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はじまり はじまり

そうだ、人里行こう

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ヴォキャッ!と音を立てて木刀が折れた。これで8本目だ。鍛治神で作ったとはいえ木刀は木刀なので素材の耐久値は只の木なのだ。
だが、木刀が8本折れるまでにゴブリンがドロップした錆びたナイフがまあまあ溜まってきていたので、これで金属製の木刀を作ろうと考えている琴葉なのである。おバカだから。

「あー、また折れたよ~。やっぱ木じゃダメだね!金属じゃないと!!というわけでジャーン!錆びたナイフ~!これを使って金属製の木刀を作ります!」

《ピキー!》

ミニスライムの丸子は琴葉全肯定主義の為、おかしな事を言っても突っ込んだりしないのだ。
深刻なツッコミ不足である。

ガシャガシャと無限収納から錆びたナイフを地面に落とし、両手を怪しく、まるで超能力者のように動かして「とぅおー!」の謎の奇声をあげる琴葉。すると錆びたナイフの錆びがポロポロと落ちていき、1つの塊になっていく。そうして出来たのが[小鬼鉄]という金属、この金属はゴブリンが魔力溜まりから発生する時に持っているもので、地上で繁殖したゴブリンは持っていない。ある意味レアな金属だった。この小鬼鉄は最弱の魔物に大ダメージを与えるというゴブリンらしい弱いものイジメな特性を持っていた。ただ、もうひとつ特性があって、ゴブリンよりも強い魔物を小鬼鉄で出来た武器で倒しまくると金属が進化するのだ。小鬼鉄→鬼鉄→大鬼鉄→百鬼鉄→鬼王鉄→鬼神鉄となる。
鬼神鉄はオリハルコンに届くほどの強さを誇るのだ。この情報を鑑定で知った琴葉はテンションを上げ、小鬼鉄で出来た武器をメインにすると決めた。

小鬼鉄の木刀(?)を作った琴葉は丸子と共にダンジョンへ降りて行く。もう1階層は庭みたいなものなので丸子と一緒に出て来る魔物を一撃で粉砕し、ドロップ品は賢者神の魔法で集め、無限収納に勝手に集まるようにした。
そして2階層への階段を駆け下りる。2階層は既に半分くらい攻略していた。武器が折れる度に地上へ帰っていたためイマイチ進みが悪いのだ。今回は金属の木刀だから大丈夫!と2階層から出現するオークを撲殺して行くが、10匹ほど倒したところで小鬼鉄の木刀が折れてしまった。琴葉の人外ステータスについていけないのだ。
琴葉は鍛治神を使い折れた木刀を修理し、再びオークの撲殺を始める。だがまたしても15匹を倒したところで折れてしまった。折れる度に直していたが、修理がめんどくさくなってきた琴葉は気分転換に宝箱探しをする事にした。ダンジョンでは稀に宝箱が出現するのだ、この宝箱はランダムで出たり消えたりするので相当運が良くないと遭遇することはない。のだけど、琴葉は賢者神の[索敵魔法]を使い、今まで通ってきた道の監視をし始めたのだった。地べたに座りながら丸子をモニュモニュして宝箱の出現を待つ。
待つ事10分、やっと宝箱の反応があったので、その場所まで賢者神の[転移魔法]を使い宝箱の場所までひとっ飛び。もちろん丸子も一緒だ。

宝箱には罠の類は無いようだ、鑑定持ちなので罠があればすぐに気がつくのだが、琴葉はおバカなので罠の有無とか一切考えていなかった。なんの躊躇いも無しに宝箱を開けた。

「オープン!どんなお宝かなー!!」

《ピキー♪》

宝箱の中には金貨が50枚と、10キロ程の鉱石がひとつ、薬草がひとつだった。

「あ、これ知ってる!金貨だ!えーと、金貨一枚10まんえん!!あとは・・・鉱石!ミスリル鉱石だって!やったね丸子!これを使ったら折れにくい木刀が作れるよ!!」

《ピキー!》

薬草はスルーした。収納はしたけどリアクションに困ったのでスルーした。

「ふっふっふ!これでミスリルの木刀・・・木刀?・・・ハッ!?・・・丸子!わたし天才かもしれない!このミスリルでを作れば良いんだよ!斬る武器なら折れにくいよね!!流石わたし天才!!」

