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16、サラーダ(後)
しおりを挟む——————バシャン
♢
溺れる、と思った。
息が苦しくなるだろうな、と思った。
死ぬかもしれない、とも思った。
……あれ?息が出来る……?
「フン。手間のかかる奴め。」
ハッと目を開けると、そこは金魚鉢の中のような世界だった。天空が丸くぽっかりと明るくて、透明感のある水色のひんやりした空気がゆらゆらと揺らいでいる。壁はまるで、銀鼠色の石が積まれで出来た城の塀のようだった。
何か柔らかいものが手に触れた、と思って見ると、それは海月だった。否、海月のような何か……それは植物だった。露草のような青い花をつける海藻が、ポツポツと浮かんでいて、ゼリー状の透明な組織を揺蕩わせていた。
「…あ……。」
息を吐くと、ぷかんと口から泡が溢れ出た。
「目が覚めたんなら、そこに座れ。」
低い声が、私に指示をする。気づけば、私のすぐ目の前にサラーダが胡座をかいて座っていた。彼の顔はゆらゆらと揺らめく水に取り巻かれて薄青に歪み、彼の口元からも、ぷかんと透明な泡が漏れる。
私が慌てて身を起こすと、手に白砂が触れた。地面は真っ白な砂が敷き詰められていて、そして周囲を揺蕩うているのは水。
どうやら私は、本当にさっきの井戸の底まで落とされたらしい。信じられないことに、水の中なのに息が出来るし、会話も出来る。
「ここは井戸の水の中だ。エレーの神の世で唯一、氷魔女の目の届かない場所だ。」
「……え?」
サラーダは、銀の瞳をギラリと光らせて、唐突にこんなことを言った。私は戸惑う。サラーダは、固く腕組みをしたまま、話を続けた。
「この世界の管理者の仕事は、文字通り全ての生き物の管理だ。そこには当然、“監視“だって含まれてる。だから密会をしようと思ったら、こうして氷の支配が行き届かない領域に潜らなきゃなんない。」
私は突然のことで訳が分からず、押し黙った。
氷魔女の監視。氷の支配。雪の目の届かないところ。いきなり井戸水の中へ連れ込まれ、そして初対面の奇妙な少年のオバケに言われるにはあまりにも刺激が強い言葉の羅列だった。
サラーダは、何も言おうとしない私をチラリと見やると、ハァッと大きなため息をついた。そして、馬鹿にしたように睨め付ける。
「……お前、ホントに全然何も不思議に思わなかったのかよ。」
「何が?」
「いちいち言わねえとわかんないか?」
「……うん、わかんない。」
「ったく。じゃあ言うぜ。水の中に生息する“河童“や“水魔”や“人魚”みたいなオバケが存在しないとか。井戸に水汲みに行ったら処刑人が待ち構えてるシステムとか。それから———
——この世界に来る前に、井戸からお前に話しかけてきた奴がいるとか。」
サラーダは一旦ここで言葉を切って、ジトリと私の目を睨み付けた。
「……全部全部、水に関連する場所で理が歪んでるんだぜ。つまり、お前が俺の手掛かりを探したいと思ったなら、抜け道を見つけるヒントはそこら中にあったんだ。」
私は一瞬、息を止めた。
そうか、とも思った。私はずっと、彼に会ってみたかったのだ。
サラーダは今、確かに『井戸から話しかけてきた影がいる』と言った。つまり、私が助言を受けたことを知っているのだ。
見つけた。ようやく見つけた。私は信じられないような思いで、目の前の小鬼を見つめた。角が一本。その特徴だけは忘れたことがない。手掛かりがあまりにもなくて諦めていたが、しかしこれは現実だ。
「……本当はちょっと不思議に思ってた。エレー神殿で私に助言をしてくれたはずの角が生えてるオバケ、ずっと探してたから。」
