています」
「空気みたいなものか」
「どちらかと言えば液体の――燃料に近いですね。生命のあるところに集まりやすい、すべての自然現象の源という感じでしょうか」
アビリティは、エーテルを光や風のような自然現象として変換、発現させるための能力で、スタイルはその手順書のような物だという。
料理にたとえるなら、エーテルはいわば万能食材で、調理の工程がアビリティ、スタイルはレシピ集といったところか。
「スタイルは生まれついて与えられますが、ほとんどの人は持っていません。だから特別なんです」
彼女が見せたアビリティは、光と風だった。他にも重力制御があり、確かレーヴ自身も、オークを倒すとき、火を使っている。種類はどの程度あるのだろう。
「今まで見てきた中であれば、重力制御がすごく使い勝手がありそうだけど。応用すれば、自由に空を飛べるってことになりそうだし」
だが、彼女はまたしても「はあ」と、深く長いため息をついた。
「石っころくらいに小さく、軽ければ、多少は思い通りに動かせるかもしれませんけど……。対象物が重くなるほど、操作の難易度が、急速に高くなるのです」
「でも、逃げるとき、オレを運んだんだろ。意識がなかったから、はっきりとはわからないけど、結構な距離と時間だった。違うか?」
その問いかけに、ルノアは面倒くさそうに、レーヴの胸元に手を伸ばすと、ペンダントを引きちぎり、手のひらに置いた。
「霊石を使ったんですよ。といっても、重力制御を付与したのは拙者ではなく師匠ですけどね。それだって、大雑把に地面から浮かせただけなんです。空中を自在に移動できるような力を発揮できる人間など、この世に存在しません」
そう言って、太陽に石を透かしたあと、遠くに投げ捨てた。
霊石は、正式名を赤燐光石という、かなり希少な鉱物だそうだ。スタイルを転写することができ、アビリティの発動を、人の介在なしに持続することができる。
「つまり、こういうことか。霊石に転写した重力を制御するスタイルで、オレの体を継続的に浮揚させ、その上で風のアビリティで移動させた、と」
「その通りです。同時に二つのアビリティを使うことは理論的に不可能なのですが、霊石を使うことによって、利用の幅が大きく広がることになります」
「なるほど。だったら、そんな貴重な物を捨てたのはどうして?」
「使っていくうちにどんどん濁って、そのうち効力を失うのです。あれは、元々寿命が尽きる寸前の石で、もはや使い物になりません」
利用可能な時間は、石の大きさや純度、稼働させるアビリティの難易度などによって決まるのだという。
彼女は足を止め、カバンから中からフェルト地の包みを取り出した。開いた中にあったのは、高い透明度の、小さな赤い石が三つだ。
「あなたに使ったのを含めて、これが王宮に保管されていたすべてです」
「こっちの小瓶は?」
「ポーションとエリクサー。ちなみに、あなたが飲んだのは金貨二十枚もするエリクサーのほうです」
「なるほど、あの苦いのか……」
アビリティの中には治癒もあるらしいが、それで回復できるのは、体の傷までらしい。瓶の中身は、血液などを補給するための、ある種の栄養剤とのことだ。
「最後にあと一つだけいいか。オレは王国の王子で、君はそこの従者だったんだよな。その割には、何だか態度が冷たい気がするんだけど――。仲が悪かったんだろうか」
記憶がない以上、この先当面の間、彼女に依存することが避けられそうにない。であれば、可能な限り、わだかまりは解消しておくべきだという判断だった。
機嫌を損ねないよう、控えめにそう言うと、予想に反してルノアは、頬を赤くして、目を伏せた。
「いえ、決してそういうわけでは――」
そのまましばらく悩んでいたように見えたが、やがてあきらめたように目線を上げた。
「ただの――自己嫌悪です。八つ当たりです」
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