《ピキー♡》

琴葉はおバカなのである。



こうして冒頭の通りに刀を作り、小鬼鉄の木刀は丸子におさがりした。どうやって持っているのか不明だが、木刀を持った丸子は[木刀の丸子]と冒険者界隈から恐れられる存在になるのはもう少し未来の事である。

2階層を踏破した頃に琴葉は人里に突然行きたくなった。「人と会話がしたい・・・」と普段の底抜けに明るい琴葉とは思えない発言をしたのだ。
思い立ったが吉日、丸子を肩に乗せスキップをしながら西の方へ向かった。もちろん琴葉はおバカなので、今進んでいる方向が西だとは知らない。気の向いた方向へ進んでいるだけだ。スキップで。一歩の幅が10キロメートルという、低空を滑空しているようなスキップで。そしてあっという間にクレーターのふちに着いたので、足を止めずに垂直にスキップで登っていく琴葉。丸子もはしゃいでいる。

クレーターの淵、通称[古代龍の淵]と呼ばれる場所に住んでいる古代龍はとんでもないスピードで接近する謎の存在に反応して集まって来ていた。
古代龍の王、龍王は古代龍の中でも10本の指に入る強者を集め、急接近するモノの殲滅を命令した。龍王は、相手のスピードは我ら古代龍より速いがパワーならば古代龍の方が上だと確信し、処理の報告を待つ事にした。
しかしすぐにそれは間違いだった事がわかった。送り込んだ精鋭達が龍王の城の壁を突き破り、石ころのように転がって来たのだ。龍王は何が起こったのか理解出来ず倒れている古代龍へと駆け寄り、何が起こったのか問い詰める。すると横たわる古代龍の強者は自身が入ってきた壁の穴を震える手で指差した。

「あれ?お城だ!古代龍ってお城作ったりするんだねぇ!知らなかった!」

そんな無邪気な子供のようにはしゃぐ琴葉を龍王は唖然とした顔で見つめていた。はっ!と我にかえる龍王は「であえ!であえー!!」とまるで時代劇のような掛け声をあげ配下の古代龍を呼んだ。何事かと次々と集まる古代龍。5分もしないうちに龍王の城の玉座の間に全ての古代龍が集まった。

「何だと?!あの[蒼炎のジャグ]が脆弱な人間に倒されたというのか!!」

「しかもヤツは無傷だぞ?!」

「いや、数で攻めるのだ!そうすればヤツとて一溜まりもないであろう!!」

どうやら古代龍達は戦う、戦わないで揉めているようだ。琴葉は「人里行くから古代龍の素材が高く売れるかも!」とポジティブ過ぎる事を考えていた。
龍王は配下を呼んだものの、もし我らが全滅したらどうしようと急にネガティヴになっていた。それは、普通なら古代龍を目の前にした他種族は震え上がるはずなのに、目の前にいるこの少女はまるで今から狩るウサギを見ているような目で我らを見ているからだ。

「降伏しよう・・・」

ボソリと呟いた龍王の言葉に古代龍達は騒然となった。そして比較的若く、血気盛んな古代龍が琴葉の前に飛び出し「俺が殺る!」と襲い掛かる。琴葉はタイミングを合わせて刀をミネにして若い古代龍を地面に叩きつけた。上半身を地面にめり込ませたまま動かなくなった若いのを見たその他大勢は沈黙した。

「すまぬ、強き人よ。謝罪をするのでこれ以上力を振るうのを止めて頂きたい。」

深く深く頭を下げる龍王に、他の古代龍達も戸惑いながら頭を下げ始めた。

「えー?古代龍の素材売ろうと思ってたのにアテが外れちゃった・・・まぁいいかぁー!」

どの古代龍のだか、わからないがヒュッという息を飲む音が聞こえた。龍王は謝罪の気持ちだと古代龍の秘宝を差し出した事で琴葉は満足したので、淵の向こう側へまたしてもスキップで向かった。
琴葉が居なくなり静寂が訪れた玉座の間に、少しずつだが話し声が聞こえ始めた。その内容は最強だと奢っていた古代龍達が上には上が居た、これからは謙虚に生きようと言ったものが多かった。

琴葉は淵の頂上からジャンプして、上昇途中で賢者神の[飛行魔法]がある事に気が付き飛んで行く。

「丸子!見て!遠くに街っぽいのが見えるよ!!」

《ピキー♪》

琴葉はマッハ3.5ほどのスピードで地平線辺りにゴマ粒くらいに見える街へ向かって飛んでったのだった。



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