私の言葉に、サラーダはふいと目を逸らした。そして束の間黙りこくると、ふゆふゆと漂ってきた奇妙な海藻を人差し指で弾いて遠くへ追いやる。長い長い沈黙の後、彼は呟くように言った。
「……あれは、俺じゃねえよ。」
「……え?」
「あれは兄ちゃんだ。」
「兄ちゃん?」
「血は繋がってねえ。同じ鬼———正確には“サトリ”っていうオバケだったが———まあ珍しく角が生えてる奴で、俺たちは似たもの同士だった。それに兄貴分みたいに尊敬してたからそう呼んでるだけだ。」
向こうを向いたまま振り返らないサラーダ。私は静かに彼の後ろ姿を見つめた。
「ありがとう。」
「は?」
「お兄さんと、それからサラーダくんに。私、あの人に“三番だよ”って教えて貰ったお陰で、本当に助かった。だからずっと、お礼を言いたかったんだよ。ただ、それだけ。」
「……礼ならお門違いだぜ。兄ちゃんの夢は、この世界から外へ出ることだったからな。人間が紛れ込んできて、その選択肢のとばっちりで殺されたりしたら、たまんねえ。全部俺たち自身のためだぜ。」
ふん、と鼻を鳴らすサラーダ。私は、うっすらと気付いていた。サラーダの話し方では、“兄ちゃん“に関連することの全てが過去形になっている。彼が“兄ちゃん”と呼ぶ存在がもはやこの世界にいないことが……つまり、既に死んでしまった存在であることが匂わされているのだ。
私の心を見透かしたかのように、突然サラーダは「兄ちゃんは。」と静かに呟いた。
「兄ちゃんは優秀な研究者だった。しかも勇敢だった。命をかけて集めた情報を、リスクを承知で全部俺と共有してくれたんだぜ。で、もっとたくさんのオバケにも教えてやるって言って色々日記に記してたんだが、それが見つかった。……三日前の夜に図書館へ呼ばれて、それからは二度と会ってねえ。」
「…………。」
「おい。勘違いするなよ。」
私の沈黙をどう読み取ったのだろうか。
ギロリ、と。サラーダは私の目を強く睨みつけた。
「お前にこうやって全て話してるのはな。兄ちゃんがそうしろって言ったからだ。人間はオバケと違って、現実世界に肉体を持ってる。だからこそ頼りになるって言われたぜ。管理者よりも強大な力を持ちうる奴は人間だけだってな。」
「……強大。」
「そうだ。夢と幻で構成されてるこの世界じゃあ、オバケが勝手にお前の命を奪うことも出来ないし、例え致命的な毒キノコを食べたところでお前が当たることもない。出鱈目の存在なんだよ。」
私は自分の手を見下ろした。ゆらゆらと揺らめく薄水色の水の中で、私の手は小さく、儚いものに見えた。強大だなんて信じられないと、そう思った。
「おい。人間とオバケの最大の違い、知ってるか。」
「知らない。」
「可能性の幅だ。」
「……?」
いいか、とサラーダは言った。
「オバケはある程度の固定観念の中で、決められた枠組みにそって生きるしかねえ。まあ、それはそれで方向性というものが定まるから強いけどな。だが、“何だって出来るかどうか” で言えば話は別だ。フラフラしてる時はなんにも出来ねえ癖に、意志のエネルギーによっちゃあとんでもない豹変ができる生き物、それが人間だ。」
「豹変。」
どんなに言われても、実感が湧かない。自分自身ですら、何が出来るのかわからない。そして私は、そんな私に可能性があると信じて行動した、もうこの世にはいないのであろうオバケに思いを馳せた。
「……お兄さんは、他人には見えないものが見えるオバケだったんだね。」
「当たり前だ。兄ちゃんは、サトリだ。何でも知ってたし、他人の心の中すら覗くことが出来たんだ。自分がいつか捕まるってことも、どっかでわかって諦めてるような節があったぐらいなんだぜ。」
「……そっか。」
今度こそ、完全な沈黙が広がった。
ふと、夢を見ているみたいだな、と思った。そもそもこのエレーの神の世で暮らしていること自体が夢みたいなもの。そこで、さらに二重の夢を見ているかのような気分だった。
揺らぎさざめく水の中で、海月のような海藻が常に波紋を生み出しているような場所にいるからかもしれない。しかし自分が立っていて、信じていた全てに様々な秘密が隠されていたことを知った時。あまりにも唐突にさあっと霧が晴れ始めたせいで、向こう側の景色がまるで幻のように思えたとしても、不思議ではないだろう。
「……あの。ずっと気になってたことがあるんだけど。」
「聞けよ。答えてやる。」
「たくさんあるよ?時間がかかるかも。」
「一個ずつ、全部答える。」
「じゃあ。」
まずは何を聞いたらいいだろうか、と私は逡巡した。本当に、謎めいた事実が多すぎて聞ききれないほどだった。それでも、と一番最初に思い浮かんだことを口にした。
「……エレーの神の世って、どういう意味なのか分かる?」
「これは略だ。正式名称は『エーレークティオーの神の世』。エーレークティオーってのはラテン語で、『選ぶ』の意。つまり、この世界は選択肢が支配する場所って事実を表しただけのことだ。」
「そ、そうだったんだ。」
あっさりと開示される情報。
サラーダは眉一つ動かさず、黙りこくっている。まるで、私が話しかけなければこれ以上何も喋る気がない、とでも主張しているかのようだった。
「……じゃあ、次。図書館は、どうして私たちを移動させることができるんだろう。」
「詳しい原理は俺にも分からない。が、図書館はこの世界の中心であることは確かだ。あれは、エレーの神そのものであり、空間を無視して動き回る。それがあれの能力だからな。」
「そっか……。」
私は少し悩んで、次の質問に移った。
「それじゃ、シンデレラが鳴らす時計塔って、どこにあるんだろう。毎晩、十二時になったら音だけが響いて、それで図書館に飛ばされる。確かにあるのに、いつでも姿が見えないのがずっと不思議だったんだけど。」
「あれは物体として存在していない。図書館に付随している、音の亡霊みたいなものだ。見えないのが当たり前だし、触ることも動かすことも出来ない。」
本当に、サラーダは何でも知っているようだった。私がモヤモヤと抱いていた“違和感”が、全て綺麗な言葉として紡がれてゆく。
「……これは私がエレーの神の世に来たばっかりだった時のことだけど。“氷魔女”には、私、随分と助けてもらった。雪さんは……優しい人だった。それでも、こんなに、井戸に潜ったりしてまで全力で警戒しなくちゃならないくらい危ないオバケなの?私は納得出来ないよ。」
「性格だけでオバケを判断するな。あの人は優しいが、同じくらいに責任感も強い。『職務に忠実な管理者』……これは最悪な組み合わせだ。エレーの神の決めた枠組みから少しでも逸脱する輩は、決して許さない。秩序を守るため、必ず正義の鉄槌を下す。つまり、こうして俺たちが喋ってることがバレれば、少なくとも俺は明日の朝日が昇る前にお陀仏だ。」
ぎろり、と銀の瞳が虚空を睨む。私は、少しだけ息を呑んで、そしてゆっくりと目を泳がせた。今は、もうこれ以上雪のことは考えたくなかった。ふぅと息を吐いて、次の質問に移る。
「……折り紙の鳥を作った時、私はどうして、ただの紙に命を吹き込めたんだろう。」
「能力とは夢。夢とは想像力。この世界においては、お前が本気で———真剣さの度合いとかではなく、文字通り魂の底から———『出来る』と確信したものは全部叶う。」
「魂の底から信じたもの?」
「そうだ。」
「……もしかして。本当にもしかしてな、自分でもどうしてそう思ったかわからないくらいの、ただの思いつきなんだけど。それは、私から雨の匂いがするのにも関係ある?」
「あるだろうな。まあ、原理はわからねえが。」
「そう、なんだ。」
わからない。彼が言うなら、そうなのだろう。私はしばらく黙って、そして尋ねた。
「スエキチと胡麻ねえさんのことを教えて。」
「文字通りの意味だ。彼らは“消えた”。」
サラーダは間髪入れずに返答をした。
「胡麻から聞かなかったか?最近はエレーの神の世全体がおかしいと。日照り、消滅、灰色、火事。これに関連する事態が山ほど起こってる。」
「……聞いたけど、あんまりよくわからなかった。」
「実は俺にもまだわかってない。だがな、お前なら何とか出来ると俺は思ってるんだよ。」
「私が?」
「そうだ。世界を救う、なんてとんでもないことが出来るのは、人間だけだからな。」
とんでもないことが出来る、というサラーダの言葉を私はまた胸の内で反芻した。
どういうことなのだろうか。今までの私にとっては、オバケたちこそがとんでもない存在だった。しかしこれでは、私こそが妖怪にでもなってしまったようだった。
何だか思考がごちゃ混ぜになって、全てがよくわからなくなってくる。私という存在は、一体何なのだろうか。真剣に考え込んで何も言わなくなった私を見て、サラーダはフゥ、と息をついた。そして、「お前の好奇心がそろそろ底を尽きたようだから、俺が勝手に喋るぜ。」と低く言った。
「お前は図書館で、空蝉に会っただろう。」
「うん。」
「あいつの第一印象は?」
「紅いよね。」
「瞳の色じゃねえ。纏っている全体の雰囲気だ。」
「……今にも空っぽになって消滅しちゃいそうだなって思った。」
「そうか。」
あながち間違っちゃいない評価だな、と呟いて、サラーダは私の目を静かに見上げた。銀色の鈍い眼光が、私の心の奥底を見透かすようだった。
「あいつは奴隷だ。」
「奴隷?」
「氷魔女に支配され、図書館の奴隷となっている。早い話が、家族を人質に取られてるんだよ。」
ギラリと、サラーダの表情が昏く光った。嵐が収まるように、彼の声が低く、波の鎮まった海のように静かになってゆく。
「図書館の正体、教えてやろうか。」
恐ろしく静かな声で、サラーダは言った。
「あれは死んだオバケの墓場だ。」
「墓場……?」
「ああ。図書館は、死んだ奴の魂を全部回収して、一冊の本として閉じ込める。宇宙に瞬く星々はみんな、オバケの魂の成れの果てだ。でもって、空蝉は、それら全てを管理する司書だ。番人、と言ってもいい。本棚に埃が溜まれば払い、盗みを働こうとする不埒者がいれば追い払う。その仕事に対価は払われない。
あいつは可哀想な奴だよ。封じられた家族を助けるために、どんな理も超えて願いを叶えてくれる存在を探し続けてる。星の数ほどもある魂の輝きを一つずつ手にとって、絶対に届かない願いがそこにあるのではと、ありもしない希望を追い続けている。」
ぎり、とサラーダは拳を握った。
「だから。だからこそ、信用しちゃならねえ。あいつは本当に優しいのに、氷魔女の命令ならば何でも聞く。どんな非情にも手を染める。—————いいか、絶対に俺たちの会話の内容を奴にバラすなよ。」
サラーダの目の前を、海月のような海藻がゆうらりと泳いでいった。
周囲の景色の明るさに比べたサラーダの表情の暗さに、私は静かに息を呑んだ。そこには哀しみを湛えた海が沈んでいる。あの闇に包まれた宇宙の中、一人孤独に本を開き続ける空蝉を思い出して、私もぎゅっと胸を掴まれたような気分に陥った。
「……そういえば空蝉が言ってたよ。サンタクロースを探してるんだって。」
「あぁ。兄ちゃんもそう言ったぜ。」
「見つかるか分かんないって。それでも探すんだって。」
「到底見つからないさ。」
「見つかるかもしれない。」
「フン。見つからないね。」
どうして、と私はサラーダを睨んだ。サラーダはふいと目を逸らした。
「……ねえ。どうしてそんなに悲観的なの?」
「俺は現実を見てるだけだ。」
「……願いを叶えてくれるサンタクロースは、実在するんでしょ?昔はこの世界に暮らしていたオバケの一人だったんだよね?」
「ふん、そんなの知らん。」
「真面目に答えてよ。さっき、質問には何でも答えてくれるって言ってたじゃん。」
「知らねえから知らねえって答えただろう。」
「………。」
サラーダは、これでこの話は終わりだ、とばかりに黙った。私はため息をついて、サラーダのそば頭を眺めた。
「……ごめん。」
「………。」
「それに、ありがとう。」
私は、切り株に向かって呟くような声で言った。サラーダは、ぴくりとも反応を返さなかった。私は構わずに続ける。
「青鶴ちゃんを閉じ込めろって言ったのも、カカシに上着を着せろって命令したのも、全部考えがあったんでしょう。誰もサラーダくん以外に秘密を知ってる味方がいなくて、孤独で不安でいっぱいで、こうして会うこと自体がサラーダくんにとって命が危ういくらいに危険極まりないっていうのに、完璧に実行してくれたんだよね。」
「………。」
「それなのに、八つ当たりした。ごめん。」
腕を組んだまま動かないサラーダ。
これ以上何もないのだと判断して、私は静かに立ち上がった。衣についた白砂がさあっと落ちる。膝についた砂をパンパンと払って、私は向こうを向いたままのサラーダを振り返った。
「……それじゃあ。」
「待て。」
サラーダは振り返らずに、呟いた。
「………折紙の鶴は、スパイだ。」
「そう。」
驚きはなかった。疑う気持ちも湧かなかった。やっぱりそうだったのか、と思っただけだった。
氷魔女の雪が油断ならない存在だと言われた時、口先では信じられないと言いながら、妙に納得がいった。それと同じような感覚。初めから知っていたかのように、私の胸の中にこの情報はすんなり入ってきた。
ひらひらと私に付いてくる青鶴ちゃん。一番身近にいる存在。私の心の奥底の気持ちを、口に出さずして伝えることが出来る特別な友達だった。今までは。
私の手が産み出したはずのものを、信頼するのは普通のことだ。しかしその普通の中に、“油断“というものが期待されていたとしたら。もしも、あれは私が創ったものではないとしたら。雪が、私にそう思い込ませただけだったのだとしたら。
もう、安易に彼女へ自分の気持ち、行動、目的。全てを曝け出すのはやめた方が安全だ。
「……私、のっぺらぼうのお春ちゃんに一つ、ツバメをあげちゃったんだけど。」
「それは問題ない。むしろ、そのお陰でお春は安全に隠されてる。問題なのは青い鶴ただ一つだ。」
「私、これから何かした方がいい?」
「明日、今日と同じ時間に同じ手順を踏んでこの井戸で会う。それ以外はいつも通りに過ごしていい。だが、いいか、絶対に折紙を連れてくるんじゃねえぞ。」
「分かった。他には注意すること、ない?」
「ない。」
私は一つ、深呼吸する。不思議と、次にどうすればいいか分かっていた。
そして薄水色の淡い光に照らされた水の中、ゆっくりと銀鼠色の石壁に手を添わせた。さらりと柔らかい井戸の壁が肌に触れる。ふっと目を閉じて、また開ける。するとそこには、扉の輪郭が浮かび上がっていた。きちんと把手もついている。
「それじゃあ。また明日ね。サラーダくん。」
「………フン。」
把手を引くと、開いた扉の向こう側、淡い茶色の光が漏れ出した。
手慣れた手順だった。私はこれと同じ方法で開閉する場所をよく知っている。それは図書館から帰る時だ。手を伸ばせば届くもの。それが帰りたい場所……秋カカシの森の丸太小屋へ、直接繋がっている扉だ。
私は静かに息を吸い込む。背後を振り返ることなく、帰り道へと一歩を踏み入れた。
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